ディストピアのネット友達が優秀すぎる   作:名無しのペロリスト

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この騒ぎは三日三晩続いた

 パン屋や給食センターにも、私の名前がついている。

 元々は何か思いつくまでの仮だったのだが、気づけばそうなっていたのだ。

 

 だからこの際なので、バンド名もARISAに決めた。

 

 世の中には、同じ名前がたくさんいる。

 声も姿も変えるのだ。

 

 アリサベーカリーのオーナーは知られてしまったが、そもそも家の外に出ること自体が滅多にないし、私の顔も名前も知っている人はそうはいない。

 

 なので容姿を変えたボーカルが、同じ人だとは思わないだろう。

 つまり、何も問題はないからヨシということだ。

 

 何となく現場にいる猫のようなポーズを取りたくなる。

 マザーもある程度は無駄な知識を得て対応できるようになったが、まだ通じないネタも多いので、実際にやったりはしない。

 

 

 

 何にせよ準備を整えるために、都市統括人工知能に複数回申請した。

 または仮想空間を拡張し、多種多様な機材を揃えたり、はよはよと催促されたりと大忙しだ。

 

 正直私の手に負えない案件だが、何とかここまで漕ぎ着けたのは、友人たちの協力があったのは間違いない。

 

 だが正直に告げると恥ずかしいので、お礼は少ししか言わない。

 顔を赤くしていたから、感情の揺らぎでバレた可能性もあるが、露骨に話題を変えて逃れたりと、皆で練習を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、やがて公演の日がやって来た。

 仮想空間のアバターを、二十代前半まで成長した私に変更する。

 

 現実の自分は、初等部を卒業したばかりだ。

 このぐらいまで肉体が育てば誰も気づかないし、あくまで未来の可能性の一つに過ぎない。

 

 さらにもしもボーカルとして人気が出ても、真似する人が増えれば勝手に薄まっていく。

 元々アイドルデビューする気はなかったし、過去の人になるのは願ったり叶ったりだ。

 

 それに仮想空間では、姿を偽るのは普通のことである。

 実在する人物か偽者か、または他人の姿を模倣しているだけなのか、真相は果たしてというやつだ。

 

 

 

 だがそれはそれとして、現在の私は客席からは見えない舞台袖で待機中である。

 立ちっぱなしも何なので、椅子に座っていた。

 他のバンドメンバーも同じように座っているが、部屋主権限で外部の音を遮断しているので静かなもので、変に緊張することはない。

 

 その一方で私は、前世の掲示板っぽい何かも作成していた。

 当日は早めに席を確保する人が多く来るのが予想されるため、退屈しのぎにと思ったのだ。

 

 前世の経験から、気の合う同志が大勢集まって雑談すれば、時間なんてあっという間に過ぎていく。

 

 いわゆる同好の士というやつで、話も盛り上がるはずだ。

 さらに、そこから友人にまで発展することもある。

 

 しかし、中には私のように会話が得意ではない人も居るだろう。

 そういう人たちのために、過去のボードゲームを作り出した。

 

 リバーシや囲碁や将棋、麻雀やチェスやトランプなのだ。

 マザーや他のバンドメンバーが手伝ってくれたので、あっという間に完成した。

 

 

 

 そんなことを思い出しながら、椅子に座って深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。

 全く動じていないマザーが、ワクワクした表情で声をかけてきた。

 

「アリサは多芸ですわね」

 

 何を言ってるんだと、私は呆れた顔で返事をする。

 

「そんなことないよ。今も凄く四苦八苦してるし」

 

 殆どは前世の記憶と想像力、ディストピアの技術とマザーたちに協力で、何とか完成させたのだ。

 自分だけでは、とてもではないが作り出せなかった。

 

「取りあえず今は、セントラルアリーナだけだけど。

 今後はフリーゲームとして運用しながら、適時修正だね」

 

 私はお金を取るつもりはないし、これも仕事のうちだ。

 上層部や都市統括人工知能が、最初の草案通り基本無料ゲームにするなら、今後はタダで遊べることになる。

 

「マザー様、掲示板のNGワードの再設定をお願いします」

「了解しましたわ。申請、……通りましたわ」

 

 私は片手間で掲示板を観察していたが、NGワードや垢バンを作成したほうが良いと判断したのだ。

 

 ついでに各遊戯にチャット機能はないけれど、感情や行動を表現スタンプぐらいは作ろうかと思った。

 他のバンドメンバーも全面的に協力してくれるので、仕事が楽で良い。

 

 

 

 ただし、事前に本体は作成していた。

 今していた作業は、バグ修正やDLコンテンツのようなものだ。

 

 サクラさんが半透明のウインドウをマザーに投げると、あっさり都市統括人工知能の許可を得られたようだ。

 

 すぐに承認されたのは良いが、気のせいだろうが都市統括人工知能との距離がやけに近い。

 

 私は地方都市の下級市民で、広義的に言えばモブだ。

 相手は雲の上の存在で、例えるなら神である。

 

 そんなはずはないのに、やけに身近に感じた。

 だが今は、掲示板やフリーゲームの運営のほうが重要だ。

 

「マザー様。……お願いします」

「ええ、任されましたわ」

 

 マザーはこういう管理運営が得意なので、任せて安心だ。

 しかしバンドの練習をしているときか思ったが、皆は彼女への態度がやや固い気がする。

 

 例えるなら仲が良くて気心が知れているが、立場的には上司と部下という感じだ。

 

 まあ自分はそういう関係をマザーが望んでいるし、私もそれを良しとしているので問題はない。

 とにかく本番前に、一仕事を終えておく。

 

 

 

 次に私は大きく息を吐き、スポーツドリンクを皆の分まで作成して配る。

 ゴクゴク飲んで気分だけでもリフレッシュし、おもむろに話しかける。

 

「そう言えば、マザーは姿を変えないんだね」

「ワタクシの姿や名前は仮のものですもの。見られても困りませんわ」

 

 自分は本名で、成長した姿だ。

 バレることはなくても、やはり大勢の前に出るので緊張はする。

 

 だがまあ、行き当たりばったりで動くのが私である。

 見られて減るものでもないし、ステージに出たら、あとは成るように成れだ。

 

「しかし広大な仮想空間をポンとくれるとか、気前良すぎじゃない?」

「それだけアリサに期待しているのですわ」

 

 自分のホームページとは別に、超巨大な仮想空間をポンとくれたのだ。

 なので私はそこに、五万人が収容可能で、スタジアム風のライブ会場を建築した。

 同じ空間で通信はできるが行き来は不可能であり、観客の上限は一億人だ。

 いわゆる、コピペのライブ会場を隙間なく敷き詰めた感じである。

 

 せっかくなので縁起を担いで、セントラルアリーナと名付けた。

 実際に世界中から人々が集まってきているし、間違いではないはずだ。

 

 ちなみにステージが良く見えない遠くの人は、拡大投影したホログラムか、近くのドローンカメラに感覚共有できるので、臨場感が半端ではない。

 

 やはり前世よりも、圧倒的に技術力が上のようだ。

 残念ながら入れなかった人は立ち見になるが、流石に一億人も客は来ないだろう。

 

「しかし、わかってはいたけど。責任重大だなぁ」

 

 遥か昔に失われた音楽を復活させるだけでなく、大勢の前で演奏するのだ。

 

 今は都市統括人工知能が人類の代わりに管理運営するようになり、僅かだが余裕ができつつある。

 おかげで消失したはずの音楽文化が、今ここに蘇ったのだと伝えたいのだろう。

 

 

 

 理解できなくもないが、私はそんな責任重大なことはしたくない。

 

 マザーが協力してくれるので何とかやっていけるけど、一人だけならとっくに心が折れている。

 今も無難な人生を歩みたいと思うぐらいだし、やっぱりアイドル活動は今回限りだ。

 

「まあ、やるだけやってみるけど」

「大丈夫ですわ。ワタクシたちもフォローしますし、気楽に行きましょう」

 

 パン屋も給食センターも、成功する保証はなかった。

 実際に、コケた。

 

 しかし、このままではヤバいとわかるとすぐに軌道修正を行う。

 おかげで今は、全シティの人々に大変好評である。

 

 色々あったけど結果良ければ全て良しで、私の生活環境も改善しているし、何だか知らんがとにかくヨシだ。

 

 自炊しなくても美味しいご飯にありつけるのは、本当に助かっている。

 

 だがやはり、完全栄養食のほうが生産効率が良い。

 シティのリソースも、そこまで余裕があるわけではなかった。

 

 それでも食料生産工場を給食センターに変更しつつ、効率化を進めている。

 さらには味と栄養を兼ね備えた、完璧な食事を市民の皆様に提供できるとようにと、開発スタッフも日夜頑張ってくれていた。

 

 

 

 そんなことを考えていた私は、空中に映し出された画面を何となく眺める。

 気になる項目があって慌ててマザーに尋ねる。

 

「始まるまで、まだ一時間以上あるのに! 満席になってるんだけど!」

「ライブが始まればシティニュースに流れますが、その必要はなかったようですわね」

 

 マザーや他のバンドメンバーはドヤ顔しているが、小市民の私はアワアワしてしまう。

 

「途中で飽きて退席されたらどうしよう!」

 

 いくら優秀な遺伝子パワーがあるとはいえ、スクールでは落ちこぼれだったのだ。

 前世でも平凡だったし、流石に一億人の前で歌った経験はない。

 

 今はVチューバのような仮初の体なので、身バレは気にしなくて良い。

 だがそれでも、流石に緊張してしまう。

 

「退室の心配はないと思いますわよ」

 

 マザーはいつも通り、冷静である。

 

「度胸があるね。心臓が鉄でできてるんじゃない?」

「ふふっ、そうかも知れませんわね」

 

 今の発言の何処に、笑える要素があったのかはわからない。

 だが他のバンドメンバーも笑っているし、おかげで少しだけ緊張がほぐれた。

 

 

 

 その後は何度か音の調整や練習をすると、ちょうど開始時間になる。

 私は呼吸を整えてマザーに声をかけ、舞台袖からステージ中央に歩いて行く。

 

 ちろん他のバンドメンバーも一緒だ。

 全方位から見えるように、ステージ情報を書き換えて、巨大スクリーンに投影する。

 音楽関係の各種機材も実体化させた。

 

 中央に進み出た私は、一億人のお客さんたちを前に、大きな声で呼びかける。

 

「今日は私たち、ARISAの演奏を聞きに来てくれてありがとう!」

 

 続いてメンバー紹介に入る。

 一応事前に説明文は記載しているけど、音楽が失われて久しいのだ。

 

 皆、そっちに興味津々だろうし、紹介は程々のところで切り上げて、さっさと演奏に入ることにした。

 

「それでは! 聞いてください!」

 

 私が目配せすると、皆は静かに頷く。

 バンドメンバーは全員、打ち合わせ通りに動き出すのだった。

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