『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』   作:トート

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第十六話:ようこそ、恐怖のVIPルームへ。美食會の影と、怯える魔王

ゼブラが「戦う気が失せた」と吐き捨て、お菓子の家の冷蔵庫から勝手に巨大な骨付き肉を取り出して貪り食い始めた頃。

 

俺――カナタは、リビングの片隅で膝を抱え、小さく(肉体はクソデカいのだが)縮こまっていた。

 

(生き延びた……。あの、声だけで猛獣を消し去る四天王最凶のゼブラさんから、生きて有罪放免を勝ち取ったぞ……!)

 

ジュエルミートのおかげで、今は普通に座っても床が爆発することはない。

しかし、精神的な恐怖までは消えてくれない。ゼブラが肉を噛みちぎる「バキボキ」という生々しい破壊音が響くたびに、俺の心臓は「ひえっ」「すみません」と情けない悲鳴を上げ続けていた。

 

そんな俺の様子を見て、サニーが美しい髪をなびかせながら、呆れたようにため息をつく。

「まったく、ゼブラの奴、相変わらず美しくねぇ大食いしやがって……。それにしてもカナタ、あんたさぁ」

 

「は、はいぃっ! 何でしょうかサニーさん!?」

ビクッと肩を震わせる俺に、サニーは真剣な、どこか畏怖の混じった視線を向けてきた。

 

「あんた、さっきゼブラの音波を『ただの肌の硬さ』で消した時、一瞬だけ空間を【完全な真空】にしたでしょ。……あれ、計算してやったわけ?」

 

「え? いや、計算なんて滅相もないです! ただ耳を塞いで縮こまってたら、なんか音が消えてて……」

 

「……フン、相変わらずトボけちゃって。音っていうのは空気の振動よ。あんた、ゼブラの音波が触れた瞬間に、自分の『気』をミリ単位で超高速振動させて、周囲の空気を一瞬で弾き飛ばして真空状態を作ったのよ。そうじゃなきゃ、ゼブラのサンダーノイズが跡形もなく消えるわけがないじゃんよ」

 

「えぇっ!?(初耳)」

 

サニーの超理論(勘違い)による解説が始まった。

隣でココも、ふむ、と顎に手を当てて深く頷いている。

「なるほど。音の天敵である『真空』を、肉体の表面だけで一瞬にして作り出したわけだね。それも、ゼブラにすら気づかせないほどの神速で。……カナタくん、君が『ただ怯えていただけ』と言うのは、僕たちに余計な気遣いをさせないための優しさかい?」

 

「いやいやいや! 本当に、マジで、100%ただビビってただけなんですって!!」

 

「ハハハ! いいじゃねぇか、本人はそう言ってるんだ、そういうことにしておこうぜ!」

トリコが笑いながら俺の背中をバシバシと叩く。ジュエルミート補正のおかげでトリコの手が粉砕されることはなかったが、その豪快な衝撃に俺の心臓は再び飛び上がりそうになる。

 

「それよりカナタ。お前がマンモスの胎内で、謎のブリキ人形(GTロボ)の群れを一瞬で消し飛ばしてジュエルミートを手に入れた一件……IGOの上層部でも、かなりヤバい騒ぎになってるらしいぜ」

トリコの口から出た「謎の組織のロボット」の話に、俺は背筋が凍りつくのを感じた。

 

(出た……! 原作の裏で暗躍する、世界を滅ぼしかねない最凶の悪の組織『美食會』……!!)

 

「トリコさん、そのロボットを操ってる連中……本当に関わらない方がいいです……」

俺はガタガタと震えながら、本気の警告を口にした。

 

「彼らは……本当にヤバいんです。ストローで生き物の体液を吸う奴とか、四本の腕で包丁を振り回すバグった奴とか、リーガルマンモスなんて一瞬で消し炭にするような化け物が、ウジャウジャいるんです……! 俺みたいな一般人が目を付けられたら、今度こそ消されちゃいますぅぅ!!」

俺としては、恐怖のあまりに知っている情報を必死に吐き出して「だからもう関わりたくない」と訴えたつもりだった。

 

しかし。

 

「――ほう」

肉を喰らっていたゼブラが、ピタリと手を止め、その隻眼を怪しく光らせた。

 

「ストローで吸う奴に、四本腕の料理人、か。おいカナタ、お前……あのロボットの糸を引いてる、人間界の裏に潜むそいつらの『幹部クラスの生態』まで、すでにそこまで正確に掴んでやがったのか」

 

「え?」

 

ココの顔から笑みが消え、極めてシリアスな表情になる。

「……驚いたな。IGOの調査網ですら、操縦者の容姿や特徴まではまだ一切掴めていないはずだ。カナタくん、君は一体どこでその情報を……。いや、君ほどの男だ。独自のルート、あるいはその圧倒的な『野生の勘』で、すでに敵の核心を見抜いているというわけか」

 

「違っ……俺はただの一般人の知識で――」

 

「なるほどな」

サニーが美しく髪をかき上げる。

 

「あんたがマンモスの胎内で、新型のロボットを木っ端微塵どころか、それこそ分子レベルで徹底的に叩き潰したのは……『これ以上、人間界にちょっかいを出すな』っていう、奴らの本拠地への明確な【警告】だったわけね。美しすぎるじゃん、その圧倒的な先手必視」

 

(違う!!! あれはただロボットが怖くて、パニックになって殴り続けちゃっただけだよぉぉぉ!!!)

 

俺の心の絶叫は、誰にも届かない。

トリコは拳を固く握りしめ、不敵な笑みを浮かべた。

「へへっ、面白くなってきやがった。あのカナタがそこまで警戒を促す組織だ、相当な手練れが集まってるんだろうな。だがカナタ、お前がそこまで奴らの情報を握り、なおかつマンモスの胎内で大打撃を与えたんだ。奴らも、もうお前を無視できねぇはずだぜ」

 

その言葉通り。

まさにその瞬間、遠く離れたグルメ界の入り口――美食會の総本部では、トリコたちの想像を遥かに超えるレベルで「カナタ」という存在への恐怖と混乱が渦巻いていた。

 

 

【美食會・総本部】

 

禍々しいオーラが漂う円卓の会議室。

そこに集まっていたのは、美食會の最高幹部たち――副料理長、そして各支部長たちだった。

 

中央の巨大なモニターには、リーガルプラトーで大破したGTロボの「最後の通信データ」が映し出されている。

そこに映っていたのは、褐色の巨躯を持ち、金色の禍々しいオーラを爆発させながら、白目を剥いて(恐怖で精神がトびかけているだけ)迫り来る、まさに【魔王】そのものの男の姿だった。

 

「……これが、第六支部の潜入部隊を単独で退け、新型GTロボの群れを一撃で消し飛ばした男、カナタか」

 

冷徹な声で呟いたのは、副料理長の一人、スタージュンだった。

彼の隣では、四本の腕を持つグリンパーチが、不気味にストローを鳴らしている。

 

「恐ろしい男だねぇ……。見てよ、この気の密度。ロボットのカメラを通じてすら、こちらの精神が削り取られそうだ。彼、わざと白目を剥いて『お前たちの動きなど視界に入れる価値もない』とアピールしているよ。恐るべき挑発だねぇ」

 

「それだけではないぞ」

もう一人の副料理長、トミーロッドが、無邪気ながらも冷酷な笑みを浮かべてデータを指差す。

 

「彼、ロボットを破壊する直前、完全に『こちらの通信の先』……つまり、この総本部にいる僕たちのことを直接睨みつけているんだ。まるで、『次はそっちの番だぞ』って言っているみたいにさ。あはは、ゾクゾクしちゃうね!」

 

(※実際は、恐怖のあまり「どこから敵が来るんだ!?」とキョロキョロ周囲を見回していただけである)

 

会議室に、重苦しい沈黙と、かつてない戦慄が走る。

美食會の支部長たちといえば、世界中の美食屋が名前を聞いただけで失神するような凶悪犯の集まりだ。その彼らが、画面の中の「カナタ」という一人の男の静止画を前に、冷や汗を流している。

 

「奴は……我々の計画のすべてを知っている可能性がある」

スタージュンが静かに言った。

 

「胎内への潜入タイミング、ジュエルミートの回収。すべてを完璧に見切られていた。IGOの仕込みにしては、個人の戦闘力が規格外すぎる。……奴は、人間界が密かに隠し持っていた、我が美食會を滅ぼすための【最終兵器】と見て間違いないだろう」

 

「どうするんだい? すぐに刺客を送り込むかい?」

 

トミーロッドの問いに、スタージュンは首を横に振った。

「いや、焦るな。今の我が方の戦力で、迂闊に奴のテリトリー(人間界)に踏み込めば、返り討ちにあって全滅しかねん。奴の狙いが判明するまでは、不用意な接触は全面禁止とする。奴を……これ以上怒らせるな」

 

美食會の最高幹部たちが、一人の「ただ怯えているだけの元一般人」に対して、最大級の警戒レベルを敷いた瞬間だった。

 

そんな、世界の裏側で巻き起こっている超インフレな勘違いなど、知る由もない俺は。

「ふぅ……。やっぱり、お菓子の家で小松くんが淹れてくれた温かいココアを飲んでいる時が、一番心が落ち着くなぁ……」

 

ボロボロになったお菓子の家のリビングで、マグカップを両手で包み込みながら、ようやく人心地がついていた。

 

ゼブラも肉を食い飽きたのか、ソファーで高イビキをかいて寝ている。

「カナタさん、ココアのおかわり、ありますからね!」

 

「ありがとう, 小松くん。本当に小松くんの料理は、俺の荒んだ心を癒やしてくれるよ……」

 

じわぁ……と心に染み渡る美味。

これだ。俺が求めているのは、この穏やかで、誰も傷つけず、誰にも脅かされない平和な日常なのだ。

 

だが、トリコがニカッと白い歯を見せながら、俺の前に一枚の「依頼書」を差し出してきたことで、その平穏は一瞬で瓦解することになる。

「よし、カナタ! 体の制御も身についたことだし、ゼブラも復活した。そろそろ次の飯を獲りに行こうぜ!」

 

「……へ? つ、次の、飯……?」

俺の手が、ココアのカップを持ったままピキリと凍りつく。

 

トリコが持ってきた依頼書。そこに書かれていたのは、IGO会長の一龍から直接下された、人間界の危険区域への、新たなる食材調達の任務だった。

 

「次の目的地は――【ベジタブルスカイ】! 雲の上にある、幻の野菜の楽園だ!」

 

(く、雲の上ェェェェェェ!!? 高いところなんて絶対に無理だし、そもそもどうやって行くんだよぉぉぉ!!!)

 

カナタの、気の制御(物理)は手に入れたものの、中身の小心者ぶりは一切変わらないビクビク美食屋ライフ。

四天王全員の勘違いと、美食會からの過剰な恐怖を背負ったまま、物語は次なる舞台、遥かなる天空の戦いへと突き進んでいく――!

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