砕氷のアンカー、あるいは熱病の抱擁   作:エスカド

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42話:蒼炎と銀鎖、あるいは救出者の共鳴

◆◆◇◇◆◆

1. 交差する依頼、ドックに散る火花

 

 スバル・ステーション、第14民間ドック。

 シルバーアンカー号のハッチの前で、レデア・メイスは不快感を隠そうともせず、眼前の小柄な人影を見据えていた。

 

「……カノアさん。まさか、同じ依頼を受けているとは思いませんでした」

「……それはこちらのセリフ、ちんちくりんさん」

 

 レデアの言葉に、赤い髪を揺らす少女、カノアが深紅色の瞳で淡々と応じる。

 今回の依頼は、ステーションでも名の知れた巨大商社「アルニラム重工」の令嬢、『ルミエ・アルニラム』の救出だ。遊覧船での移動中に正体不明の武装集団に拉致された彼女を、ギルド経由で招集された二組の姉妹が追うことになったのである。

 

「まあまあ、レデアちゃん。協力した方が成功率は上がるわ。仲良くしましょう?」

 青い髪をなびかせ、アスフィが穏やかに微笑む。その後ろには、彼女たちの愛機――深い紺色の船体に燃えるような赤いラインが刻まれた、『アクア・イグニッション』号が鎮座していた。

 

「アスフィさんの言う通りだよ。ね、お姉ちゃん、カノアちゃん」

 シュティアが困り顔でなだめるが、レデアとカノアは視線を合わせたまま、同時に「ふん」と顔を背けた。

 

「……いいでしょう。シュティア、出航準備です。どちらが先にルミエさんを見つけるか、勝負ですよ」

「……負けない。アスフィ姉さん、行こう。……ちんちくりんさんより、私の方が速いから」

 

「なんですって……!? 行きますよ、シュティア!」

「あ、待ってよお姉ちゃん!」

 

 二隻の船は、互いを追い越さんとするほどの加速でドックを蹴り出し、暗黒の宇宙へと消えていった。

 

◆◆◇◇◆◆

2. 接敵、不本意な連携

 

 追跡から三時間。小惑星帯の影に潜んでいた、誘拐犯の戦闘用巡洋艦を発見した。

「……見つけました。誘拐犯の船です。シュティア、第一種戦闘配備。……って、カノアさん! 割り込まないでください!」

 シルバーアンカーの直前に、強引な制動をかけて『アクア・イグニッション』が割り込む。

 

「……遅い。小さなお姉さんは、後ろでお茶でも飲んでて」

 通信回線からカノアの冷淡な声が響く。

「カノアさん、自分勝手な機動は作戦を台無しにします! 私の操舵に合わせなさい!」

「……嫌。私の背中を追いかけてくればいい」

 

 言い合いながらも、敵艦から放たれたレーザー掃射を、二隻は鏡合わせのような機動で左右に回避した。

「……もうっ。シュティア、右舷の砲塔を潰します! アンカー、スタンバイ!」

「了解だよ、お姉ちゃん! いっちゃえ!」

 

 レデアが鋭い旋回を見せ、敵艦の死角へ潜り込む。同時に、カノアの機体もまた、流れるような機動で逆サイドの砲塔群へ肉薄した。

「アスフィ姉さん、固定アーム、展開……!」

「はいはい、任せて。……あらあら、随分と激しい歓迎ね、シュティアちゃん、そちらは大丈夫?」

 

「あ、はい、大丈夫です。落ち着いてますね、アスフィさん……」

 

シュティアは完璧な仕事をこなしながらも、カノアとアスフィの二人に翻弄されているようだった。

 

◆◆◇◇◆◆

3. 鋼鉄の舞踏、銀河を裂く一撃

 

 戦況は激化する。敵艦は小型のドローンを多数射出し、二隻を包囲しようとした。

「シュティア、邪魔なドローンを掃除します! 一網打尽です!」

「任せてお姉ちゃん! アンカー、発射!」

 

 シュティアが放ったシルバーアンカーが、宇宙の闇を切り裂いた。それはただの銛ではない。シュティアの精密な操作により、アンカーは一機のドローンを貫通した後、ワイヤーを蛇のようにくねらせ、周囲の三機をまとめて絡め取った。

「せーのっ……!」

 シュティアが機体を急回転させ、絡め取ったドローンの塊を、敵艦のメインスラスター目掛けて投げつける。

 

 敵艦にぶつかったドローンが爆散する。しかし、敵艦は未だ沈まない。

「……まだ」

 

 カノアの『アクア・イグニッション』が、爆炎の中から飛び出した。

 船体下部から展開された二本の巨大な精密マニピュレーターが、まるで人間の腕のように俊敏に動く。アスフィの操作により、アームは敵艦の装甲板を強引に引き剥がし、その隙間に内蔵された高出力のプラズマ・カッターを叩き込んだ。

 

「逃がさないわよ。……はい、心臓部をいただきます」

 アスフィがアームを突き立て、敵艦の動力バイパスを物理的に引きちぎった。

 

「カノアさん、トドメは譲りません!」

「……私がやる。ちんちくりんなあなたより私の方が上」

 

 レデアとカノア、二人の操舵士の呼吸が、この瞬間だけは完璧に同期した。

 シルバーアンカーが敵艦のブリッジ正面を塞ぎ、シュティアがアンカーを敵のシールド発生装置に突き立てて引き抜く。その一瞬の隙を突き、カノアが『アクア・イグニッション』を最大加速させ、アームで保持していた大型の炸裂弾をブリッジの装甲隙間に直接ねじ込んだ。

 

 ――閃光。

 誘拐犯の戦闘艦は全機能を停止し、慣性で漂流するだけの鉄屑へと成り果てた。

 

 

◆◆◇◇◆◆

4. 健闘の果て、あるいはいつもの帰着

 

 制圧した艦内から、無事にルミエ・アルニラムを救出した。

「あ、ありがとうございます……! お父様が、きっと相応の報酬を……!」

 震える令嬢を優しく介抱するアスフィと、ルミエの頭を撫でて落ち着かせるシュティア。

 

「ルミエさん、怪我はない? もう大丈夫ですよ」

シュティアが優しく話しかける。

 

「うふふ、ありがとう、シュティアちゃん。本当に助かったわ。レデアちゃんもカノアちゃんも、最高のコンビネーションだったわよ?」

アスフィもルミエを優しく抱きしめながら、シュティアや皆を労う。

 

 和やかな空気が流れる中、機体の回収作業を終えたレデアとカノアが、通路で鉢合わせした。

 二人の服はわずかに乱れ、息を切らしていたが、その瞳にはプロの「何でも屋」としての充実感が宿っていた。

 

「……カノアさん。あなたの無謀な突撃には冷や冷やしましたが、……まあ、あのプラズマ・カッターの使い所だけは、評価してあげなくもありません」

「……小さなお姉さんこそ。……アンカーで道を作ってくれなかったら、もう少し時間がかかったかも。……シュティアお姉さんの相棒として、少しだけ認めてあげる」

 

 一瞬だけ、二人の間に通じ合うような、微かな笑みが浮かんだ気がした。

 だが。

 

「……ですが! 次回はもっと効率的なプランを私が立てますから、それに従いなさい! 呼び方も『レデアさん』に改めなさい!」

「……あなたが私に勝つなんて、ちゃんちゃらおかしい……ちんちくりんさんは、後ろを付いてきて」

 

「なんですって……!?」

「……本当のこと」

 

 バチバチと火花を散らしながら、互いに「ふんっ!」と顔を背ける二人。

「う、うーん……?仲良し、なのかな?」

「うふふ、そうね。レデアちゃんもカノアちゃんも、素直じゃないんだから」

 

 救出されたルミエ令嬢が困惑する中、二組の姉妹を乗せた船は、スバル・ステーションへと意気揚々と帰還していくのだった。

 レデアの心には、新たな「負けられないライバル」への闘志が。

 シュティアにはこれまで見たことのない世界が見え始めていた。

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