砕氷のアンカー、あるいは熱病の抱擁   作:エスカド

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37話:電脳の熱源、すごーい再会

◆◆◇◇◆◆

1. 宣戦布告、沈黙の再装填

 

 最新鋭のゲーム筐体『マキナ:ゼニス・リベリオン』が並ぶ一角に、目に見えるほどの火花が散っていた。

「……隙だらけ」

 隣の席から投げかけられたその一言は、レデア・メイスの静かなプライドをこれ以上ないほどに逆撫でした。

 

 レデアは無言のまま、一度席を立ち、もう一度深く椅子に座り直した。

 感情を顔に出すことはない。しかし、その手つきは先ほどまでとは明らかに違っていた。コントローラーの感度を最高値まで引き上げ、神経を電脳空間へと直結させる。

 レデアの操る銀色のマキナが、画面内で向き直った。その銃口が、カノアの駆る赤いマキナと交差する。

 

(……一撃、返させていただきます)

 

 こうして、二人の少女による「マキナ」の覇権を賭けた、静かなる戦いの火蓋が切って落とされた。

 

◆◆◇◇◆◆

2. 三番勝負、電脳の激突

 

 第一戦:競争ミッション『大気圏突入・降下レース』

 燃え盛る大気圏を突破しながら、無数の浮遊デブリを回避しつつ地上への到達速度を競うステージだ。

 カノアの赤機は、驚異的な反射神経で最短ルートを突き進む。一方でレデアの銀機は、大気の流れを読み、スラスターの加熱を最小限に抑えた精密な機動でカノアの背後にピタリと張り付く。

 チェックポイントを通過するたび、順位が目まぐるしく入れ替わる。

 

「……なかなかやるね」

 

 カノアの呟き。レデアは答えず、ブースターを限界まで吹かして赤い影を追い抜いた。

 

 第二戦:撃破数競争『要塞都市防衛戦』

 押し寄せる無人兵器の軍勢を、どちらが多く破壊するか。

 カノアの戦い方は「破壊」そのものだった。高出力のレーザー砲を薙ぎ払い、画面内の敵を一掃する。

 対するレデアは「効率」の化身。敵の弱点である動力源をスナイパーライフルで一点突破し、誘爆を誘って連鎖的に撃破数を稼ぐ。

 カノアの派手な爆発音と、レデアの乾いた銃声。筐体からは警告音が鳴り響き、二人のプレイするモニター前にはいつの間にかこのハイレベルな戦いを見物するギャラリーが集まり始めていた。

 

 第三戦:最終ミッション『二連装巨神機、同時攻略』

 二体の巨大ボスをそれぞれが担当し、どちらが早く沈めるかを競う。

 レデアはもう、隣の少女が自分と同じくらい、いや、それ以上にこのゲームに「熱」を入れているのを感じていた。

 カノアの指先は、複雑なコマンドを高速で入力している。その瞳は画面に吸い込まれそうなほど鋭い。

 レデアもまた、普段の冷静さをどこかへ置き忘れ、コントローラーを握る手に力がこもる。

(……負けられません。姉として、プロの何でも屋として!)

 

 同時、撃破。

 画面には「MISSION COMPLETE」の文字が踊り、二人のスコアは同点だった。

 

◆◆◇◇◆◆

3. 「すごーい!」、あるいはむにむにの洗礼

 

 筐体から排出されたリザルトチケットを手に、二人が同時に席を立った。

 額にわずかに汗を浮かべたレデアが、隣のカノアに向き直ろうとした、その時。

 

「すごーい! カノアちゃん、今日も最強だね! 可愛い~!」

 

 背後から飛び出してきた「青い影」が、カノアを背後からガバッと抱きしめた。

 それは、青い髪をルーズなサイドテールにまとめた、柔らかな雰囲気の女性だった。彼女はカノアの無表情な頬を、両手で「むにむに」と容赦なく揉みしだいている。

 

「……アスフィ姉さん、ひゃべりづらい」

「いいじゃなーい! こんなに頑張ったんだから、ご褒美だよ! むにー、むにーっ!」

 カノアはされるがままになりながら、無表情。そのシュールな光景に、レデアは呆気にとられた。

 

「あっ……!」

 その時、レデアの脳内でバラバラだったピースが繋がった。

 赤い髪の少女、そしてこの自由奔放な青髪の女性。

「……あの時の……」

 

 レデアの呟きに気づいたのか、青髪の女性が顔を上げた。彼女はカノアの頬から手を離すと、ふわっとした笑顔を浮かべ、こちらへ歩み寄ってきた。

 

「あら、あなたもしかして……。やっぱりそうだわ!」

 女性はレデアの目の前で止まると、穏やかに微笑んだ。

「レデアちゃんね。お久しぶりです。元気にしてた?」

 

「……アスフィさん。お久しぶりです」

 レデアは驚きを押し殺し、深々と頭を下げた。

 赤髪の少女カノアを見るより少し前、ステーションでひったくりを撃退した大人の女性、アスフィ。

 

◆◆◇◇◆◆

4. シュティア、あるいは困惑の帰還

 

「おねえちゃぁああ~~ん!! 待たせてごめんねぇええ!!」

 

 遠くから、ステーションの通路を震わせるような絶叫と共に、金色の閃光が走り寄ってきた。

 シュティアだ。彼女はトイレから文字通り音速で戻ってくると、レデアの無事を確認して安堵の溜息をつこうとして――。

 

 その場にいるカノアとアスフィの姿を見て、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まった。

「……あれ? あなたたちは、確か……」

 

「あら、あなたは……。先日はうちの妹がお世話になりました」

 アスフィが上品に手を振ると、シュティアの記憶も急速に蘇ったらしい。

「あ、あの時の、ベンチで寝てた子のお姉さん……!? なんでここに!?」

 

 シュティアが混乱する中、カノアがトコトコとシュティアの元へ歩み寄った。

 そして、驚くシュティアの大きな手を、自身の小さな手でぎゅっと握りしめた。

 

「……久しぶりだね、お姉さん」

「えっ、あ、うん。久しぶり……かな? って、ええっ!?」

 

 カノアは無表情ながらも、どこか満足げにシュティアの手を握り続けている。

 それを見たレデアは、目を見開いて硬直した。

 

 一方でアスフィは、その光景を見て「あらあら」と口元を抑え、楽しそうに目を細めている。

 

「カノアちゃん、やっぱりお姉さんのこと気に入っちゃったのね。あんなに他人に懐くなんて珍しいんですよ?」

 

「え、ええ!? なに、なに!? どういう状況!?」

 

 パニックに陥り、レデアとカノアを交互に見るシュティア。

 握られた手を振り払うこともできず、かといって姉の視線も気になる。

 

 ゲーミングギャラクシーの騒々しい喧騒の中で、四人の関係性は、ゲームのスコアよりも遥かに複雑な方向へと加速し始めていた。

 

「……シュティア」

「お姉ちゃん!ちょっと、それはどういう意味の目なのぉ!?」

 

 レデアの冷ややかな目、シュティアに懐くカノア、そしてアスフィの包容力がゲーミングギャラクシーの一角に展開された。

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