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1. 突如として引き裂かれる日常
「お疲れ様です、お姉ちゃん。今回のデブリ回収、規定時間の20%短縮。さすがだね」
「ありがとうございます。シュティアの索敵精度が上がったおかげですよ」
依頼を完遂し、中継ステーションの管理局で報酬手続きを終えたばかりの二人。安堵の溜息をつき、自船へと戻ろうとしたその時だった。
「……レデア・メイスだな。動くな」
背後から響いた冷徹な声。振り返れば、重装備を固めた管理局の警備兵たちが、半円を描くように二人を包囲していた。
「えっ……? はい、そうですが……何か?」
レデアの声が上擦る。
「貴女には、先月の軍事セクターにおけるデータ窃取の嫌疑がかかっている。任意同行願おうか」
「データ窃取!? 何かの間違いです! 姉がそんなことするわけありません!」
シュティアが前に出ようとするが、警備兵たちの銃口が一斉に跳ね上がった。
「下がれ。貴女に嫌疑はないが、公務執行妨害を働くなら、この場での拘留、あるいは射殺許可も下りている。……大人しくしろ」
「シュティア……大丈夫、です。きっと何かの誤解ですから。すぐ戻ります、から……」
連行されていくレデアの顔は、驚きと不安で青ざめ、今にも泣き出しそうに弱々しい。
その背中が角を曲がり、見えなくなった瞬間。
シュティアの瞳から、すべての感情が消え、冷たい絶対零度の光が宿った。
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2. 変貌:鏡の中の「不在」
ドックへ戻ったシュティアは、迷うことなく秘匿コンテナを開いた。
「……お姉ちゃん。二度と、私の目の前から消えさせないって決めたのに」
彼女は特殊なジェル状のデバイスを顔に塗布した。『光屈折型・生体偽装スキン』。
数秒後、鏡の中にいた「シュティア」の顔は消えた。そこには、どこか冷徹で高貴な、しかし誰でもない「銀髪のウェーブヘアーの女性」が立っていた。
彼女は普段使わない、軍事規格の暗号化端末を手に取る。
「……お姉ちゃんを、あんな汚い連中の手に一秒でも長く置かせておくなんて、耐えられない」
彼女がポケットに忍ばせたのは、偽名――『メイル・ノア』を名乗るための、正規ルートでは決して手に入らない「特級不介入権限証」だった。
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3. 越権行為の交渉
管理局の重厚なデスクを、メイル(シュティア)は無造作に叩いた。
「この少女、レデア・メイスの身柄を引き取りに来ました。今すぐに」
「……何者だ、貴様。ここは一般人の立ち入りは――」
局員が不快げに顔を上げたが、彼女が提示したホログラムの身分証を見た瞬間、その言葉は喉に詰まった。
「こ、これは……中央監査局の、特例権限……!? なぜ、こんな末端のステーションに……」
「理由は貴方の権限では閲覧不可能です。嫌疑? 調査の結果、彼女は無実です。私の管轄で『処理』しますので、鍵を開けなさい。それとも、私が直接当局に『貴公の不手際』を報告した方がいいですか?」
圧倒的な威圧感。変装したシュティアの言葉には、一切の迷いがない。局員は額に汗を流しながら、震える手でロックを解除した。
「は、はい……ただいま。彼女は特に厳しい取り調べも受けておらず、明日には釈放予定ではあったのですが……」
「『明日』では遅すぎるんです。今、この瞬間に」
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4. 救出と、拭いきれない疑念
独房のような待機室で震えていたレデアは、ドアが開いた音に顔を上げた。
「……あ……」
入ってきたのは、見知らぬ銀髪の女性。鋭い美貌と、どこか軍人を思わせる冷ややかな空気を纏っている。
「……貴女は?」
困惑するレデア。銀髪の女性は、レデアの腕を乱暴に、けれどどこか壊れ物を扱うような繊細さで掴んだ。
「……行きましょう。貴女は自由です」
そのまま管理局を強引に連れ出されたレデアは、ステーションの喧騒から離れた安全な資材置き場でようやく解放された。
「待っていてください。ここで、じっとして」
銀髪の女性はそれだけ言い残し、人気のない物陰へと消えた。
数分後。
「お姉ちゃん!! お姉ちゃあああああんっ!!」
全速力で駆けてきたのは、いつもの、愛すべき愛の重い妹、シュティアだった。
「シュティア! 無事だったんですね!」
「お姉ちゃん! 私、どうしようかと思った! 怖かった、すごく怖かったんだからぁ!」
泣きじゃくりながらレデアに抱きつくシュティア。その姿は、先ほどまで管理局を震え上がらせていた冷酷な「メイル」とは似ても似つかない。
だが。
シュティアの腕に抱かれながら、レデアはふと考えた。
(あの女の人……姿も声も全然違うのに、どうして……)
「お姉ちゃん、もう大丈夫だよ。私がいるもん。お姉ちゃんを傷つけるものは、私が全部、銀河の果てまで掃除してあげるからね……」
耳元で囁かれる、甘く、狂おしいほどに深い庇護の言葉。
シュティアの瞳には、愛ゆえの狂気が光っていた。
レデアは、その温もりの中に、得体の知れない安堵と、それ以上の「底知れぬ何か」を感じていた。