『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』 作:トート
IGO会長、一龍のおやじから下された最高ランクの正式任務。
人間界最大の超巨獣『リーガルマンモス』の捕獲、そしてその体内にある幻の食材『ジュエルミート』を手に入れるため、俺たちはIGOの最新急襲用高速艇に揺られ、世界の果てに位置する険しい岩山――『リーガル高原』へと到着していた。
高速艇のハッチが開き、一歩外へ出た瞬間、俺の褐色の皮膚を叩いたのは、人間界の既存の常識を遥かに超えた、あまりにも濃密で、暴力的なまでに巨大な生命のプレッシャーだった。
地平線の彼方まで続く広大な高原の、そのさらに奥。
雲海を物理的に割るようにしてそびえ立っていたのは、山などでは断じてない。
全長数キロメートル、体重数千万トンという、近代兵器の集中砲火すら生傷一つつけられずに踏み潰す、歩く大陸――『リーガルマンモス』そのものの巨躯だった。
ズゥゥゥゥゥン……!! ズゥゥゥゥゥン……!!
マンモスがただの一歩を踏み出すたびに、俺たちが立っている数キロメートル離れた岩盤が、まるで大地震でも起きたかのように激しく上下に揺れ動く。
前世の漫画で見てはいたが、生で体験するその超巨獣の神話的なスケールに、俺の一般人メンタルは早くも膝をガタガタと震わせていた。
(デカすぎる……!! 映画のゴジラとか、そういうレベルの次元を超えてるって!)
(あんな化け物の体内に入り込んで、もし中でマンモスが激しく動き回ったら、俺のこの重すぎる肉体とマンモスの内臓が激突して、中からマンモスをミンチに壊滅させちゃうんじゃないか!?)
(お願いだからこれ以上、俺の存在を環境破壊の引き金にしないでくれよぉぉぉ!!)
俺は、自分の制御不能な怪力と質量のバグに心底怯え、手ぶらの身一つのまま、なるべく足音を立てないように爪先立ちで、そろり、そろりと歩いていた。
後ろで組んだ両手は、もう二度と、反射的に何かを投げてしまわないようにギチギチにロックしている。
青髪のトリコは「ハハハ! 相変わらずビビってんなカナタ! だが安心しろ、リーガルマンモスの胃袋は小国が丸ごと一つ収まるほどの広さだ!」
「お前が中でちょっとやそっとバタついたくらいじゃ、ビクともしねぇよ! よし、行くぜ!」
トリコが不敵な笑みを浮かべ、マンモスの足元へ向かって一気に駆け出していく。
小松くんも「待ってくださいトリコさん! カナタさん、僕たちも遅れないようについて行きましょう!」と、小さなコック帽を揺らしながら必死に足を動かしていた。
長い髪を美しく翻すサニーも「ったく、こんな泥だらけの高原、俺の美学には反するけどさぁ」
「あの手配書の怪物の『美しくねぇ大食い』を、この目で確かめてやるじゃんかよ」
サニーはそう言って、20万本のヘアを周囲に警戒展開しながら、トリコの後を追っていく。
俺も生きた心地がしないまま、細心の注意を払いながら彼らの背中を追って高原を進んでいった。
そして、トリコが持ち前の超人的な感覚を駆使し、マンモスの広大な皮膚の隙間から、その超巨大な体内(食道)へと侵入するルートを見つけ出した。
俺たちは暗暗の、温かい肉壁で囲まれた地下迷宮のような『マンモスの体内』へと足を踏み端み入れたのだった。
だが、そこはただの安全な一本道であるはずがなかった。
美食會の最高警戒手配書に俺の名前が載ったことで、闇の組織の本気は、すでにこの高原の奥深くまでその魔手を伸ばしていた。
暗闇の肉壁の先の通路から、ズゥン……ズゥン……という、マンモスの内臓の拍動とは異なる、不気味で無機質な『金属の足音』が響いてきた。
それも、一機や二機ではない。
数十機という、鋼鉄の質量が肉を構成する通路を圧殺する、悍ましい行進の音。
「――ッ!? トリコ、サニー、止まってくれ!」
「この先から漂ってくる電磁波……不気味な鋼鉄の殺意が、この通路を完全に埋め尽くしている!」
ココが、自身の鋭い「電磁波を見る眼」を血走らせながら、前に出て警告を発した。
トリコも即座にフォークとナイフの形に手を構え、その青い髪を警戒で逆立たせる。
暗闇の霧を割りながら姿を現したのは、洞窟の地下湖で俺が小石で消し飛ばした、あの鋼鉄の怪物――遠隔操作戦闘メカ『GTロボ』の、それも最新の重装甲を施された【新型大部隊】だった。
「――キキキ、見ツケタゾ、手配書ノ褐色肌ノ巨漢」
「本部カラノ命令ダ。コノ男を、分子レベルデ完全ニ消滅サセヨ……!」
数十機のGTロボのスピーカーから、不気味に歪んだ合成音声が、マンモスの体内に反響する。
ロボットたちの単眼カメラが一斉に真っ赤に発光し、リビングの隅で怯えるように猫背になっている俺の姿を、完全にロックオンした。
「おいおい、冗談じゃねぇぞ! 洞窟にいた不気味な機械が、こんなに大量に待ち伏せてやがったのか!」
トリコが冷や汗を流しながら叫ぶが、数十機のGTロボは、聞く耳を持たずにその胸の装甲を展開した。
そこから露出したのは、人間界のあらゆる最新近代兵器を陸駕する、超高出力の『集束熱線レーザー砲』だった。
キィィィィィン!!! という、空気が沸騰する高音が響き渡る。
次の瞬間、数十機のロボットから、空間を物理的に焼き尽くすほどの、凄まじい真緑色の『レーザーの激流』が、俺の全身に向けて一斉に零距離で乱射された。
「うわぁぁぁぁっ!? ビームだ! 撃たれたぁぁぁ!! 溶かされるぅぅぅ!!」
前世がただの一般人である俺は、その四方八方から容赦なく降り注ぐ熱線の雨に、恐怖のあまり完全にその場で頭を抱えて縮こまった。
逃げることも、手を振って暴れることもできず、ただ直撃を覚悟してぎゅっと目を瞑ったのだ。
ズガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!
凄まじい爆発音と、肉壁が焦げる熱気が周囲に響き渡る。
GTロボの大部隊が放った、山をも一瞬でドロドロに溶かす超高出力の熱線ビームが、俺の頭や背中、褐色の肌に容赦なく100%まともに直撃した。
「ひ、ヒィィィィッ!! カナタさんーーっ!!」
小松くんが大絶望の悲鳴を上げ、トリコやサニーも息を呑む。
だが、数秒が経過しても、俺の身体には痛みも、熱さも、何も訪れなかった。
「……え?」
恐る恐る目を開けて自分の身体を見る。
驚いたことに、俺の肌に直撃したIGOの最新兵器すら凌ぐ熱線は、俺の細胞が放つ「常時展開されている微弱な気のバリア」によって、皮膚に到達する前にすべて分子レベルで弾かれていた。
それどころか、ただ弾くだけでは終わらなかった。
サイヤ人の異常な新陳代謝と、この世界に適応したグルメ細胞が、そのレーザーの放つ「膨大な熱エネルギー」すらも、強制的に体内でカロリーとして吸収し始めていたのだ。
俺の皮膚に触れていた真緑色のレーザーが、シュウゥゥと白い純粋な煙を上げて、俺の肉体を強化する純粋なエネルギーへと変換されていく。
バロン諸島でのあの『デビル大蛇の猛毒』を吸収した時と同じ、物理法則の完全な無視だった。
「う、美味い……? いや、味はしないけど、なんかめちゃくちゃ元気になっていく……?」
俺が自分の大きすぎる両手を見つめながら困惑していると、横で見ていたサニーが、その美しい顔を限界まで驚愕に歪めて絶句していた。
彼の持つ、世界最高の美意識とヘアの感覚が、目の前で行われた理不尽を理解できずに拒絶している。
「……嘘だろ。あいつの皮膚に触れた瞬間に……すべての熱量を失って、ただの『心地よい温風』に吸い込まれて消えた……」
「俺のヘアの感覚が言ってるじゃんかよ。あいつ、攻撃を受ける必要すらねぇ……。ただそこに立って怯えてるだけで、すべての攻撃を『飯(カロリー)』に書き換えてやがる……っ!」
四天王のサニーが、自身の常識を根底から覆され、冷や汗を流してガタガタと震えている。
ココも「僕の電磁波の予測を遥かに超えているよ。攻撃をされればされるほど、彼の『気』がまろやかに、かつ強大に満たされていくんだ……」と、呆然と呟いていた。
「……ハハ、通信、エラー……? バカな、レーザーの出力は最大だぞ……! なぜ標的の生命反応が衰えるどころか、インフレを起こしているんだ……っ!?」
数千キロ離れた美食會の本部で、モニターの前にいた操縦者の幹部が、スピーカー越しに本気で狼狽し、恐怖に声を上ずらせているのが聞こえた。
ロボットたちの単眼カメラが、恐怖を映し出すようにカタカタと激しく点滅する。
攻撃をすればするほど相手を元気にしてしまうという絶望。
野生の猛獣だけでなく、最先端の鋼鉄の兵器までもが、俺という存在の理不尽さを前にして、完全にその心が折れようとしていた。
「歩くだけで、攻撃を受けるだけで、敵の心が折れていく……」
「カナタ、お前がそこに立ってるだけで、この世界のバトルのルールが完全に崩壊しちまうぜ……」
トリコが半ば諦めたような、乾いた呆れ顔で呟く。
小松くんにいたっては、もう何が起きても驚かないような達観した目で、ノートに「カナタさん、ビームを飲む:なんか元気。ロボット、心が折れる」と淡々とメモを取り始めていた。
風圧で吹き飛ばすのではない。
ただそこに存在し、恐怖に怯えているだけで、周囲のあらゆる脅威を「無力化」してひざまずかせてしまう圧倒的な質の暴力。
俺はシクシクと心の中で涙を流しながら、トリコたちの背中を追って、さらにマンモスの最奥、幻の食材『ジュエルミート』が待つ胃袋の領域へと、その足を進めていくのだった。
世界を滅ぼしかねない最強の破壊神の肉体と、世界一ビビりな一般人の精神を持った男、カナタ。
物理的な破壊ではなく、存在そのものの理不尽さで美食會の大部隊すらも戦慄させてしまった俺のビクビク美食屋ライフは、いよいよその最奥部、古代の超巨獣の心臓部へと、その歩みを進めていくのだった。