『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』 作:トート
リーガルマンモスの胎内という、あまりにも規格外な環境の最奥部で出会った、幻の食材ジュエルミート。
小松くんが料理人としての全霊をかけたあの至高のステーキを腹一杯に詰め込んだおかげで、俺の人生は、このグルメ世界に転生して以来、最も劇的な変化を迎えていた。
お菓子の家の美しく再生したリビングで、俺は今、自分の両足の裏に伝わってくる「大地の感触」に、人知れず深い感動を覚えていた。
(……歩ける。普通に、地面を爆砕せずに歩けてるぞ……っ!)
(あんなに怖かった一歩が、前世の人間だった頃と同じように、ただ普通に床を踏み締めるだけの動作になってる……)
これまでは一歩歩くたびに土砂が噴き上がり、うっかり力を込めれば火山岩が消し飛んでいた、恐怖の破壊神の肉体。
それが、ジュエルミートの圧倒的な高カロリーエネルギーと美味の調和によって、暴虐の塊だった俺の『気』のゼロ地点が完全に固定され、俺自身の精神の制御下に綺麗に収まったのだ。
もちろん、手ぶらの身一つのままであることに変わりはない。
だが、これでもう「うっかり誰かに触れただけで消し飛ばしてしまう」という最悪の恐怖からは、本当の意味で解放されたのだ。
ココが、親しみやすい「電磁波を見る眼」を優しく細めながら、隣で静かに微笑んでいた。
「本当に良かったね、カナタくん。今の君のオーラは、不純物を一切含まない、純粋で美しい白い光になって体内に完全に留まっているよ」
「君が自分の意思でその力を解放しない限り、もう周囲の生態系がバグを起こして猛獣たちがショック死するようなことはないさ」
「ありがとう、ココさん。本当に、小松くんのスープや、ジュエルミートのおかげだよ……っ!」
俺が胸の内で深く安堵の息を吐き出し、小松くんが嬉しそうに新しいお茶を淹れてくれている、まさにその穏やかな瞬間だった。
パリィィィィィィィンッッッ!!!!
お菓子の家のリビングの、再生したばかりの飴細工の窓ガラスが一斉に、跡形もなく木っ端微塵に砕け散った。
それだけにとどまらず、家の壁のクッキーや、屋根 of チョコレートタイルが、凄まじい「高周波の物理的な振動」によって粉々に粉砕され、バターの香ばしい匂いと共に周囲へと激しく弾け飛んでいく。
「ひ、ヒィィィィッ!? また地震ですかぁぁぁ!?」
小松くんが頭を抱えてテーブルの陰へとスライディングする。
だが、トリコは即座に戦闘態勢に入り、その青い髪をかつてないほどの警戒で逆立たせていた。
「小松、違う! これは地震じゃねぇ……『音』だ!!」
「それも、鼓膜を直接引き裂きにくるような、最高に狂暴な音の塊だぜ……っ!」
サニーもまた、20万本のヘアを自身の周囲に防壁のように展開しながら、その美しい顔をこれまでにないほど不快そうに歪めていた。
「最悪じゃんかよ……っ! この美しくねぇ、空間を力ずくで震わせる下品な波長……」
「ハニープリズンから、あの最凶の死刑囚が本当に釈放されやがったのかよぉ!!」
外の庭から、ズシ……ズシ……という、地響きを伴う圧倒的な『凶暴な足音』がゆっくりと近づいてくる。
破壊された壁の隙間から姿を現したのは、常人の倍はある圧倒的な体躯に、口元が耳元まで大きく裂けた、悍ましい傷跡を持つ大男だった。
四天王最凶のバトルマニアにして、その破壊的な音波の力でいくつもの種族を絶滅に追い込んできた男――ゼブラその人だった。
「――キキキ、見ツケタゾ。マンモスの胎内で美食會の大部隊の心をへし折り、手配書のトップに躍り出たっていう、美味そうなバケモノをよぉ……!」
ゼブラの裂けた口元から放たれる声は、ただのセリフであるにもかかわらず、リビングの空気を物理的に激しく震わせるほどの『音波の暴力』そのものだった。
彼は監獄から釈放されるや否や、IGOの噂で聞いた「規格外の褐色肌の巨漢(俺)」の正体を確かめるために、周囲の猛獣をすべて声だけで消し飛ばしながら、ここまで一直線に殴り込みにきたのだ。
ゼブラの血走った目が、リビングの隅で猫背になって身構えている俺の姿を、完全にロックオンした。
「おい、カナタとか言ったな。お前、自分の力を隠してるつもりだろうが、俺の耳は誤魔化せねぇぜ」
「お前の心臓の音が……星が爆発する時みたいな、悍ましく美味そうな爆音で鳴り響いてんだよ……っ!」
「一発だけでいい。俺と本気で殺し合おうじゃねぇか!!」
ゼブラがニヤリと狂気的な笑みを浮かべ、右手を前に突き出した。
その指先から、目に見えないほどの超高圧に圧縮された音波の塊――『サンダーノイズ』が、俺の顔面に向けて容赦なく零距離で放たれた。
「うわぁぁぁぁっ!? 音波だ! 耳が痛いぅぅぅ!!」
前世がただの一般人である俺は、その雷のような音の暴力に、恐怖のあまり完全にその場で両手で耳をぎゅっと塞いで縮こまった。
正面から迫り来る「四天王最凶の男の必殺技」の迫力に、精神の側が反射的に完全な防御体制に入ってしまったのだ。
ズガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!
凄まじい爆音がリビングに響き渡り、周囲の空気が衝撃波で白く爆ぜる。
だが、ゼブラが放った破壊の音波は、俺の皮膚に到達した瞬間、信じられない形で消滅した。
エネルギーが吸収されたのではない。
俺の肉体の『筋肉の密度』があまりにも異次元すぎたため、ゼブラの放った超高圧の振動波が、俺の褐色肌に触れた瞬間に「ただのコンクリート壁にぶつかった音」のように完全に遮断され、その場でペシャンと潰れて消え去ってしまったのだ。
俺の周囲の空間だけが、物理法則を無視した完全な「無音の真空」へと変貌していた。
「……あ、あれ? 痛くないし、耳鳴りも消えた?」
恐る恐る耳から手を離して目を開ける。
俺の身体にはかすり傷一つなく、ただゼブラの音波を完全にシャットアウトしただけの、圧倒的な静寂がリビングを支配していた。
「……おいおい、マジかよ」
「俺のサンダーノイズが、跳ね返されるんじゃなくて……ただの『壁の硬さ』だけで、完全に消されちまっただと……っ!?」
ゼブラがその血走った眼を丸く見開き、初めてその顔に驚愕の冷や汗をにじませた。
どんな物質をも内部から粉砕する彼の音波が、ただの「生身の肌の硬度」に完敗したのだ。
だが、ゼブラの本当の驚愕は、そこからだった。
彼は俺の本当の強さを見極めるため、その超人的な聴覚を限界まで研ぎ澄まし、俺の胸の奥にある『心音』を直接聴き取ったのだ。
ドク、ドク、ドク、ドク、ドク……。
ゼブラの耳に響いたのは、星の爆発のような爆音ではなかった。
それは、
「ひえぇぇ、怒らせちゃったよ! 怖いよ! 早くおうちに帰って料理の動画とか見たいよぉぉぉ!」
という、前世が一般人である俺の、あまりにも小心者で、必死で、情けないほどに怯えきった「本気の恐怖の心音」そのものだった。
「……おい、お前」
ゼブラの裂けた口元が、急にピキピキと引き攣った。
戦闘狂としての血が完全に冷めていくような、凄まじい「拍子抜け」の表情が、彼の悍ましい顔に浮かび上がる。
「お前、その世界を滅ぼせるレベルの規格外の筋肉と心臓を持ってて……」
「中身の心音、なんでそんなに『チョーシのってねぇ、ただのクソビビりな一般人』なんだよ!!」
「殺し合いを期待した俺が、本気でバカみたいじゃねぇか!! お前、そこまでビビってんなら、最初からそんな魔王みたいなオーラを醸し出してんじゃねぇよ!!」
「ガーンッ!!!」
ゼブラが、自身の全力を完全に遮断されたことへの悔しさよりも、相手の「中身のあまりのショボさ(ビビり具合)」に対して、本気で激しいズッコケのツッコミを俺に喰らわしてきた。
「い、いや、ゼブラさん! 俺だって好きでこんな化け物みたいな肉体になってるわけじゃないんです!」
「中身は本当に、普通のご飯を美味しく食べて、静かに暮らしたいだけのただの人間なんです!」
「お願いですから、そんな顔を近づけないでください! 俺がテンパってうっかり押し返したら、本当にお前が消滅しちゃうんだよぉぉぉ!!」
「だから、その異次元のセリフと心音のギャップが最高にチョーシこいてんだよ!!」
「ああ、もういい! 殺し合いは中止だ! こんなビビりまくってる奴を殴っても、俺の美学(チョーシ)が狂うだけじゃねぇか!」
ゼブラはフンッと乱暴に鼻息を鳴らすと、構えていた手を下ろし、悔しそうに頭をガリガリと掻きむしった。
トリコはそんな二人のやり取りを、顎をさすりながら大爆笑で見つめていた。
「ハハハ! 最高のリアクションじゃねぇか、ゼブラ!」
「カナタ、これからはお前のその手配書を見て、いろんな戦闘狂が殴り込んでくるだろうが……」
「そのたびに、お前のこの『ビビりな心音』を聴かせて、全員の戦意をへし折ってやればいいだけの話だな!」
トリコのそのぶっきらぼうな言葉に、俺は今度こそ本気で頭を抱えて、床の上にしゃがみ込むしかなかった。
力の制御は手に入れた。
だが、俺の意図しないインフレと、世界からの誤解、および新たな仲間(ゼブラ)からの激しいツッコミの日常は、ここからさらに加速していく。
お菓子の家の壊れた壁の隙間から見える人間界の青空の下。
世界一の怪力を持った俺の、ビクビクと震える美食屋ライフは、四天王最後の男の合流によって、いよいよ世界全体の勢力図を完全に塗り替える、新たなるインフレの戦いへと、その歩みを進めていくのだった。