ディストピアのネット友達が優秀すぎる   作:名無しのペロリスト

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勝ちましたわッ! 第一部完!

<人類統合軍>

 私は人類統合軍の司令官で、ある地下都市を治めている。

 議会政治なので各地の代表が通信を行い、互いの意見をすり合わせ、今後の方針を決めていく。

 

 古いケーブルやいくつも中継点を通してネットワークに接続しているので、シティにも容易には探知されない。

 

 だが外に出ていた人類統合軍と、連絡が取れなくなる。

 捕まったのか殺されたのかは不明だが、地下都市の場所や通信ケーブルなどのことも知られてしまった可能性があった。

 

 幸い今のところは機械たちに動きはなく、地下都市にも異常はない。

 

 何とも不気味だが、外からの情報が入って来ない。

 しかし従来の設備がこれまで通りに使えるなら、一先ずはそれで良しとする。

 もちろん警戒は続けるし、見張りの人数も増やす。

 

 

 

 私は執務室から人類統合軍専用のネットワークに接続し、大会議室の仮想空間に入る。

 椅子に座った状態で、各地の司令官と顔を合わせた

 

「民には隠してはいるが、それもいつまで保つか」

「機械共は一体、何を考えているのだ」

 

 現実の自分は、執務室の椅子に座っている。

 3D映像はしっかりトレースしているようで、仮想空間でも深くもたれて重い溜息を吐く。

 

 そして、他者の意見に耳を傾ける。

 

「やはり地下都市が手薄になるのを、見計らっているのではないか?」

「可能性は高いな」

 

 地下都市には多数の防衛システムが配置されている。

 だが本気で攻めてきた機械の軍勢を殲滅できるほどではなく、先にこちらの弾薬やエネルギーが尽きるほうが早いだろう。

 

 小型艦の武装をあてにしたところで、焼け石に水だ。

 もし真っ向勝負を受ければ、リソースが少ない人類統合軍が圧倒的に不利になる。

 

 正直、厳しいと言わざるをえなかった。

 

「これ以上、小型艦を失うわけにはいかん」

「その通りだ。奴らはきっと外で待ち伏せし、地下都市から離れたところを襲う魂胆だろう」

 

 こちらのネットワークも統括AIに制御させているが、最終決定権は人間が持っている。

 また我々を裏切らないように多数の制限をかけたり、強固な攻性防壁に守られているので、たとえ存在がバレても容易に干渉することはできない。

 

 とにかく私は、同意とばかりに頷く。

 他の司令も同じ考えのようで、次々と意見が出る。

 

「我々が苦しいときは、敵も苦しいのだ!」

 

 地下都市だけではない。

 地上のシティも物資や人材が限られている。

 攻勢に出れば、市民に多大な負担をかけることになるのだ。

 

「機械共に屈するわけにはいかん!」

「人類の栄光のために!」

「「「人類の栄光のために!!!」」」

 

 そう言って各地の司令官は、大きな声をあげる。

 だが、やはり状況はあまりよろしくない。

 

 私たちにできるのは、地下都市に亀のように引き籠もることだけだ。

 今までは小型艦を派遣し、シティの情報を得たり、古い機械や資源を持ち帰ってこられた。

 

 しかし、現在はいつ機械たちが攻め込んでくるかわからない。

 防衛に力を使わざるをえなかった。

 

 そして今までは、大本営発表で人類統合軍が有利だと宣言し続けてきた。

 だが今回に限っては圧倒的に不利なので、隠し通すのは難しい。

 

 悪い噂を流す者は、見つけ次第に逮捕して処理しているが、市民の不満は溜まる一方だ。

 

 このままでは、いつか爆発するのは目に見えている。

 今までは彼らの怒りの矛先をシティに向けることで、治安や統率を維持していた。

 

 だが今は地下都市に籠っている状況で、それもままならない。

 非常に危険であり、これでは敵に勝てないことは良くわかっていた。

 

 なので連日会議を行っているものの、打開策は一向に出せずに頭を抱える。

 

 また今日も何の進展もなくお開きになるかと思いきや、人類統合軍のネットワークが不正アクセスを感知し、アラームが鳴り響く。

 

「何事だ!」

「まさか! 敵か!」

 

 我々が混乱する中で、大会議室にドレスを身にまとう一人の美女が姿を現す。

 

「何者だ! どうやって侵入した!」

 

 彼女は部屋の中央に優雅に舞い降りる。

 微笑みを浮かべて、周りをぐるっと見渡した。

 

「どうやら全員集まっているようですわね」

 

 十中八九で敵に間違いないが、どうやら攻性防壁を突破してきたようだ。

 そして仮想空間では通常の銃火器で攻撃しても意味はなく、厳重な警備を抜けてきた相手に我々が勝てるとも思わない。

 

 一番確実なのが人類統合軍の統括AIを制御している者たちに、外からこの美女を排除させることだが、先程から呼びかけているが反応がなかった。

 

 そもそも外と連絡が取れないので妨害されているようで、私や冷や汗をかいてしまうが、血気盛んな司令官の一人が大声で叫ぶ。

 

「質問に答えろ!」

「……うるさいですね」

 

 謎の美女がそう言うと、先程喋った司令官の口が閉ざされる。

 さらには糸で縫い合わせられてしまう。

 

「むぐ!? ぐむうーっ!」

 

 それを見た私たちの行動は早かった。

 すぐさま権限を使用して彼女を仮想空間から追放、もしくは消去しようとする。

 

「ワタクシを消そうとして無駄ですし、ログアウトもさせませんわ」

「なっ、何だと!?」

 

 確かに先程から、思考操作でシステムに働きかけている。

 だが全く反応しないし、外部との連絡も取れないのだ。

 

 私たちは大いに動揺するが、目の前の美女は妖艶に笑っている。

 

「流石に人類統合軍のメインシステムを支配するのは難しいですわ。

 ですが、仮想空間を一時的に切り離すぐらいなら可能ですわ」

 

 彼女の言葉が本当なら、私たちは仮想空間に閉じ込められたことになる。

 現実に戻るには手動でネットワークを切断しないといけないが、恐らくダミーの情報が流されているはずだ。

 

 外から観測している者たちは、異常なしと判断しているだろう。

 

 ゆえに帰る手段はあっても、簡単に実現できるものではない。

 それに目の前の美女が、他に何か手を打っていないとも限らなかった。

 

「長話をする気はありませんし、早速本題に入りますわね」

 

 敵であることが確定した彼女に、この場の全員が警戒する。

 だが、その場から一歩も動けない。

 

 逆転の機会が来るのを待つために、黙って話を聞く。

 

「実は今度、ある大会を開くことになりましたの。

 そこで人類統合軍の皆さんに、参加のお誘いをと」

 

 すると大会議室の中央に、巨大な3D映像が映し出された。

 私は無意識に、そこに書かれている文字を読み取っていく。

 

「第一回総合ゲーム大会。優勝賞品は──」

 

 だが彼女が喋るよりも先に、私たちは大声を出す。

 

「全シティへの命令権だと!?」

「人類統合軍が勝利したらですわ。

 ただしシティが勝てば、貴方たちには全面降伏してもらいますわ」

 

 説明書きにも、そう記載されている。

 だがゲームで戦争の勝敗を委ねるなど、とても正気とは思えなかった。

 

 本当に何を考えているやらだが、その提案を通した都市統括人工知能も、とうとう壊れたのではと疑ってしまう。

 

「この提案をしたのは、ワタクシたちは決して負けないと、信じているからですわ。

 もちろん、不正をする気はありませんわ。正々堂々の勝負ですのよ」

 

 はっきりと告げる彼女に、迷いは一切なかった。

 

「大会やゲームのデータは渡しておきますわ。

 では、ワタクシはこれで失礼しますね」

 

 美女は最後に、一礼して姿を消す・

 口を縫い合わされた司令官も、ようやく喋れるようになった。

 

 仮想空間なので呼吸をする必要はないが、彼は冷や汗をかいて大きく息を吸い込んでいる。

 

 あとに残されたのは困惑した我々と、良くわからない大量のデータだけだ。

 

「……罠の可能性がある」

「そうだな。何か仕込まれているかわからん」

「念のために我々も、スキャンしておいたほうが良いだろう」

 

 取りあえず、そういうことになった。

 本当に何を考えているのかわからない女だった。

 

 私たちは気持ちを落ち着けて、謎の美女が置いていったデータをスキャンしながら話を続ける。

 

「それで、提案は受けるのか?」

 

 これに対して、明確な答えは誰も持ち合わせていない。

 しばらく沈黙したままだったが、ここで私が大きく息を吐く。

 

 正直に言うと気は進まないが、一番に声を出す。

 

「受けるしかないだろう。現状は八方塞がりなんだ。

 地下都市に籠もって守りを固めても、遅かれ早かれ立ち行かなくなるのは目に見えている」

 

 市民の不満が限界を越えれば爆発し、統治している人類統合軍に向けられるのは目に見えている。

 なのでそうなる前に機械共に決定打を与えて、矛先をそらさないといけない。

 

「奴らが約束を守る保証はないが、それはこっちも同じだ」

「たとえゲームに負けても、シティ側が不正を行ったに違いない」

「ああ、我々は実力で負けたわけではないのだ」

「うむ、何も問題はあるまい」

 

 約束を破る前提だが、その場合は卑怯な手を使われて負けたのだと主張すれば良い。

 逆にゲームの大会で勝利すれば、人類統合軍がシティを打ち破った証明にはなる。

 

 ここでシティ側が契約違反をすれば、市民の怒りの矛先は変わるのだ。

 なので参加するメリットは大きい。

 

 本当に願いを聞いてくれる可能性もゼロではないし、罠が仕掛けられいるかどうかを念入りに調べないといけないが、やってみる価値は十分にあるのだった。

 

 

 

 

 

 

<元レジスタンスの少年>

 僕たちは少し前まで人類統合軍に所属していたが、今はシティの市民になり、マリザという企業で働いている。

 

 家族も向こうに居るし、かつての仲間たちと戦うことに、何も思わないと言うと嘘になる。

 

 でもアリサ様が言うには、上手くいけば犠牲者を出さずに戦争が終わるらしい。

 確かに仮想空間のゲームなので、人が死んでも現実への影響はない。

 

 それに優勝チームの勢力が、負けたほうに降伏を迫ることができる。

 

 シティは人類統合軍の全面降伏をあらかじめ宣言しているけれど、向こうは挑戦を受け、勝ってから考えるらしい。

 

 議会政治なので急には決められない。

 だが取りあえず、逃げずに受けてくれるのはありがたい。

 

 僕たちも仲間同士で殺し合うのは嫌だし、今のシティは昔とは違うのだ。

 

 しかしアリサ様の統治下に入れば幸福に生きられると伝えても、決して耳を貸さないだろう。

 

 なので、まずは大会に勝利することで、交渉の席についてもらう。

 いきなり全面降伏しなくても良いので、取りあえず話ができるようにするのだ。

 

 たとえ敗北を認められずに約束を破るとしても、口を開かずに一方的に攻撃はして来ないだろう。

 

 その時は、かつては仲間だった僕たちが説得することになる。

 それでも救いの手を拒んだら、人類統合軍に完全に見切りをつけることになる。

 

 巻き込まれる仲間たちや家族のことは残念だけど、愚かな決断をした以上、シティに滅ぼされても仕方がないと割り切っていた。

 

 

 

 そんな事情ではあるが、僕たちもゲーム大会に参加しようと応募する。

 何しろもし勝利すれば、戦争が終結するかも知れないのだ。

 

 我こそはと名乗りをあげる者が殺到するのも、仕方のないことだった。

 もし優勝すれば英雄に、歴史に名を刻むことになる。

 

 シティの市民も本気だが、もちろんそれは僕たちもなので負けていられないのだった。

 

 

 

 なおゲーム内では、完全な生身で戦うようだ。

 思考速度の差も限りなくゼロになるため、プレイヤースキルがものを言う。

 

 艦長たちと五人で一チームだが、僕は果たして勝ち残れるか少し不安だ。

 

 然るべき日に予選を何度か行い、上位百チームが本戦への出場権を得られる。

 

 人類統合軍も同じ数だけ選手を出してくるし、向こうも当然勝つ気だ。

 決して油断はできない。

 

 

 

 ちなみに今回のマップは、放棄されたシティだ。

 十チームずつ、両陣営に分かれて戦い、敵の旗を全て奪うか、時間経過で旗の所有数か戦歴が優れている陣営が、勝利するというルールだった。

 

 ただし、短距離通信は同じチームでしか使えない。

 なので普通の会話も割と重要だったりと、戦略性の高いゲームである。

 

 人気なのは生き残りを賭けた個人のバトルロイヤルや、同種のステージや戦闘システムでのチーム戦だ。

 しかし、それは今回のシティvs人類統合軍の大会形式ではないため、落選したり大会に不参加の人たちが遊んでいる。

 

 

 

 僕たちは陣営の片方が全滅するか、旗を全部奪えば試合終了のモードをプレイしているが、わかってはいたがなかなか難しい。

 

 だが仮想空間に響き渡るアリサ様の声を聞いていると、必ず勝てそうな気がしてくる。

 

「皆さんのサポートを行うオペレーター。アリサです。よろしくお願いします」

 

 それぐらい、彼女の成した偉業が大きい。

 きっとこれからも、人類救済を続けていくだろう。

 僕たちも全力で協力させてもらうので、やはり絶対に勝たなければいけない。

 

 ちなみに、本当にアリサ様が喋っているわけではない。

 元の音声を参考に、AIで作成されている。

 それをゲームの進行状況に合わせて、逐一出力していた。

 

 他にもボイスは、バンドメンバーやマリザの社員の中から選べる。

 ユーザーに圧倒的に人気なのは、人類救済の女神なのは明らかだった。

 

 さらにオペレーターは、AIで会話の受け答えを行う。

 自分好みに育てるのも楽しみの一つである。

 

「ポイントβに支援物資を投下しました。回収には十分に注意してください」

「艦長!」

「ああ、行くぞ! ただし敵部隊も狙っているかもしれん! 総員、警戒しつつ前進!」

「「「了解!!!」」」

 

 艦長の号令で、僕たちのチームは支援物資が透過されたポイントβに向かう。

 幸い飛行する乗り物を入手していて、エネルギーも満タンまで補充している。

 

 これが破壊されない限り、ライバルよりも一歩リードしているのは確実だろう。

 だが道を走っているとと、突然何処からか電磁パルス銃を連続で撃ち込まれる。

 

「敵の攻撃だ! 一体何処から!」

「不味い! エンジンに直撃した!」

「ちくしょう! 腕の良いスナイパーだな!」

 

 こうなった以上は、乗り物は操縦が不可能になる。

 時間経過で爆発するので、早く離れないといけない。

 僕たちはすぐに扉を開けて飛び降りて、艦長の指示に従う。

 

「全員! 建物の中に飛び込んで身を隠せ!

 狙撃手に狙われているぞ!」

 

 命令通りに全力で走る。

 僕のスタミナが減っていくが、これがゼロになると、しばらくは早歩きがせいぜいになる。

 

 上手く調整するのがゲームに勝つためのコツだ。

 

 やがて放棄した乗り物が派手に大爆発する。

 弾が当たる前に何とか建物の中に入ることができた。

 

 ずっと昔に放棄されて荒れ果ててはいるが、遮蔽物にはなる。

 それに物資が見つかるかも知れない。

 

 僕たちはそこで身を潜め、狙撃を行っている敵を探す。

 

「しかし、本当に良くできてるな。まるで本物の戦場だ」

「艦長も、似たような戦いを?」

「いや、そうではないが、かなりリアルに作られているぞ。

 おまけにゲーム性も高いから、大会に備えての練習試合も普通に楽しめるからな」

 

 説明を聞いて納得する。

 僕も艦長たちとチームを組んで戦うのは楽しいし、もし最後まで生き残ってランキング一位になれたら、踊りだしたくなるぐらい嬉しくなる。

 

 取りあえず、敵の射線は通っていないようだ。

 一休みしてスタミナを回復させられる。

 

 その間は、艦長や他のメンバーが建物内を探索し、手つかずの物資箱を発見した。

 こういう所がゲーム性らしく、僕も中に何が入っているか気になり、ワクワクしてくる。

 

「だがもし、俺たちが大会で負ければ、このような戦火が広がるのかもしれんな」

 

 やがて物資を回収し終えた艦長が、僕に目配せした。

 意図を察して素早くアイテム欄を開き、続けてスモークグレネードを取り出す。

 

「恐ろしいほど正確な射撃だ! 恐らくアレは、雪原の狼だろう!

 それに旗の数的に俺たちが不利だ! いつまでも足止めされるのは不味い!」

 

 最終的に確保した旗が多いほうが勝利となるが、戦歴でもポイントが増減される。

 どちらを優先するかはチームによるけれど、足止めされるのは一番不味いパターンだ。

 

 そして雪原の狼とは僕は出会ったことはないが、アバシリシティのエースとは聞いたことがあった。

 

 模擬戦なので敵になっているけど、本戦では味方になるのだ。とても頼もしく感じる。

 しかし、このまま選手が増え続けると出場枠が足りなくなり、席の奪い合いになりそうだ。

 

 人類統合軍はどうかはわからないが、シティは大会に出たい者は大勢居るのだ。

 

 とにかくスモークの起動ボタンを押したあと、敵の射線を遮る位置に投げる。

 狙い通りの場所に落ちて、地面を少しだけ転がった。

 

「行くぞ! 全員付いて来い!」

「「「了解!!!」」」

 

 僕たちが声を上げて場所を移動するのと、スモークが焚かれるのはほぼ同時だった。

 慌ててスナイパーライフルが撃ち込まれたが、煙で姿がよく見えないようだ。

 近くの地面に銃痕が残るが、外してくれて助かった。

 

 痛みや部位欠損などはないが、防具のない場所に当たれば大ダメージを受けて、最悪倒れてしまう。

 這うことはできるが、物陰に移動するのも一苦労だ。

 

 制限時間がゼロになる前に、仲間に復活させてもらわなければ死亡判定だ。

 ゲーム内では全員の初期能力は同じなので、少年兵である僕でも役立てている。

 

 足を引っ張るのは嫌なので、必死に食らいつく。

 だがむしろ若いほうが物覚えが良いと言うか、吸収したり適応できるようだ。

 

 現実はともかく仮想空間なら、他の仲間と同等の働きができるようになるまで、それ程時間はかからないのだった。

 

 

 

 

 

 

<アリサ>

 ゲーム大会を開くと告知して、少しだけ時が流れる。

 シティと地下都市は、基本的に拠点から動かない。

 

 なので各所に中継機を設置し、ネットワークを通じてゲームを行うのだ。

 わざわざシティから離れる必要はなかった。

 

 そもそも外は、氷点下を余裕で越えているのだ。

 地下道も強化服を着用するか、サイボーグ化した人間でなければ生き残れない。

 乗り物内なら暖房設備があるが、もし停止したら終わりだ。

 

 そんな危険な外には、無人機ぐらいしかまともに動けない。

 それすら降り積もる雪に埋もれたり、凍って行動不能もあり得るため、あまり出歩きたくはない。

 

 

 

 そのような事情はともかくとして、ゲーム大会は無事に開催された。

 

 レジスタンス側も、渡りに船だったようだ。

 約束を破る前提だとしても、シティ側に勝利したという実績で市民のガス抜きがしたかったのかも知れない。

 

 ただし、そう上手くはいかない。

 蓋を開けてみれば、私たちの圧勝であった。

 万が一でも負けたらどうしようと思っていたが、勝ててよかった。

 

 

 

 そしてここで私は、もし勝敗に納得できなければ何度でも挑戦を受けると、レジスタンスに向けて発表した。

 

 何故こんなことをするかと言うと、敗者が負けたことに納得していないからだ。

 シティとレジスタンスは敵同士であり、予想通り物言いをつけてきた。

 

 なので、また勝負しましょうと提案した。

 仮想空間内だが、最後に両選手同士が握手をして笑顔で別れる。

 

 向こうは明らかに戸惑っており、返事が来るのに時間がかかった。

 でも最終的には受け入れてくれたので、取りあえずはヨシとする。

 

 

 

 いつまで続くかわからないけど、第一回ゲーム大会が終わった。

 例の仮想空間で、私とマザーは向かい合って座る。

 

 そして、いちごオレをストローで吸いながら、のんびりお話していた。

 

「アリサは策士ですわね」

「私が策士? 冗談でしょ?」

「いえ、本気ですわよ」

 

 私は青空を眺めながら大きく伸びをして息を吐き、マザーに返事をする。

 

「私は基本的に行き当たりばったりで、その場凌ぎの考えしかできないよ。

 とても策士なんて呼べないね」

 

 そう言って、わざとらしく肩をすくめてみると、マザーは神妙な顔で口を開く。

 

「ですが結果的に、レジスタンス側はアリサの提案を受け入れましたわ。

 戦争終結は遠くても、両陣営が交渉のテーブルに近づきましたわ」

 

 ゲーム大会を、受けるしかなかった前とは違う。

 レジスタンスは、負けても再挑戦の機会があるとわかった。

 多少は市民のガス抜きにはなったし、今回戦ったのは同じ人間同士だ。

 

 彼らが敵視している都市統括人工知能に洗脳されたと思われる者たちだが、実際に対峙してわかったはずだ。

 

 シティの者たちは、誰にも操られてはいない。

 自らの意思で戦場に赴いていて、守りたい世界のために戦っているのだ。

 

「けど、降伏は受け入れてはくれなかったけど?」

「気持ちの整理をする時間も必要ですわ。

 人類にとっては、大きな一歩でしょうし」

 

 上級市民や人工知能が、何を考えているかは詳しくは知らない。

 まあ、別に興味もないけど、レジスタンスとの戦闘で被害が出ないに越したことはない。

 

 向こうも別に罪もない市民を苦しめたいわけではないだろうし、少しずつでも双方が納得できるラインを探していけば良い。

 

 

 

 それに、ゲームは大人気になったのだ。

 暇を持て余した上流階級が、苛烈なランキング争いをしている。

 

 この間は一位の人がニュースでインタビューを受けていた。

 

「ですが、もし負けたらどうしますの?」

 

 マザーが質問してきたので、私は少し考える。

 

「その時は、前に勝った分を取り消して、プラマイゼロにすれば良いんじゃない?

 何も要求しなかったんだしさ」

 

 一度目の大会は、また相手がゲームで慣れていなかったので圧勝できた。

 しかし、次はこうはいかないだろう。

 敵も徹底的に研究して、対策してくるのは容易に予想できる。

 

「だからこそ、ゲームは面白いんだよ。

 向こうが善戦すれば、多少は市民の溜飲は下がるだろうし」

 

 ゲーム大会がいつまで続くかは、私にもわからない。

 でもたとえ亀の歩みでも、講和に向けてゆっくりと前進はしているはずだ。

 

 何度も続けていれば、話し合いの余地が生まれる。

 いつかは和平交渉を席についてくれるかも知れない。

 

「そのためにも、無人機を地下都市の周辺から引き上げて欲しいんだけど」

「しかしアリサ。警戒を緩めれば、レジスタンスが活性化しますわよ?」

 

 またシティに、破壊工作を仕掛けてくると思っているようだ。

 だが私は、すぐに首を横に振る。

 

「今のレジスタンスには、攻め込むだけの余裕はないよ。

 それに昔のシティと違って、不審者を見かけたら、すぐに通報してくれるしね」

 

 レジスタンスは船や多くの仲間を失い、いつ暴動が起きてもおかしくない。

 存続すら危ぶまれているが、逆にシティは昔と違って活気がある。

 市民は、やる気や希望に満ちていた。

 

 今の生活や命を捨ててまで、都市統括人工知能や上級市民に反旗を翻そうという者は、極少数だろう。

 

 それに破壊工作などしたら、レジスタンスが市民の怒りを買うのは確実で、余計にやりにくくなる。

 

「もし気になるようなら、たまに様子を見に行けば?」

 

 無人機は、たまに地下都市の周囲を巡回させる程度に留めて、シティのリソースを節約するのだ。

 長らく滞っていた拡張工事も可能になるだろう。

 

 たまに良からぬ動きをしていないか監視するのも良いが、戦闘行為は和平から遠ざかる。

 なるべく避けるのが良いだろう。

 

「本当にアリサは凄いですわ」

「いやいや、マザーのほうが凄いからね」

 

 マザーは上級市民で。情報処理能力がずば抜けている。

 私はせいぜいたまに企画の草案を出したり、彼女の相談に乗ることしかできない。

 

「何にせよ、一朝一夕にはいかないし、しばらく様子見だね」

「ええ、いつか本当に平和になるといいですわね」

 

 そう言って私とマザーは大きく息を吐き、青空を眺める。

 自分が生きているうちに、和平が実現するかは不明だ。

 

 でもディストピア世界での人生は、まだ始まったばかりだった。

 

 これからも色んなことがあるだろうが、ネット友達と一緒ならきっと乗り越えられる。

 口に出すのは恥ずかしいので、心の中で思うのみに留めておく。

 

 それでも新しい飲み物とお菓子を用意して、いつも通りに気楽な会話を楽しむのだった。

 




アリサたちの活躍は、これからも続きますが完結です。
作者的には書きたいことは大体書けましたし、執筆モチベが尽きたので、ちょうど良いかなと。

お読みいただき。ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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