『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』   作:トート

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第十四話:古代の胎内の閃光と、ひざまずく巨獣

美食會の放った鋼鉄のロボット部隊による、山をも一瞬で溶かす超高出力レーザーの激流。

 

それをただ恐怖で頭を抱えて縮こまっていただけで、「すべて極上のカロリーとして細胞に強制吸収し、逆にツヤツヤと元気になってしまった」あの理不尽な怪奇現象から、さらに数十分後のこと。

 

俺たちは、リーガルマンモスの超巨大な体内、その最奥部に位置する『胃袋の領域』へと足を踏み入れていた。

 

そこは、マンモスの胎内であるはずなのに、まるで一つの小国が丸ごと収まるかのように、果てしなく広大で、不気味なほどに静まり返った暗黒の空間だった。

 

足元を流れる消化液の川からは、肉が熟成されたような、ひどく濃厚で芳醇な匂いが立ち込めている。

 

だが、俺の精神状態は、依然として限界に近いパニックの淵にあった。

手ぶらの身一つのまま、自分の身体を限界まで小さく丸めるように猫背になり、後ろでがっちりと組んだ両手の指をパキパキと鳴らす。

 

(これ、絶対にまずい展開だ。あの不気味なロボット、操縦してた本部の奴ら、今ごろ『あいつはレーザーをエネルギーにして食う化け物だ!』って、大パニックになってるに決まっている)

 

(お願いだからこれ以上、俺の存在を世界の危険人物のトップに登録しないでくれ。ただでさえこの肉体の燃費の悪さに胃袋が悲鳴を上げてるっていうのに……)

俺は、自分の制御不能な怪力と質量のバグに心底怯え、なるべく足音を立てないように爪先立ちで、そろり、そろりと歩いていた。

 

後ろで組んだ両手は、もう二度と、反射的に何かを投げつけて世界の地形を変えてしまわないようにガッチリとロックしている。

 

隣を歩く青髪のトリコが、持ち前の並外れた嗅覚をピクリと動かし、その鋭い目を暗闇の奥へと向けた。

「……おい、お前ら。漂ってきたぜ、この世のどこの肉にもねぇ、究極に美しい匂いがよぉ……!」

トリコの声が、興奮で小さく震える。

 

ココも「ああ、僕の眼にも見えるよ。暗闇の奥から、人間界のあらゆる生命の輝きを凝縮したような、凄まじい『電磁波の光』が湧き上がっている」と、息を呑んだ。

 

サニーもまた、20万本のヘアを細心の注意を払って前方に忍ばせながら、その美しい顔を紅潮させていた。

「美しすぎるじゃんかよ。この暗黒の胎内で、まるで自ら発光してるみたいに、神聖なオーラが俺のヘアの先端に触れてるぜ……っ!」

 

小松くんが「あれが……一龍会長の言っていた、ジュエルミートですか……っ!?」と、小さなコック帽を揺らしながら、期待と緊張で声を上ずらせる。

 

俺たちの視線の先。

肉壁の巨大な亀裂の奥から、ドロリと、眩いばかりの『黄金の輝き』が溢れ出していた。

それこそが、リーガルマンモスの体内にあるすべての肉の最高部位、美味の核が集中した幻の食材――『ジュエルミート』だった。

 

だが、その伝説の輝きに出会った喜びも束の間、俺の体内のサイヤ人細胞(グルメ細胞)が、その神聖な輝きを見た瞬間に、これまでの大食いを全て過去にするほどの、凄まじい「狂暴な食欲」の咆哮を上げた。

ドクンッ!!! と、胸の奥の心臓が、まるで地球を震わせるかのような爆音を立てて波打つ。

 

空っぽになった胃袋が激しく痙攣し、俺の意思とは無関係に、体内の黄緑色の気が限界まで膨れ上がろうとしていた。

「……っ! 駄目だ、抑えられない……っ!」

俺は恐怖のあまり、その場で頭を両手で抱え、気の暴発を防ごうと必死に地面へとうずくまった。

 

戦うためではない、ただ「自分の怪力でマンモスの内臓を破裂させてなるものか」という、一般人としての必死の抵抗だった。

だが、俺が恐怖でパニックを起こし、全力で気を内側に抑え込もうと身を縮め、一歩後ろへと強く足を踏み締めた、まさにその瞬間。

ブロリーの肉体から放たれた『極限の防御バリア(生存本能)』の圧倒的な重力プレッシャーが、床の肉壁を介して、リーガルマンモス全体の神経系へとダイレクトに叩き込まれてしまった。

 

ピキィィィィン!!! と、数キロメートルに及ぶマンモスの巨躯全体が、一瞬で恐怖のあまり完全に硬直した。

 

そして次の瞬間、人間界最大の超巨獣が、俺という存在の放つ絶対的な絶滅の波長を前にして、本能的な恐怖から精神が完全に崩壊してしまったのだ。

 

ズズズズズズズズズッッッ!!!!

 

「う、うおァ!? なんだ!? マンモスが、急に静かになりやがったぞ!?」

トリコが驚いて声を張り上げた。

 

なんと、リーガルマンモスは、体内にいる俺に向かって「この存在に逆らったら種族ごと分子レベルで消滅させられる」と理解したのだろう。

マンモスは巨体全体から恐怖の冷や汗を滝のように噴き出し、自らの意思で食道の筋肉を限界まで弛緩させ、俺たちの目の前にあった『ジュエルミートが眠る肉壁の亀裂』を、自ら筋肉を押し広げるようにして、完璧に露出させて差し出してきたのだ。

 

それどころか、マンモスは「どうぞこれを食べて、早く俺の体内から出ていってください」と懇願するかのように、一切の身震いを止め、彫刻のように直立不動になってひざまずいていた。

 

「マンモスが……戦う前、触れる前に、恐怖のあまり自らフルコースの核を差し出しにきやがった……っ!」

トリコが、完璧に剥き出しになったジュエルミートの黄金の輝きを見て、顎が外れそうなほど口を開けて絶句した。

 

ココも「特殊食材の捕獲の概念が、またしても完全に消滅したよ……。カナタくんがただ怯えて身を縮めただけで、超巨獣の側が『命だけは助けてください』と、自ら肉を差し出してきたんだ……」と、額の汗を拭うことすら忘れて立ち尽くしている。

 

サニーにいたっては、自身の美学を遥かに超越した「ひざまずくマンモスの調和」を前にして、長い髪をガタガタと震えさせるしかなかった。

「美しくねぇ強さなのに……マンモスを完全に手懐けてやがるじゃんかよ……っ!」

 

「違うんだみんな! 俺はただ、怖くて自分の力を抑え込もうとしていただけなんだよ!」

 

「マンモスの心を完全に折って、自発的に肉を提出させるつもりなんて無かったんだ!!」

 

俺が頭を抱えて肉壁の上で転がり、小松くんが「これなら僕、包丁を入れるだけで完璧にジュエルミートを切り出せます!」と目を輝かせてマイ包丁を抜いた、その時だった。

 

小松くんの正確無比な包丁さばきによって、一ミリの雑味もなく完璧に切り出されたジュエルミート。

それは、マンモスの胎内全体を昼間のように明るく照らす、まさに『生ける宝石』そのものだった。

 

トリコが「よし、ありがたくいただくぜ! いただきます!」と叫び、切り分けられた大振りの肉を口へと放り込む。

その瞬間、トリコの青い髪が逆立ち、彼の背後に巨大なフォークとナイフの悪魔が、歓喜の咆哮を上げるように実体化して激しく揺らめいた。

あまりの美味さの衝撃に、トリコは言葉を失い、ただ大粒の涙を流しながら、夢中になって肉を咀嚼していた。

 

彼の肌の奥から、普段は見えないはずの「悪魔の皮膚」が一瞬だけ明確に浮き上がる。

ジュエルミートという極限のエネルギーによって、トリコ自身のグルメ細胞が、人間界の限界を超えるレベルの急激な進化を強制的に起こされていたのだ。

 

「本当ですね、トリコさん!」

 

「脂が口の中でサーッと冷たい水みたいに溶けて、全然くどくないです! 甘みだけが体の中にずっと残ってます!」

 

小松くんも涙を流しながら、一切れの肉を愛おしそうに口に放り込んでいた。

サニーも「美い……! 悔しいけど、この美味さは完璧に調和された究極の美じゃんかよ……っ!」と、俺の存在を忘れかけるほど頬を紅潮させてステーキを口に運んでいる。

 

「カナタさん、どうぞ食べてみてください!」と小松くんに満面の笑顔で促され、俺はカタカタと震える手で、一切れのジュエルミートを口へと運んだ。

 

指の圧力で肉を消し飛ばしてしまわないよう、全神経を集中させる。

なんとか肉を一口、口へと運んだ。

 

――その瞬間、脳内でビッグバンが起きたかのような、悍ましいまでの衝撃が走った。

 

「な、なんだこれ……! 美味すぎる……ッッ!!」

 

口の中に広がったのは、濃厚極まりない肉の旨味の、完全なる銀河系だった。

サクサクとした表面の香ばしさ、噛むたびに溢れる濃密な赤身のコク、引いては喉を通るたびに全身のサイヤ人細胞がパチパチ、パチパチと歓喜の音を立てて弾け飛ぶ。

 

食べ進めるごとに、体内のサイヤ人細胞が「これだ、この究極のエネルギーを待っていたんだ!」と猛烈に脈打ち、暴走しかけていた黄緑色の気が、驚くほどまろやかに、優しく身体の奥底へと完全に収まっていくのが分かった。

 

それは、これまでの「ただ満腹になって落ち着く」というレベルの現象ではなかった。

暴虐の塊だった俺の『気』のゼロ地点が、初めて完全に固定され、俺自身の精神の制御下に置かれた瞬間だった。

 

俺の全身を包んでいた禍々しいオーラは完全に消失せ、穏やかな、どこか神聖さすら感じさせる純粋な白い輝きへと変貌していた。

それを見たココが、自身の鋭い眼を丸く見開き、心からの感動を震える声に乗せた。

「……凄いな、カナタくん」

 

「君の細胞の奥に眠っていたあの『破壊の獣』が……ジュエルミートの圧倒的な生命力によって、完璧に調和され、大人しく眠りについた」

 

「これならもう、君が普通に一歩を歩いただけで、大地震を起こして地面を爆砕してしまうような悲劇は起きないよ。君は自分の意思で、この世界を普通に歩けるようになったんだ」

 

ココのその言葉に、俺の目から、今度は恐怖ではなく、純粋な美味さと「ようやく普通に生きられる」という安堵の涙が、ポロポロと溢れ落ちる。

前世のただの料理好きだった一般人のメンタルが、ようやくこの異次元の怪力と、本当の意味で和解できたのだ。

 

「美味い……美味いよ小松くん……。俺、この世界に来て、一番今が幸せだ……」

俺が涙を拭いながらそう呟くと、無言で肉を貪っていたトリコが、ようやく喉の奥から深い、地鳴りのようなため息を漏らして、俺の太い肩をがっしりと掴んだ。

 

「……お前、最高の仲間を持ったな、カナタ」

 

「これでお前はもう、自分の力に怯えるだけの爆弾じゃねぇ。俺たちと同じ、この世界を自由に旅して美味いもんを喰らう、一人の『美食屋』だ」

 

トリコのその言葉は、いつもの使い回された満腹のセリフなどではなく、同じ高みへと足を踏み入れた戦友に対する、最大限の敬意が込められていた。

 

だが、このリーガルマンモスの胎内を揺るがした、俺の異次元のプレッシャー、および美食會のロボット大部隊が一瞬で無力化されたという衝撃の通信を受け。

 

世界の裏側、グルメ界の奥深くに鎮座する美食會の本部では、ボスである三虎(ミドラ)の命のもと、人間界に突如現れた謎の褐色肌の巨漢(俺)への『本気の包囲網』が、本格的に始動しようとしていた。

当の本人は、そんな世界の裏側の大パニックなど露知らず、マンモスの胃袋の中で「小松くん、お代わり! このジュエルミートのスープ、本当に美味しいね!」と、平和に大喜びしている真っ最中であるとも知らずに。

世界を滅ぼしかねない最強の破壊神の肉体と、世界一ビビりな一般人の精神を持った男、カナタ。

 

ただ怖がって身を縮めただけの一撃が、ついに人間界最大の超巨獣をもひざまずかせ、世界の歴史を根底から変えようとしていた。

俺のビクビク美食屋ライフは、四天王たちとの絆を深めながら、いよいよ人間界の枠を完全に踏み越え、さらなるインフレの戦いへと、その歩みを進めていくのだった。

 

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