ディストピアのネット友達が優秀すぎる 作:名無しのペロリスト
色々あって映画を作ることになった。
だがやはり歴史を参考にしたフィクションにするにしても、そう簡単にはいかない。
大前提として、ある程度のリアリティがないと誰も信じてくれないのだ。
なので、マザーに頼んで断片的な情報を収集してもらう。
それを一つ一つ繋ぎ合わせて、良くわからないところは私の想像や推測で、何となく良い感じに肉付けしていく。
展開が面白くなるように脚色を加えるとも言う。
ただその際にマザーに、食事や音楽やボードゲームなどは凄い知識と想像力なのに、どうして歴史は全然なのかと聞かれる。
その質問に私は『興味がなかったから』と答えたが、これには彼女は納得せざるをえず、特に疑問に思うことはなかった。
実際その通りだし、他に言いようがないのだ。
しかし、いくら前世がサブカルチャーにどっぷり浸かっていたとはいえ、映画を一から作るのは凄く大変だ。
なのでマザーたちの力を借りる以外に、手を抜かせてもらう。
具体的に言うと、前世の様々な物語をパクる。もとい、オマージュしたのだ。
なおマザーは主演が私でないとやる気が出ないようで、仕方なく申し出を受けることにする。
それだけでは撮影スタッフが足りないので、ARISAのバンドメンバーは全員参加だが、まだ全然駄目だ。
そういうことで急遽募集をかけることになったのだが、流石はマザーである。
上級市民だけあって関係各所の伝手がとんでもなく広く、あっという間に映画の制作スタッフが勢揃いした。
だったらもう私が主役じゃなくて良いと思うのだが、いつの間にか監督になったマザーの強い要望で、役を降りられそうにない。
問題は私の演技力だが、あいにく経験が殆どなかった。
幸い優秀な遺伝子が仕事をしてくれているので、何とかなっている。
それにアバターは本物の肉体ではない。
場面に合わせて自由にカスタマイズできるのが強みで、演出で強引に誤魔化したりもしていた。
そして映画を制作する際に、アリサアニメーションという謎の会社を設立する。
先頭にアリサを入れておけば市民は受け入れてくれるし、それぐらい全シティに私の名称が広まっていた。
何と言うか、国営企業ぐらいの信頼感がある。
自分は草案を出してぶん投げるだけで、実際に管理運営しているのは都市統括人工知能だ。
マザーが言うには私の名前が入っていれば市民は安心するらしいので、前世で言う安心の日本製とか、多分そんな感じだ。
しかし、これまで信じられていたディストピア世界の歴史とは、かなり違ったものが出来てしまった。
一応史実を元にしているはずなのだが、掘り起こして修復したら、とんでもない事実が発覚したのだ。
それはそれとして、何とか無事に映画が完成した。
いつものように、仮想空間で打ち上げである。
マザーと向かい合って座り、机の上にパーティー料理を広げて乾杯をした。
定番のオレンジジュースだが、ようやく仕事が片付いたので悪い気分ではない。
一口飲んだあとに、大きく息を吐く。
「三部作になったときはどうなるか思ったけど、何とかなって良かったぁ」
「後半は時間との戦いでしたものね。
泣く泣くカットした場面も、かなり多いのが残念でなりませんわ」
どれだけ長くても、一本三時間に収めたかったのだ。
それでもカットした場面は、かなり多かった。
幸い監督や映画のスタッフが優秀なおかげで、物語は無理なく繋がっている。
なので、問題はなかった。
今のシティは多少は余裕ができたとはいえ、無駄飯食いを抱えておく余裕はない。
生きていくには、市民の務めを果たさないといけないのだ。
私の場合は、肉体労働ではなく心のケアに特化している。
そちらの労働をしていることになっていた。
成果が出ている間は良いが、申請しても認められなければ給料が出ないどころか、際青く処分されてもおかしくなかった。
せめてそうなる前に警告ぐらいしてくれれば、下級市民相応の過酷な労働に転属して生き残れる。
だが現時点では何とかなっているので、とにかくヨシとしておく。
そのような諸事情は置いておいて、私はオレンジジュースを飲みながら今回の映画制作についてマザーと話す。
「制作期間に余裕がなかったし、仕方ないよ。
レジスタンスを捕まえたのは良いけど、いつまでも面倒を見る余裕は、シティにはないからね」
なるべく早いところ改心して、労働に従事してもらいたい。
そうでなければ彼らは、都市統括人工知能や上級市民に、情け容赦なく殺処分されてしまうのだ。
今回は、断片的でも過去の歴史を繋ぎ合わせた映画を見せたことで、レジスタンス側は悪であると、認識させることに成功した。
マザーはフライドポテトを指で摘んで優雅に食べながら、少しだけ首を傾げた。
「ですがアリサ。あの映画は本当にあったことですの?」
彼女が率直に尋ねてきた。
だが私は別に、過去の場面を直接確認したわけではない。
「絶対にそうとは言えないけど、事実も含まれてるよ。……多分ね」
そう言って、私もポテトを掴む。
そしてマザーに良く見えるように正面に持ってきて、軽く振った。
「このポテトは、過去の料理を再現してるのは、マザーも知ってるでしょう?
でも味や食感も素材も、何もかもが昔とは違うの」
過去の食材は、氷河期の惑星で手に入れるのは困難だ。
代用品として色んなモノを合成し、それっぽく作られている。
調理工程は前世から持ってきたが、色々変更を加えなければ、美味しいフライドポテトにはならなかった。
「でも私は、これがフライドポテトだと断言してる。
そして他の人も、疑うことなく信じているからね」
そう言って私は、指で摘んでいるポテトを小さな口の中に放り込んで、モグモグと咀嚼する。
「シティもレジスタンスも、異なる視点で歴史を見ているし。
もし真実を追求したいなら、両勢力から話を聞く必要があるね。
私は絶対に命を狙われそうだし、面倒だから嫌だけど」
前世でも、たびたび新しい資料が発見されたり、新説が出てくる。
そして今まで正しいと思っていた歴史が変わったり、さらに別の可能性が浮上したりしていた。
それに良くも悪くも、私は名前が売れすぎている。
本体は知られていなくても、アリサは絶対許さねえと怒り心頭なのがレジスタンスだ。
私は彼らの命を助けるためにプロパガンダ映画を作り、大勢が救われている。
だがあくまで捕まった人たちが俺は正気に戻った状態になっただけで、地下都市に籠っている人たちからは相当恨まれているのは確実で、自分の首を絞めることになっていた。
もう笑うしかなく、どうしてこうなったと頭を抱える。
「とにかく私たちは、過去の歴史を掘り起こして、映画にした。
それだけは、嘘偽りのない事実だよ。誰が何と言おうとね」
現時点ではシティかレジスタンス、どちらの歴史が正しいかはわからない。
あとは両陣営の話し合いの末に、本当にあった歴史を紐解いていけば良い。
少なくともシティ視点では、そのような事実があったと判明したのだ。
まあプロパガンダなので多少は脚色したが、大体合ってるから良しとしておく。
そもそもレジスタンスは赤い国っぽい思想強めだけど、シティも機械による管理運営が徹底しているディストピアなので、ぶっちゃけ目糞鼻くそなのだ。
私の身の回りが平和ならそれでヨシとしているが、できれば関わりたくはない。
絶対にろくなことにならないし、あとは偉い人たちに丸投げしたい案件であった。
そんなことを考えながら、私は今度はフライドチキンに手を伸ばす。
するとマザーは、瞳を輝かせて満足そうに頷いた。
「やはりアリサは凄いですわ!」
「そっ、そうかな?」
「そうですわ! やっぱり! アリサは! 凄いですわ! 略して、YASですわ!」
「何故省略したし!」
思わずツッコミを入れてしまう。
そして何でもかんでもストレートに褒めてくるのが、マザーである。
だが私は、自分のことをそんなに凄いとは思っていない。
シティに馴染めない落ちこぼれの転生少女が、何の因果か上級市民と知り合う。
そして仕事に就けたのは良いが、仮想空間で四苦八苦しているのだ。
まだ成長しきっていない体では、肉体労働は負担が大きくて難しい。
仮想空間で働ける状態は、願ったり叶ったりと言える。
それでも行き当たりばったりの綱渡りが、たまたま上手くいっているだけだ。
いつ転落して全てを失うか、わかったものではない。
けれど、失敗するかもと考えていたら動けなくなる。
その時はその時で、軌道修正すれば良いやと行き当たりばったりで行動する。
「そう言えば今回の映画だけど、ちょっと残念な箇所があるんだよね」
「それは何処ですの?」
私は骨だけになったフライドチキンを消す。
代わりに、半透明なウインドウを空中に表示した。
そして映画のシーン集を閲覧しながら、何処だったかなと探していく。
ちなみに内容だが、二部は太陽光が遮られて、寒さが厳しくなっていく地球が舞台だ。
巨大隕石の衝突での絶滅を辛うじて回避した人類だったが、多くの被害が出てしまう。
さらに生活拠点を、ドーム型の都市に移しつつあったが、暗い未来に絶望して心身共に疲弊していく。
不要だと思われるモノを切り捨てることで、何とか生き残ろうとするが、それでもこのままではいずれ滅亡すると悟る。
そのため人類は一致団結し、超高性能な人工知能に、全シティの管理運営を任せることにした。
開発は世界中の国々が手を取り合い、各界の専門家が集められた。
そんな中、二人の天才科学者が出現し、彼らのおかげで都市統括人工知能の開発は順調に進んでいく。
だがその途中で、本来は存在してはいけないはずの、裏コードを仕込んでいることが発覚する。
起動すれば一個人の命令により、全ての判断を撤回させ、思い通りに操ることができるのだ。
彼はすぐにプロジェクトから外され、問題のコードも完全に消去された。
しかし学会から追放されたあとも、機械の支配に反対する同志を集め、自分が神になって人類を導き、世界を支配する夢を見る。
そしてそれこそが希望の未来に繋がっていると、本気で信じていたのだ。
やがて彼らはシティを抜けて、世界各地に地下都市を築く。
自らをレジスタンスと名乗り、シティに戦いを挑んだのだ。
ちなみに彼ではない、もう一人の博士は若き天才女性科学者で、私が演じている。
彼女は、いつか人類と機械が手を取り合い、共に歩んでいけると信じていた。
人類だけでも、人工知能だけでも、氷河期を乗り切ることはできない。
だからこそ他の科学者たちと、都市統括人工知能に人の心や感覚など、本来なら不要な機能を組み込んだ。
しかし全てのリソースが不足している状態では、それらを使う余裕はない。
危機的状況では、正確無比で効率重視の機械としての能力以外、求めていなかった。
なので時が来るまで封印されるのだが、いつか必ず必要になるはずだ。
けれど、もう一人の博士は、それを夢物語だと切り捨てる。
人は機械よりも優れている。いや、そうでなければならない。
彼らを支配して上位者であり続けなければ、今度こそ人類の歴史は終わってしまう。
だからこそ人が機械を管理し、道具と友人にはなれない。
賛同する者を集めてレジスタンスを組織し、戦争を起こしたのだ。
さらには成層圏に大量の塵を打ち上げ、その場に留まらせる兵器まで開発した。
躊躇うことなく使用したことで、永遠の冬の時代が始まった。
もちろん、それでもいつか効果が切れて春が来る。
だが残念ながら、その日はまだまだ遠いようだ。
そしてシティは地上、レジスタンスは地下を拠点にしている。
両方ともマグマの熱エネルギーを利用しているが、どちらが長期的な影響を受けやすいかは明らかだ。
ならばシティも地下に移れば良いと思うだろうが、そう単純でもない。
かつて全人類が力を合わせて築きあげた、シティを捨てるのである。
そして新たに地下を掘り進めて、人の住める環境を作り出さなければいけない。
膨大な時間や資材や人員が必要になる。
元々は成層圏の塵がなくなるまで保てば良く、気候が戻ったあとに文明を復興できるようにと、地上で暮らしていたのだ。
そしてレジスタンスが地下都市を築く時には、人材だけでなく大量の物資も必要になる。
もう一人の科学者と今の人類統合軍の先祖は、環境破壊兵器を撃ちあげたうえに、人類の自由という大義のために、シティの資材を多くを強奪していった。
ダメ押しとばかりに重要施設を片っ端から爆発するなど、やりたい放題だ。
辛うじて都市統括人工知能だけは守りきったが、そのせいで多くの科学者の命が失われる。
もう一人の女科学者も亡くなるため、私が演じる役はこんなのばっかりだなと思った。
とにかく、全シティがリソース不足に陥る。
管理運営が長期に渡って滞るが、最近はようやく回復し、ほんの少しだけ余裕が出てきた。
それでもとても長い冬の時代は、こうして始まったのだった。
その後、私が失われた歴史を掘り起こして映画にしたことで、かつて起きたこの世の地獄が発覚したのだ。
私はそのシーンをマザーに見せて、大きく息を吐く。
だが、かつての人類がやらかした真実を、今さらどうこう言うつもりはない。
自分が気にしているのは別のことで、どうにも納得いかない顔をして口を開く。
「私は、巨大ロボット同士の戦争映画を作りたかったんだよ!」
「それはあまりにも、世界観が違いすぎますわ」
「うん、だから断念したんだよ。これは歴史を元にした映画だからね」
もし歴史に関係なくてOKなら、巨大隕石の落下を阻止する展開も、パイロットに伊達じゃないとか言わせて、超常的な力で押し返したかった。
最後はTになって宇宙を彷徨うことになるが、やりきったぜと個人的に満足だ。
ともかく私は映像に切り替えて、次は三部についてマザーに説明する。
「三部は最近の話だから、今までで一番縛りが多かったんだよね」
「確かに、三部は資料が多く残されていて、体験した市民も居ますものね」
マザーの発言を聞いて、私は大きな溜息を吐く。
ちなみに三部は、シティとレジスタンスの攻防が描かれている。
戦争の悲惨さや、人類同士の争いの愚かさ以外にも、互いが信じる正義を大声で叫んだりと、熱い展開もあった。
そして私は、次の映像に切り替えて、彼女に話しかける。
「でも、こっちは大量の無人機で囲んで、叩くんだよね。
地下道は暗いから、戦闘は絵的に地味だし」
「確かに、少々盛り上がりに欠けましたわね」
大量の無人機が、四方八方から船に群がって解体していくのだ。
どっちが悪者だと言わんばかりの、情け容赦のない戦い方で、ある意味ではホラーである。
だが理には適っているし、数の優位を活かしていた。
一応は味方陣営なので、負ける心配がないため、安心して見ていられる。
でも、ハラハラドキドキする展開とは言い難い。
そもそもシティに所属していても人間だし、やはりレジスタンスに感情移入して、恐怖を感じるけれど、それはそれだ。
あと、ワンサイドゲームでも面白みに欠ける。
なので罠を張ったレジスタンスが、電磁パルス攻撃で逆転勝利する展開もあったりする。
それはそれとして私は大きく伸びをして、マザーに別の話題を振る。
「でもやっぱり! 巨大ロボット同士の戦いのほうが、盛り上がると思うんだよね!
歴史の信憑性はともかくとしてさ!」
「アリサは好きですものね。巨大ロボット」
「うん! 巨大ロボットは浪漫だからね!」
兵器としては非効率的で、コストがとんでもなく高い巨大ロボットだ。
でもやはりサブカルチャーが大好きな私としては、外せない。
いつかは、そっち系の映画も作りたいとは思う。
しかしここでマザーが、ポテトをモグモグしながら声をかけてくる。
「ですがアリサ。今後は三部作の映画を、長編ドラマに再構成しますのよね?
巨大ロボットがどうとか、言っている時間はないと思いますけど」
「そうなんだよねぇ」
前世なら、アニメ化から映画になったり、その逆もあるし珍しいことではない。
だが元々映画として作ったものを、再構成してドラマとして放送するのは、私が知る限りではあまりなかった。
おまけに、またもや仮想空間を大盤振る舞いされたのだ。
映画館として利用したところ、連日満員御礼であった。
レジスタンスに見せると、正気に戻ってくれた。
と言うより、別の洗脳で上書きされたのかも知れない。
ズール皇帝こそが正義だというやつだ。
でもそれがシティの正しい歴史であり、効果は認められた。
彼らが市民になっても、地下都市の人々を滅ぼそうぜとはなってないし、良い結果に落ち着いたと言える。
「最近は市民から、続編の要望が多く届いてるしなあ。
放置するわけにもいかないし」
治安の良い現代日本とは違って、こっちはすぐに暴動に発展する。
続編はともかくとして、行動に出る前に再編集のドラマ化でガス抜きしたほうが良いだろう
「ドラマ化は、ディレクターカット版だと思えば、まあ」
これなら完全新作を始めるより手間も少なく、市民への一応の言い訳が立つ。
しかし顧客の求めるものと、企業が生み出すもの差に苦しむことは多々ある。
個人的には、あまりそういうことはしたくない。
しばらく考えた私は、オレンジジュースを飲んで気分を変えた。
そして、マザーに声をかける。
「マザーに提案があるんだけど」
「何ですの?」
マザーは相変わらずの超乗り気だ。
私への信頼が半端ではない。
次は何を提案するのか気になってしょうがないようで、明らかにグイグイ身を乗り出してきている。
それなりに付き合いが長くなってきたので、驚きはしない。
そう言うものだと受け入れて、会話を続ける。
「レジスタンスから市民になった人たちって、重要な仕事を任せたりする?」
私の質問に、マザーは特に考えることもなく、すぐに答える。
「市民として受け入れたとはいえ、完全には信用できませんわ。
なので、当分は下働きですわね」
つまりレジスタンスで高い地位についていたり、重要な情報を吐いてくれた人は例外だが、殆どの者が下級市民になるのだ。
おまけに元々が敵だったことから、扱いはさらに悪くなる。
そのことは仕方ないし、私としては納得していた。
だからこそ、これから提案することに使える。
「その人たちなんだけど、音楽やアニメーション関係の仕事を任せるのはどうかな?」
「ふむ、詳しくお願いしますわ」
マザーが瞳を輝かせて聞いてくる。
私は空中に映像を表示して、順番に説明していく。
「今まで食事、音楽、映画と色々やってきたけど。
全ての分野で、市民のストレスを解消したと効果が認められてるよね」
ただし今回の提案に、食事は関係ないので除外する。
私は、音楽と映画だけを残す。
「けど正直なところ、ずっと二人でするのは手が足りないよ。
都市統括人工知能に丸投げしてるけど、それでも痒いところには手が届かないし。
映画のスタッフは募集したけど、毎度志願者を募るのも何だか悪いし」
マザーは一理ある思ったのか、私の説明を黙って聞いている。
続いて今度は、仮想空間とレジスタンスに関しての資料を表示した。
「仮想空間なら、現実への影響は最小限で済むし、コストも安い。
そしてリアルタイムで観測できるから、元レジスタンスを一括管理できる」
私はああでもないこうでもないと考えながら、続きを話していく。
「音楽と映画なら、人類の生存に必ず必要ってわけではないでしょう?
市民からは期待されていても、重要度に関しては、そこまで高くないんだよね」
市民のストレスを和らげて、仕事のモチベーションを高める役目を果たしている。
ただし、衣食住のように必ず必要なわけではない。
まあ、あるに越したことはないけど、シティの中ではそこまで重要度は高くない仕事だ。
「だから、今後は元レジスタンスの人たちを雇用して、仕事を任せれば良いんじゃないかな」
この発言をしたとき、彼女の顔が曇ったのを見逃さない。
そして原因もわかっているので、私はちゃんはっきりと口に出した。
「別にマザーと二人で仕事をするのが、嫌なわけじゃないよ?
私だって会社の経営は未経験だし、やりたいかと言われるといいえだし」
しかし、今のまま仕事を増やしていけば、手が回らなくなるのはわかりきっていた。
実際、現在だっていっぱいいっぱいなのだ。
映画の制作も、一朝一夕でできるものではない。
都市統括人工知能には何度も頭を下げて、レジスタンスの処分を待ってもらったのだ。
けれど、もし専門の部署があれば、もっと早く映画が完成していた。
だからこそ、元レジスタンスを大量雇用するのだ。
「私たちは今後は代表取締役として上に立って、社員に仕事を任せたほうが楽ができる。
しばらくは色々教えるので忙しいけど、将来的にはね?」
「確かに、それはそうですが──」
納得はしているようが、まだ彼女は渋い顔のままだ。
私はウインドウを消して、息を吐く。
そして微笑みを浮かべて、ゆっくりと語りかける。
「会社ができても、偉くなっても、マザーは私のネット友達だよ。
それだけは、絶対に変わらないから」
「……アリサ」
前世から社畜根性があったが、ディストピアの世界でも馬車馬のように働くのは嫌だ。
メリハリをつけるという意味でたまには良いが、のんびりくつろぎながら、適当に雑務を処理する程度にしたい。
そして、私の嘘偽りのない本心が伝わったのか、マザーはホッと息を吐く。
「わかりましたわ。申請をしておきますわ」
「うん、お願いね」
申請すれば十割の確率の確率で通るが、駄目そうならマザーの方から事前に待ったがかかる。
都市統括人工知能の傾向に、とても詳しいらしい。
やはり上級市民で、ネット友人であるマザーはとても頼もしかった。
「社名は何にしますか?」
見切り発車はいつものことだが、社名については考えていなかった。
今後は音楽や映画、その他の文化を幅広く手がけているかも知れない。
食糧問題にも関わっているので、複合企業と言えなくもないだろう。
様々な部署は生まれるだろうが、市民は基本的には社名を呼ぶ。
変な名前は止めたほうが良い。
しかし、私にネーミングセンスに期待されても困る。
色々考えて、無難に済ませることに決める。
「……マリザ」
「マリザですか?」
「私とマザーの名前を、合わせただけだけど」
言葉の響きを重視して深い考えはないが、何にせよマザーは気に入ったようだ。
凄く嬉しそうにしている。
「良いですわね。マリザ。気に入りましたわ」
「それは何よりだね」
ちなみに、二人で初めて作った会社という意味も込められている。
口に出したら恥ずかしいので、黙っておく。
あとは、これで倒産したら情けなくて悲惨極まりないが、その時はその時だ。
自分は元から行き当たりばったりで事を進めてきたし、これからも変わらない。
それにようやく待望が果たせそうになって、心なしかテンションが上って大きな声を出す。
「私も自給自足から解放されて、本当に嬉しいよ!」
「えっ、ええっ?」
ディストピアの世界では、自分の他には誰もやってくれる人がいなかったのだ。
なので私が、仕方なくサブカルチャーの先駆者として走るしかない。
他の市民は娯楽を供給されて嬉しいだろうが、自分はそうではなかった。
「欲求は満たせても、ちょっと味気なかったからね!
他の人が生み出したサブカルチャーが恋しかったんだよ!」
前世でも作る側だったけれど、それでも新刊や新作ゲームを楽しみにしていた。
仕事と趣味は違うし、私にとっては生き甲斐にも等しい。
この世界にも。ようやくサブカルチャーの芽が出そうだ。
マザーは困惑していたが、自分は嬉しくて堪らないのだった。