ディストピアのネット友達が優秀すぎる   作:名無しのペロリスト

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ヤックデカルチャーってこと?

 相変わらず都市統括人工知能は、私たちのことを過大評価し過ぎだ。

 

 アリサ給食センターの松竹梅コースをあっさり通すだけでなく、さらにはアイドルデビューまで決定してしまったのである。

 

 不幸中の幸いなのは、公演日が不明なことだ。

 おかげで、まだしばらくは時間的な余裕があった。

 

 もちろん資料映像の方は、顔バレなので別人に差し替えられている。

 今の私ではなく二十代まで成長した姿だが、声まで変わっているのでディストピアの技術って凄えと感心する。

 なお、あくまで未来の一つであり、このまま育ったらこうなるという感じだ。

 

 さらに次からは、そのアバターでよろしく的なことを言われた。

 アイドルデビューは避けられないので、やっぱりやるしかないのかと、非常に気が重くなる。

 

 だがそれはそれとして、シティの上層部から、音楽活動はよはよとせっつかれている。

 あまり待たせると不味いことになりそうなので、急いだほうがいいだろう。

 

 

 

 しかし、私の体は一つだけなのだ。

 無理なものは無理だと叫ぶしかない。

 

「大体! やることが多すぎるんだよ!

 まだ松竹梅の献立が終わってないのに!」

 

 私はいつもの仮想空間で、半透明のウィンドウを開いて忙しく操作する。

 そして頭をボリボリかきながら、難しい顔で愚痴を漏らす。

 

 一方でネット友達のマザーは椅子に座り、優雅に紅茶を飲んでいた。

 

「でしたら、アリサ給食センターの人たちに任せたらどうですの?」

 

 自分もそうは思うのだが、色々事情があるのだ。

 

「私が提案した料理だから、試食だけはしておきたい!」

 

 私が仮想空間で調理を行う動画や説明は、マザーが手直しや編集を行い、然るべき機関に提出している。

 

 しかし料理を現実で再現となると、そう上手くはいかない。

 ディストピア世界では科学力が半端ないので、人力でなく機械やアンドロイドに作らせても良いのだが、それでも納得いく物ができるかと言うと難しい。

 

 

 

 だがパンの時もそうだったが、開発スタッフは食に対してこだわりがあるようだ。

 完成品をわざわざ送ってきて、自分がOKを出すまで、決してパン屋には並べないと誓っている。

 

 信頼が凄いというのか、最高責任者扱いされていた。

 だが別に、私が言い出したわけではない。

 

 いつの間にか、そうなっていたのだ。

 

 今は開発スタッフが撮影した、現実の給食センターの動画を閲覧している。

 何か気づいたことがあれば、教えて欲しいと頼まれていた。

 

 しかしぶっちゃけ、こっちの世界のほうが科学技術が進んでいるのもあって、私は完全に置いてけぼりだ。

 

 なので、わざわざ指摘することなどない。

 けれど、仕事はちゃんとやらないと給料が出ないのである。

 

 だから、たまに気になることを見つけると、素人質問で恐縮ですがと切り出す。

 そして、あれこれ尋ねさせてもらっていたりする。

 

 何故か知らないが、開発スタッフの人たちは、この発言で結構な精神的なダメージを受けるようだ。

 

 しかし幸い、致命的な失敗はない。

 適時修正を行い、まあまあ順調に進んでいる気がする。

 

 取りあえず私が知っている料理は、仮想空間で作り、資料として提出済みだ。

 

 料理本がないので、ほぼ全てが目分量で、うろ覚えである。

 または体に覚え込ませたものなので、正直参考になるかは微妙だ。

 

 ただ、前世と同じように料理する必要は全くない。

 

 科学技術だけでなく、素材も異なるのだ。

 開発スタッフさんたちが工夫して、味や食感がそれっぽければOKを出す。

 

 腹に入れば同じということで、見た目にも目をつぶる。

 

 都市のリソースが限られているため、ひたすらコスト重視で市民の幸福度を効率良く上げていく。

 そして削れるところは、ガンガン削ってヨシである。

 

 その結果、最悪カレー味のウンコが完成しても、普通に美味しければ、口に入れることも躊躇わない覚悟を決めていた。

 

 そもそもこれまでの全シティの方針が、食えなきゃ死ねだったのだ。

 だから栄養補給と割り切って、無理にでも食べ続けていた。

 

 この世界に転生すれば、死ぬまでカリカリばっかり食べさせられる犬や猫の気分を味わえる。

 アレもペット用に栄養バランスが整えられているので、似たようなものだろう。

 

 

 

 しかし、かつての日本人は、玄米や質素倹約の食事でも、普通に生きていられた。

 だがアレは長い年月をかけて、過酷な食生活に適応したから可能になったのだ。

 

 前世も国によって人体の消化吸収に差があったし、良くも悪くもディストピア世界の人々は、味のしないカロリ◯メイトとクソマズカエルの卵だけ食べていれば、問題なく生きていけるようになっていた。

 

 こっちでは平気で体を改造したり機械化したりしてるし、遺伝子的な適応も前世より早いかも知れない。

 

 けれど逆に言えば、完全栄養食なしでは生きてはいけなくなる。

 

 私のように体が弱い人は、ディストピアの枠組みから外れたらどうなるかと言うと、

ちょっとしたことで風邪を引いて寝込んでしまう。

 もしくは上級市民のガーランドのようにブクブク太るか、何にせよあまり良い結果にはならない。

 

 百歳まで生きたからヨシとなっても、普通に若くして死んでいる人もいるわけだが、そういう人たちは大抵が下級市民なので重要視はされない。

 何処の生存者バイアスだと思うが、自分はまだ人生悔いなしと亡くなる気はなかった。

 

 

 

 それに他の市民にも犠牲になって欲しくはないけど、好き嫌いはしないで欲しい。

 アレルギー反応が起きなきゃヨシで、無理やり食わせているので、前世よりも厳しい食生活だ。

 

 美味しく作るので許して欲しいが、科学が遥かに進んでいる。

 美食に拘るとリソースを圧迫するけど、都市統括人工知能や研究開発の各関係者に、上手いこと調整してもらいたい。

 

 

 

 しかし、パンのときはまだ種類が少なかった。

 試食にはそこまで苦労はしなかったが、今回は自分が知っている料理を全部提出したのだ。

 

 ぶっちゃけ、終りが見えない。

 開発スタッフの熱意が凄すぎて、アレンジ料理の試食まで頼んでくる有様だ。

 

 人類が何千年もかけて発展させてきた食文化を、全部私の胃袋に詰め込もうとしてくる。地獄であった。

 

 その間、配給を止めてくれるのはありがたいが、それでもいつ終わるのかわからない。

 

「アレンジ料理に関しては、そちらで判断してください。……っと」

 

 私は渋い顔をしながら半透明のウィンドウに文章を作成し、そのままマザーに送信する。

 

 開発スタッフと直接やり取りをするのではなく、間に彼女を挟んでいるのだ。

 理由は色々あるが、単純に身分差があると仕事がやりにくくなるからが大きい。

 

 マザーはインターネットに慣れているのか、情報処理を得意としている。

 片手間で仕事ができるため。おかげで助かっていた。

 

 しかし試食など、彼女には任せられないモノもある。

 まだ当分は、忙しい日々が続きそうなのだった。

 

 

 

 

 

 

 松竹梅が発表されてすぐに、仮運用が始まる。

 一日三食は難しいが、たまに完全栄養食以外の料理が届けられるようになったのだ。

 

 それはもう、もの凄い反響で、連日全シティニュースでもバンバン報道される。

 ただあいにく私の仕事も多忙になり、しばらく全く家から出られなくなった。

 

 あとは仮想空間からログアウトしても、毎日料理の献立のことばかり考えて、全然気が休まらない。

 何か思いついたら半透明のウィンドウを呼び出してメモを取るなど、体調を崩さないように気をつけてはいるが、それでも一日中仕事をしているような感覚だ。

 

 当然世間の事情には疎くなり、全シティニュースを見る余裕もない。

 今が色んな意味で激動の時代なのは何となく想像できるが、だかそんなの関係ねえとばかりに、自分は相変わらずの引き篭もり生活を続けていた。

 

 

 

 アリサ給食センターの本格運用が開始したのは、それから半年ほど経ってからだった。

 これが早いか遅いかは知らないけど、ずっと仮運用でやってきたので、ようやく軌道に乗ったとも言う。

 

 もしくはこれまではゲームのベータ版で、ようやく製品版が発売されたとか、何かそんな感じだろう。

 

 だがようやく、毎日の献立作りから解放されたのだ。

 私にとっては大仕事が終わったようなもので、あとはアリサ給食センターに任せられる。

 

 

 

 いつの間にか全シティニュースで、上級市民の食事を特集するようになっていた。

 給食にさらに独自のアレンジを加えたり、旧時代に存在した料理人を雇用して、わざわざ屋敷で作らせたりと、色々な工夫がされているようだ。

 

 私は久しぶりに肩の力を抜いて、ニュース映像をみられることに感謝する。

 相変わらず試食は終わることはないが、栄養バランスはちゃんと考えてくれているようだ。

 

 今朝は新作のバターロールパンをいただきながら、ニュースの隣に半透明のウィンドウを開いて、直感的に食レポを書いていく。

 なお本当にバターを使っているわけではなく、当然のようにそれっぽい風味の合成食品である。

 

 とにかく大きな仕事が片付いても、まだ休むには早い。

 それでもようやく一区切りしたので、少しだけのんびりできるのだった。

 

 

 

 ログインして、いつもの仮想空間でマザーと会う。

 毎日二人で話しているので、特に気を使うこともなく、慣れたものだ。

 

 取りあえず椅子に座って向かい合い、今後について話していく。

 給食センターや松竹梅は、取りあえず片付いた。

 

 なので次は、アイドルデビューについてだ。

 

「とにかく、私だとバレないようにしないと」

 

 自分は別に、本気でアイドルを目指しているわけではない。

 なので、はっきりと意見を口に出した。

 しかし、マザーは違うようだ。

 

「アリサは可愛いですし、アイドルデビューしたほうが良いのでは?」

 

 いきなり意見が対立してしまった。

 確かに自分は遺伝子操作を受けて生まれてきたことで、市民の中では優れた容姿をしている。

 

 私としては自覚はないし身嗜みも適当で、芋っぽいジャージ姿だ。

 それでも可愛いと言ってくれる人は居るかも知れないけど、アイドルデビューするかどうかは別である。

 

 なので、そのことをはっきりと口に出す。

 

「外を歩けなくなるから嫌!」

 

 前世でも、人気アイドルが厄介なファンに絡まれる事件があった。

 

 ジョンさんたちも、毎度都合良く助けてくれるわけではないだろうし、あまり迷惑をかけたくはない。

 

 たとえ外を歩く機会が殆どないとしても、自分の顔を売る気はない。

 

 アリサベーカリーでガチギレして目立ってしまったが、それはそれだ。

 

 あのあと上手いこと誤魔化してくれたらしいし、住所まではバレていないと信じたい。

 それに、人の噂も七十五日だ。

 そのうち忘れ去られることを期待しつつ、今は引き篭もり生活を続ける。

 

「資料映像の二十代の私でいいじゃん! 護衛もやりにくくなるよ!」

 

 正論を口にすると、マザーは私の発言に一部同意したようだ。

 真剣な表情で考え込む。

 

「確かに、一理ありますわね。

 ワタクシなら、アリサの自宅を一日中監視したり、押し入りたくなりますわ」

 

 とんでもないことを言い出したネット友達を見て、若干引き気味になる。

 だが良く考えれば冗談だとわかるので、すぐに苦笑して流す。

 

「上級市民の強火ファンが、下級市民のアイドルの自宅に押し入るとか。

 誘拐されても訴えられないから、止めてよね」

 

 彼女なりの冗談なのはわかっている。でも流れに釘を刺す。

 私は机の上に創造した、バナナシェイクにストローを刺した。

 

 気持ちを落ち着けるために、美味しくいただく。

 そして一息ついたあとに、空中に半透明のウインドウを投影する。

 

 統括人工知能の要望を、改めて確認した。

 

「うーん、全シティ同時配信って言われてもねえ」

「無理ですの?」

 

 マザーも、バナナシェイクをズズズーと吸い込んでいる。

 そして、不安そうな表情を浮かべて尋ねてきたので、それに対する答えを考える。

 

「いや、配信自体は可能だよ。……ただ」

「ただ、何ですの?」

 

 さらに突っ込んで聞いてきた。

 私はウィンドウに新しい項目を表示し、彼女に説明していく。

 

「ライブを大勢に伝えるのは、色んなやり方があるんだよね」

 

 ウインドウに表示されているのは、私のイメージ映像だ。

 

 一つ目は、全シティニュースのように映像として流すやり方だ。

 二つ目は、全都市に立体映像の投影装置を設置してライブ会場風に演出する。

 三つ目は、仮想空間にアクセスしてもらい、そこで演奏を披露するなどだ。

 

 真面目に考えれば、まだまだ思いつきそうである。

 しかし、とにかくライブをやるにしても、どのように開催するかで頭を悩ませる。

 

 だがそれはそれとして、一つ確実に言えることがあった。

 

「私の容姿は絶対に変えるし、現実で演奏はしない。

 恥ずかしいし、また体調を崩しかねないからね」

 

 ハリウッド顔負けのメイク技術があっても、現実のライブは体力を使う。

 無理をしたせいで、また風邪を引きたくなかった。

 

 さらに大勢の前で演じるのは凄く恥ずかしいから、せめて仮想空間か映像として届けるのが必須条件だ。

 

「わかりましたわ。そのように申請しておきますわ」

 

 マザーもわかってくれたようだ。

 ならば今後の方針としては、仮想空間でライブをやることになる。

 

 そこで撮影した映像を流すか、客を招いての演奏会のどちらかだ。

 別人に成りきるのなら、恥ずかしいがギリギリ許容できなくはない。

 

 取りあえず、そんな感じで草案を練っていく。

 

 そしてふむふむと頷いていたマザーが、おもむろに口を開く。

 

「これなら衣装や容姿やステージ等が決まったら、ライブを始められますわね」

「まだだよ」

 

 確かに、アイドルだけが歌って踊るライブもある。

 だが、それは勘弁して欲しかった。

 

 なので、彼女の案に首を縦に振るわけにはいかない。

 はっきりと否定の言葉を返して、その点について説明していく。

 

「私だけじゃなくて、他のバンドメンバーを集めるよ」

 

 けれどマザーは理解できないようで、すぐに返事をする。

 

「アリサだけで良いのでは?」

「いいや、必要だよ」

 

 断じて引くわけにはいかない。

 大きく息を吐いて、首を横に振る。

 

「メンバーで演奏したほうが、人気が分散するでしょ?」

「それは、確かにそうですわ」

 

 私だけで全都市同時放送など、冗談ではない。

 

 いくら別人を装ってアイドル活動をしても、羞恥のあまりベッドの上で転がり回るのは避けられなかった。

 

 ゆえに自分以外のメンバーを揃えて、注目や人気の分散を狙う。

 できることなら、モブに徹っしたいまであった。

 

 マザーも真面目に考えてくれているようで、うーんと唸っている。

 

「では、メンバーを募集しますの?」

「仮想空間だけの活動だし、別に人間じゃなくてもいいよ」

 

 何なら私もアイドルデビューは形だけで、実際には全部AIに任せても良いのだ。

 しかしそれは、統括人工知能の命令を無視する行いである。

 

 だから今回だけは、どうしてもステージに立たなければいけない。

 

 何でそこまで、自分のアイドル姿を見たがるのかは謎だ。

 でも下手なことを言って処分されたくないので、命令には従うことにする。

 給料も出ているし、これも仕事の内だと思えば気が楽であった。

 

 そして私がメンバーはどうしようかなと考えていると、マザーが何か思いついたのか提案を口に出す。

 

「ワタクシが、バンドメンバーを募集しましょうか?」

「そんなことができるの?」

「ええ、少し時間がかかりますが、可能ですわ」

 

 まだ音楽の基礎も学んでいないのに、大した自信だ。

 

 しかし、マザーは上級市民である。

 きっと凄い知り合いというか、暇人も大勢知っているのだろう。

 

 バンドメンバーの募集が簡単とは思わないが、私ではさっぱりだ。

 

「じゃあ、任せるね」

「はい、任されましたわ」

 

 マザーが嬉しそうに頷いたので、きっと友人と遊ぶのが楽しいのだろう。

 思えば自分がログイン中は、ずっと彼女と一緒だ。

 

 家の外は寒いので、私は基本的に仮想現実に引き籠もっている。

 

(今は趣味と仕事が半々って感じだな。

 でもマザーは上級市民だし、遊び感覚なんだろうなぁ)

 

 上級市民は支配階級で、何不自由のない暮らしができる。

 年中暇を持て余していそうだし、時間やお金に余裕があるのは、何とも羨ましいことだ。

 

 私も割りと気楽に過ごしているが、今やっていることは一応は仕事である。

 

 なので、ちょっと変わっているけど、無償で手伝ってくれているマザーには頭が上がらない。

 

 だが身分が違っても、友人同士なので結構ズケズケ言う。

 彼女も私もそれを受け入れているので、問題はなかった。

 

 私がそんなことを考えていると、マザーから質問が来る。

 

「そう言えば、どんなメンバーにしますの?

 ワタクシ、歌や楽器もあまり詳しくありませんし」

「あー……そう言えばそうだったね。まあ私も、似たようなものだけど」

 

 自分も前世のサブカルチャーで、バンド活動について多少は知っている。

 でも別に、音楽の専門家ではない。

 情報も広く浅くだし、ディストピア世界との兼ね合いもある。

 

 断片的な情報を拾い集めて上手いこと繋ぎ合わせた上で、違和感がないように再構築しないといけない。

 

「ワタクシ、アリサとの共同作業は好きですわよ」

「私もマザーと一緒なら別に辛くは、……悪い。やっぱり辛いわ」

「ちゃんと言えましたわね。聞けて良かったですわ」

 

 私の時々挟まるネタ会話にも、いつの間にか対応できるようになった。

 

 まあ何にせよ、メンバーを集めるのも時間がかかりそうだ。

 泣き言を言っても始まらないし、もう何度目かわからないマザーとの共同作業を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 バンドのメンバーを集める前に、ボーカルは私が担当することになった。

 花形ポジションではあるが、一番難しい。

 

 マザーは、音楽に詳しいアリサに任せるとのことだ。

 友人に言われては断れず、注目を浴びるが仕方ないと受け入れる。

 

 取りあえずいつも通りに椅子に座って向かい合い、机の上のドーナツを食べながら気楽に計画を練っているが、私は率直な疑問を口にする。

 

「それで残りのメンバーはどうするの?

 役割的にギター、ベース、ドラム、キーボードなんだけど」

 

 なくても録音した音楽を流して私が歌えば、一応ライブはできる。

 でもやはりバンドメンバーを揃えたほうが盛りあがるし、人気も分散させたいところだ。

 

「ワタクシがギターを担当しますわ」

「じゃあ、あとはベース、ドラム、キーボードだね」

 

 ついでに仮想空間で行うので、人間に拘る必要はない。

 AIでも可能だが、私にそういう能力はなかった。

 上級市民のマザーなら、技術や伝手はあるだろう。

 

 なので、今回は彼女に期待したいところだ。

 

「ふふふっ、ワタクシにお任せを」

「おー、自信満々だね」

 

 豊かな胸を張って得意気にしている彼女は、優雅に紅茶を飲みながら続きを話す。

 

「先程、姉妹……いえ、家族? ええと、親戚? 娘?

 じゃなくて、まあ友人のようなモノですわね」

 

 いまいちはっきりしない。

 でもマザーが選んだメンバーなので、腕は確かだろう。

 

「とにかく知り合いに連絡を取ったら、バンドに協力するのを承諾してくれましたわ」

「へえー、それは良かった」

 

 何にせよ、面倒事が一つ片付いたことには違いない。

 初顔合わせは緊張するが仕方ない。

 

 覚悟を決めて受け入れるしかなく、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 すると、マザーが大きな溜息を吐く。

 

「選抜するのは、なかなか大変でしたわ」

「そりゃ、音楽活動なんて未知のことだし、わざわざやりたがる人が居るとは思えないしね」

 

 私もそりゃそうだと同意を示すと、マザーは首を横に振る。

 

「いいえ、逆ですわ。

 誰も彼もがやりたがったので、選ぶのが本当に大変で」

 

 マジかよという表情で彼女を見ると、にっこりと微笑みかけてきた。

 確かに、好奇心でやりたがる人もいる知れない。

 

 そうしてメンバーが決定したのだが、ボーカルは私、ギターはマザー、他にベースとドラムとキーボードがあるのだが、マザーの姉妹、もしくは分家筋の者が割り当てられた。

 

 それに関しては、大変複雑で説明も難しいらしい。

 私も藪をつついて蛇を出したくないので、深くは聞かないのだった。

 

 

 

 とにかく、彼女の友人が協力してくれるのだと納得しておく。

 数日後にはニューヨークやウィーンやトーキョーの各シティからログインして、仮想空間に入室する。

 

「初めまして。私はサクラと申します。今後ともよろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 桜色の髪をした着物姿の成人女性で、当然だけど私よりも年上だ。

 彼女はトーキョーシティから来たようで、ベースを担当する。

 

「俺はバラだ! アンタがアリサか!

 噂には聞いていたが、会うのはこれが初めてだな! よろしく頼むぜ!」

「どっ、どうも。お手柔らかにお願いします」

 

 また凄い人が来たものだ。女性なのに男っぽい格好をしているし、高身長で赤髪のダイナマイトボディである。

 そんなバラさんは、私の手を握って嬉しそうにブンブン振ってくる。

 

 仮想空間なので痛くはないけど、現実でやられたら間違いなく酷い目に遭う。

 ちなみに、彼女はニューヨークシティからログインしており、ドラムを担当する。

 

「ヒマワリよ。会えて嬉しいわ」

「私も来てくれて良かったです。これから頑張りましょう」

 

 最後の一人はウィーンシティから来た、ヒマワリさんだ。

 金髪でスラリとした細身の体型で、服装はワンピースドレスで薄着である。

 あとはあまり喋らないけど、担当はキーボードだ。

 

 

 

 マザーが言うには彼女たちは全員上級市民で、暇を持て余していたらしい。

 なのでバンド練習に付き合ってくれるのだが、三人揃って花なのは偽名で間違いないだろう。

 

 前世のネット上も大体こんな感じだったし、私は気にしないことにした。

 

 とにかく自己紹介が終わったら、早速練習だ。

 ライブの日は決まっていなくても、あまりのんびりしている時間はない。

 

 幸い、マザーを含めて皆は凄い速度で上達していく。

 その技術力の高さと正確さは、まるで機械のようだ。

 私は、良い脳内チップ使ってるなあと、羨ましく思った。

 

 仮想空間なので細かく設定を弄れば、失敗を回避したり修正が行える。

 なので現実では出来ないことも、やれてしまうのだ。

 

 私の脳内チップは、一般市民よりは良いものである。

 しかしスポンジが水を吸収するように、凄い速度で成長していく彼女たちには到底及ばない。

 

 それでも人間らしく、一歩ずつ確実に上達しているので、とにかくヨシとしておくのだった。

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