ディストピアのネット友達が優秀すぎる   作:名無しのペロリスト

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完全栄養食は不味い

 都市の中央に住めるのは上級市民と、お金持ちの中級市民だけだ。

 そこがもっとも暖かくて外周部に近づくほど気温が低下していくため、下級や貧しい中級は一年を通して、寒さに震えることになる。

 

 おまけに中層までしか公共交通機関が通ってないため、外周付近はもっぱら徒歩での移動である。

 乗り物を持っているのは、専用の職業ぐらいだ。

 

 しかしだからと行って、シティを狙っているレジスタンスのように、地下暮らしをする気にはなれなかった。

 

 それはそれとして、私は中層の境目で飛行バスを降りて、あとは徒歩で自身の脳内チップに登録された住所に向かう。

 

 下級市民ゆえに最低限の機能しかなく、現実世界に半透明のウィンドウを投影することはできない。

 だが都市内なら、何処からでも統括ネットワークにアクセスできるのは変わらなかった。

 

 前世とは違って脳内に映し出され、キーボードを打つ必要はない。

 思考操作で高速処理を行えるので大変便利だ。

 

 しかし、やはり外周付近は中央区と比べてかなり寒かった。

 

 学校生活で使っていた荷物を旅行用の鞄に詰め込んで抱えながら、防寒具を着用して歩いているが、白い息を吐いて思わず身を震わせる。

 

「裏通りには、入らないようにしないと」

 

 中央は近未来的な建物が規則正しく立ち並んでいたが、外周に近づくと増改築を繰り返したのか、とにかくごちゃごちゃしていた。

 古いアパートやマンション、用途不明の施設や建造物も多い。

 

 道も真っ直ぐではなく曲がりくねっていて、ネットワークで地図を呼び出さないと迷ってしまいそうだ。

 

 凍えるような寒さだからか、私のように大通りを歩いている人は殆どいない。

 中央は乗り物が頻繁に行き交っていたが、こっちでは殆ど走っていなかった。

 

 そして警備ロボットが巡回していても、治安が悪い。

 特に裏通りは危険だと教わっているため、常に周囲を警戒しながら危ない場所には近寄らず、ただ真っ直ぐに目的地を目指す。

 

 そうこうしているうちに、やがて私はある施設の前で足を止めた。

 

「ここかな?」

 

 見た感じは何とも古いマンションが目に前にあり、新しい住所も既に登録されている。

 今後はここを拠点として、新しい職を探して都市に貢献するのが自分の役目だ。

 

 私は取りあえず管理人に挨拶するために、建物に近づいていく。

 そして扉の前にあるインターホンを、ゆっくり押した。

 

「はーい! 少し待ってください!」

 

 若い女性の声が聞こえて少し待つと、やがてロックが解除される音がして扉が開けられたので、先に挨拶をする。

 

「今日からお世話になる。アリサです」

 

 そう言って深々と頭を下げると、管理人は驚いたような表情を浮かべる。

 

「あら、思ったより若いのね。てっきり、三十過ぎだとばかり」

 

 犯罪を犯して下級に落とされる場合もあるが、教育機関に才能がないと判断されて途中で放棄されるパターンは滅多にない。

 

「ええまあ、色々ありまして」

「……そう、色々あったのね」

 

 その時点で深く聞いたら不味いと判断したのか、金髪美人の管理人さんはコホンと咳払いをする。

 

「とにかく、私はナンシーよ。

 今後ともよろしくね。アリサちゃん」

「こちらこそよろしくお願いします。ナンシーさん」

 

 取りあえず良い人そうなので良かったと、私を心の中でホッと息を吐く。

 その後、自分が借りる場所を教えてもらい、二階の角部屋の205号室だとわかった。

 ちなみに今は他に入居者はいないらしく、もしかしたら曰く付きではないかと不安になる。

 

「ここの宿泊施設は安いんだけど、

 古くて不便だからって理由で、入居してもすぐに他に移っちゃうのよ」

「なるほど」

 

 確かにマンションは、とても古そうに見える。

 しかし、文明レベルは前世の地球を遥かに越えているのだ。

 1LDKの新生活がどうなるかはまだわからないが、せめて寝る暇もなく過労死するよりは、マシな人生を送りたいと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 学校の宿舎では、全て寮母というか業者ロボットがやってくれた。

 でも今後は、自分でやらないといけない。

 

 何しろ下級市民は賃金が最底辺で、手伝いを雇ったり最新の機材を購入するのは難しく、大抵の場合は生涯厳しい環境に身を置くからだ。

 

 しかし自分は前世で自炊していたので、このぐらい何ともない。

 むしろ過度な干渉を受けない分、こっちのほうが気楽とも言える。

 

 私は案内してくれた管理人のナンシーさんにお礼を言って別れ、1LDKの我が家に入る。

 

 すぐに空調設備のスイッチを入れて温風が循環し始めたが、部屋が温まって防寒具を脱ぐのは時間がかかった。

 さらに全体的に狭いし壁も薄そうなので、家賃が安いだけはあると納得する。

 

 十分ほど経ち、ようやく前世の自宅と同じように芋っぽいジャージに着替えられた。

 昔から一人のときは大抵これでファッションにはあまりこだわりがないし、別に人に見せる気はないので良しだ。

 

「どうやら、最低限の家具はあるようだね」

 

 ベッドやクローゼットなどが一通り揃っていて、キッチンもあるようだ。

 持ってきた重い荷物を置き、狭いながらも長く住むであろうと我が家を軽く見回る。

 

「学校と違って古い機械しかないけど、私はこっちのほうが使いやすいかな」

 

 特に熱を使って食材を温めるコンロは、用途が前世と殆ど変わらないので助かる。

 学校のは全自動でしてくれるので楽そうだが、普段は職員さんが使用していたので、詳しいことはわからない。

 

 とにかく次に炊飯器っぽい家電を見つめて、大きな溜息を吐いた。

 

「こっちは例のドロドロ製造機かぁ」

 

 完全栄養食品が便利なのはわかるが、代わりに味が犠牲になっている。

 ドラゴンの玉を集める漫画の仙豆のように、それだけを食べ続ければ肉体の状態は保たれるのだ。

 

 しかし私個人としてはクソマズなので、食事の時間を苦痛に感じていた。

 

 次に、机の上に置かれている薄い板状の端末を見つけ、椅子を引いて腰をかける。

 続いて、脳に埋め込まれたチップで思考操作を行う。

 

 すぐに起動して半透明のウインドウが空中に表示されて、自分の現在の状況が記載される。

 

「貯金がこれだけで、家賃が──」

 

 何も無一文で放り出すわけではなく、一定額の貯金が渡される。

 ただし使い切ったら再配布は受けられないし、都市に貢献できない市民に生きる価値なしという、厳しい世界だ。

 

 けれど働けば雀の涙ほどだがお給料は出るし、手に入れたお金で種類は少ないが色々買い揃えられる。

 映画などで良くある完全管理社会よりは、ほんの少しだけ自由があった。

 

「それでも給料の殆どを税金で取られて、手取りはほんの僅かだしなぁ」

 

 給料から差っ引いた税金で、当人が生きていくのに最低限の保証を受けられる。

 これは労働の義務を果たした市民への、都市からの施しだ。

 完全栄養食や家賃や衣服などが、定期的に配給されることになる。

 

「おかげで働いていれば死ぬことはないけど、やっぱり自由もあんまりないね」

 

 上級ならともかく、下級市民が一生懸命働いたところで手取りは雀の涙だ。

 体調を崩したり怪我をしたときの医療費や、ちょっとした贅沢であっという間に尽きてしまう。

 

 だが何にせよ、なるべく早く定職につきたい。

 貯金に余裕はなく、働かなくても食べていけるほど裕福ではないのだ。

 

 しかしまだ労働の義務を果たしていないので、就職するまでは自前で用意しないといけない。

 

「ふむ、まずは食料だね」

 

 生まれからずっと完全栄養食品しか食べていなかったので、とにかく前世の食事が恋しい。

 なので都市の通販サイトを開いて、手頃な食材を探す。

 

「ふーむ、やっぱり合成食品は安い」

 

 地下工場で量産している各種合成食品や、完全栄養食品がもっとも安い。

 全市民に配給されるので、わざわざ購入しようという人は滅多にいないが、一応カタログには乗っているようだ。

 

 だが私が求めるのはこれではなく、膨大な種類の中から思考操作によって検索をかける。

 

「原材料なら、ワンチャンあるかな?」

 

 途中で地上の農園や牧場で育てられた食材を見つけた。

 希少なため高額で、ゼロの数が違いすぎてとても買えるものではない。

 

 そしてやがて、穀物に似た食品を見つける。

 効率化や大量生産を突き詰めたためか、一種類しかない。

 だが肉や野菜よりも圧倒的に安いため、味の保証は全くできなくても取りあえず良しとする。

 

 ちなみに合成食品を混ぜて、さらに様々な栄養素を混ぜ込んでバランスを整えると、学校で配給される賞味期限切れのカロリーメイトとカエルの卵になるらしい。

 

 ネット検索で判明したが、私はもう二度と食べたくない。

 取りあえずは財布と相談しながら、ちょっと高めの塩や砂糖などの調味料や調理器具の代わりになりそうな物も、一緒に購入していく。

 

「無職の自分じゃいずれお金がなくなるし。

 大切に使わないと」

 

 それでも自由に使えるお金が、ほんの少しはあるのだ。

 極貧生活はディストピアの宿命だと諦めつつ、給料が入っても貯金に回せる気が全くしない。

 

 今から何とも気が重く、つい溜息を吐いてしまう。

 しかし嘆いてばかりもいられないし、気持ちを切り替えた。

 

「荷物が届く前に……っと」

 

 外周近くは専門の業者ではなく、無人のドローンによって配達される。

 強盗に襲われないために武装もしているようで、倉庫や工場から直送ということだ。

 

 私は椅子から立ち上がり、ドロドロ製造機の前に移動する。

 自動操作ではなく、設定を細かく変更していく。

 

「今後はお米を炊いたり、パンを焼いたりするからね」

 

 完全栄養食品は必要ないため、その辺りを上手いこと調整していく。

 コンロも同じで、とにかく自分が使いやすいのが重要である。

 

 それ以外にも引っ越したあとに荷ほどきをしていると、端末が自動的に起動して配達の到着を知らせる。

 さらに二階のベランダの窓が自動的に開いて、大きな荷物を抱えたドローンが入ってきた。

 

「アリサ様、荷物の受け取りをお願いします」

「あっ、はーい。ご苦労さまです」

 

 相手は無人機でマニュアル通りの対応だ。

 私も機械音声にも、前世の癖でつい挨拶してしまう。

 

 しかし初回なのでと大量に注文したので、重くて持ちきれない。

 私はドローンを室内に招き入れ、机の上におろしてもらう。

 

「またのご利用を、お待ちしております」

「ありがとうございました」

 

 ドローンがベランダから外に出ていくので見送ったあと、急いで窓を閉める。

 ほんの少しの時間でも、息が白くなって手がかじかむ。

 

 マジで極寒の地だなと思いながら届いた荷物を解いて、早速料理に取りかるのだった。

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