ディストピアのネット友達が優秀すぎる 作:名無しのペロリスト
<レジスタンス>
我々は人類統合軍だ。
シティの連中からはレジスタンスとも呼ばれているが、最初に宣言したのはそっちが先で、現在は改名されたものである。
そして世界各地に地下都市があり、日夜機械の軍勢と戦っていた。
だがいつ発足したのかなどは、正確な記録は残っていない。
それでも恐らく氷河期初期だと、断片的な情報から推測される。
何故なら我々の祖先は、都市統括人工知能の支配に抗うため、志を同じくする者たちと共に、シティを脱出した。
そして極寒から生き延びるために、地下都市を築いたのが始まりだからだ。
以後、人類統合軍と機械の軍勢との戦いは、終わることなく続いていた。
もっとも古い戦闘記録は百年以上も前のものだが、破損していて詳しいことはわからない。
そして機械たちは、かつての我々の同胞を支配し、世界各地にドーム型のシティを築いている。
旧時代の牧場の家畜のように、人類を管理しているのだ。
市民の大多数は、一部の特権階級と都市統括人工知能の命令で、日夜過酷な労働を強いられている。
死ぬまで生き地獄が続き、反逆や法律違反は更生施設で再教育を受けるのだ。
もし更生が見込めないようなら、殺処分される。
人類統合軍もそうだが、シティも使えるリソースは限られていた。
無慈悲に見えるが、大を生かすために小を切り捨てるのは正しい選択だ。
しかし我々は、奴らとは違う。
生かすべきは人類で、切り捨てるのは機械だからだ。
都市の者たちも、その考えには賛同している。
密かに潜入した工作員が同志を募り、来るべき反乱の日に備えて、戦力を集めていた。
下級市民は不満が溜まっていて、勧誘も容易だ。
最近は中級市民も、根気強く説得したり高待遇を約束すれば、快く手を貸してくれるようになった。
だが、事実上の支配者である特権階級、上級市民は決して首を縦に振らない。
奴らは、都市統括人工知能の忠実な下僕であり、我々人類を裏切って機械に媚びを売る憎むべき敵だからだ。
もしも彼らの協力を得られれば、都市の攻略が一気に進む。
しかしそんな危険は冒せないし、人類統合軍を売られる可能性が高い。
攫って脅すという手もあるものの、シティは中央に近づくほど監視が厳しくなる。
潜入工作員が怪しまれずに活動できるのは、治安の悪い外周付近だ。
あとは行動に気をつければ、中央の入り口辺りまでなら、近づくことはできる
それ以上は重要な施設や機密が多くあり、警戒厳重なのでとても無理だ。
だからこそ、疑われにくい市民を説得する。
同志となった彼らからシティの情報を得たり、こっそり破壊工作をしてもらうのだ。
もし失敗しても、人類統合軍は大した情報は渡していない。
いつ裏切るかもわからない者たちなど、最初から信用してはいないのだ。
本当の意味での同胞になるのは、上級市民と都市統括人工知能を打倒してからである。
それまではただの協力者であり、決して心を許すわけにはいかない。
人類統合軍の貴重な人命が損なわれるなど、あってはならないのだ。
なのでシティの市民は、いわばいくらでも替えが効く、便利な駒であった。
だがそれゆえに、工作員が都市に侵入するのは非常に危険だ。
しかし人類統合軍は、機械共と比べれば戦力が少ない。
それゆえに我々は、現体制に抗うレジスタンスと呼ばれている。
または反乱軍で今は歴史の敗者だが、最終的には必ず勝利するのだ。
上級市民と都市統括人工知能を打倒し、機械に支配されて苦しんでいる元同胞たちを自由にすることこそが、人類を滅亡から救う唯一の道である。
そのための準備は、着々と進んでいるのだった。
そして今日は、潜入工作員から報告が届く日だ。
だがシティ内や周辺で通信をするのは、とても危険である。
世界各地に点在する人類統合軍の地下都市は、シティから遠く離れているが、それでも都市統括人工知能に察知される可能性があった。
過去に何度か逆探知されて襲撃を受け、多くの仲間が犠牲になった。
なので、以降はシティのネットワークに干渉することは重罪で、固く禁じられていた。
何しろ戦力は、敵の方が圧倒的に上なのだ。
もし地下都市の場所がバレようものなら、大軍を送り込まれて、たちまち滅ぼされてしまう。
なので一度出航した艦は、地下都市には長期間戻らず、敵に捕まった場合に備えて人類統合軍の情報の多くは、消去してある。
氷河期以前の地下道を改造し、人類統合軍の基地を築く。
多くの兵士はそこで寝泊まりして、敵の動きを警戒しながら任務を遂行するのだ。
地下都市から艦が来れば交代して帰れるが、数ヶ月後か、それとも一年以上先かはわからない。
これも敵を警戒しているからで、もし途中で機械の兵士を感知したら、迎えは決して来ない。
地下都市は人類統合軍にとっては、決して失ってはならない。
正確な場所は派遣された兵士たちも知らないが、これも敵から故郷を守るためだ。
そんな過酷な戦争を行う中で、俺たちは人類統合軍の基地から小型艦を出して、旧時代の地下道を進んでいく。
かなり狭いので大型では無理だし、熟練のパイロットでないと壁に当たって機体を損傷してしまう。
それに大きな音を響かせると敵に気づかれてしまうので、慎重に行動する。
今回の目的は、一年ほど前に派遣した工作員から、シティの情報を受け取ることだ。
近くで通信をすると、都市統括人工知能に気づかれる。
なので情報交換はシティから遠く離れた場所で、さらに直接行わないといけない。
ある程度近づけば無線で送信しても良いが、万全を期すために、情報端末を受け取ったほうが良いだろう。
「艦長、指定ポイントに到着しました!」
やがて操舵手が情報の受け渡し場所に到着したことを告げたので、俺は満足そうに頷いて指示を出す。
「では、艦体を固定後に電源を落とし、周囲を警戒!
機械共に悟られるなよ!」
俺たちは予定時間よりも先に到着して、工作員が合流するまで待機する。
もし来なかったら、殺されたり捕まったのだと判断し、敵を撒きつつ急ぎ撤退だ。
シティに潜入した、仲間の安否が気にならないと言えば嘘になる。
だが作戦は失敗という情報を持ち帰るのも、重要な仕事だ。
幸い、シティ内の破壊工作は順調に進んでいる。そのような報告を受けていた。
だが一時期は、シティの食事が変わったとも聞いたが、それは市民の不満を解消するための策で、結局また元の完全栄養食に戻ったらしい。
なのでシティのリソースを圧迫しただけで、以降の報告は異常なしが続いている。
とにかく総攻撃を仕掛けるのは、こちらの準備が整ってからだ。
下級市民を扇動して施設を襲撃させたり、凶悪事件を起こさせて、ジワジワと追い詰めている。
なお作戦に参加した市民は、最終的には捕まって更生施設行きか、その場で殺処分される。
だが人類統合軍の同志は基本的に身元を明かさないし、あくまで扇動するだけだ。
直接事件を起こすわけではないので、警戒していれば足がつかない。余裕で逃げきれる。
何しろシティの方針に不満を持っている者は、星の数ほどいるのだ。
いくら都市統括人工知能が、高度な情報処理能力を持っていても、我々の次の行動を予測できるはずがない。
直感などという不確かな推測に頼ることもないので、事件や事故が起きてから対処するなど、後手に回らざるをえなかった。
何よりたとえ殺されても、大義のための尊い犠牲だ。
彼らの命を無駄にしないためにも、我々は必ずや都市統括人工知能や上級市民共に勝利しなければいけない。
だが人類統合軍に比べると、シティのほうが人員や戦力が多い。
やはり真っ向勝負は分が悪かった。
どうしても長期的に削っていくしかないのだ。
それでも破壊工作は順調らしいので、そろそろ市民の不平不満は限界に近づいているだろう。
このペースでいければ、そう遠くないうちに全シティ同時反攻作戦が実行できそうだ。
しかし最近は、地下都市や各地の軍事拠点で、食料や物資の不足が目立つ。
早く人類統合軍が勝利しないと、やがて武器を持って戦うこともできなくなる。
だがもし作戦が成功すれば、上流階級や機械共が独占していた物資が手に入るのだ。
そうすれば我々や他の同胞に分配できて、身分や差別や争いのない、真の平和な社会が実現する。
そんなことを考えながら、小型艦の管制室で仲間と一緒に周囲の警戒を続ける。
機械たちを警戒し、主電源は切っているが最低限の設備は使用でき、やがてレーダーに反応があった。
識別信号は工作員の艦を示しており、こちらに近づいているようだ。
「来ました! 反応は人類統合軍の小型艦!
暗号は、……間違いありません! 味方です!」
「そうか。どうやら無事に帰ってこられたようだな」
報告を受けた俺は、艦長の座席にもたれる。
取りあえず無事に合流できそうで良かったと、大きく安堵の息を吐く。
ここはシティから遠く離れていて、戦略的にも殆ど価値のない場所だ。
機械の偵察機も、わざわざこんな所を索敵したりはしないだろう。
それでも警戒は決して緩めたりはしないが、遭遇するのは余程運が悪いときぐらいだ。
なので、殆どは無事に合流できる。
取りあえず今回も、何もなくて良かった。
俺だけでなく他の艦員も、少しだけ緊張を解いて肩の力を抜く。
現在の戦況は、両陣営が決め手に欠けて硬直状態だ。
おまけに人類統合軍もシティ側も、疲弊して息も絶え絶えである。
互いに限界が近いため、何かキッカケがあれば一気に天秤が傾きそうだった。
そして我々は、敵の牙城を崩す作戦を実行しようとしている。
いつか来るべき日に備えて、シティに特大の爆薬を仕掛けているわけだ。
「機械共を殲滅するまで、倒れてやるものか」
「ええ、その通りです。艦長」
「それも、あと少しですね」
正直なところ、どれだけ長く戦い続けてきたのかわからない。
しかし我々が長年かけて蒔いた芽は、着実にシティを蝕んでいる。
決戦の日は近く、その時こそ都市統括人工知能や上級市民たちを一匹残らず殲滅する。
そして人類統合軍が勝利し、支配されて虐げられていた人々を解放するのだ。
ちなみに地下道は、遥か昔に放棄されて灯りはついていない。
陽の光が差さずに、とても暗かった。
唯一の光源は小型艦のライトだけだ。
正面から友軍の艦が、こちらに近づいてくるのを肉眼で確認した。
だが俺は、ここで少し疑問に思い、そのことを仲間に伝える。
「妙だな」
「妙とは、何がですか?」
「ここは都市から、かなり離れている。
短距離通信ならば敵に探知されないはずだ」
味方の識別信号は発しているし、暗号も艦体情報も完全に一致している。
妨害電波を出せば、不審に思われて敵がこの場所に集まってくるが、短距離通信なら可能なはずだ。
それにレーダーに反応がないのだ、近くに敵はいない。
再会の挨拶や工作員の顔ぐらい見せても良いのに、そんな様子は全くなかった。
「念のために、こちらから送ってみろ」
「了解! 通信送ります!」
念のために、通信手にこちらから送るように指示を出す。
だが、やはり反応はなかった。
他の艦員も不安に思い始めたが、通信士は別の意見を口にする。
「通信機器が壊れているのでは?」
「ありえるな。機械を欺くために、壊れた小型艦に見せかけているしな」
そうしないと機械たちに怪しまれて破壊されてしまう。
だが最初から壊れていれば見逃されるので、わざわざその状態で地下道に隠しているのだ。
シティもリソース不足なので見つかったら回収して資源にされてしまうが、重要な部品だけは保有しているので、スクラップビルドでも味方の艦だとわかるようになっている。
地表よりも多少はマシとはいえ、地下道を歩いて移動するのは自殺行為だ。
合流地点は遠く離れているし、奴らの偵察機も飛び回っている。
安全のためには、乗り物を隠しておくに限るのだった。
だが、ろくに整備もされていない壊れかけだ。
ふとした拍子に機器の一部が故障することも、十分に有りえた。
そもそも中古で代用したかも知れないし、可能性としてはなくもない。
取りあえず、連絡できなくても味方には違いないのだ。
他の艦員も安堵したようで、引き続き友軍が近づくのを待つ。
だが、またもやおかしなことが起きる。
「艦長! 艦の速度が上がりました!」
「まさか通信機器に続いて、制御装置も故障したってオチじゃないだろうな!
……ええい! とにかく回避だ! 急ぎ主電源を入れろ!」
俺は慌てて命令を出すと、操舵手が了解と大きな声を出して、電源が入った小型艦を急いで動かす。
幸い、万が一に備えて動かせるようにはなっていた。
いきなり高速は出せないが、何とか直撃は避けられそうだ。
危ないところで上昇して回避したが、味方の艦が掠って大きく揺れる。
「きゃあっ!」
「うわあっ!」
「直撃は避けたが! なんてザマだ!」
俺たちが乗る小型艦が、決して少なくないダメージを受けたのは間違いない。
そして味方の艦は、壁に激突して火花を散らしていた。
「艦長! 今の音を聞いて、周囲の敵が集まってきます!」
「わかってる! とにかく味方の艦を急ぎ調査する!
生存者が居れば救出か捕縛だ! 最悪敵の可能性もあるが!
これで何の成果も得られなければ、全責任を押しつけられるぞ!」
人類統合軍も、決して余裕があるとは言えない。
常にリソース不足に苦しんでいて、特に小型艦は貴重だ。
損害を受けて逃げ帰って来ただけでは、上層部から叱責されるのは目に見えていた。
せめて事故の原因を作った潜入工作員を、この際なので死体でも良いので持ち帰る。
または敵の破壊工作であっても、情報を入手しないと駄目だ。
もちろん艦長だけでなく、他の艦員も責任を取らなければいけない。
「念のために主砲の照準を合わせて、いつでも撃てるようにしておけ!」
「りょっ、了解!」
現時点では、敵か味方か判断はできない。
何らかの証拠がないと、上も納得はしないだろう。
とにかく急ぎ調査を行うことに、誰も反対はしなかった。
俺が人員を集めて武装している間に、衝突の衝撃でひしゃげている小型艦にゆっくりと近づいていく。
そして準備ができたら横付けし、急ぎ友軍の艦の内部に乗り込むのだった。
人類統合軍で小型艦の艦長を務めている俺は、航行不能になった味方艦の内部を調査することに決めた。
ただ逃げ帰っただけで、上層部に責任を追求される。
部下も含めて、厳しい処分が下されるのは間違いないからだ。
幸い敵が集まってくるまで、少しだけ時間がある。
だがそこまで余裕があるわけではなく、早めに片付けなければいけない。
艦体がひしゃげて開いた穴から、他の隊員を連れて内部に侵入する。
もしも敵の罠だった場合に備えて、全員が強化服を着用した。
それでも大方、機材の故障だろう。使う必要はないかも知れない。
なお、人類統合軍は基本的にサイボーグ手術を行わない。
せいぜい脳内にチップを埋め込むぐらいで、残りは外付けの武装で強化する。
機械を嫌悪し、生身の人間こそが至高で、あるべき姿だという考えが根付いているからだ。
ただ負傷や何らかの理由で欠損した場合は、サイボーグ化する場合もある。
シティの奴らのように機械制御ではなく、あくまで人の意思で動かせるようにしており、脳内チップも人類統合軍専用のものだ。
そのような事情はともかくとして、壊れた艦の内部に入った俺たちは、周りを見て声をだす。
「こりゃ酷えや」
「あんな速度で激突したら、そうなりますよね」
「たとえ強化服を着用していても、無事では済まんだろうさ」
今のところは、隊員は見当たらない。
元々は壊れた小型艦に偽装していたが、今では完全にただの鉄くずになってしまった。
もはや動かすことは不可能だ。
取りあえず何があったかを突き止めるため、管制室を目指して移動することにした。
艦の構造は、基本的にどれも同じだ。
多少通路が歪み、火花が散って歩きにくいが、迷うこともなく目的地に到着する。
「通信手は、情報解析と吸い出しを頼む」
小型艦は大破しているが、艦橋は辛うじて原型を保っている。
電力も非常時の予備が生きているようで、情報の多くは破損しているとしても、少しは役に立つモノが残っているかも知れない。
「他数名はこの場に残り、管制室を調査しろ。
残りは俺と、他の部屋を探索する」
部隊を二つに分けて、俺は離れて探索を指揮する。
何か異常があればすぐ連絡するようにと、こちらに主砲を向けさせている味方艦にも、指示を出しておく。
一応、備えは万全と言えるが、敵が集まって来るまで時間はない。
調査は、手早く済ませないといけなかった。
すぐに管制室を離れて、艦の各部屋を順番に回っていく。
警戒しながらなので歩みは遅いが、特にこれといったものは発見できない。
「妙だな」
「はい、艦長。
人が乗っている気配がありません。これは、明らかにおかしいです」
部下の一人が代弁してくれたが、実際その通りだ。
艦内を調査してみても、人間は何処にもいない。
それなら潜入工作員は、最初から乗っていなかったことになる。
最悪の結果が導き出されてしまったので、俺は急いで短距離通信を使い、部下たちに連絡を取る。
「聞こえるか! 全員! ただちに調査を中断して、艦に戻るんだ!」
しかし、全く応答がない。
嫌な予感が強くなってきて、周りの隊員たちの顔色も悪くなる。
だがそれでも俺は冷静さを失うわけにはいかない。
次は自分の小型艦のクルーと連絡を取ろうと試みる。
「どういうことだ! 誰も通信にでないだと!」
「通信妨害ですか!?」
「いや、通信妨害はされていない!
だからこそ、状況はさらに悪い!」
小型艦の誰一人として、通信に出られないなど、余程のことが起きたに違いない。
可能性がもっとも高いのは、敵の攻撃である。
だがその時、艦内に誰かの歌が流れた。
危機敵状況でほんの少しだけ心が安らいだが、それは一瞬のことだ。
「待て! この状況で! 歌だと!?」
「それに! 聞いたことのない歌だ!」
「じゃあ、一体誰が!」
俺たちが調査した限り、人は居なかったはずだ。
だが聞いたことのない歌声は、とても綺麗で透き通っていた。
「さっきから何なんだこの歌は!?」
何故歌が聞こえるのか、全く理解できない。
しかし敵である可能性が非常に高く、俺たちはより一層周囲を警戒する。
すると通路の影から、艶やかな青い髪と綺羅びやかなドレスを身にまとった美女が姿を見せた。
彼女は、息を呑むほど美しかった。
こんな状況でもなければ、この場の全員が見惚れてしまうほどだ。
だが俺は即座に判断を下し、仲間たちも機械に有効な電磁パルス銃を構える。
「敵だ! 攻撃開始!」
明らかに敵と思われる女に向けて一斉に発射した。
しかし青白い光線が当っても、姿をほんの少し歪ませるだけだ。
「ちいっ! 立体映像か!」
ならば、近くに投影装置があるはずだ。
それを壊しても、本体にはダメージは与えられない。
しかし少なくとも、通信はできなくなる。
これ以上は無闇に攻撃してもエネルギーの無駄だと判断し、仲間に撃つのを止めるように指示した。
短距離通信で投影装置を探すように指示を出しつつ、敵の出かたを見て、さらに少しでも情報を聞き出す作戦に変更する。
彼女もそのことに気づいたようだ。
微笑みを浮かべ、友好的な態度で少しだけこちらに近づく。
「ワタクシの友人から教わりましたの。
上手に歌えていたかしら?」
先程の歌について尋ねているなら、聞き惚れるぐらい上手かった。
全シティだけでなく人類統合軍も、氷河期以前の文化は失われて久しい。
遠い過去に、音楽というものがあったことは知っている。
だが詳しいことは良くわかっていないし、娯楽や文化を蘇らせるために時間を使うぐらいなら、一匹でも多く機械共を破壊するべきの方針だ。
なので極めて原始的な音楽なら知っているが、それでも大して興味はなかった。
だが俺たちは、彼女の歌を聞いた瞬間、ほんの一瞬だが危機的状況だということを忘れたのだ。
それぐらい心が震えたのは事実だ。
しかし敵に素直に教える気はなく、逆にこちらから質問する。
「答えろ! 俺たちの仲間をどうした!」
銃を突きつけて無駄だろう。
だが安全だと思われる距離を保ちつつ、決して警戒を緩めずに大声で叫ぶ。
すると彼女は呆れた顔をして、溜息を吐いた。
「そんなに怒らなくても、貴方の仲間は全員無事ですわよ」
謎の美女が本当のことを言っている保証はない。
しかし、完全に否定することもできなかった。
取りあえず無事な可能性があることを念頭に置いて、次の質問を口にする。
「お前は何者だ!」
すると彼女は妖艶に笑い、俺たちにはっきりと告げた。
「貴方たち人類統合軍の敵。都市統括人工知能ですわ」
何とも意外すぎる答えに、この場の全員が完全に固まってしまう。
そして状況反射的に電磁パルス銃を撃とうとしたが、先程のことを思い出してギリギリで止める。
(落ち着け! ここに居るのは、ただの映像!
奴は通信以外、何もできないはずだ! 敵は他にいるはず!)
目の前の彼女は、3D映像に過ぎない。
だが決して安心できるわけはなく、周囲を機械の軍勢に囲まれている可能性が高い。
今この場に限っては、敵の位置を掴めていないこっちが、圧倒的に不利だった。
俺は仲間に短距離通信で簡潔に説明し、迂闊に動かないように指示を出す。
冷や汗をかくが、表情は平静を保ちながら次の質問を口にする。
「目的は何だ!」
この質問は、容易に予測できたようだ。
すぐに答えが返ってくる。
「人類統合軍の皆さんに、降伏勧告をと思いまして」
「何だと!?」
過去に何度も降伏するようにと命令されたことはある。
だが、俺たちの答えは決まっていた。
その考えが変わることは、決してない。
しかし倒すべき敵である、都市統括人工知能が出てきたこともなかった。
何故今になってという疑問も確かにあり、警戒しながら彼女の説明を聞く。
「貴方たちがシティに送り込んだ工作員は全員捕らえましたし、扇動された市民も正気を取り戻しましたわ」
とんでもない発言が飛び出てきて、俺は思わず叫ぶ。
「そんな馬鹿な! 嘘に決まっている!」
工作員が何人か捕まることはあるが、それでも全員はない。
さらに扇動した市民を機械が再び支配するなど、断じて認められないことだ。
そう口では否定したものの、隠してあった小型艦が敵に利用されて、暗号や合流地点や時間などの情報まで抜かれている。
彼女の発言が、事実である可能性はゼロとは言いきれなくなった。
流石に精神的に大きく揺さぶられる。
「全部、貴方たちの仲間が教えてくれたのですわ」
「仲間を殺したのか!」
「いいえ、殺してはいませんわ。洗脳が解けて、正気に戻ったのですわ」
俺も他の隊員も、まともな精神状態ではない。
動揺して心拍数が増加し、呼吸も荒くなるばかりだ。
都市統括人工知能の言うことなど、信じるに値しない。
だが、あまりにも状況証拠が揃いすぎている。
「ちくしょう! どうしてこんなことに!」
一体何がいけなかったのかと混乱して、考えがまとまらない。
機械の支配から人類を解放するまで、あと少しだったはずだ。
それなのに、急に足元から崩れ落ち、今までやっていたことの全てが無に帰した。
「そうですわね。強いて言うなら──」
そう言って目の前の美女は、まるで恋する乙女のような表情を浮かべる。
それは全く機械とは思えない、今まで一番人間らしく、熱が込もっていた。
「幸運の女神が、ワタクシに微笑んでくれましたの」
正直、意味がわからない。
だがこの瞬間、俺たちは本能的に理解した。
人類統合軍が、完全に敗北したわけではない。
しかし今ここで自分たちが何をしようと、絶対に勝てない。
(たとえ小型艦を爆破しても、痛くも痒くもないだろうしな)
少しはダメージが入っても、敵の方が圧倒的に優位に立っている。
おまけにこの時点で、心が負けかけている自分たちでは、勝てる勝負も勝てない。
小型艦とは連絡は取れないが、主砲は依然としてこっちを狙っていて、他の部下たちは消息不明である。
(武器を奪われて四肢を縛られ、喉元にナイフを押し当てられているようなものだ。
万に一つも勝ち目はなさそうだな)
だが本来ならば、機械共に降伏するぐらいなら死を選ぶ。
それは工作員も同じであり、情報を漏らすとは思えなかった。
つまり厳しい訓練を耐え抜いた工作員が、心変わりする何かが起きたのだ。
そして今のシティには、それがある。
このようなことを考えた俺は、仲間たちに電磁パルス銃を下ろすように命令する。
「わかった。降参しよう。
そして俺も、お前の幸運の女神に合わせて欲しい」
もう、どう足掻いて勝てそうにない。
人類統合軍の情報を話す気はないが、都市統括人工知能が言っている幸運の女神に会ってみたくなった。
そのあとのことは、特に考えていない。
人類統合軍の者たちに厳しい処分を下す可能性は高いが、もはや勝敗は決しているのだ。
これ以上の抵抗は無意味であり、殺されたとしても仕方がない。
もちろん受け入れられるものではないが、更生施設に送られても脱出の機会があるかも知れないのだ。
ならば、こんなところで無駄死にするのは、馬鹿らしい。
すると目の前の美女は、少しだけ考えた。
「現実で会うのは無理ですわ。
でも仮想空間やニュース映像でなら、見られるかも知れませんわね。
工作員の方々も、彼女の大ファンですし」
「……マジかよ」
言ってみるものだと思うと同時に、工作員が大ファン発言に驚く。
正直、今のシティに一体何が起きているのか、全然想像ができない。
だが部下たちも諦めたのか、暴れずに大人しく従ってくれるようだ。
自分は隊員を危機に晒したあげく、敵に捕まる情けない艦長だ。
しかし、せめて仲間たちの処分が少しでも軽くなるように、交渉する決意を固めるのだった。