砕氷のアンカー、あるいは熱病の抱擁   作:エスカド

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41話:深層の双子星、あるいは守護者の平穏

◆◆◇◇◆◆

1. 桃源郷の陥穽、あるいは二人の妹

 

 シルバーアンカーの居住区、柔らかな午後の光が差し込むリビング。

 シュティアはソファに深く腰掛け、心地よい静寂に身を委ねていた。はずだった。

 

「……あれ?」

 ふと視界の端に違和感を覚え、右隣に目を向ける。そこには、いつの間にか一人の少女が座っていた。

「サ、サティさん!? いつからそこに……っていうか、どうやって船内に?」

「えへへ、お姉ちゃん。ずっと隣にいたよ?」

 サティは太陽のような、眩いばかりの純真な笑みを浮かべた。そして、躊躇いもなくシュティアの右腕にしがみついてくる。

「あのね、お姉ちゃん。私、お姉ちゃんの妹になれて、世界で一番幸せ!」

「え、ええ!? い、いつの間にそんな契約したっけ……っていうか、お姉ちゃん呼びは反則だよサティさん!」

 

 鼻の下を伸ばしそうになるのを必死に堪えていると、今度は左腕に、サティとは異なる質の温もりが重なった。

 恐る恐るそちらを向くと、そこには赤い髪を揺らす無表情な少女――カノアがいた。

「……カノアちゃん!? あなたまでどうして……!」

「……お姉さん、私のこと、妹にしたいよね?」

「えっ、あ、いや、それは……可愛いなとは思うけど……」

「……決まり。今日から、私がお姉さんの本当の妹。この腕、離さない」

 

 カノアは淡々とした口調で告げると、シュティアの左腕をがっちりとホールドした。

 右には天真爛漫なサティ、左には寡黙な執着を見せるカノア。まさに「両手に花」、シュティアの煩悩が具現化したかのような光景だ。

「え、ええ……どうしよう、どうすればいいの……!? 嬉しいけど、これ、絶対あとで天罰が下るやつだよ!」

 

◆◆◇◇◆◆

2. 審判の足音、覚醒の衝撃

 

 幸せと恐怖の板挟みになり、シュティアがじたばたとあたふたしていると。

 リビングの自動ドアが、静かに開いた。

 

 ――ヒタ、ヒタ。

 

 無機質な足音。シュティアの背筋に、滝のような冷や汗が流れる。

 ゆっくりと顔を上げたその先に立っていたのは、銀色の髪を揺らし、完璧に「作り込まれた」笑顔を浮かべる姉――レデア・メイスだった。

 

「……あらあら、シュティア」

 レデアの背後に、どろりとした漆黒のオーラが見えるのは気のせいだろうか。彼女は一歩、また一歩と近づいてくると、凍りつくような慈愛に満ちた声で囁いた。

「シュティアは、本当に妹を作るのが上手なんですね。……私という姉がいながら、こんなにも賑やかな家族を増やすなんて。素晴らしい『向上心』です」

 

「お、お姉ちゃん! 違うの! これは不可抗力っていうか、事故なのぉおおお!!」

 

 レデアの瞳から光が消える。

 彼女が静かに、手にした重い端末を振りかざした瞬間。

 

「うわあああああああ!!」

 

 シュティアは絶叫と共に、ソファから転げ落ちた。

 目の前には、いつものシルバーアンカーのリビング。テレビモニターでは穏やかなニュースが流れており、サティもカノアも、当然ながらどこにもいない。

 どうやら、昼食後の心地よい日差しの中で、いつの間にか昼寝をしてしまっていたようだ。

 

◆◆◇◇◆◆

3. 真実の体温、あるいは独占の再確認

 

「……なんですか、騒々しい。いきなり叫んで、エクササイズの最中ですか?」

 モニターのニュースを見ていたレデアが、不思議そうに振り返った。その手には辞書ではなく、いつものタブレット端末が握られている。

 

「お、お姉ちゃん……。本物、だよね? 怒ってないよね?」

「? 何か変な夢でも見たのですか。……顔色が悪いですよ、シュティア」

 

 レデアが呆れたように近づいてきた瞬間、シュティアは弾かれたように飛び起き、姉の小さな体をギュギューッと力一杯抱きしめた。

「わっ!? な、なんですか、急に! 苦しいです、離しなさい!」

「お姉ちゃぁあああん!! やっぱりこっちが本物のお姉ちゃんだよね! 夢じゃないよね! 妹なんて一人も増えてないよね!?」

「もう、訳の分からないことを言わないでください。……早く顔を洗ってきなさい。せっかくの休日が台無しですよ」

 

 レデアは口では文句を言いながらも、縋り付いてくるシュティアの背中を、仕方なさそうにトントンと叩いてなだめるのだった。

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