『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』   作:トート

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第十一話:深海の至福と、世界を揺らす手配書

地下迷宮『洞窟のディープラビリンス』での壮絶極まりない経験、そして伝説のノッキングマスター次郎との魂が凍りつくような邂逅を終え、俺たちは無事に地上へと生還していた。

 

お菓子の家の、サクサクに再生したリビングで、俺は再び、ビスケットの壁に背中を預けて体育座りの姿勢で固まっていた。

だが、今回の俺の表情には、これまでにない深い「至福の色彩」が浮かんでいた。

 

なぜなら、目の前のテーブルの上には、小松くんがその天才的な包丁さばきによって、一ミリの雑味もなく完璧に捌き切った『フグ鯨の刺身』が、大皿に見事な大輪の黄金のひまわりのように並べられていたからだ。

「カナタさん! どうぞ食べてみてください!」

 

「毒袋は最初から外れてましたけど、僕の料理人としての全霊を込めて、一番美味しい薄造りにしました!」

 

小松くんが、満面の笑顔で手振りを交えながら、取り分けた皿を差し出してくれた。

その瞳には、恐怖を乗り越えて最高級の食材に向き合った、料理人としての誇りと純粋な喜びが満ちていた。

俺は指の圧力でお菓子の家のフォークを飴細工のように粉々に曲げてしまわないよう、全神経を集中させながら、透き通る黄金色の身を口へと運んだ。

 

――その瞬間、脳内のすべての細胞が美味さの衝撃で弾け飛んだ。

「う、美味すぎる……ッッ!!」

 

口に入れた瞬間に関口に広がるのは、白身魚の王様とも言える、圧倒的なまでに濃厚で上品な旨味の津波だった。

噛むたびに、深海の冷たい海原を十年間生き抜いてきた生命のコクが溢れ出し、喉を通るたびに全身のグルメ細胞がパチパチ、バチバチと歓喜の音を立てて弾け飛ぶ。

 

食べ進めるごとに、体内のサイヤ人細胞が「これだ、このエネルギーだ!」と猛烈に脈打ち、暴走しかけていた黄緑色の気が、驚くほどまろやかに、優しく身体の奥底へと収まっていく。

美味いものを食うことで、初めて自分の『気』が、完璧に内側へとコントロールされていく感覚。

 

俺の全身を包んでいたオーラは、不純物を一切含まない、純粋で美しい白い光へと完全に昇華していた。

やはりこの肉体の制御の鍵は、美味いものを限界まで腹に詰め込むことなのだと、改めて実感する。

「ぷはぁ、生き返ったぜ! カナタ、お前、飯を食ってる時が一番いいオーラしてんな!」

 

「これなら毎日、美味いものを死ぬほど食えば、そのめちゃくちゃな力もすぐに制御できるようになるさ!」

 

青髪のトリコが満足そうに自身のフルコースを思い描きながら、豪快に笑って腹を叩く。

ココも「そうだね。これだけ高純度の気が安定していれば、もう僕の眼でも、君の頭上に死相は一ミリも見えないよ」と、ようやく少しだけ安心したように紅茶を口に運んだ。

 

三人のその温かいやり取りに、俺がようやく心からの笑顔を浮かべ、この世界で穏やかに生きていく希望を見出していた――まさに、その瞬間だった。

 

人間界から遥か彼方、厚い暗雲に閉ざされ、獰猛な猛獣たちが跋扈する未踏の大地――『グルメ界』。

 

その奥深くに鎮座する、闇の組織『美食會(びしょくかい)』の本部。

生肉が滴るような悍ましい玉座の間において、数千キロ離れた地下迷宮の報告を受けた幹部たちの間に、かつてないほどの戦慄と静寂が広がっていた。

 

「……報告は以上です。我が組織が人間界のフグ鯨捕獲のために極秘裏に投入した最新鋭戦闘メカ『GTロボ』が、一瞬で通信を絶たれました」

冷酷な瞳を持つ美食會の副料理長・アルファロが、青ざめた顔で手元のデータ端末を操作する。

 

玉座の前に投影された大画面には、破壊される直前にGTロボの単眼カメラが捉えた、最後の映像が静止画として映し出されていた。

そこには、ただ恐怖に顔を歪め、涙目を浮かべながら、足元の「小石」を拾い上げて投げつけようとしている褐色肌の謎の巨漢(カナタ)の姿が、鮮明に写し出されていた。

「驚くべきは、その破壊の規模です」

 

「この男が投げたのは、調理用のナイフでも、IGOの特殊兵器でもありません。ただの、そこらに転がっていた『火山岩の破片』です」

「それが放たれた瞬間、計測不能の超音速エネルギーへと変貌し、我が組織のロボットを分子レベルで一瞬で蒸発させました。それどころか、後方の岩盤壁を数キロメートルにわたって綺麗に貫通し、地表の山々をも数個、消し飛ばしたというデータが残っております」

 

アルファロのその説明を聞いた瞬間、玉座の周囲に並んでいた他の幹部たちから、一斉にヒッと息を呑むような悍ましい動揺の音が漏れた。

「バ、バカな……! GTロボの超合金装甲を、ただの小石の投擲で蒸発させただと……!?」

 

「人間界に、そんな出鱈目な腕力を持った美食屋がいるなど、聞いておらんぞ!」

 

「IGOの一龍が動き出したのか? いや、あの男の戦い方ではない……!」

 

幹部たちが冷や汗を流しながら口々に狼狽する中、玉座の最奥、暗闇の中に鎮座する圧倒的な巨頭――美食會のボスである三虎(ミドラ)が、ゆっくりとその冷酷な眼光を光らせた。

 

三虎(ミドラ)の放つ、世界を容易く飢餓で滅ぼしかねないほどの底知れないプレッシャーが、室内の空気をメキメキと音を立てて歪ませる。

彼は画面に映る、怯えた目のまま異次元の力を放った謎の巨漢の姿をじっと見つめ、その不気味な舌をペロリと鳴らした。

「……面白いな。人間界に、これほどの『不調和な怪物』が隠れていようとは」

 

「IGOの小細工ではない。これは……宇宙の理を狂わせるほどの、生粋の破壊の才能だ」

 

三虎(ミドラ)のその一言で、幹部たちの騒ぎが一瞬で静まり返る。

三虎(ミドラ)は深く椅子に腰掛け直すと、アルファロに向けて冷酷な命令を下した。

「アルファロよ。その褐色肌の巨漢を、我が組織の『最重要警戒対象』に指定しろ」

 

「生け捕りにできるならそれに越したことはないが……もし我がフルコースの邪魔をするならば、組織の総力を挙げて、跡形もなく消し去るのみだ」

 

「はっ……! 直ちに、人間界の全エージェントへ通達いたします!」

アルファロが深く一礼し、画面に大きく『最重要手配犯:カナタ』の文字が刻まれる。

 

この瞬間、闇の組織『美食會』の全てのターゲットが、トリコたちではなく、ただお菓子の家でビビりながらフグ鯨を美味そうに食っている俺の姿へと、完全にシフトしてしまったのだ。

当の本人は、そんな世界の裏側の大パニックなど露知らず、お菓子の家のリビングで「小松くん、お代わり! このフグ鯨のスープ、お肌がツヤツヤになって凄く良いね!」と、平和に大喜びしている真っ最中であるとも知らずに。

 

世界を滅ぼしかねない最強の破壊神の肉体と、世界一ビビりな一般人の精神を持った男、カナタ。

ただ怖がって石を投げただけの一撃が、ついに世界のパワーバランスを根底から揺るがし、闇の組織の本気を呼び覚ましてしまった。

俺のビクビク美食屋ライフは、人間界の文明圏を飛び越え、世界全体を巻き込む壮絶なインフレの戦いへと、その歩みを進めていくのだった。

 

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