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1. 駆ける巨人、泥沼の決着
「最後はやはり、このゲームですね」
「うん。……小さいお姉さん、今度こそ、決着をつける」
カフェで糖分を補給し、気力体力を限界まで回復させたレデアとカノアが向かったのは、ゲーミングギャラクシーの最奥に鎮座する、ドーム型の大型体感コックピット筐体だった。
ゲームの名は『マキナ:ゼニス・リベリオン』。
プレイヤーは「マキナ」と呼ばれる巨大人型兵器のパイロットとなり、複雑な地形を駆け巡りながらミッションを達成し、同時に現れるライバルを撃破してスコアを競い合う、この施設で最高峰の知名度を誇る超人気対戦ゲームだ。そして何より、以前この二人で勝負した際に、どうしても決着がつかなかった因縁のタイトルでもあった。
ガコン、と重厚なシートに体を沈め、二人は手慣れた手つきで愛機を選択していく。
レデアが選択したのは、アップデートで追加されたばかりの新機体『アーデン』。紫紺の装甲に美しい金の刺繍のようなラインが施された優美なマキナだ。しかし、その見た目に反して、中身は完全な「怪物」だった。基本武装は打撃用の特殊な拳とビームソードのみという極端な近接特化型でありながら、スラスターの推力が異常に高く、制御が恐ろしくピーキー。あまりの加減速の激しさに、3D酔いを起こすプレイヤーが続出し、実装直後に「初心者お断り」の烙印を押された超高難度機体である。レデアはふんす、と胸を張り、操縦桿を握り締めた。
対するカノアが選択したのは、空色の重装甲マキナ『ハイプレッシャー』。カノア自身の燃えるような赤髪とは対照的なカラーリングだが、それはどこか、隣で見守る姉・アスフィの髪色を連想させる色合いだった。直線における圧倒的な突進速度と、ハンドキャノンやバズーカといった無骨な実弾兵装を中心とした凄まじい火力を誇る、カノアの得意機体だ。
「対戦ミッション開始。戦域は、要塞都市セクター」
電子アナウンスと共に、二人の視界に広大な仮想空間の戦場が展開された。
勝負のルールは、次々と発生する作戦目標(ミッション)をクリアしつつ、互いへの直接攻撃による妨害も許可された過酷な対戦モード。
全く異なるタイプの二機による戦いだったが、その戦況はまさに、凄まじいまでのデッドヒートだった。
レデアのアーデンが超高速のジグザグステップでビル群の間を駆け抜ければ、カノアのハイプレッシャーが物量に任せた重火力砲撃でその進路を強引に爆破していく。スコアゲージはミリ単位で追い抜き、追い抜かれ、奇跡的なまでの互角を維持していた。
中盤、要塞の狭い通路でのドッグファイト中、カノアの放った重バズーカの弾丸が、レデアの機体の至近をかすめた。
「やってくれましたね、カノアさん! 掠っただけでもシールドの強度が持っていかれましたよ!」
「小さいお姉さんが、ちょこまか動くから。……今度は、直撃させる」
言うが早いか、カノアのハイプレッシャーはバックステップで距離を取りながら、手持ちのハンドキャノンを容赦なく発射する「引き撃ち」の構えをとった。
「ええいっ……! なんとちょこざいな動きを……っ!」
レデアは操縦桿を激しく操作し、アーデンの圧倒的な高機動スラスターを吹かして弾幕を回避しようとする。しかし、機体のポテンシャルがレデア自身の精密操作の限界を上回り、制動が効きすぎてカメラがギュンギュンと激しく回転する。
「くっ、画面が回り……っ、このアーデン、極端すぎます……!」と、レデアは自分の機体のじゃじゃ馬っぷりに物理的に振り回され、必死にペダルを踏み込んだ。
そしてゲームは最終局面を迎える。
作戦領域の最深部、巨大な要塞の中央に設置された「メインコア」を、先に破壊した者が勝利となる場面だ。
当然、ここでも二人の間で、苛烈極まる妨害合戦が発生した。
……ここで、相手の機体の動きを完全に止めるか、いっそ完全に破壊してしまってから、悠々とコアを壊せばいい。そうした方が、相手に対して強い優越感が得られる。
二人の少女の魂胆は、驚くほど邪悪に、そして完璧に一致していた。
結果、目の前で赤く輝く無防備なメインコアなど、両者の視界からは綺麗さっぱり消え失せた。
「コアは渡さない。……小さいお姉さん、沈んで」
「それはこちらのセリフです! 欲張って重武装にするから、私のビームソードに追いつけないのです!」
紫紺のアーデンが最短軌道で肉薄し、カノアの空色の機体の装甲をビームソードで深く切り裂く。対するハイプレッシャーも零距離からハンドキャノンをぶち撒け、着弾した壁から飛散した破片がアーデンの装甲を叩く。火花とエフェクトが画面を埋め尽くす中、二人は完全にゲームの勝利条件を忘れ、目の前の相手をボコボコにすることだけに全ての思考(ムキになった感情)を注ぎ込んでいた。
そんなコックピットの様子を、外部モニターで見守るシュティアとアスフィは、揃って頬を緩めていた。
「お姉ちゃん、完全にムキになって操縦桿をがしがし動かしてる……! 怒ったお顔も最高に可愛いよぉ……!」
「ふふ、カノアちゃんもコントローラーを握る手にすっごく力が入っちゃって。本当に可愛いわぁ」
二人のシスコン姉妹は、全く同じような熱を孕んだ瞳で身悶えしながら、
「「永久保存版だね」」
と、見事なまでのシンクロ発言を残し、手元の端末で姉(妹)の雄姿をしっかりと録画し始めていた。
しかし、当事者たちの泥沼の潰し合いが、最高潮に達したその瞬間。
唐突に、レデアとカノアのメインモニターに、無情な赤い電子文字がデカデカとポップアップした。
『――MISSION FAILED――』
『タイムアップ:制限時間内に目標(コア)が破壊されませんでした』
「…………え?」
「…………あ」
二人の少女の手が、ピタリと止まる。
画面の向こうでは、お互いに耐久値がミリ単位まで減った二機のマキナが、気まずそうにメインコアの前で立ち尽くしていた。
作戦制限時間、完全オーバー。
お互いを潰すことに夢中になりすぎた結果、ゲームシステムによって強制的に両者敗北の処理が下されたのだ。
――結果、この最終勝負も、完璧なまでの「引き分け」に終わったのである。
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2. 夕暮れのクアトロ、あるいは並び立つ星々
激闘の5番勝負を終えた四人は、ゲーミングギャラクシーを後にし、レストラン街の一角にある創作料理店へと足を運んでいた。
お目当ては、この店が元祖と評判の『星屑(スターダスト)・フォンデュ』。新鮮な宇宙野菜や厳選された肉の炙り焼きを、青く発光する特殊な発酵チーズとハーブの特製ソースに潜らせて食べる、目にも鮮やかな絶品料理である。
しかし、運ばれてきた料理の美しさに目を輝かせるよりも前に、シュティアは内心で血の涙を流していた。
――やはり、席順はこうなっていたのだ。
テーブルの片側にレデアとアスフィ。そしてその向かい側に、シュティアとカノア。
かつての時と全く同じ、最悪にして最高(?)の座席配置に、シュティアは心の中で絶叫する。
(どうしてまたお姉ちゃんはアスフィさんの隣に座っているの~!? 私もお姉ちゃんの隣で『あーん』とかしてあげたかったのに!!)
喉まで出かかった叫びを、シュティアはどうにか飲み込んだ。なぜなら、自分の左腕を、隣に座るカノアが両手でぎゅっとガッチリ掴んで離さないでいるからだ。
向かい側では、レデアが「アスフィさん、この星屑ソース、とても香りが良いですね」などと楽しげにニコニコしながら会話を弾ませている。シュティアは必死にポーカーフェイスを維持しつつ、腕の中の赤いロングヘアへと視線を落とした。
「ね、ねぇ、カノアちゃん? カノアちゃんもお姉さんであるアスフィさんの隣が良いよね……? 席、替わろうか?」
あわよくばレデアの隣を奪還しようと提案するシュティアだったが、カノアは無表情のまま、掴む腕の力をさらに強めた。
「……ううん。今回は、この並びでいい」
「えっ? で、でも……」
「でも、アスフィ姉さんはレデアさんには渡さない。シュティアお姉さんも、今は私のもの」
淡々と、けれど強い独占欲を滲ませるカノアの言葉。
すると、正面でアスフィと談笑していたレデアが、青いソースを絡めた野菜を口に運びながら、カノアを見てふっと不敵に微笑んだ。
「ふふん、カノアさん。言っておきますが、私はアスフィさんの妹にはなりませんよ。しかし――いずれは私もあのような素敵な大人のレディとなって、アスフィさんと隣同士で並んでも、決して見劣りしないような美しい女性になってみせます。カノアさんは、その私の輝かしい成長の様子を、遠くから指をくわえて眺めていたらいいのです!」
ふんす、と誇らしげに胸を張るレデア。
カノアはその言葉を聞くと、じっとレデアの140センチの体躯を見つめ、相変わらず抑揚のない声で言い返した。
「……それはこちらのセリフ。小さいお姉さん、まあ、今日の勝負はなかなか悪くなかった。今回の5番勝負、本当なら最後は私の方が勝っていたけれど……今回はギリギリ引き分けという事で、譲ってあげる」
「なんですって? 譲られた覚えはありません! あの最終局面、本当なら私の方が一瞬早くコアに肉薄していました。これこそ、ちんちくりんなあなたへの、私からの寛大な慈悲というものです!」
「ちんちくりんは、そっち。……次は、負けない」
パチパチと再び視線で火花を散らし合うレデアとカノア。
そんな二人を見つめながら、アスフィは「ふふ、本当に二人は良いライバルねぇ」とのほほんと特製ソースをバゲットに塗っている。そしてシュティアは、ムキになって言い返すレデアの姿を「怒ったお姉ちゃんもやっぱり世界一可愛い……!」と、手元のカメラに収めるべく密かに端末を操作するのだった。
「そういえばお姉ちゃん!アスフィさんとの浮気の件はどうなったの!?」
「浮気ではありません、賭けについては今回は引き分けなのでお流れです」
「次はぼこぼこにしてあげる」
「次回が楽しみね~」
星々の光がガラス越しに差し込むレストラン。
四人の賑やかで、ちょっぴり歪な愛が溢れる夜の帳は、笑い声と共に賑やかに更けていくのだった。