『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』   作:トート

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第十八話:二つの鍵と魔王の指先! トリコとゼブラが見た、天空の絶対強者

ベジタブルスカイの中心。

黄金に輝く幻の野菜『オゾン草』を前にして、四天王最狂の男・ゼブラは、隣に立つ大男の横顔を盗み見ていた。

 

褐色肌の巨漢、カナタ。

 

相変わらず、その背中から立ち上る「気」の濃度は尋常じゃない。

世界を容易に噛み砕きそうな魔王の風格。

だが、ゼブラの超人的な聴覚が捉えているカナタの心音は、相変わらず別物だった。

 

 

(……チッ、心臓は『うわー、すげえ光ってる。本物のオゾン草だ……』とか、平凡な一般人の音を鳴らしてやがる)

 

 

ゼブラは内心で苦々しく吐き捨てる。

中身はただの、美味い飯を食いたいだけの平和な元一般人。それがゼブラの知る、この男の「正体」だ。

 

だが、同時にゼブラは、その小心者な心音のさらに奥、カナタの細胞そのものが発する『物質としての殺気』に、肌がピリピリと粟立つのを感じていた。

 

 

(問題は、こいつが『失敗して足場を壊したくない、小松を巻き込みたくない』と腹を括った瞬間に、肉体の細胞が100%の防御体制に入っちまうことだ。中身がどれだけ慎重だろうが関係ねぇ。防衛本能が極限まで高まったこいつの指先は、今や地球上のどんな金属より硬ぇ。……マジでタチの悪いバグ野郎だぜ)

 

 

ゼブラがそんな警戒を抱いていることなど露知らず、トリコは拳をゴキゴキと鳴らしながら、オゾン草へと歩み寄っていた。

 

「よし、それじゃあさっそく、このオゾン草って奴を剥いてみようじゃねぇか!」

トリコが巨大な葉の一枚に手をかける。

 

「待て、トリコ」

ココが鋭い声でそれを制した。

「オゾン草から発せられる電磁波の乱れが尋常じゃない。……これは、特殊調理食材だ。迂闊に手を出すと、一瞬で腐るよ」

 

その言葉通り、オゾン草はただの野菜ではなかった。

二枚の巨大な葉を、左右から【同時に、全く同じ力加減で、寸分の狂いもなく】剥かなければ、その瞬間に果肉が自己崩壊を起こし、真っ黒に腐って解けてしまうという、自然界の最高難度のトラップを持っていたのだ。

 

「同時に、同じ力で剥く……? 冗談じゃんよ、そんなの普通は人間技じゃねぇだろ」

サニーが冷や汗を流しながら髪をかき上げる。

 

本来なら、ここでトリコと小松くんが高度な「技術」と「呼吸の同調」によって、プロの職人技を合わせて挑む場面。

だが、その二人の真剣な姿を見て、一歩前に出たのはカナタだった。

 

「……あの、もしよかったら、俺にやらせてもらえませんか」

 

その顔は、極度の緊張と、力加減を失敗してこの貴重なオゾン草を台無しにすることへの恐怖から、まるで般若のように恐ろしく強張っている。

だが、その瞳には「みんながここまで苦労して登ってきたんだ、ここで俺が日和って失敗するわけにはいかない」という、静かで確かな大人の理性の光が宿っていた。

 

「カナタ……。お前、一人でやる気かよ?」

トリコが驚愕の声を上げる。

「左右同時に、同じ力だぞ!? 一人でどうやって――」

 

「やってみます。……慎重にやれば、きっと」

カナタは多くを語らず、オゾン草の前に静かに膝をついた。

その巨躯が、黄金の光を遮るように影を落とす。

 

 

(一人で左右同時に、全く同じ力。……要するに、加減を誤って左右の腕のバランスがブレた瞬間にアウトなんだな。だったら、下手に動かそうとするな。自分の両手の『感覚』を、ただ完全に同じ出力のまま物理的にロックすればいい)

 

 

カナタは心の中で冷や汗を流しながらも、一般人としての理性を限界まで研ぎ澄ましていた。

自分の肉体がバケモノなのは知っている。

だからこそ、右手の筋力と、左手の筋力を、脳内で完璧に「1対1」のイコールで結び、ガチガチに固定する。

 

カナタが両手をオゾン草の左右の葉にかけた、その瞬間。

 

「――ッ!!」

トリコ、サニー、ココの3人が、本能的な戦慄と共に息を呑んだ。

 

カナタの体から、それまで漏れ出ていた禍々しい漆黒のオーラが、嘘のように一瞬で「完全なゼロ」になったのだ。

いや、消えたのではない。

左右の両腕の出力を完璧に等しくするために、全身の細胞のエネルギーが、指先の一点へと【完璧に集中・凝縮】されたのだ。

 

サニーは、あまりの気配の「無」に、己の肌が総立ちになるのを感じていた。

 

 

(消え、た……? 目の前にあのバケモノのような巨体があるのに、気配が完全に『透明』になりやがった。……技術でコントロールしてるとかそういう次元じゃねぇ。自分の意思で、あの規格外の力をミリ単位で完全に静止させてるってのかよ……!)

 

 

ココもまた、自身の目が捉える電磁波の景色に息を詰まらせていた。

カナタを中心に、左右の空間の圧力、空気の振動、すべてのバランスが、1ミリの狂いもなく完全なシンメトリー(左右対称)に固定されている。

 

「おい、ゼブラ……あいつ、今何をしてやがる……」

トリコが冷や汗を流しながら、ゼブラに声をかける。

 

だが、ゼブラは答える余裕すらなかった。

超聴覚が捉える、カナタの筋肉の音が、あまりにも異常だったからだ。

 

 

(おいおい、ふざけんなよ……。五感を研ぎ澄まして呼吸を合わせてるんじゃねぇ。あいつ、恐怖のあまりに筋肉をガチガチに硬直させてるだけなのに……その硬直のバランスが、左右1ヘルツの狂いもなく完璧に『同じ音』でロックされてやがる……!)

 

 

ゼブラの脳裏に、かつてないほどの鳥肌が立つ。

本人は「左右のバランスを間違えたら腐っちゃう、慎重に、絶対に動かすな、固まれ俺の腕……!」と、チキンな心音を必死に抑え込んで、両腕を彫刻のように静止させているだけだ。

だが、その極限の慎重さが、ブロリーの肉体という狂暴なスペックを通して、【完全なる左右対称の物理的ロック】という、神の領域の現象として出力されていた。

 

 

そして、カナタの巨大な両手の指先が、その固定された姿勢のまま、ロボットのように正確に動いた。

 

スゥゥゥゥ……。

 

左右の葉が、全く同じ速度、全く同じ角度、全く同じ圧力で、滑らかに開いていく。

 

オゾン草は、変色する暇すら受け入れられなかった。

それどころか、あまりにも完璧すぎる力加減で固定されたまま剥かれたため、植物自体が「傷つけられた」ことすら感知できず、自己防衛の腐敗機能を完全にスルーしてしまったのだ。

 

パカッ……!!!

 

次の瞬間、ベジタブルスカイの全域に、それまでとは比較にならないほどの、瑞々しくも濃厚な「至高の野菜の香り」が爆発的に広がった。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ……っ!!!」

小松くんが、その香りの芳醇さに歓声を上げる。

 

葉の奥から姿を現したのは、まるで純粋な結晶のように透き通った、黄金色に輝くオゾン草の果肉だった。

 

「……ふぅ。よかった、上手くいったな」

カナタは、強張っていた般若のような顔をふっと緩め、いつもの穏やかな標準語で、静かに安堵の息を漏らした。

その手には、1ミリの傷もなく綺麗に剥かれたオゾン草が、完璧な状態で収まっている。

 

「嘘、だろ……」

トリコが、その圧倒的な結果の前に、ただただ言葉を失っていた。

「技術の巧さじゃねぇ……。あの体格と筋力でありながら、左右の『誤差』を力づくでゼロに固定しやがった。どんな体の構造してんだよ、あいつ……」

 

「美しすぎる……。完璧な、対称の肉体じゃんよ……」

サニーもまた、実力の上下ではなく、その生物としての「異次元さ」に、深い冷や汗を流さざるを得なかった。

 

ゼブラは、カナタの心臓が「よかったぁぁ、腐らせずに済んだぁ……! 小松くん、喜んでるかな」と、相変わらず平凡で優しいリズムに戻ったのを聴きながら、盛大にため息をついた。

 

「フン、さっさとその最高級の野菜を、口に運ぼうじゃねぇか」

 

「お、おお! そうだな! 食おうぜ、カナタ!」

トリコが我に返り、興奮を抑えきれない様子で声を張り上げる。

 

 

 

 

【美食會・総本部】

 

その頃、禍々しい円卓の会議室では、偵察用GTロボが送信してきた映像を前に、最高幹部たちが静まり返っていた。

 

中央の巨大なモニターには、カナタがオゾン草の葉を開いた瞬間が、詳細なスキャンデータと共に映し出されている。

 

「……ふん。オゾン草を一人で剥いたか。人間界の最終兵器と騒がれていたが、所詮はその程度の調理技術(わざ)は持ち合わせているということだな」

副料理長の一人、トミーロッドが、つまらなそうに髪を弄りながら鼻で笑った。美食會の最高幹部ともなれば、その程度の特殊調理など「できて当たり前」の領域だからだ。

 

しかし。

 

「――いや、待て。ログを見直せ」

 

冷徹な声で遮ったのは、スタージュンだった。

彼の視線は、映像の隅で激しく点滅している「食材のバイタルデータ(抵抗値)」に釘付けになっていた。

 

「トミー、数値を見ろ。奴がオゾン草の葉に両手を触れてから、完全に剥き終わるまでの数秒間……食材から発せられる電磁波の乱れが、『一兆分の一秒(1ピコ秒)』すら、1ミリボルトすらも、完全に【ゼロ】のまま微動だにしていない」

 

「……え?」

トミーロッドの笑顔が、ピキリと凍りついた。

 

どれほどの達人が、どれほど完璧な呼吸と技術で左右を同調させようとも、生身の人間である以上、細胞の微細な震えや、コンマ数秒の肉体的なズレという「誤差」が必ず発生する。食材側もそれに過敏に反応し、画面のグラフには必ずわずかな『揺らぎ』が記録されるはずなのだ。

 

それが、美食會の知る「特殊調理」の絶対的な物理法則だった。

 

しかし、モニターに躍るカナタのデータは、最初から最後まで、不気味なほどにまっすぐな一本の「直線」を描いていた。

 

「あり得ん……。技術で制御しているのではない」

スタージュンが、自身の強靭な拳を固く握りしめ、かつてない冷や汗をその頬に流した。

 

「奴は、自身の肉体の筋肉、骨、神経、すべての細胞の動きを、分子レベルで完全に『静止(フリーズ)』させて固定した。……あまりにも完璧すぎる対称の固定ゆえに、オゾン草側は、【そもそも自分が外部から触れられたことすら感知できていない】のだ。技術などという文脈ではない……奴は、物理的な因果そのものを欺(あざむ)きやがった……!」

 

(※実際は、カナタが恐怖のあまりに「1ミリもブレるな、固まれ俺の腕!」と、筋肉をただガチガチに力づくでロックしていただけである)

 

会議室を、言葉にできないほどのおぞましい戦慄が包み込む。

 

美食會の幹部たちは、一人の「ただビビって固まっていただけの元一般人」に対して、技術の優劣を遥かに超越した、その存在そのものの【異質さ】と【計り知れない底の深さ】に、今度こそ心の底から本気で怯え始めるのだった。

 

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