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1. 老朽化の「エスカダル」
宇宙の静寂を切り裂くように、採掘用レーザーの青白い光が走る。
今回の依頼は、小惑星帯の端に位置する古びた宇宙ステーション「エスカダル」の外壁修繕作業だ。長年のデブリ衝突と放射線に晒され、表面の装甲板はまるで剥がれかけの魚の鱗のように浮き上がっていた。
「……シュティア、右前方、D-12区画の歪んだ装甲を剥がします。アンカーの準備を」
操舵席のレデアが、淡々と、けれど淀みない手つきで船体をスライドさせる。
「了解、お姉ちゃん。……えい」
シュティアがレバーを引くと、船体から射出された牽引アンカーが正確に獲物を捉えた。 鋼鉄の爪が劣化した装甲板をガッチリと掴み、引き剥がす。火花が散り、真空へと金属片が舞った。
「はい、お掃除完了。お姉ちゃん、新しい板をお願い」
「助かります。位置を固定しますね」
レデアが船体を微調整し、新しい装甲板をマニピュレーターで押し当てる。そこへシュティアが間髪入れず採掘用レーザーを照射し、接合部を溶接していく。
無駄な会話はない。だが、二人の呼吸は完璧に噛み合っていた。まさに「踊るような滑らかさ」だ。
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2. 姉妹のティータイム(予報:快晴)
「ふぅ……順調ですね。予定より三時間は早く終わりそうです」
ひと段落ついたところで、レデアが背伸びをした。140センチの小さな体が、パイロットスーツの中で窮屈そうに動く。
「お姉ちゃん、お疲れ様。はい、温かいココアだよ」
シュティアが後ろから差し出したのは、保温マグに入った飲み物だ。
「ありがとうございます。……シュティアも、今日はアンカーの精度が良いですね」
「えへへ、お姉ちゃんに褒められちゃった。……ねぇ、この仕事が終わったら、ステーションの美味しいお菓子屋さんに行かない?」
今日のシュティアは彼女はただ、有能なパートナーとして、そして甘い妹として、レデアとの平穏な時間を楽しんでいた。
レデアもまた、いつもの「シュティアの愛」を日常として受け流し、穏やかな表情でココアを口にする。
だが、その平穏は「無作法な通信」によって、文字通り叩き割られた。
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3. 黄金(メッキ)の再来
『――ちょっと! そこのボロ船! どきなさいよ! そのエリアの修繕は、この私が請け負うはずだったんだから!』
スピーカーから響いたのは、記憶に新しい高飛車な絶叫だった。
モニターに映し出されたのは、以前の「デブリ・ドッジボール」でボロボロにされたはずの、けれど再び趣味の悪い金ピカ装飾を施し直した作業船。
「……カトリーヌさん、ですか」
レデアが心底面倒そうに眉をひそめる。
『そうよ! 銀河のトレジャーハンター改め、銀河一のエンジニア、カトリーヌ様よ!』
カトリーヌは画面越しに鼻息を荒くして叫んだ。特にシュティアを見つけると、その目は血走った怒りに染まる。
『この前はよくもやってくれたわね! アンカーでゴミを投げるなんて、野蛮もいいところよ!
メンテナンスは繊細な芸術なの! あなたたちみたいな素人に、芸術は分からないわ!』
「……なだめようにも、聞く耳を持たなそうですね」
困惑するレデアの隣で、シュティアはため息をつく。
「困った人だねお姉ちゃん。……ねぇ、おばさん。そのメッキ、また剥がされたいの?」
『お、おば……!? 誰がおばさんよ! 私はまだ二十代よ!』
「私から見れば、十分おばさんだよ。……お仕事の邪魔。消えて」
カトリーヌの顔が真っ赤に沸騰した。
『いいわ……! だったら、どっちが早く、美しく修繕を終えられるか勝負よ! 負けた方は、二度とこのステーションの敷居を跨がないこと!』
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4. 宇宙ステーション修繕バトル
「返り討ちにしてあげる。……あ、お姉ちゃん、いいよね?」
「……はぁ。仕方ありません。カトリーヌさんに付き纏われるのも困りますし、一気に終わらせてしまいましょう」
こうして、前代未聞の「修繕バトル」の火蓋が切って落とされた。
カトリーヌの船は最新型のマニピュレーターを多用し、派手なエフェクトを散らしながら次々と装甲を貼り替えていく。
『見てなさい! これがプロの技よ!』
対する姉妹の船は、無駄のない最小限の動き。
「シュティア、次はC-08。三枚同時です」
「了解! まとめて引っこ抜くよ!」
シュティアが三つのアンカーを同時に射出し、巨大な外壁の一部を一気に剥ぎ取る。 その剥き出しになった構造体へ、レデアが絶妙な角度で新装甲を滑り込ませる。 まるで精密機械が二つ重なっているかのような、圧倒的な作業効率。
『な、なによそれ! あんなの、息が合いすぎてるじゃない! 卑怯よ!』
「卑怯じゃありません。コンビネーションの差です」
レデアの冷静な一言が、カトリーヌの心臓に突き刺さる。
焦ったカトリーヌは出力を上げすぎ、溶接レーザーで余計な配管を焼き切りそうになる。
『ああっ! ちょっと、そこ燃えてるわよ!』
「おばさん、危ないよ。……どいて。お姉ちゃん、フォローするよ」
シュティアがアンカーの先端でカトリーヌの船を優しく(物理的に)押し退け、レデアが消火ガスを噴射しながら配管を修復する。
その連携はあまりに美しく、見ていたステーションの職員たちからは思わず拍手が漏れたという。
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5. 黄金の塵、再び
結局、勝負は姉妹の圧勝に終わった。
カトリーヌの船は、またしても作業中の振動で金ピカの飾りが数枚剥がれ落ち、宇宙の塵となって漂っている。
『ううっ……覚えてなさいよ! 次は、もっとラグジュアリーな現場で勝負なんだから!』
捨て台詞を残して逃げ去る金ピカ船。
「……やれやれ。疲れましたね」
レデアがふぅと息を吐くと、シュティアがすかさず背後からギュッと抱きしめた。
「お疲れ様、お姉ちゃん。やっぱりお姉ちゃんの操舵は、あのキンキラおばさんの百倍……ううん、一億倍すごかったよ」
「シュティア、また暑いです。……でも、おかげで早く終わりました。さあ、約束のお菓子屋さんに行きましょうか」
「やったぁ! お姉ちゃん大好き!」
シュティアはレデアの腕を引いて、弾むように歩き出した。
今日のシュティアは、ただ幸せそうだった。
――こういう日が、ずっと続けばいいと思っている。
お姉ちゃんが、どこにも行けないように。