うきうき魔王のパーティバイキング   作:mrr

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2.僧侶は祈りを-1

ディーンの朝は、鶏が鳴くよりも早く訪れる。

窓を閉め切った空間は薄暗いが、どこになにが置いてあるか、ある程度は把握していた。

目やにのついた瞼を持ち上げ、まるで見えているかのように支度を整えて部屋を出る。

この特技については、自室に物が少ない上、部屋が大いに狭いという点も理由に含まれるだろう。

自慢することでもないので、ディーンはこの話題になる度、適当に誤魔化している。

 

井戸の水で身を清め、早朝の祈りを捧げる。

祈りのための用具は、握れば今日も手によくなじんだ。

女神エリスを象徴する真円と三本線のシンボルに、決められた個数のビーズを連ねた飾り。

ディーンはその用具に加えてもう一つ、手のひらの中に握り込ませているものがあった。

塗装の所々が剥げてしまったロケットペンダント。

チェーンのついていないそれはただのみすぼらしい石のようで、女神への祈りと関係ない、不要だと怒りを抱く者もいるだろう有様であった。

だが、ディーンは止めない。

それを注意する者も、ペンダントの持ち主も、もはやいないのだから。

早朝の祈りは何の問題もなく、粛々と遂げられた。

 

朝日が世界を照らす頃、家に戻り質素な食事を摂る。

その場に音はほとんどない。

ディーンが粛々とフォークを動かす音だけが響く。

 

食前と食後、そして朝の祈りが終わればようやく家を後にする。

暖かくなってきたとはいえ、まだ肌寒い日は続く。

薄いカソックでは耐えきれない寒さに身を震わせながら、ディーンは教会へ急いだ。

 

「神父様、おはようございます!」

「おはよう」

 

教会に併設された孤児院で、子供達の元気な挨拶を聞く。

そこでようやくディーンは肩の力を抜いた。

 

監督役の保母から最近の話を聞きつつ、エリス教の教えを子供達へ言って聞かせる。

難しかったり話が長かったりして、飽きた子供達の囁き声は正直だ。

 

昼の祈りを捧げ、子供達と共に昼食を摂る。

どこか心配そうな保母の一人に別れを告げ、孤児院を後にした。

 

移動先は大聖堂。

ディーンにとってのもう一つの職場だ。

この町のシンボルとなっているそこは何十人来ようと受け入れられる、巨大な建築物である。

そびえ立つ尖塔は天に届きそうで、ここでなら神に祈りが届きそうだと誰かが言っていた。

 

「ディーンくん」

 

入口をくぐり、しばらく歩いたところで声がかけられた。

フェリックス司教だ。

 

「こんにちは、司教」

「はい、こんにちは」

 

挨拶をすれば、年相応に垂れたまなじりがにっこりと笑みを返した。

地位の高さとは裏腹の、柔和な笑顔が彼の人気の秘訣でもあるらしい。

 

「調子はどうかな。今度のミサには参加できそうかい?」

「ええ、……すみません、ご迷惑をおかけしております」

 

ここ最近のディーンは、司祭としての仕事を果たしていない。

教会主催のバザーや町内外の宣教活動、魔物と戦闘した冒険者の救護、など。

有り体に言えば教会の外に出て行う催事を、理由をつけて休んでいるのだ。

 

だが、ディーンの事情を知る者は大体が察している。

彼が塞ぎ込んでいる理由がなにか。

 

「迷惑だなんてとんでもない。心配しているんだよ、……奥方のことは、本当に残念だった。当然だとも、あんな最期、彼女にふさわしいとは到底言えない」

「司教。申し訳ありませんが、書類を溜め込んでおりまして」

 

長くなりそうだった話を遮り、失礼のない程度に挨拶をしてその場を後にする。

フェリックス司教は特に気分を害した様子もなく、ディーンの行き先とは別の方向へ歩いていった。

礼拝堂も告解室もそちらにはないはずだというのに。

この大聖堂は、ディーンもいまだに内部構造を把握できないほどに大きい。

 

来訪者の立ち入りを禁じている細い廊下を通り、小さな事務室にて書類の処理を行う。

地味で面倒だが大量にあるそれらを無言で片付ける。

淡々と、大きな動きもないまま時間だけが過ぎていく。

 

期限の近いものだけを片付け、残りは後日にとっておく。

家を出なければならない理由がなくなれば、二度と足を向けられないような気がした。

やらなければならない業務を片付け、大聖堂を出た頃には太陽は既に西の山の付近へと移動していた。

 

大聖堂前の広場で、子供達が噴水の周りをはしゃぎながらぐるぐると回っている。

点在する屋台、井戸端会議を行う婦人達、行き交う馬車。

人々の営み、そのどれもがディーンには距離の遠い別世界のことのように思えた。

 

目に映る景色を無感情に受け止め、そして家へと帰る。

それがディーンの日常であった。

この日までは。

 

ひひん!

馬の鋭い嘶きが聞こえた。

次の瞬間、鈍い衝突音。

 

「わあ!」

 

小さな悲鳴が聞こえた。

それが子供のものだと気づいた時、ディーンは咄嗟に声の方向へと走り寄っていた。

 

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