砕氷のアンカー、あるいは熱病の抱擁   作:エスカド

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36話:電脳の銀河、紅の横取り

◆◆◇◇◆◆

1. 招待状と銀の髪、至高の休日

 

「お姉ちゃん、見て。これ、先日お手伝いした輸送ギルドの重役さんから届いたんだ」

 

 シルバーアンカーのコックピットで、シュティアが二枚の電子チケットをヒラヒラと振った。

 

「……『ゲーミングギャラクシー』への特別招待券? あの、スバル・ステーションの第七区画に新設されたという……」

 

「そう! 入場料だけで結構なクレジットを取られるっていう、あの超大型レジャー施設。お姉ちゃん、最近仕事詰めだったし、たまにはパーッと羽を伸ばそうよ」

 

 レデア・メイスの瞳が、ふわりと輝いた。普段は冷静沈着、大人びた言動を崩さない彼女だが、こうした未知のレジャーや文化的な刺激には、年相応の好奇心が顔を出す。

 

「……いいのですか? 今日の定期メンテナンスを前倒しにすれば、確かに時間は作れますが」

 

「メンテナンスなら、私が昨日のうちに終わらせておいたよ。お姉ちゃんは、ただ楽しむことだけを考えてて」

 

 シュティアは、レデアの隣に滑り込むと、その繊細な銀髪を優しくなでた。

 

「ふふ、わくわくしてるお姉ちゃん、本当にカワイイ。……よしよし、今日は一日、私のエスコートに身を任せてね」

 

「シュティア、髪が乱れます……。ですが、そうですね。せっかくの招待です、存分に楽しみましょう」

 

 二人は身支度を整え、ステーションの喧騒の中へと足を踏み出した。

 

◆◆◇◇◆◆

2. ゲーミングギャラクシーと光の海

 

 スバル・ステーションの一角を占める「ゲーミングギャラクシー」は、その名の通り、光と音が支配する銀河のような場所だった。

 広大な吹き抜けのフロアには、最新のホログラム技術を駆使した巨大な筐体が所狭しと並び、各所から爆発音や電子的な歓声が響いている。

 

「……圧倒されますね。これが、現代の娯楽の最先端ですか」

「お姉ちゃん、まずはあっちの射撃コーナーに行ってみようよ!」

 

 シュティアに手を引かれ、二人が最初に向かったのは、実体弾とエネルギー弾の両方を模したハイブリッド・シューティング。

 シュティアは大型のライフル型コントローラーを軽々と手に取ると、画面に現れる標的を次々と撃ち抜いていく。

 

「ターゲット確認。射線クリア。……はい、おしまい!」

 

 百発百中の精度。隣で見ていた一般客たちが、そのプロ顔負けの腕前に度肝を抜かれている。

 

「シュティア、流石の腕前ですね。……ですが、私だって負けてはいられません」

 

 レデアは対照的に、片手で扱えるハンドガンタイプのコントローラーを選び、最小限の動きで急所だけを的確に射抜いていく。二人のハイスコアが交互に塗り替えられる光景は、もはや一つのパフォーマンスのようだった。

 

 次に二人が足を止めたのは、ひときわ古めかしい、筐体型のゲームが並ぶ「クラシック・アーカイブ」コーナーだった。

 

「……これは? ホログラムではなく、物理的な画面が埋め込まれていますね」

 

「古代地球の『ベルトスクロールアクション』っていう形式らしいよ。お姉ちゃん、二人プレイができるみたい」

 

 二人は狭い筐体の前に並んで座り、ドット絵のキャラクターを操作して、画面左から現れる暴漢たちをなぎ倒していく。

 

「お姉ちゃん、右からモヒカンの敵が来た! ジャンプキックだよ!」

 

「了解しました。……えい。……ふふ、単純なルールですが、意外と熱くなりますね」

 

「でしょ? 協力して進む感じが、なんだかシルバーアンカーの仕事みたいで楽しいな」

 

 画面の中で背中を合わせるドットのキャラクター。それは、現実の二人の絆をそのまま投影しているようでもあった。

 

 その後も、二人は最新のVR五感没入型レーシングで宇宙の最速を競い、ホログラムのダンスゲームで踊り、大型の対戦型パズルで火花を散らした。

 

◆◆◇◇◆◆

3. 鋼鉄の巨人、あるいは不意打ちの雷光

 

「……ふぅ。お姉ちゃん、ちょっとトイレに行ってくるね。少し長くなるかもだけど、お姉ちゃんも一緒に来る?」

 

 三時間が経過した頃、シュティアが少し申し訳なさそうに言った。

 

「いえ、私はあちらの最新機種が気になりますから、ここで遊んでいます。一人で大丈夫ですよ」

 

「……ええー、残念。じゃあ、五分、いや三分で戻ってくるから! どこにも行かないでね? 変な男に声かけられたら、即座にアンカー……じゃなくて、通報するんだよ?」

 

「わかっていますから。早く行ってきなさい」

 

 シュティアの過保護な視線を背中で受け流しながら、レデアは一台の大型筐体の前に立った。

 それは、人型メカを操って広大な戦場を駆け巡る、人気シリーズの最新作『マキナ:ゼニス・リベリオン』だった。

 

 レデアは慣れた手つきでログインし、自分の機体を選択した。

「……機動性重視の軽量型。武装は、スナイパーライフルと高周波ブレード。……行きます」

 

 人型兵器マキナが、高精細な仮想空間を滑るように移動する。

 レデアの操縦は、非常に手慣れたものだった。敵の弾幕を最小限のスラスター吹かしで回避し、遮蔽物を利用して死角から一撃を見舞う。

 ミッションは順調に進み、ついにエリア最深部のボス敵へと到達した。

 

 それは、複数の砲塔を持つ巨大な多脚戦車。

 レデアは冷静に、相手の攻撃パターンを分析する。

(……左側面の装甲が薄いですね。あそこを破壊すれば、コアが露出するはずです)

 

 流れるような機動でボスの懐に潜り込み、ブレードで装甲を切り裂く。レデアの狙い通り、ボスの心臓部であるクリスタル・コアが露わになった。

 ハイスコア更新まで、あと一撃。

 レデアはスナイパーライフルの照準を合わせ、トリガーに指をかけた。

 

 ――その、瞬間。

 

 画面の端から、レデアの放とうとしていた一撃を遥かに上回る、極太の極太の赤いレーザーが突き抜けた。

 

 ドォォォン!! という凄まじい爆発音と共に、ボスのコアは塵すら残さず消滅した。

 画面には無情にも、ボス撃破のファンファーレと、最も高いダメージを与えたプレイヤーに贈られる『ラストショット・ボーナス』の文字が躍る。

 

「……え?」

 

 レデアの手が止まる。

 自分が完璧にお膳立てをし、あとは仕留めるだけだった獲物を、横から掠め取られた。

 ゲーム内ログを確認すると、その「横取り(キルスティール)」を成し遂げたプレイヤーの名前が表示されていた。

 

【 プレイヤー名:Kanoa 】

 

「…………」

 

 レデアは筐体から顔を上げ、すぐ横にある隣のプレイ台を、ゆっくりと見た。

 

 そこに、彼女はいた。

 燃えるような赤い髪を長く伸ばし、アシンメトリーな前髪が特徴的な少女。

 どこかで見たことがある。

 

 少女は、レデアを眠たそうな目で見つめ、少し笑った。

 レデアの中の闘争心が芽生え始めた。

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