ディストピアのネット友達が優秀すぎる   作:名無しのペロリスト

6 / 7
最近引っ越しが多くない?

<ジョン>

 俺の名前はジョン。

 レジスタンスや暴徒たちに、雪原の狼と恐れられるサイボーグ戦士だ。

 

 そんな自分が、まさかの急な配置換えを命じられる。

 最前線からシティへの異動になるとは、予想外にも程があった。

 

 幸いなのは、指揮していた部隊も同様の命令を受けたことだ。

 少々生意気だが、気心の知れた奴らである。

 知らない者や新人が多いと上手くいかない場合があり、連携や任務遂行にも支障が出る可能性があった。

 

 さらにそれだけではなく、他の部署からも優秀な人材をかなり引き抜いてきたようだ。

 

 非常にバランスの良い編成になっていた。

 人員的にあらゆる作戦が実行可能で、もはや小規模の軍隊と言える。

 

 アバシリシティで、もっとも優秀な軍人たちと言っても過言ではない。

 それが中央ではなく、外周付近の下級市民の区画に集結することになったのだ。

 

 俺もそうだが、部下たちも皆困惑していた。

 

「隊長、これから一体何が始まるんスか?」

「さあな。皆目見当もつかん」

 

 部下の疑問に、肩をすくめて答える。

 可能性として高いのは、レジスタンスとの大規模な戦闘だ。

 しかしアバシリシティで、奴らの拠点を発見したという報告は受けていない。

 

 外周区画のとあるマンションが我々の下宿先だが、作戦会議は別の場所で行う。

 近くに家主が引っ越したばかりの古い家があるので、俺たちはそこを買い取り、仕事の拠点として使うことなった。

 

 都市統括人工知能からも、そのような説明を受けている。

 

 権限的には上級市民のほうが上だが、今の時代は完全に形骸化していた。

 

 何故なら、彼らは自分たちに都合の良い政治しかしないからだ。

 腐敗や不正や横領だらけで、正義を愛する者も居るが、極少数である。

 ゆえに、健全な運営は期待できない。

 

 それにとても長い時間、規制や排除を積み重ねて、機械の判断に委ねてきた。

 人はいつからか自ら考えて決断し、新しく創造する力を、完全に失ってしまっていた。

 

 そしてレジスタンスは、機械や上級市民の支配からの脱却を掲げている。

 だが彼らも実際には、管理運営は人工知能に頼りきっていた。

 

 ただでさえ人類の未来は暗くて、八方塞がりなのである。

 判断を下す指導者たちを排除したあとには、何も残らない。

 きっと人類は、緩やかに滅びていくだろう。

 

 シティでは、上級市民が最上位で威張り散らしている。

 だが現実は、都市統括人工知能が全ての業務を取り仕切って、全世界の管理と運営を行っていた。

 

 もはや誰だろうと、容易に口を挟める存在ではない。

 たとえセントラルシティの上級市民で、もっとも偉い議員であってもだ。

 

 もし彼、もしくは彼女の障害になるようなら、都市には不要と判断されて、即刻首をすげ替えられるだろう。

 

 この世に神がいるとすれば、それは都市統括人工知能だ。

 俺も含めて、他の市民もそう答えるだろう。

 

 その気になれば、俺たちを容易く殺せるからだ。

 わざわざ命令したり都市の環境を操作しなくても、脳に埋め込んだチップに干渉し、暴走させれば、その時点で廃人確定である。

 

 

 

 なので、レジスタンスが危険視するのも、ある意味では納得できた。

 しかし、それでも都市統括人工知能に縋るしかないのが、この世界の現状だ。

 

 上層部が腐っていれば、人類は滅亡への道を歩んでいく。

 上級市民の間では、不正や横領が当たり前に行われている。

 

 現時点では辛うじて踏みとどまっているのは、統括AIがギリギリ崩壊を食い止めているからだ。

 

 いわば人類の最後の希望だが、状況を改善するには至らない。

 しかしもし破壊されたり暴走すれば、全てのシティは機能停止し、崩壊が始まるのは目に見えていた。

 

 俺がそんな不吉なことを考えていると、どうやら時間になったようだ。

 

 民家の一室を改造した作戦会議室の中央に、一人の成人女性が立体的に投影される。

 

「こんにちは。皆さん。ワタクシは都市統括人工知能。

 ですが、その名前は少し長いですわね。

 親しい友人にはマザーと呼ばれていますし、それでお願いしますわ」

 

 まさかの女性だった。

 いや、そもそも人工知能に性別はない。

 

 何を思って、そのような見目麗しい青髪の令嬢で現れたのやらだ。

 さらに人工知能なのに、人間の友がいることが判明した。

 

 俺たちは大いに混乱するが、彼女は構わず続きを話す。

 

「しかし貴方たちとは、そのような関係ではありませんし、仲良くもしなくて結構ですわ。

 なので、呼び捨ては止めてくださいね?」

 

 俺たちが困惑している間にも話が進んでいくが、何とか返事を口に出す。

 

「りょっ、了解致しました。マザー様」

 

 俺は部隊長として、マザー様の指示に従う。

 流石に情報を整理する時間が足りず、少しだけ口ごもってしまった。

 

 だが、彼女の怒りを買うことはない。

 よろしいと満足そうに頷いて、早速命令が出される。

 

「貴方たちには、ワタクシの友人を守ってもらいますわ。

 ただし、決して気づかれてはなりません。極秘任務ですわ」

 

 極秘というのは、なかなか難易度の高い。

 護衛対象の立体映像も隣に表示されたが、こちらも女性だ。

 

 そしてマザー様よりも、ずっと若かった。

 少し地味だが可愛らしい黒髪の女性のようだ。

 

 しかしそれを見た俺は、レジスタンスの破壊活動で失った娘を思い出す。

 護衛対象と同じぐらいの年齢だったが、アバシリシティで爆破テロが行われた時に、運悪く巻き込まれたのだ。

 

「アリサは、極めて重要な存在ですの。

 ワタクシは全シティ……いえ、全人類の命運を握る存在だと、予測していますわ」

 

 あまりのスケールの大きさに、この場の全員が大いに動揺する。

 会議室全体がざわついた。

 

 

「そっ、それ程なのか!?」

「おいおい! とんでもない嬢ちゃんが現れたもんだな!」

 

 人類の命運を握る存在と聞かされれば、冷静でいられるわけがない。

 

 だからこそ俺は、姿勢を正して手を上げる。

 

「マザー様にお尋ねしたいことがありますが、よろしいでしょうか!」

「ええ、構いませんわよ」

 

 発言を許可してもらった。

 他の者たちも同じことが気になっているはずだ。

 なので俺は、手短に疑問を伝える。

 

「何故、護衛対象は外周付近に住んでいるのでしょうか!

 中央区画! もしくはアバシリではなくセントラルシティに移送したほうが、安全に暮らせるはずです!」

 

 わざわざ治安の悪い。外周付近で生活する必要はない。

 中央区画か、もっと言えばセントラルシティに移動すれば、警備システムも万全だ。

 俺たちも護衛しやすくなるので、さらに安全になる。

 

 マザー様が命令すれば従うだろうし、そちらのほうが良いように思えた。

 そのはずなのだが、立体映像の彼女は大きく息を吐いて、首を横に振る。

 

「それはできませんわ」

「なっ、何故でしょうか?」

 

 俺だけでなく、仲間たちも納得していないようだ。

 マザー様の次の言葉をじっと待った。

 

「身の危険がなく、何不自由ない生活が続ければ、人は堕落するものですわ。

 アリサがそうなるとは限りませんけど、他の上級市民のようになって欲しくはありませんの」

 

 現在の中級や上級市民の大多数がそうなので、言っていることはわからなくはない。

 

 ただ資源を消費するだけで、何も生み出さず、都市への貢献度も低い。

 それでも特権や資金を持っているので、誰も何も言えないのだ。

 

 マザー様が口を出すと余波が大きくなり、現体制が崩壊しかねない。

 人間社会の自浄作用に期待しているが、もはやどうにも出来ないほど不正や汚職が広がっていた。

 

 

 

 そして彼女は、護衛対象がシティの社会システムに近づくのを嫌っている。

 自らが、ある意味では最上位権限を持つ、都市統括人工知能でありながらだ。

 

 まるでアリサという子供を愛おしく思いながら、離れて成長を見守る母親のようだった。

 そして俺たちに遠くから護衛するボディガードで、命令がない限りは直接の干渉はしない。

 

 それが、マザー様の基本方針のようだ。

 

(まるで、子育てをする母親だな)

 

 だがそう考えると、今の市民は親の言いつけをろくに守らず、反抗したり怠けてばかりの生意気なガキだ。

 まあ彼女は機械で人間ではないので、本当の子供ではないのだが、それはそれである。

 

 

 

 しかしアリサという少女と、マザー様がどのような関係なのかは不明だ。

 詳しく探ろうとすると、間違いなく排除される。

 あえて触れずにスルーするのが、軍人として正しい判断だろう。

 

 意見具申をしても、方針を変えるつもりがないようだ。

 なのでこれ以上の質問は無意味であり、命令に忠実であるべきと判断する。

 

「了解致しました。護衛対象のアリサ様を、命に変えても守り抜きます」

 

 他の隊員も真面目な表情で頷き、マザー様は満足そうに微笑む。

 

「必要な物があれば言ってください。すぐ手配しますわ。

 では、よろしく頼みますわよ」

 

 マザー様は最後にそのように発言して、俺たちを順番に見つめる。

 その後、立体映像は消えて会議室は静寂に包まれた。

 

 しかし、何とも大変な任務を受けてしまったものだ。

 

 人類の命運を握る少女を秘密裏に守る。

 軍人冥利に尽きるといえば聞こえはいいが、この上なく責任重大だ。

 

 万全を期すために、やることが山積みだった。

 当分は、ろくに寝られない日々が続くだろう。

 

 幸いなのは必要な資金や物資は、要望を出せば大抵通ることだ。

 それでも簡単にはいかないし、護衛期間も設定されていない。

 

 まさか死ぬまでは、いくら何でもないだろう。

 しかし、かなりの長期戦になるのは覚悟したほうが良い。

 

 とにかく最初にやるべきことは、アリサという少女の近くに張り付くことだ。

 格安マンションは他に空き部屋が多いし、既に事前の命令で俺たちが確保している。

 

 あとは周辺区画の大掃除も、念入りにしないといけない。

 本当に、今後しばらくは一切気が抜けそうになかった。

 

 だが、マザー様は言っていた。

 人類の命運を握るとは、一体どういう意味か気になる。

 

 任務内容については、必要以上に詮索しないのが軍人のルールだ。

 しかし流石に今回に限っては、好奇心が抑えられそうにない。

 

 けれど常に監視されている以上、俺たちで調べるわけにもいかない。

 

 幸い護衛対象の動向を注意深く観察すれば、何かしらのヒントを掴むことはできるだろうし、そうやって俺たちなりに理解を深めていくことに決めるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。