一つ、まばたきをする。
次の瞬間、ケイトに湧いたのは怒りとも不快感ともつかぬ感情であった。
恐怖か高揚かは分からないが、自分の目を奪った所業をはしたない行為で片付けられてしまうのは、己ごと否定されたような気がしたのだ。
「『女性がやってよい振る舞いではない』、と、誰かに言われたのですか?」
「え?」
「僕は、貴女を拒絶するような態度をとってしまったでしょうか?」
そこに関しては否定できない。
実際各場面でちょっと怖かった。
実力主義の魔国ならいざ知らず、人間の女性はひょろりと弱々しく、男の庇護がないと生きていけない。
取るに足りぬというような印象の存在だった。
丸太のような腕を振るうごとに固い木をへし折る、そんなジョセフィーヌに度肝を抜かれたのは、確かだ。
「ジョセフィーヌ嬢、僕は貴女に感謝している。力を振るってくれたことを。それに対して、恐怖を抱いたりだとか、はしたないと感じたりなど、少なくとも僕はしない」
ケイトはジョセフィーヌの膝の上で固く握りしめられた手を取る。
許可なく女性の手を取るなどそれこそはしたないが、怖がっていないと証明するためには必要なことだと考えた。
「貴女の手は、人を助ける手だ」
彫りの深い顔の奥で、目が見開かれたのが分かった。
盗賊達を見つめた時のような、威圧感はない。
「あ、ありがとうございます」
「しかし、そんなに直接的な暴力行為にためらいがあるのならば、他の手段はお考えになられないのですか? 例えば、魔法だとか」
例えば視界を染めるほどの炎を弾けさせる、であったり。
世界を構成する素でもって行使するのが魔法だ。
単なる腕力による動作よりも派手で、見せつけるための演出としてはぴったりと言えるだろう。
しかし広がったのは重苦しい沈黙だった。
ケイトの提案に、返ってくる肯定の返事はない。
ジョセフィーヌの中にある、なんらかの大事な部分に触れてしまったのは間違いなさそうだ。
「魔法は、……人に向けて使う予定は、ありません」
「それは、貴女が魔法使いを引退した理由と関係がありますか?」
「……」
「いえ、申し訳ない。踏み込みすぎてしまったようだ」
早急すぎた、とケイトは内心でかぶりを振る。
潜入捜査において、距離感を誤って警戒されることだけは避けねばならない。
どんよりとした空気を変えるべく、別の話題を出す。
「そういえば、これから向かう村について説明しておりませんでした。ジョセフィーヌ嬢の目的地のことも聞いておかねば」
「あ、そう、そうなんです!」
この空気をなんとかしたいと思っていたのはジョセフィーヌも同じだったらしい。
予想以上の食いつきで会話に乗ってきた。
かと思ったが。
「その村の名前って……!」
「え?」
次の瞬間、告げられた名前に、ケイトはもはや何度目かと思われた驚きを露わにした。