うきうき魔王のパーティバイキング   作:mrr

5 / 39
1.勇者はかつて-5

「だが、非常事態だ。加勢に行かなければ……」

「やめておきなさい」

 

いまだ動こうとしない脚の腿を叩き、無理矢理動こうとするアインの意思を、チャーリーが再び声を掛けて止めた。

先程とはうってかわって、静かに投げかけられるのは真剣な眼差しだ。

 

「きみ、格好を見るに学生だね? 教官から外出許可はもらっているのかい?」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう!」

「言うとも。指示を無視した奴から死んでいくのだから」

 

アインの脚が止まる。

今度は別の理由で。

 

「冒険者はパーティーだ。仲間との連携が命綱となる場合も少なくない。リーダーの指示を聞けず、己の力量を過信してレベル違いの敵に突っ込むような奴は、仲間ごと巻き添えにして惨たらしく死ぬ。見てきた僕が断言しよう」

「……」

「パーティーのいないきみにとって、リーダーとは教官だろう。彼はきみに、ドラゴンを見つけ次第突っ込めと指示を出したかい?」

「……いいえ」

 

心境は氷柱をねじ込まれたようだった。

チャーリーの言っていることは全て正しい。

これまでの学校生活、周りに馴染めず浮いていた己が思い出された。

評価や育ちにかこつけた悪口のせいにして、結局のところは自分が誰とも連携をとれなかっただけなのだ。

 

『勇者になるのはあなただ』

 

自分にキラキラとした瞳を向けてくれる、子供の声がかき消されていく。

後に残るのは、冒険者にふさわしくないアイン、という現実のみ。

厳しい指摘が、今なお動けずにいる己の状態が、意志にヒビを入れ、真っ二つに割り砕こうとした。

 

その時だった。

 

「うわぁあああ!」

「走れ! 早く!」

 

悲鳴が聞こえた。

それで、アインは我に返った。

視界には相変わらずドラゴンが開けた外壁の穴。

しかし、今注目すべきはそこではない。

 

牙が歪に生え揃った口から逃れようと、衛兵の一人がこちらへと駆けてきていた。

鼻水と涙を垂れ流し、なりふり構わずといった形相は死に物狂いという表現が合っている。

その衛兵は、壁の内側へと逃れようとしているようだった。

しかし穴を塞がなければドラゴンが入ってきてしまう、と考えかけたアインは、壁の側に立つ魔法使いの姿によってその問題を打ち消した。

詠唱を唱えつつ、魔力の光を灯す杖は、魔法を行使しようとしている最中だ。

おそらく、土魔法かなにかで穴を塞ぐつもりなのだろう。

 

しかし。

魔法使いの顔色は悪い。

魔法は発動直前のまま、壁の穴は塞がっていない。

中途半端な状態での魔法の維持は、危険だ。

魔力の巡りを少しでも乱した途端に暴発するのだ。

あの魔法使いは、魔力を均衡に保つことに全集中力を使っている。

 

ではなぜさっさと魔法を行使しないのか。

先程からアインの視界に映っている、衛兵が原因だ。

彼は己が助かるため、壁の内側へと走ろうとしている。

タイミングがわずかでもズレてしまえば、衛兵一人をドラゴンの玩具として締め出すことになるか、あるいは人間の百人はその腕を大きく振るうだけで血煙へと変えられる化け物を街に招き入れることとなるか。

どちらにせよ、大惨事になることは想像に難くなかった。

 

誰もが動けずにいた。

衛兵を助けようとすれば、自分も外壁の外側へ出てしまう。

下手をすれば魔法使いの邪魔にすらなりかねない。

自己保身と、状況判断の難しさが彼らの足を縫い止めた。

 

否。

動いた者が、いた。

チャーリーだ。

彼は力強く地を蹴ると、手を伸ばす。

衛兵を掴み、敷地内へと引っ張り込む算段であった。

魔法詠唱中の魔法使いとは既に視線で意思は伝えている、長年の付き合いであるパーティーメンバーには正確に伝わったことだろう。

チャーリーは魔法の壁が発動する境目、そのギリギリ内側で踏み止まった。

衛兵を引っ張り込んだ直後、自分が魔法に巻き込まれないようにするための対策であった。

 

しかし、衛兵の側からも伸ばされた手を掴んだその一瞬後。

自分の真横を走り抜けていった存在に、チャーリーは目を見開くこととなる。

 

動いた者は、もう一人、いた。

アインだ。

彼は剣を構え、全速力で走っていた。

策もなにもない彼の俊足は、あっという間に境目を乗り越え、兵士とすれ違い、ドラゴンの前へと躍り出た。

 

「ばっ……!」

 

チャーリーが絶句したのは、彼の常に人に見られることを意識した立ち回りが脳内に駆け巡った罵詈雑言を外へ吐き出すのを拒否したからだ。

 

愚か。

そう言う他なかった。

危険が常に隣り合わせである冒険者が、第一に意識しなければいけないのは己の命だ。

救助するために自分が命を落としては、その後安全地帯へ退避するまで迫りくる危機は残りの者が対処することになる。

自分がパーティーの要であるリーダーであるならば、殊更全員の生存率に関わるのだ。

 

今の状況は、要救助者が二人に増えただけだ。

壁の内側で引っ張りこむだけでは間に合わない。

滅多にしない舌打ちを口の中で響かせ、チャーリーは更に一歩を踏み出した。

 

その時だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。