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1. 燃ゆる銀と赤
スバル・ステーション随一の最新アミューズメント施設「ゲーミングギャラクシー」。きらびやかなネオンと重低音の電子音が鳴り響くその一角で、周囲の空気が物理的に凍りつくほどの、熱く暗い火花が散っていた。
今日ここで、少女たちのプライドを賭けた熱い戦いが繰り広げられようとしていた。一回目の勝負の場所は、ドーム型のシールドに覆われた「ギャラクシーエアホッケー台」の前である。
「小さいお姉さん、よく尻尾を巻いて逃げなかったね。今からでも遅くないから、ママのミルクでも飲みに帰ったら?」
専用のマレットを無造作に弄びながらそう言い放ったのは、赤い髪の少女――カノア・リュードだった。その端整な顔打ちは完全に無表情のままであるが、吐き出される言葉の挑発的な鋭さは、対戦相手を確実にロックオンしていた。
「ふん、カノアさん。口が回るのは今のうちだけです。あなたこそ、私の圧倒的な腕前に恐れをなして、今頃ベッドの中で震えていると思っていました。そのお粗末な手元で、私の神速のスマッシュを追えると思わないことです!」
対するレデア・メイスも、140センチの小さな体を本日のシュティアセレクション、甘々フリルコーデ……の残滓である(服は却下された)ツインテールと共にピキピキと震わせ、銀色の瞳を鋭く尖らせて言い返す。
そんな二人の壮絶な睨み合いを数歩後ろで見守る大人たちの表情は、実に対照的だった。
「ふふ、二人とも本当に仲良しさんね〜。若いって素晴らしいわぁ」
青髪のサイドテールを揺らし、保護者のようなおっとりとした笑顔でニコニコしているのは、カノアの姉のアスフィ・リュード。
「お姉ちゃんがんばれ……」
その後ろで、シュティア・メイスが両手を握り締めて小さく声を出した。大好きな姉の応援をしたかったのだが、その瞬間にカノアの冷徹な視線とバチッと目が合ってしまい、シュティアの言葉は喉の奥へと綺麗に消え失せた。
カノアはまっすぐにシュティアを見つめたまま、淡々と恐ろしい条件を口にする。
「シュティアお姉さん。ここで私が勝てば、シュティアお姉さんは正式に『私のお姉さん』になってもらう。……こんな口うるさいだけのちんちくりんは、お姉さんなんかじゃない」
「な、なんですって――!?」
レデアの額に青筋がポップアップする。シュティアをめぐる直球のマウントに、レデアは激しくマレットをホッケー台に叩きつけた。
「言っておきますがカノアさん、シュティアは私の妹です。あなたを私の妹の妹にすることなど、私が絶対に認めません! ……ですが、私が万が一にもあなたのような子供に負けることなどありません。いいでしょう、その挑戦、受けて立ちましょう!」
「ちょっと、お姉ちゃん! 勝手に乗っちゃダメだよぉ!」
焦って止めに入ろうとするシュティアを片手で制し、レデアはふんす、と胸を張って不敵に言い放った。
「しかし、私が勝てば、私はアスフィさんと一日中高級モールへショッピングに行かせていただきます! カノアさん、あなたはお留守番です。もちろん、一人寂しくね!」
レデアの独占欲に満ちた勝利報酬の提示に、今度はシュティアの黄金色の瞳が絶望に染まった。
「お姉ちゃん、それはダメ!! 異議ありだよ!! アスフィさんと二人きりでデートなんて絶対に許さない! 浮気! それは私に対する許しがたい大罪だよぉ!!」
「何が浮気ですか。 これは完全なる勝利報酬の社交です!」
「ダメなものはダメ! お姉ちゃんの隣は私の特等席なんだからぁ!」
ギャーギャーと騒ぎ立てるメイス姉妹の姿を見ながら、アスフィは顎に手をあて、さらにのほほんとした微笑みを深めた。
「あらあら、大変。でも、私はレデアちゃんもシュティアちゃんも、まとめて私の可愛い『妹』になってもらっても全然構わないですよー?」
「…………え?」
聖母のごときアスフィの包容力溢れる言葉に、シュティアは完全に困惑して固まった。え?え?という表情でアスフィを見る。
「さあ、お喋りはここまで。画面を見て、小さいお姉さん。システム、オールグリーン。……ボコボコにしてあげる」
「望むところです、カノアさん! 私の精密操作の前に、ひれ伏しなさい!」
ブォン! とホッケー台からエアが噴き出す音が鳴り響く。
こうして、ゲーミングギャラクシーが誇る最新ゲームの数々を使った、少女たちのプライドと姉妹愛を賭けた「炎の5番勝負」が、ついに幕を開けるのだった。
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2.火花散る熱戦、あるいはどんぐりの背比べ
ゲーミングギャラクシーの一角で繰り広げられるレデアとカノアの勝負は、まさに苛烈、そして奇跡的なまでに互角だった。
そう――二人とも、致命的なまでに運動が得意ではなかったのである。
「はぁっ! 私の超光速シュートを受け止めなさい!」
レデアが鋭い掛け声と共にマレットを振るうが、放たれたのはポコン、と気の抜けた音を立てて力なく転がるふにゃふにゃショット。
「甘い……。その程度、私の計算通り」
カノアが無表情に迎え撃とうとするも、目測を誤り「ブンッ」と派手な空振りの風切り音が響く。直後、跳ね返ったパックがカノアの体に当たってそのままゴールへ吸い込まれた。
「なっ……オウンゴール!? 計算ミス……」
「やりました! 覚悟しなさいカノアさん、次で終わりです!」
今度はレデアが勝ちを確信して力任せにマレットを振り抜く。しかし、勢い余って手が滑り、プラスチックのマレットだけが宙を舞ってホッケー台のドームに激突、パックは無情にもレデア自身のゴールへと綺麗に転がっていった。
「はわわわ! お姉ちゃん、今を空振りしてちょっとよろけたの最高に可愛いよぉ! 録画、録画しなきゃ!」
「ふふ、カノアちゃんも必死に空振りして頬を赤くしちゃって。本当に可愛いわぁ」
外野のシュティアとアスフィが尊さに身悶えしながら熱烈なガヤを飛ばす中、ホッケー台の上ではその後も、泥仕合という名の熱戦が繰り広げられた。
やがて、ピピピピッという無情な電子音が響き、一回目のゲームが終了する。電光掲示板に表示されたスコアは、お互いにぐだぐだな進行の結果の「同点」だった。
「ぜぇ、ぜぇ……。な、なかなかやるね、小さいお姉さん……。持久力だけは認めてあげる……」
「はぁ、はぁ……っ。あなたも……そこそこやりますね、カノアさん。……ですが、これは5番勝負のまだ一回目です。……さあ、次に行きましょう!」
息を荒くし、膝をガクガクと震わせながらも、二人の少女は決して互いへの不敵な笑みを崩さない。運動音痴たちの果てしなき炎の連戦は、まだ始まったばかりだった。
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3. 連鎖する泥仕合、あるいは安息のモミモミ
その後に続いた対決も、驚くほど苛烈で、そして完璧なまでに互角だった。
二つ目の勝負は、体をダイナミックに動かす「バーチャル・ダンスバトル」。案の定、二人の運動音痴っぷりが炸裂した。レデアがステップを踏み外してロボットのようにカクカクとよろければ、カノアもリズムを完全に無視して明後日の方向へふにゃふにゃと手足を突き出す。画面に表示される評価は最低ランクの『BAD』の連打だったが、奇跡的にスコアが1点単位まで完全に一致し、引き分けとなった。
三つ目は一転して、頭脳と指先だけを酷使する超高難度パズルゲーム「コズミック・キューブ」。体を使わないゲームとなれば、二人のスペックはそれなりに、いや、常人を超えて極めて優秀だった。恐ろしい速度で電子の立方体が組み立てられ、連鎖の火花が画面を埋め尽くす。しかし、互いに一歩も譲らぬまま制限時間が限界を迎え、タイムアップによる同時ドロー。
四つ目の「レーザー・ガンシューティング」では、標的を狙う精密な動体視力こそ互角だったものの、銃の反動に華奢な腕が耐えきれず、二人とも銃口がブレまくって周囲の背景オブジェクトを盛大に誤射。最終的に「誤射による減点ペナルティの合計値」が全く同じになり、またしても引き分け。
「お姉ちゃんがんばれ! ああっ、今のふらふらしたステップも最高に愛おしいよお姉ちゃん!」
「カノアちゃん、パズルを解くときの真剣な横顔、すごく格好いいわぁ。がんばって!」
応援席のシュティアとアスフィが、尊さのあまり手を取り合って黄色い声援(ガヤ)を送る前で、二人は全ての体力をゲーム機へと注ぎ込んでいた。
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場所は変わって、ゲームセンター併設の落ち着いたカフェ。
ここまで4戦すべてが引き分けという信じられない結果だったが、それまでの激闘(主に慣れない運動)のせいで、二人の小柄な体は完全に疲れ切っていた。
「はぁ……はぁ……。レデア……さん、息が、上がってる……。だらし、ないね……」
「ぜぇ……はぁ……。あなたこそ、髪が、萎びていますよ、カノアさん……」
ソファにしおれた野菜のようにぐったりと倒れ込む二人。そんな姉たちの姿を見るや否や、待ってましたとばかりに保護者(あるいは重度のシスコン)たちが動き出す。
「お疲れ様、お姉ちゃん! 本当に、本当によく頑張ったね! えらいよお姉ちゃん!」
シュティアはすぐさまレデアの隣に滑り込むと、その銀色の髪を「よしよしのなでなで」と大きな手で優しく、けれど凄まじい密度で愛で始めた。
「んぅ……シュティア、頭を激しく揺らさないでください……目が回ります……」
レデアが弱々しく抵抗する一方で、対面のアスフィもカノアの隣に腰掛け、その無表情な頬に両手を伸ばした。
「カノアちゃんも頑張ったわね〜。ほら、お顔の筋肉が強張っちゃってるわ。もみもみ、むにむに〜」
「ん……むにゅ……」
アスフィの器用な指先によって、カノアの柔らかい頬が粘土のようにむにむにともみほぐされていく。無表情のままされるがままになっているカノアの姿は、実にシュールで愛らしかった。
やがて、テーブルに注文していた色鮮やかな宇宙イチゴのケーキと、冷たいフルーツジュースが運ばれてくる。
糖分と水分が五臓六腑に染み渡るのを感じながら、二人の少女は徐々に体力を回復させていった。一口ごとに頬に赤みが戻り、瞳に再び鋭い光が宿っていく。
「ふぅ……。生き返りました。カノアさん、甘みで脳も完全復旧です」
「私も、充電完了。……次が本当の、最後の勝負」
グラスを置き、パチリと火花を散らすレデアとカノア。
お互いに譲れない「姉妹のプライド」を懸けた炎の5番勝負、その最終決戦の火蓋が、ついに切って落とされようとしていた。