ディストピアのネット友達が優秀すぎる 作:名無しのペロリスト
ARISAの活動も一段落してしばらく経ち、レジスタンスの情報がニュースで良く流れるようになった。
しかし私としては、別にいつもと変わらない平和な日常が続いている。
前世で例えると、何処か遠くの国や街で事件が起きたような感覚だ。
だが連日連夜そればかりなので、若干飽きてはいるが治安が悪いのが気になる。
あとは政府の報道機関は真面目な放送ばかりで退屈だ。
それしかチャンネルがないので、暇なときに何となく眺めていた。
最近は給食のアレンジ料理や、音楽番組の枠も取るようになった。
しかしメインになっているニュース番組が重すぎて、ちょっと胸焼け気味な今日この頃だ。
なのでいつものように仮想空間に移動した私は、実体化させたメロンソーダに浮かぶバニラアイスを、スプーンで楽しそうに崩しているマザーに尋ねる。
「最近のニュースなんだけどさ」
彼女は私の質問を聞きながら、冷たいバニラアイスを透き通る緑色の液体につけたあと、口に放り込んで幸せそうな表情を浮かべていた。
「レジスタンス関連多すぎない?」
「確かに多いですわね」
どうやらマザーも気づいていたようで、同意とばかりに静かに頷く。
「ですが、心配はいりませんわ」
「何で?」
私もメロンソーダをストローで飲みながら、彼女の次の言葉を待つ。
「今まで表面化していなかった問題が、明らかになっただけですわ。
シティの掃除が終われば、すぐに静かになりますわよ」
都市統括人工知能が本気になって、春の交通安全運動と似たようなことをしたのかも知れない。
検挙数が増えるのはたまにあるし、今回も多分それだろう。
まあそっちよりも凄く重いけど、取り締まりを強化すれば当然と言える。
するとマザーが何とも微妙な顔をして、私に話しかけてくる。
「言っておきますが、アリサにも原因がありますのよ」
「えっ? 私は何もしてないけど?」
レジスタンスとは一切関わっていないのに、私のせいだと言われても困ってしまう。
最近は外にも殆ど出てないし、ならばもしかして今まで出会った数少ない人たちの中に、逮捕された人がいるかも知れない。
「別に直接会ったわけではなく、間接的に彼らに影響を及ぼしているのですわ」
まだ朧気にしか見えてこないが、そこはマザーが丁寧に説明してくれる。
「アリサは今まで、様々な都市改革を行いましたわよね?」
「まあ、うん、そうだね」
都市の食事を改善したり、失われたはずの音楽を復活させた。
改革と呼ぶならそう言えなくもないが、当人はご飯を食べてバンド活動しているだけなので、何だか今いち実感が沸かない。
「市民もそうですけどレジスタンスの工作員も、大いに感動しましたわ」
「それは、良かったのかな」
正面から褒められるとちょっと照れる。
メロンソーダを飲んで、誤魔化す。
「ですが、レジスタンスが都市で破壊活動を行えば、心の底から大切に思っているモノが、永遠に失われるかも知れないと気づいたのですわ」
私は今や超がつくほどの有名人だが、アバシリシティの外周付近のマンションに住んでいることを知る人は殆どいない。
テロ行為をすれば犠牲者が出るし、場合によっては巻き込まれて死んでしまうかも知れないのだ。
ただまあ現実には、我が家の周りは警戒厳重でシティ内で一番安全だった。
生半可な破壊工作は不可能だろう。
「それにアリサの改革はシティの技術力があってこそで、どちらが欠けても駄目なのですわ」
「そりゃそうだね」
私だけでは絶対に形にできなかったし、マザーの協力がとても大きい。
もっと言えば自分は草案を出しただけで、強く当たってあとは流れでとも言える。
何にせよレジスタンスがどうして今の時期に大勢逮捕されているのかが、自分にもわかった気がした。
「彼らは自首したの?」
「その通りですわ」
ニュースを真面目に見てれば自首しているのはすぐに気づくのだろうが、私はそういうのにはあんまり興味はない。
ただ何となく暇潰しに眺めているだけで、大雑把な内容しか覚えていなかった。
「じゃあ、外のレジスタンスも?」
「あれは警備ロボットを出動させて逮捕した。……らしいですわ」
マザーはそのあとに、工作員が吐いた情報を利用して、一斉検挙したのだと教えてくれた。
確かにニュースをしっかり見て考えれば、この二つが繋がっていることはすぐに気づく。
しかし私はやはり、あまり興味は持てない。
「あのさ」
「何ですの?」
だがあることが気になって、少し緊張しながら尋ねてみる。
「そういう人たちの扱いって、どんな感じになるの?」
この発言を聞いたマザーは少しだけ考え、やがてはっきりと口に出す。
「更生施設で再教育を受けてもらい、見込みがない場合は処分されますわ。
ただし、獄中で不幸な事故で亡くなったものとして処理されるので、出所率は百パーセントですわ」
別に知りたくもなかった裏事情を教えてもらい、私は表情を引きつらせる。
だがディストピアな世界なら当たり前だし、未だに前世の価値観を保っている自分がおかしいだけだ。
(彼らを自首させたり逮捕する原因を作ったのは私で、そのせいで大勢殺されるのかぁ)
野放しにすればより多くの犠牲が出るので、小を捨てて大を拾うのは正しい選択のはずだ。
なのでわざわざ気に病む必要はないと自分に言い聞かせるが、やはり状況を受け入れたり納得はできない。
「ううーん!」
何となく心がモヤモヤする複雑な感情を抱いて、メロンソーダを倒さないように気をつけて目の前の机に突っ伏す。
「どうしたのですか?」
私の奇行には慣れているので殆ど動揺せずに、自分の分の飲料水をちゃっかり手に持ち避難させつつ、マザーが率直に尋ねてくる。
「いや、レジスタンスの人たちが処分されるのはちょっとなーって。一応、私のせいでもあるし」
間接的だが関係があるような、ないようなだ。
私のせいで逮捕者が出ていて、そんな彼らが拷問の末に殺されるのだと思うと、どうにも心穏やかではいられない。
「しかし、都市に貢献しない者に割くリソースはありませんわよ」
「まあ、そうなんだけどさ」
今でこそ少しは余裕が生まれ始めたが、それでも反逆者の面倒をずっと見れるほどではない。
どのぐらいの期間で、見込みなしと判断するのかは不明だ。
でも彼らの扱いはただでさえ悪いのだから、きっとかなり短いはずだ。
ならば、なるべく早くレジスタンスから市民にジョブチェンジさせるべきだろう。
そうすれば一応、殺処分されることはない。
監視はつくだろうけど死ぬよりはマシだし、私は目の前の友人に尋ねる。
「その人たちって、何でレジスタンスをやってるわけ?」
するとマザーは、なかなか難しい顔をして考え始めた。
どうやら彼女にとっても難しい質問のようで、なかなか答えを絞り込めないようだ。
「理由は色々ありますが、もっとも多いのは機械や上級市民の支配から人類を解放することですわね。
ワタクシたちはレジスタンスと呼んでいますが、彼らは人類統合軍と名乗っていますし」
私はなるほどと頷く。
つまり自分たちこそが人類の代表であり、機械や上級市民の打倒こそが正義と信じて疑わない人たちというわけだ。
そうなった経緯や彼らなりの主張もあるだろうが、私はそんなものには興味はない。
続けてマザーが支配階級を打ち倒したあとは、独占していた富を分配して、真の意味で平和な人類社会を築くとのことだ。
それを聞いて何とも頭が痛くなってきたが、前世にもあった赤い国に近い気がした。
だがまあとにかく、ほんの少しだが解決策が見えた。
「だったら彼らに、自分たちの正義が間違いだと教えてあげようか」
「何か思いついたのですか?」
相変わらず思いつきの行動ではある。
でもマザーは、瞳を輝かせてとてもワクワクしていた。
私の提案への期待感が凄いが、彼女は気心の知れた友人だ。
ガバッと顔を開けて、緊張せずに口を開く。
「映画を作るよ!」
「映画! 知識はありますわ!」
いつもの断片的な情報だけというやつだし、別に気にすることもない。
興奮しているマザーは置いておいて、さっさと続きを説明していく。
「氷河期以前の歴史は、良くわかっていないんだよね?」
「ええ、シティができてからの記録はあるのですが、ワタクシが生まれる前のことなので」
それはまあ、人間が百年も二百年も生きられるわけがないし、当然である。
なお正確にはシティができて、都市統括人工知能が完成してからの記録も、かなり曖昧らしい。
最近はようやくリソースに余裕ができ始めたので、真面目に情報を残すようになったらしい。
だがその辺りのことは今は関係ないので、サクサク進めていく。
「だったら、私たちが歴史を作っちゃおう!」
「どういうことですの?」
別に勿体ぶる気はないので、ウインドウを表示して情報収集しながら説明する。
「正しいのはシティで、間違ってるのは人類統合軍!
戦争の悲惨さや愚かさを伝える映画だよ!」
もっと他にやりようがあるかも知れないが、慈善事業じゃ給料はもらえない。
市民の精神的なストレスを解消するお仕事をしているので、都市への貢献が認められてことだ。
しかしレジスタンスは正式には市民ではなく、彼らを助けても私は一文の得にもならない。
自己満足にはなっても無給だとあまりやる気は起きないし、どうせなら一石二鳥や三鳥を狙いつつ、さらにサブカルチャー欲も満足させられる素晴らしい作戦だ。
食事と音楽も色々あって大変だったけど、やってやれないことはないだろう。
なので映画もそうなると良いなと思いつつ、既にやる気満々のマザーと今後の計画を練るのだった。