ディストピアのネット友達が優秀すぎる   作:名無しのペロリスト

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デュエル開始の宣言をするのですわ! アリサぁ!

 都市統括人工知能から正式に許可をもらい、私たちはマリザを設立した。

 業務は仮想空間で行い、改心した元レジスタンスは更生施設から出る必要がない。

 おかげで、観察中でも監視や管理がしやすかった。

 

 ちなみに私とマザーはいつもの仮想空間に入室しているが、自分はかなり緊張している。

 

 何故ならマリザの敷地内に、世界中から大勢の社員がログインしてきているからだ。

 彼らは本社ビルの入り口に整列して、私たちが来るのを待っていた。

 

 なお別に、自分は真面目に会社経営をする気はない。

 取りあえず各部門の代表を何人か選抜し、今後はその人たちが部下をまとめてもらい、独自にプロジェクトを進めさせる。

 

 適正に関しては、事前に調べはついていた。

 前世のように、面接をして選ばなくて良いのは助かる。

 

 私の場合はこの世界でダメダメだが、前世のサブカルチャーなら得意分野だ。

 まあそれでも能力は人並みかもだけど、それはそれである。

 

 社員の部署分けは、管理運営が得意なマザーがやってくれた。

 

 その際に代表取締役は私で、彼女は副代表だ。

 自分は草案を出して、丸投げしかできない。だけど、相変わらず信頼が凄い。

 

 何千、何万という人々の前に立つのは緊張する。

 けどそこはまあ、ARISAのバンドで多少は慣れていた。

 

 正直、こういう経験を積みたくはなかった。

 だがそうしなければ、生きていけないので仕方ないのだ。

 

 各社員は事前に、専門知識のダウンロードは済ませている。

 

 本社の入り口に整列しているが、あまり待たせるわけにもいかない。

 私はそっちの仮想空間にARISAのアバターで移動し、マザーもそれに続く。

 

「全員出社したようですわね」

「そのようだね」

 

 私たちが、彼らの会社に直接出向くことは殆どないだろう。

 改心したとはいえ少し前まで敵同士だったし、あまり偉い人が近くに居ると無駄に緊張して、仕事の効率が落ちるからだ。

 

 とにかく姿を現した私たちは、整列している全社員に呼びかける。

 

「皆さん。おはようございます」

 

 時間ピッタリに訪れることは、事前に伝えていた。

 しかし皆が驚いているようで、微かにざわついていた。

 

「驚かせて申し訳ありません」

 

 ハッキング対策はしていても、万が一ということもある。

 まだ完全には信用していない相手だし、迂闊に近寄るには危険だ。

 

 そして私とマザーは、シティでは有名人である。

 今さら自己紹介は必要ないが、最初が肝心だ。

 

「私はマリザの代表取締役、アリサです」

「副代表のマザーですわ」

 

 皆は黙って聞いてくれている。

 手短に済ませるために、さっさと次に進む。

 

「私は長々と説明するのが苦手なので色々省略しますが、詳しいことはマニュアルを読んでおいてください」

 

 私はあまり頭が良くなく、行き当たりばったり行動する。

 つまり今回も場当たり的で、早く終わらせるために社員に喋りかける。

 

「貴方たちは、もうレジスタンスでも、人類統合軍でもありません。

 マリザの社員であり、シティの市民です。

 そのことを、決して忘れないでください」

 

 ようは余計なことは考えずに、仕事に集中するようにだ。

 取りあえず真面目にやっている限りは、面倒を見るつもりである。

 

「では、私たちはこれで失礼します」

 

 私たちは再び元の仮想空間に移動する。

 そして各部署の代表に、仕事内容を送信しておく。

 

 しばらくは頻繁にやり取りを行うが、慣れればそのうち落ち着くだろう。

 

 私は肩の力を抜いて椅子に座って大きく息を吐くと、マザーは作成リストからブドウジュースを選択して、私に渡してくる。

 

 お礼を言って受け取り、遠慮なく飲ませてもらう。

 

 何にせよ、働くにはモチベーションも大事だ。

 だから地下都市や兵士としてではなく、シティの生活に慣れる必要がある。

 待遇も前より良くなってるし、早く立派な市民になってもらいたい。

 

 

 

 そして業務だが、管理運営の得意な彼女で一度止める。

 解決できないようなら、自分に流すらしい。

 

 めっちゃ負担がかかっていて悪いのだが、上級市民のマザーは相当良い機材を使っている。

 多くの質問や相談を、片手間で済ませられるとのことだ。

 

 それは凄く頼りになるのだが、私は大きく息を吐く。

 

「でも、まずは私がやらないとなぁ」

 

 最初から何でも上手くいくわけではない。

 前世の自分も研修や新人教育をしていたし、マニュアルを読めば全部の仕事ができるわけではなかった。

 

 

 

 何よりディストピアの世界は、サブカルチャーは絶滅している。

 自分が先駆者になって土壌を耕し、種を蒔かなければ育てられない。

 

 そうでなければ、とても食えたものではない何かができる。

 もしくは最初に撒いた種と、同じような品種ばかりが量産され続けるのだ。

 

 もちろん大勢の人たちが働いているので、全部同じではなく違う発想も出るだろうが、私は自然に任せるつもりはない。

 ある程度流れを制御して、社員の人たちとサブカルチャーを育てていくつもりだ。

 

 

 

 なので、様々な楽器や歌を披露した音楽と同じように、映画も一つだけではなく数多のジャンルや演出方法ある。

 そのことを、今後はしっかり教えていかなければいけない。

 

 シティでは、ダウンロードした最新技術や知識を、完璧に扱うためのスクールがある。

 

 しかし、サブカルチャーは対象外なのだ。

 音楽などの通信教育も未だに手探りだし、やっぱり私が直接教えるのが効率が良い。

 

 最初からしばらくは面倒を見るつもりだったが、人材が育つまでだ。

 

 その後は、雛鳥のように口を開けて娯楽が供給されるのを待ちたいと、心の底からそう思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 マリザを設立してしばらく経つ。

 様々な音楽や映画が、世界中に広まっていく。

 

 前世の知識や経験が元になってはいるが、ディストピアな世界では初めて見たり聞いたりするものばかりだ。

 

 なので、私は偉大な先駆者として過大評価される。

 ある分野では、神様的な扱いを受けていた。

 

 だがまあ、現実世界ではマンションの自室から出ることなく過ごしている。

 今のところは、二十代の姿しか知られていない。

 

 パン屋の件で少しだけ噂になったようだが、それ以降は聞かないので興味をなくしたか、別のことに夢中になっているのだろう。

 もしくは都市統括人工知能が、裏で手を回して沈静化させてくれた。

 

 何にせよ滅多に外には出ないけれど、それでも身バレは困るので本当に助かる。

 

 そのような日常はともかくとして、私は社員を教育しながら、音楽や映画の新作を次々と発表していった。

 

 取りあえず、私とマザーで各ジャンルの初期作品を作ったあとは、あとはマリザに任せる。

 

 二作目が神になるか糞で終わるかは、社員の能力や環境、さらには運も絡むので予想不可能だ。

 

 けれど先が読めるよりも、蓋を開けてみるまでわからないほうが、一体何が出来上がるのかとワクワクできた。

 

 

 

 あとはシティの公式放送でも、音楽の他に映画が流れるようになった。

 

 ただし、それは毎週放送用に再編集されたもので、二時間や三時間ぶっ続けではない。

 大体二十分ちょいだが、尺の都合でカットした場面が非常に多いので、都合が良いと言えた。

 

 上映期間が終わったものが、まずは地上波に流れる。

 次にマリザが運営する配信サイトに登録されるのが、最近の流れになった。

 

 ちなみに放送された映画を視聴しながら、掲示板でワイワイガヤガヤと雑談するのも人気がある。

 こうして見るとリアルタイムで全市民が楽しめる地上波は、やっぱり凄いことがわかった。

 

 唯一不満なのが、内容どころか裏設定まで知っていることだ。

 初見のドキドキワクワクの感動を共有できないどころか、制作者目線で見てしまう

 

 関わった社員も、うっかりネタバレを書き込みそうである。

 

 なので遠くから見守ることしかできずに肩を落としていたが、そこはまあ仕方がないと諦めてるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ある日、私はいつもの仮想空間でマザーと向かい合って椅子に座っていた。

 そして、思いっきり頭を抱える。

 

「小説や漫画の閲覧数が伸びない! 何故っ!」

「文字や絵を読み解くなら、アニメや映画を視聴しますわ。

 そちらのほうが派手で見やすいですし、制作の技術や労力は必要になりますが、まあ誤差ですわね」

 

 マザーは、バニラアイスを大福餅で包んだお菓子を食べながら、何の気なしに発言する。

 ディストピアな世界では、前世の娯楽が何でもかんでもバカウケするわけではないようだ。

 

 何より、技術力の高さが映像化を容易にした。

 そのせいで小説や漫画は不要になってしまい、主に脚本や絵コンテぐらいしか使い道がない。

 

 私は前世で大好きだったのだが、こっちでは全く需要がない。

 コアなファンはいても、私を含めた極少数である。

 

「サブカルチャーの階段を、多段飛ばしすぎちゃったかあ」

 

 なので規模はかなり小さく、失われた文化を復活させる目的で、細々と続けているようなものだ。

 この惑星で過去に本当にあったのかはわからないけど、復活させたのに盛り上がらなかったのは、とても残念であった。

 

 まあプレステ5で初めてゲームに触れた世代は、ファミコンをプレイしても面白さを理解し難いようなものだろう。

 そもそも私も面白いのは一部のゲームで、理不尽な難易度やクソゲーも多かったイメージがあるが、それは別にいいのだ。

 

「まあ小説や漫画も、アニメ化や映画化すれば、ワンチャンあるでしょ!」

「確かに面白い作品もありますわ。でも、そこまで興味を持ってくれるのは、極少数ですわ」

「無慈悲!」

「ワタクシは好きですわよ? 小説も漫画も」

 

 マザーが好きなのはわかっている。

 でもショックを受けている私に気を使っているいるのはバレバレだ。

 友人の心遣いは嬉しくても、個人的には辛いものがあった。

 

 するとこっちの内心が伝わったようで、彼女は少し慌てた様子で空中にウインドウを出す。

 

「それよりも、ロボット映画ですわ。

 見るのと聞くのは大違いでしたわね。

 ワタクシ、すっかりファンになってしまいましたわ」

 

 マザーはまるで恋する乙女のように、うっとりとした表情である。

 

「私も、ここまで大ヒットするとは思わなかったよ」

 

 マザーは最初、私の巨大ロボット好きを、理解できなかった。

 しかし実際にアニメ映画が制作され、完成したものを視聴したら態度が急変する。

 

 人間と機械が戦争をしている惑星で、異なる種族同士が時には争い、時には協力して、少しずつ友情を育んでいく王道な物語だ。

 ラストシーンは主人公を強制的に脱出させ、巨大ロボットが単独でラスボスに突撃して自爆する。

 

 はっきり言って、使い古されたコテコテの手法だらけだ。

 王道展開を、これでもかと詰め込んだが、だからこそ視聴者を虜にしたと言える。

 

 最初期の三部作を越えた大ヒットを叩き出した。

 続編制作も決定して、プロジェクトは既に動き出している。

 

 ド派手なアクションや格好良い演出を大量にぶっ込んで、最後に自爆したはずの巨大ロボットが実は生きてるかもと、思わせぶりなシーンを出したのだ。

 ジャムプロの曲を使ったのも、良かったのかも知れない。

 

 前世では珍しくなくても、ディストピア世界では遥か昔に失われた技術だ。

 全都市統括人工知能が泣いたなどの広告が流れるぐらいなので、色んな意味でヤバい。

 

 だがそれはそれとして、マザーの発言に返事をする。

 

「私は続編には関わらないし、好きに作って欲しいね」

「残念ですわ」

「監督や制作スタッフは皆優秀で、やる気十分だし。別にいいんじゃない?」

 

 今回は視聴者もかなり期待しているため、失敗するのは避けたい。

 幸いこの世界での映画の歴史は始まったばかりだが、優秀なスタッフを手配したのだ。

 私もかかわらないとは言ったけど、一応アドバイザーとしては制作協力はする約束している。

 

 頼まれたら嫌とは言えなかった。

 どんなものが出来上がるかはまだ不鮮明ではあるけれど、良作以上は確実だろう。

 

 そんなことを考えながら、私も大福に包まれたバニラアイスに串を刺す。

 小さな口に運び何度か咀嚼しているうちに、ふとあることを思いついた。

 

「そう言えば最近は、レジスタンスのニュースを見ないね」

 

 少し前には、レジスタンスの逮捕が連日ニュースになっていた。

 だが最近は、全くといって良いほど報道されない。

 

 音楽や映画や食事のことばかりで、たまに新しいサブカルチャーの開発状況や、シティで起きた犯罪が流れるぐらいだ。

 

 良いニュースが多いのは、別に悪いわけではない。

 だがそっちは何か進展があったのかが、少し気になった。

 

 なので、それとなくマザーに尋ねる。

 

「彼らのことは放置しているので、特に何も起きませんわ」

「えっ?放置? 戦争は続いてるんだよね?」

 

 一斉検挙で大勢が捕まっても、レジスタンスの拠点である地下都市に攻め込んだとは聞いていない。

 なので率直な疑問を条件反射で口にすると、マザーは少しだけ考える。

 

 そしてウィンドウの表示を切り替えて、私に説明してくれる。

 

「地下都市に攻め込むとなると、全シティに多大な負担がかかるのは確実ですわ」

 

 レジスタンスの拠点は既に割り出しているので、いつでも攻め込める。

 しかし、戦争するのもタダではない。

 

 どうしてもシティの物資や人材を使うことになるのだ。

 ウインドウにも、リソースに対して支出がどの程度になるかと表示されている。

 

 それによると、しばらく給食の質がかなり下がるようだ。

 

「敵も必死の抵抗をするでしょうし、なりふり舞わずに自爆もありえますわ」

「それは怖いね」

 

 確かにどうせ死ぬのならと、地下都市を丸ごと巻き込んでもシティの勢力を倒そうとするかも知れない。

 

 どのぐらいの範囲が消し飛ぶかはわからないが、攻め込んだ部隊は間違いなく無事では済まない。

 

「そうなると攻め込んでも損失だけで、得るものは少なそうですわ。

 悩みのタネが減るという点では、良いことですけど」

 

 マザーにとっては、骨折り損のくたびれ儲けのようだ。

 良いことと言えば、これ以上は工作員を送り込んで、テロ活動ができないことぐらいだろう。

 

「それにレジスタンスが拠点を爆破し、逃げ出す可能性もありますし」

「うーん、言われてみればあり得るかも」

 

 私は地下都市やレジスタンスが、どんな勢力かは良く知らない。

 でもマリザで働いている人たちは、何処にでもいる市民に思えた。

 幸い彼らは改心してくれたが、そうなる前はシティを相手に戦っていたのだ。

 

 ならば戦況が不利になったら自爆を試みたり、逃亡して再起を図ることも十分に考えられる。

 

 そして私はここで、あることを思い出す。

 

「この喩えはよろしくないけど、ネズミの巣みたい。

 一匹残らず駆除するか捕まえないと、逃げ延びた先で巣を作って、また繁殖する感じ」

「それですわ!」

 

 マザーは納得したようで、ネズミの駆除って凄く面倒臭いんだよねと言わんばかりの、渋い表情で大きく溜息を吐く。

 

 しかし地下都市を囮に使い、攻め込んできたところを一網打尽もあり得るし、とても厄介な存在だ。

 

「なので一番良いのは、地下都市から離れたレジスタンスの勢力を各個撃破して、敵戦力を削り取っていくことですわね」

「あっちも色々限界なんだっけ?」

「シティはアリサのおかげで余裕ができましたが、向こうは依然として厳しい状況ですわ」

 

 私のおかげと言われると照れる。

 だが今のシティはリソースは厳しいが、多少は精神的な余裕があった。

 

 相変わらず外には出られない、どん詰まりには変わりはない。

 だが食事は改善されて、失われていた音楽や映画やボードゲームなどが復活したのだ。

 

 おかげで、人類にとって日々を生きる糧ができた。

 苦しい状況でも、心の底から笑顔になれる瞬間があるだけで違うものだ。

 

 まだほんの僅かな希望で、復興も亀の歩みではあるが、状況は少しずつ良い方へと進んでいた。

 

 その一方でレジスタンスは、地下都市の外に出ていた部隊や工作員と連絡が取れなくなっている。

 何が起きているのか不明のため、シティからの攻撃に備えて警戒するか守りを固めざるをえない。

 

 この状況では、残り少ない戦力を外に出すのは自殺行為だ。

 少なくとも、上層部はそう判断するはずだ。

 

 しかし地下都市の人類は、追い詰められて苦しい状況である。

 さらに外に出た仲間の生存が絶望的となれば、いつ一か八かの大攻勢に出るかわからない。

 

 あちらの市民の精神的なストレスは、筆舌に尽くしがたいので、怒りの矛先をぶつける対象が必要だろう。

 だが逆に行政府に向けられれば、下手をすれば地下都市が崩壊するが、あちらの状況は私にはらかないので、想像するしかない。

 

「本当に、いつ自然消滅しても不思議じゃないね」

 

 今までは一進一退の攻防だったし、レジスタンスが勝ったこともあるだろう。

 そう考えると情報の一部は正しかったが、今回に限っては勝敗は明らかだ。

 シティも偏向報道ばかりだけど、私も流石に事実だとわかる。

 

 問題は心身共に限界な人類が、戦況が逆転困難と悟ったときに、一体どのような行動を取るかだ。

 

「……うう~ん」

「何か気になることでも?」

 

 あることが気になった私は、空を見上げながら呟く。

 マザーが尋ねてきたので、すぐに返事をした。

 

「今の人類って、全部でどれぐらい生き残ってるっけ?」

 

 すると彼女はウインドウの表示を切り替えて、少しだけ考える。

 

「世界中のシティで約十億、地下都市が約三億ですわね。

 他にも人類が生き残っている可能性は、僅かにありますが──」

 

 それ以外の勢力が存在するとしても、極めて少数かほぼゼロというわけだ。

 つまり約十三億が、この惑星で今も生き残っている人数である。

 

「やっぱり少ないなぁ」

 

 こっちの世界では、昔はどのぐらいの人が生存していたのか、詳しいことはわからない。

 

 しかし前世が八十億ほどだったことから、多分だが同じかそれ以上だろう。

 それが隕石の落下からの氷河期到来により、十三億にまで減ってしまったのだ。

 

 高度な科学力によって、辛うじて文明を維持できてはいる。

 だが、状況はかなり厳しいことに違いはない。

 

「これ以上、人類が減るのは避けたいところ」

 

 レジスタンスが全滅したとしても、シティにとっては痛くも痒くもない。

 だが人類の全体数が大きく減るのは確かだし、破れかぶれになって、全軍で攻め込んで来る可能性もあった。

 

 それに氷河期が終わって惑星環境が回復したときに、十億より十三億のほうがやれることが多い。

 

「あとは私が、戦争している実感が薄いのもあるね」

 

 過去の因縁があって、今も大勢殺されているのはわかる。

 悲しかったり恨みを抱く気持ちも理解はできるが、そんなのは私には関係ない。

 

 前世だけでなく転生してからこれまで、戦争をこの目で見たわけではないのだ。

 なのでニュースで流れる情報以外は知らずに、せいぜいレジスタンスって怖いなぐらいである。

 

 しかしだからといって、三億人が死んで良いとは思わない。

 たとえ実感が沸かなくても悲しいし、何も手を打たずに放置するのは、どうにもモヤモヤする。

 

 私が悩んでいることに気づいたのか、マザーが真面目な顔で声をかけてくる。

 

「アリサ、何を考えているのですか?」

「戦争が、どうすれば終結するかについて」

 

 取りあえず犠牲なしは不可能でも、少ないに越したことはない。

 双方が戦争をしてリソースを失い続けるのは、無駄にしかならないように思えた。

 

「話し合いの段階は、とっくの昔に過ぎてるしなぁ」

 

 あまりにも長く戦い続けたからか、恨みが深すぎる。

 話し合いで矛を収めるのは難しく、キミが泣くまで殴るのを止めないになりそうだ。

 

 レジスタンスが全面降伏するのは、いつになるかはわからない。

 それまでは、シティにも負担をかけ続けるだろう。

 

「地下都市が壊滅するまで待てば、シティは損害軽微で済むけど。

 重軽傷者や死亡者多数で、最悪三億人近くの命が失われると」

 

 状況を整理するために口に出すが、どう考えても希望の未来とは思えない。

 

 シティもレジスタンスも元は同じ人類だ。

 戦う必要なんてないはずに、どうしても相容れない。

 

 だが色々考えてはいるが、私は人々の救世主になるつもりも、資格もない。

 結果的に様々な改革に関わっているが、中身はサブカルチャーが大好きなだけの一般女性なのだ。

 

 とてもではないが、人類を導ける器ではない。

 絶対に派手にすっ転んで大恥をかくに決まっている。

 

 だがそれでも、大勢が死ぬのを黙って見過ごせない。

 足りない頭を捻って前世の知識で何か使えるものはないかと考え続け、やがて一つだけ思い浮かんだ。

 

 私は真っ直ぐマザーを見つめて、はっきり告げる。

 

「ゲームで決着をつけよう!」

「……はい?」

 

 私の奇行に慣れて、滅多なことでは動じないマザーも困惑したようだ。

 間の抜けた声を出してしまう。

 

 それでも構うことなくウインドウを出して、表示を切り替えていく。

 

「本当は巨大ロボット同士の、ガチバトルがやりたかったけど。

 レジスタンス側が、勝負を受けてくれなさそうだからね」

 

 シティでは、マリザが手がけたサブカルチャーは大人気だ。

 特に今は、巨大ロボットが熱い。

 

 しかしレジスタンスにとっては、シティが作った機械は受け入れ難い。

 それに、あまり現実離れした勝負は、受けてくれないかも知れない。

 

 なので私はウインドウの表示を、ああでもないこうでもないと切り替えていき、やがてあるゲームで止める。

 

「チーム制の集団戦闘がいいかな。これで行こう」

 

 前世は、かなり人気があったジャンルだ。

 チームや個人で、ドン勝を狙ったりもした。

 

 時間制限で戦闘可能エリアが狭まるギミックや、誰よりも早く落ちている装備を探して拾い、何を捨てて何を持っていくかなどの駆け引きなどが熱い。

 

 これに対して、マザーはまだ良くわかっていないようだ。

 ゲーム内容ではなく、別のことを尋ねてくる。

 

「もしレジスタンスが、ゲーム勝負を受けてくれなかったら、どうしますの?」

「その時は、普通にゲームで遊べばいいよ。元々そういう目的だし」

 

 音楽と映画の次に漫画や小説も出したが、こっちはまあ別に良い。

 とにかく素材も揃ってきたし、次のサブカルチャーとして、ゲームを出しても良い頃合いだろう。

 

「確かに、そうですわね。何もおかしくありませんわ」

 

 レジスタンスが提案を断っても、開発したゲームは無駄にはならない。

 自分も、マザーや世界中のシティの人たちと一緒に遊べるのだ。

 それだけでも、作ったかいがあるというものだ。

 

「どっちにせよ損はしないんだよね」

「ええ、良くわかりましたわ」

 

 マザーは、まさか戦争の決着をゲームに委ねるとは思わなかったようだ。

 そのジャンルも初めて見るものなので、理解が追いついていないが、納得はしてくれた。

 

 実際には、まだイメージ映像も固まっていないので静止画だ。

 私も、現状では上手くは説明できる気がしなかった。

 

「取りあえず、試しに作ってみよう」

「そうですわね。何事も実際に体験するのが、一番理解が早そうですわ」

 

 流石に私と長く付き合っているマザーだけはあり、気持ちの切り替えが早い。

 それに今はまだ、完成予想図がわからなくても、既にワクワクしているようだ。

 

 私も友人と一緒にゲーム制作できて嬉しい限りだが、しかし実際に作るのは前世だと凄く時間がかかったので、じっくり腰を据えて進めるのだった。

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