ディストピアのネット友達が優秀すぎる 作:名無しのペロリスト
私はサブカルチャーが大好きな以外は、割りと普通の社会人だった。
休日はアニメやゲームや漫画などの没頭して時間を潰し、ネット上の友人は多いものの、現実世界では当たり障りのない付き合い程度である。
成人する前は大衆食堂を経営する両親を良く手伝ってはいたが、そのまま料理の道に進むかと言うと、そうではない。
女性としてのファッションや美容よりも、広く浅くのサブカルチャーが好きだ。
お金は殆どそっちに流れていたし、進学や就職もそっち系に行ってしまう。
一般的な社会人としてはどうかと思うが、個人的にはとても充実した人生である。
しかしある時、労働時間が基準法を越えて残業代が出ないのに、家に帰れずに泊まり込みで仕事をする日が長期間続いた。
それでもゲームの新作や漫画や小説の新刊、さらには夏と冬の祭典を心の支えにして、同じ部署の仲間と共に頑張った。
しかしどうやら、気力だけでは駄目だったようだ。
ようやく仕事が片付いて気が緩んだ私は、自身の意識が急激に遠くなっていくと同時に、体の熱が失われているような奇妙な感覚を覚えた。
まるで命の灯火が消え去ったようなと、何処か遠くから眺めるような思考できたのはそこまで、仲の良い同僚が慌てた様子で私の名前を呼んでいる。
だが耳も遠くなって全然聞こえないので、多分そうじゃないかと思っただけだ。
何にせよもはやまともに考えることもできずに、私の意識は深い闇の底に沈んでいくのだった。
不幸中の幸いと言うべきか、自分はまだ生きているようだ。
視界が悪くて殆ど何も見えず、音も聞き取りにくい。
それに何故か全然動けないが、不思議と意識ははっきりしている。
ひょっとして仕事の無理が祟って、植物状態になってしまったかも知れない。
絶望のあまり震えてしまうが、周囲が全然見えないながらも顔を動かして状況を知ろうとした。
「あうあうあー!」
何処かの病院の可能性が高いので看護師さんを呼ぼうとしたけれど、私の口から出た声は意味のある言葉ではなかった。
だがそれでも周りにはしっかり届いたようで、輪郭ぐらいしかわからないが巨大な人間がこちらに近づいてくる。
「びえーっ!?」
私の体格は成人女性としては平均的だが、目の前の人影はそれよりも遥かに大きい。
反射的に驚いて叫び声が出てしまっただけでなく、感情が暴走して大泣きしてしまう。
とてもではないが大人とは呼べない醜態を晒してしまったけれど、近づいてきた人は何やら一言か二言話しかけたあとに、こちらを宥めすかす。
すると少しずつだが気持ちが落ち着いてくるだけでなく、急激に眠くなってくる。
しかもどうにも抗い難く、割りとあっさり眠りに落ちるのだった。
過労で倒れたあと、目覚めてから時が流れて、実は異世界転生していたことを知った。
少しずつ周囲の情報を集め、何故か私は赤ん坊に戻っていることに気づいたのもある。
だがここが、自分の居た世界ではないと本当の意味で理解したのは、体がほんの少しだけ大きくなった頃で、全身に変な器具をつけてこの世界の知識を強制的に流し込まれたことがキッカケだ。
あまりにも膨大な情報量に、気持ち悪くなって意識が混濁して嘔吐した。
そして自分の周りには同じような生後一歳程の子供が、透明なカプセルに入れて寝かされている。
だが拒否反応が出てゲーゲー吐いたのは、私だけだった。
別に周りの看護師が全員ロボットで驚いたとか、定期的に与えられる人工乳がクソ不味いとか、そういう理由ではない。
そっちでも吐きそうだが、この世界の情報を一気に流し込むものを止めろと、声を大にして叫びたかった。
まだ小さいので意味のある言葉は喋れないけれど、それはもうギャン泣きした。
その際に周りの声を聞き取った結果、極稀に私のように拒否反応が出る赤ん坊もいるが最初だけで、二回や三回目にはすっかり慣れる。
子守唄のように心地良く受け入れて、都市に奉仕する立派な市民に書き換えられるとのことだ。
ちなみに私は、一向に慣れなかった。
毎回大泣きしたりゲロを吐いて、果ては全身がビクンビクンと痙攣して糞尿をタレ流し、人としての尊厳を破壊してしまう。
だが適応係数があまりにも低い赤ん坊は、殺処分されるらしい。
流し込まれた知識にそう記載されていたので、何と言う世界に転生してしまったのだと絶望した。
大泣きしても状況は好転しないどころか、悪化するだけだ。
頭の中がグチャグチャにかき混ぜられて、自分の意識が別のモノに塗り潰されるような不快感を味わわされた挙げ句、やっぱり適応できないからと殺処分されるのは絶対に嫌だ。
なので心を強く持って自我や記憶を守り、青い顔をしながら負けてなるものかと気合で耐えるのだった。
正直、転生してからは毎日生きるか死ぬかの連続で、前世との別れを惜しむ暇はなかった。
いちおう強制知識注入の合間に、家族や友人とお別れしたようなしないような気がする。
それにこっちも人生が壮絶過ぎて、自我や記憶は守ることができても寂しさや哀愁といった感情があっても、何処かに吹っ飛んでしまったようだ。
状況が落ち着けば気持ちを整理する時間も取れるが当分先になりそうだし、その頃にはとっくに踏ん切りがついている。
常に余裕があった前世が、いかに恵まれていたかが良くわかった。
そのような事情はともかくとして、私はどうやら試験管ベビーのようだ。
自分が住んでいる場所では普通の出産方法らしく、優秀な遺伝子をかけ合わせたり手を加えている。
その割には適応係数はギリギリで、いつ処分されてもおかしくない。
十中八九で前世の記憶を持ち越しているからだろうが、それでも何とか生き残れているのは不幸中の幸いと言える。
しかしサブカルチャー的な作品に良く登場する試験管ベビーではあるけれど、私は某ロボットアニメの強化人間を思い出した。
それぐらい、とにかく人の命が軽い。
だがもちろんただ面白半分に殺処分しているわけではなく、こうするには理由がある。
実はこの世界というか惑星は、現在氷河期に入っているのだ。
そして人類は過酷な環境から身を守るために、世界各地にドーム型の都市を築き、そこに籠もって細々と生きている。
しかし現状はどん詰まりで、技術レベルは高くても物資やエネルギーには余裕がない。
人類は崖っぷちに追い詰められており、そんな状況を打開するために優秀な人材が喉から手が出るほど欲しいのだ。
ちなみに私はと言うと、前世の記憶が効率的な成長を妨げているのか、あらゆる能力が平均を下回り完全に失敗作である。
死にたくないし生き残るために全力でテストを受けて、ようやく切り捨てラインギリギリに届く有様だ。
これには試験官たちも呆れていたが、辛うじて基準値を満たしていたので廃棄されることだけはなく、助かったのだった。
さらに各都市を統括する人工知能があり、市民は上級、中級、下級に分けられている。
ついでに外にはレジスタンスと呼ばれるテロリストが存在しているることを知り、私はディストピアに転生したことに絶望して、一時は人工乳が喉に通らなくなる。
それでも自ら命を断つ気にはなれないので、ひーこら言いながらも何とか生きていくのだった。
やがて他の子よりも遅いが私も成長し、普通に歩けたり喋れたりできるようになった。
なので今後は孤児院と学校が合わさったような施設に送られて、各々の特徴に合わせて進路が決められ、将来的に都市に貢献できるよう能力を伸ばしていく。
そして前世のように、皆でキャッキャウフフや明るく楽しい青春とは違う。
定期的にテストが行われて、最低限の足切りラインを突破しないと即殺処分だ。
私の他には何の疑問も思わずに現実を受け止め、全力で授業や試験に望んでいる。
これはきっと自我が目覚めてない真っ白な時期に、強制的に知識を刷り込んだからだろう。
余計なことを考える必要はなく、都市に貢献するのが当然の価値観が根づいているので、ある意味では幸せな人生と言える。
そして、転生先は前世以上に文明が進んでいる。
自分はサブカルチャー系の社会人としての経験があるが、周囲の者たちは皆幼い頃に高度な知識を流し込まれるのだ。
正直に言えば前世の知識や価値観を引きずられ、現環境に適応できない私は落ちこぼれである。
おまけにディストピア世界の異常さに触れて拒否反応が出てしまい、学園でも腫れ物扱いだ。
さらに人工乳や離乳食を摂取しなくなってからは、今度は賞味期限切れで味のしないカロリーメイトや、カエルの卵のような謎の固形物を食べるハメになった。
皆の味覚は自分と変わらないはずなのに、よくもまあ平気な顔で食べられるものだ。
勇気を出して聞いてみたら、不味くても食べないと生きていけないし、栄養補給以外は求めていないようだ。
知識としてもそう言うものだとインプットされているので、私のように前世が恋しくなって惨めで悲しい気持ちにもならないのだった。
色々あったが自分は学園では友人はできず、周囲の生徒もそこまで余裕があるわけではなく、都市に多大な貢献をして上級市民になることだが唯一の希望のようだ。
そして私以外にもボッチばかりだけれど、他者はライバルで機会があれば容赦なく蹴落とすので仕方がない。
幸いなことに底辺を走っている自分は、放っておいても勝手に脱落するだろうと判断され、完全放置状態だった。
それはそれとして周囲の生徒や教師は、誰も彼もがカラフルな髪や瞳である。
だが私は前世と同じ黒髪黒目の日本人的な容姿で、アバシリシティではかなり珍しいようだ。
ついでに優れた遺伝子だけあって多少は見られる顔をしているが、勉強に追われて手入れをする暇がない。
他の子と比べると、どうにもパッとせずに地味であった。
幼少期に色々拒否反応が出た影響か視力低下し、例えるなら魔法少女になる前のほむらちゃんだ。
前世がオタクだった私なんかが彼女に似ているのは大変恐れ多いけれど、一番しっくり来るので仕方ない。
あとはドーム型の都市全体がディストピア感モリモリなので、娯楽やサブカルチャーは殆ど存在しないというか、絶滅している。
代わりに、自分磨きに時間をかける人は多い。
だが私は毎日が生きるか死ぬかで、常に全力で寝る間も惜しんで努力をするしか、生き残る術がなかった。
そして学園では奨学金的な形でサイボーグ手術を推奨しているけれど、自分は知識や経験の上書きで拒否反応が出た。
そっちでも何かしらの問題が起きないとも限らない。
なので前世の記憶が蘇った頃には、既に脳内に埋め込まれていた高性能チップのみで過ごすことになる。
それでも何とか、学園の初等部を卒業できたのは本当に良かった。
都市の市民権を得られれば、もう殺されたり外へ放り出されることはない。
下級で選べるのは過酷な労働ばかりで低賃金なのは残念だが、仕方のないことだ。
もし成績が良ければ前世で言う中学、高校、大学とエスカレーター式で上がっていく。
そして上に行くほど高給取りな職業に就けて、市民権のランクも上がるのだが、あいにく自分は小卒止まりだ。
これは大変珍しく、遺伝子操を施した優秀な試験管ベビーでここまで成績が悪いのは初めてのようだ。
前世も別に天才ではなく凡人だったし、知識や価値観が足を引っ張っている。
他の子供たちよりも劣っているのは確かで、努力はしたがどうしようもなかった。
とにかく今後は厳しい人生を送るけれど、今すぐ死亡したりはしない。
脳内のチップに下級市民権と新しい住所が登録されたので、いつまでも都市の中央に留まることはできない。
私はドームの天井に映し出される夕暮れを眺めて、大きな溜息を吐く。
しばらく佇んでいたが、やがて長らくお世話になった宿舎や校舎を振り返ることなく、一人で施設を去るのだった。
ちなみに自分が住んでいる都市の名前はアバシリシティで、この惑星はどういうわけか地球に良く似ている。
だが全く同じとは言い難いため、地殻変動でも起きたのか、創作物の世界なのかは不明だ。
何にせよ私にとっては前世と毛色が違いすぎて、異世界転生とか言いようがない。
そして都市の階級を100人の村に例えると、下級が60人、中級が39人、上級が1人という比率になる。
だがこれは正確な数というわけではなく、シティによって多少変動する大雑把なものだ。
それに各階級にも貧富や権限の差があったりするので、大体こんな感じだと把握しておけば良いのであった。
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