『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』   作:トート

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第十二話:手配書の美学と、古代の超巨獣

小松くんが料理人としての全霊をかけて捌き切ったフグ鯨の至高の味を堪能し、俺たちの胃袋と心がこれまでにない多幸感で満たされていた、その翌日のこと。

 

お菓子の家の美しく再生したリビングで、俺は再び、自分の規格外な身体の質量で床を抜かないように直立不動の姿勢のまま、おずおずと冷や汗を流していた。

 

なぜなら、リビングのど真ん中のビスケットテーブルの上に、一枚の不気味な紙切れがべたりと広げられていたからだ。

 

それは、IGO(国際グルメ機関)の特殊情報網が極秘裏に掴んだ、闇の組織『美食會』の内部回覧用の最高警戒手配書だった。

 

そこには、洞窟のディープラビリンスで恐怖に顔を歪めながら、護身のためにただの小石を構える俺の姿が写っており、その下には不気味な文字で『最重要手配犯:カナタ。見つけ次第、組織の総力を挙げて蒸発させよ』と書かれている。

(やっぱり、あの正体不明のロボットを小石で消し飛ばしたのは、大惨事になってたんだ……っ!)

(美食會のボスって、あの三虎(ミドラ)だぞ!? 世界を飢餓で滅ぼせるレベルの化け物に直々に目をつけられるなんて、前世がただの一般人だった俺のメンタルが耐えられるわけないだろ!)

(神様、お願いだからこの理不尽なサイヤ人手配犯ルートから、今すぐ俺を降ろしてくれよぉぉぉ!!)

俺が心の中でシクシクと涙を流し、後ろで組んだ両手をさらにギチギチと強く握りしめていると。

バンッッッ!!!!

お菓子の家のクッキーの玄関扉が勢いよく開き、ピンクや緑、青といった、あらゆる色彩が混ざり合った、この世の何よりも美しい長い髪を激しく揺らす男――四天王の一人、サニーが、血相を変えてリビングに飛び込んできた。

サニーは美しい顔をこれでもかと歪め、全身から目に見えない20万本の「触覚(ヘア)」をリビング全体にビリビリと展開している。

彼は、バロン諸島での最初の出会いでカナタの異次元の「白光」に腰を抜かして以来、カナタの動向を密かに気にしていたのだ。

「おいっ!! トリコ!! ココ!! IGOの暗号通信を見たぞぉ!?」

「美食會の本部がひっくり返る大騒ぎをして、あのカナタを最高ランクの指名手配に指定したってのは、本当なのかよぉ!!」

サニーのヘアが、リビングの隅で猫背になってビビり散らしている俺の周囲に到達した、その瞬間。

ピキィィィィン!!! と、サニーのヘアのすべてが、俺の細胞が無意識に放っている「超高密度の気のバリア」の圧倒的な重力プレッシャーに触れ、恐怖で一本残らず頭皮へと一瞬で強制的に巻き戻されてしまった。

「ひっ……!? またこれかよ……っ!」

「俺のスーパーヘアが……触れることすらできずに、恐怖で全部縮こまっちまうじゃんかよ……っ!」

サニーが、自身の絶対的な美のレーダーを狂わすほどの「底知れない暴力の質量」を前にして、長い髪をガタガタと震わせながらその場に一歩後ずさりした。

彼の隣では、ココが「だから言っただろう、サニー。手配書の件で焦る気持ちは分かるが、カナタくんに不用意に近づいて、彼の防衛本能を刺激してはいけないって」と、苦笑いしながら額の冷や汗を拭いていた。

「ち、違うんだ、サニーさん……! 俺は本当に、サニーさんの美しい髪の毛を縮こまらせるつもりなんて無かったんだよ!」

「あのロボットの時も、ただ怖くて『あっちに行け』って小石を投げたら、なんか山ごと消し飛んじゃって……。俺だって、あの指名手配書を見て一番泣きたいのは俺なんだよぅ!!」

俺が顔を強張らせながら必死の早口で弁明する。

だが、体内の気の密度が濃すぎるせいで、俺の悲鳴のような声がリビングの大気をビリビリと重く振動させ、サニーの耳には「空間を圧殺する魔王の咆哮」のように響いていた。

「おいおい、怯えながら俺のヘアを完全無効化してんじゃねぇよ……!」

「まぁ、美食會の小汚ねぇロボットを小石一発で消したってのは、最高にスカッとするけどさぁ!」

サニーが俺の一切の敵意のなさと、あまりにも情けない涙目の表情を見て、ようやくその警戒のオーラを少しだけ和らげた。

「よし、お前ら。飯の後にそんなに騒ぐな。おやじから、新しい連絡が入ってるぜ」

青髪のトリコが、お菓子の家の壁から毟り取ったビスケットをモグモグと食べながら、リビングのデータ端末の画面を指差した。

画面がパチリと切り替わり、まばゆい金髪のリーゼントを豪快に揺らしたIGO会長、一龍のおやじの、どこか引き締まった真剣な表情が映し出される。

「やぁやぁ、トリコ、ココ、サニー。それにカナタくん、フグ鯨は美味かったか?」

「いやな、手配書の通り、美食會がお前さんのその『異次元の力』の正体を突き止めようと、人間界の全エージェントを使って本格的に動き出しおった」

「このままでは、お前さんの食欲を満たす前に、人間界が奴らとの戦場で荒れ果ててしまうかもしれんのぉ」

一龍のおやじが、金色の立派な髭をさすりながら、静かに、しかし絶対的な重みを持つ声を響かせた。

それを聞いた小松くんが「うわぁぁ……っ、IGOと美食會が、カナタさんを巡って戦争になっちゃうんですかぁ!?」と、頭を抱えてガタガタと震え出す。

「ハハハ、そう簡単に人間界を戦場にはさせんよ。じゃが、カナタくん。お前さんがその規格外の肉体(気)を完全に制御できるようになるのが、一番の解決策じゃ」

「そこでトリコ, 小松くん、カナタくん。お前さんたちに、IGO会長直々の第一の正式任務(ミッション)を言い渡す」

一龍のおやじの目が、ギラリと黄金の光を放った。

「人間界最大の巨大生命体、別名『古代の食糧庫』と呼ばれる超巨獣――『リーガルマンモス』を捕獲してくるんじゃ」

「その体内にある、あらゆる肉の最高部位の美味さが凝縮された幻のジュエルミート……」

「これほどの超高カロリー食材ならば、お前さんのその底なしの胃袋を芯から満足させ、その膨大な気をさらに穏やかに飼い慣らす最高の修業になるはずじゃ」

その言葉を聞いた瞬間、前世の原作知識が俺の脳内で激しい警報を鳴らした。

リーガルマンモス編だ。

原作でもトリコたちがマンモスの超巨大な体内に入り込み、美食會の新型GTロボや幹部たちと、初めて正面から激突する大長編の超危険ミッションである。

「美食會の奴らも、必ずやそのジュエルミート、そしてお前さんの身柄を狙って刺客を送り込んでくるじゃろう」

「カナタくん、これはお前さんが『真の美食屋』として世界に立つための、本当の試練じゃ。頼んだぞ」

ホログラム画面がパチリと消え、リビングに再び心地よい地上のそよ風が吹き込んでくる。

俺は自分の褐色の両手を見つめ、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

「ジュエルミートか……! 噂には聞いていたが、まさか俺がそのマンモスの体内へ行くことになるなんて」

「トリコ、小松くん、俺、今度こそ絶対に誰も傷つけないように、風圧も起こさないように、ただ静かに、手ぶらの身一つのままでついていくからね……!」

「おうよ、カナタ! 美食會の刺客が来ようが関係ねぇ! 最高のジュエルミートを腹一杯に食って、お前のそのバケモノみたいな力を完璧に手懐けてやろうじゃねぇか!」

トリコがニカッと笑って、俺の丸太のような太い肩をポンと叩いた。

サニーも「ふん、俺もそのリーガルマンモス捕獲には、美しさの追求のために一枚噛ませてもらうからな!」と、長い髪を翻して不敵に微笑んだ。

小松くんも「カナタさん、僕、マンモスの体内でどんなに迷子になっても、絶対に最高のジュエルミートの調理法を見つけ出します!」と、小さなコック帽を揺らしながら拳を握りしめてくれた。

世界を滅ぼしかねない最強の破壊神の肉体と、世界一ビビりな一般人の精神を持った男、カナタ。

ただ怯えて石を投げただけの一撃が、ついに世界の裏の組織の本気を呼び覚まし、人間界最大の巨獣が待つ『リーガル高原』へと、その歴史の歯車を大きく回し始める。

美食會の手配書を背負った俺のビクビク美食屋ライフは、四天王たちとの絆を深めながら、いよいよ世界の命運を賭けた、古代の超巨獣の体内へと、その新たなる一歩を踏み出すのだった。

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