『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』   作:トート

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第二十一話:課された次なる試練と、世界を揺るがすチキンハート

一龍会長の分厚い指先が、大理石のデスクに広げられた古ぼけた地図の一点を叩く。

 

ト、ン――。

 

極めて軽いそのはずの打突音が、俺の鼓膜には大型トラックが正面衝突したかのような重低音となって響き渡った。

 

(……ひ、ひえぇぇぇぇ!!! また出たよ『修行の地』!!!)

心臓が、肋骨の裏側を破壊せんばかりの勢いで暴れ狂う。

 

(一龍会長が、俺の肉体制御やこれからのために、本気で考えてわざわざ用意してくれた貴重な修行の機会だってことは痛いほど分かってる……!)

 

(分かってるんだけど、場所のチョイスが毎回スパルタすぎて、前世一般人の俺の心臓が物理的に耐えられないよぉぉぉ!!!)

 

ありがたい反面、提示された場所の恐ろしさに、奥歯の根がガチガチと火花を散らしそうになる。

 

(せっかく俺のために言ってくれてるのに、『嫌です、怖いので行きません』なんて口が裂けても言えない……!)

 

(会長に申し訳なさすぎるし、何よりこの金髪の老雄の期待を裏切るような失言をしたら、その瞬間にプレッシャーで俺が白目剥いて死ぬ!!!)

 

(落ち着け、俺……! ありがたくお受けするんだ。だから力を抜くんだ、力を……っ!)

パニックで暴走しそうになるブロリーの狂暴な肉体を、俺は涙目で必死に「抑え込もう」と制御をかけた。

 

超質量の筋肉をミリ単位で、いや、分子レベルで内側へとギチギチに凝縮していく。

だが、その必死すぎる肉体の緊張が、外部からはどう見えるか。

 

ピキ、ピキピキ……ッ!!!

 

俺の褐色肌の顔面は、尋常ではない圧力によって血管が浮き上がり、まるで地獄の底から這い上がってきた禍々しい般若そのものの形相へと強張っていた。

 

白目を剥きそうになるのを堪えた結果、その視線は一龍会長の眉間を、冷徹に射抜くような形になってしまう。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!

 

俺が恐怖で冷や汗を流すのを耐えているせいで、全身から「世界を滅ぼしかねない漆黒の超魔王の気圧」が無自覚に垂れ流されていた。

 

総本部ビルの大理石の床が、目に見えない高重力に押し潰されるように、ミクロ単位できしみを上げる。

 

その様子を正面から受け止めた一龍会長の、豪快な金髪と髭が、わずかに逆立った。

 

(……なんという眼光じゃ。ワシが与えようとした試練を瞬時に理解した上で、これほどまでに気が尖るとはな)

 

(お前さんの成長のために用意した場所じゃが、この男にとっては『生温い』とでも言いたげな傲岸不遜な構え……!)

 

一龍会長の額を、再び一筋の冷や汗が静かに、だが重く伝っていく。

人間界の生態系の頂点に立つ老雄は、俺の般若の顔面を見て、完全に【ワシの配慮など不要。早くその先を見せろ】という、次元の違う領域からの無言の圧迫だと深読みしていた。

 

「……ハッハッハ、やはりカナタくんには、この程度の場所では退屈じゃったかのう」

一龍会長が、背中に走る強烈な戦慄を隠すように、あえて飄々とした笑みを浮かべて地図をなぞる。

 

「ワシが指定しようとしたのは、極寒の地『アイスヘル』のさらに奥……」

 

「人間界の法律も、世界の常識も一切通用せん、文字通りの無法地帯じゃ」

 

「そこにある、ある『超高密度カロリーの結晶』を捕獲してほしかったのじゃが……」

 

(アイスヘル……!? 凍死するわ!!! 氷点下何十度だよ!!! 嫌だ嫌だ、絶対に行きたくない!!!)

俺の脳内は、すでに完全な幼児退行を見せていた。

 

ぬくぬくとしたコタツが恋しい。小松くんの特製スープで温まりたい。

恐怖のあまり、俺の思考は完全に「食事」へと逃避を始めていた。

(…………ドックン、ドックン、ドックン……)

 

(『うわぁぁん、寒いのは無理ぃぃぃ!!! アイスヘルなんて行ったら俺の指先凍ってポロって取れちゃう!!! それより早く小松くんのあったかい肉煮込み食べたいなぁ……』……)

 

静まり返った執務室に、そのマヌケ極まりない純白のチキン心音が響く。

当然、四天王最恐 of 最恐の男、ゼブラの超人的な聴覚は、その一音一句を完全に捉えていた。

 

ピキッ。

 

ゼブラの右眉の上が、怒りの電圧で激しく跳ね上がる。

(この……どこまでも脳みそが腐ったクソチキン野郎が……ッ!!!)

 

一龍のおやじがテメェを本気で気遣って用意してくれた修行の場だぞ。

おやじの親心に正面から般若の面で圧をかけ、部屋全体の重力法則を歪めておきながら。

 

脳みその中身は「おててが凍る」だの「肉煮込み食べたい」だの、どこの幼稚園児の寝言だ。

世界を滅ぼしかねない肉体を持って生まれながら、中身が羊の子供以下のビビりという、この世のバグそのものの存在に、ゼブラの拳がプルプルと震える。

 

(今すぐそのマヌケな鼓膜を、俺のボイスミサイルで消し飛ばしてやりてぇ……!!!)

ゼブラは天を仰ぎ、心中で激烈なズッコケツッコミを炸裂させていた。

 

だが、一龍会長はゆっくりと立ち上がり、その豪快な金髪を部屋の照明に輝かせながら、重々しく首を振った。

 

「よし、決まりじゃな。カナタくん、お前さんにはアイスヘルの最深部に眠る、伝説の食材『センチュリースープ』の、その源泉へと至る道を切り開いてもらう」

 

「……ただし、今回はトリコたちとは別行動じゃ」

 

「え……っ!?」

俺は思わず、素で声を上げてしまった。

 

別行動!?

小松くんという、俺の精神的オアシスがいない環境で、あの地獄のような氷大陸に一人で行けって言うのか!?

 

「おやじ、別行動ってどういうことだ? 俺たちもアイスヘルに行くんだろ?」

トリコが不思議そうに眉をひそめる。

 

一龍会長の目は、極めて真剣だった。

「トリコ、お前たちには別のルートから入ってもらう」

 

「カナタくんの『質量』と『気』は、あまりにも強大すぎる」

 

「お前たちが同じルートを進めば、彼の放つ純白の光と重力に守られ、お前たちのグルメ細胞の『修行』にならんのじゃよ」

 

一龍の言葉は、暗に「今のままではお前たちはカナタの足手まといにしかならん」と言っているに等しかった。

 

その瞬間、トリコたちの目の色が一瞬で変わった。

ただカナタの圧倒的な力に甘んじるのではない。

彼らは死線をくぐり抜けてきた、誇り高き「美食四天王」なのだ。

 

「……へっ、おやじ。言うじゃねぇか」

トリコがニィと不敵に口元を釣り上げ、拳を強く握りしめた。

その瞳には、カナタへの恐怖ではなく、滾るような「美食屋としての闘志」が宿っている。

 

「カナタの奴が桁外れのバケモノなのは、ベジタブルスカイで嫌ってほど分かってるさ」

 

「だけどよ……俺たちだって、ただアイツの背中を眺めて指をくわえてるだけのタマじゃねぇんだ」

 

「……そうじゃんよ」

サニーが自身の美しい髪を一本、指先で弄びながら、冷徹な、だが熱い視線を俺に向けた。

 

「美学のないただの力自慢なら鼻で笑ってやるところだけどね」

 

「カナタのシンメトリーな肉体と、あの完璧な因果のロックを見せつけられちゃあさ」

 

「……四天王のプライドにかけて、ただ守られるヒロインみたいな真似は絶対に御免じゃんよ」

 

「アイスヘルで、死ぬ気で進化して追いついてみせるぜ」

 

ココも静かに頷き、その知性的な瞳の奥に確かな熱を宿らせる。

「カナタさん。あなたという絶対的な『頂点』が目の前にいてくれるから、僕たちはどこまでも強くなれる」

 

「別ルートは望むところです」

 

「僕たちの『誇り』が、あなたの足を引っ張ることを許さない」

四天王がそれぞれ、俺という存在を「畏怖すべき怪物」としてではない。

「いつか必ず並び立つべき、最大のリスペクトを捧げるべき壁」として、その胸の内に闘志の炎を燃え上がらせていた。

 

美食四天王としての絶対的なプライドが、俺という規格外の存在を前にして、さらなる進化への引き金となっていたのだ。

 

(……え? えぇぇぇぇ!? みんな、なんでそんな急にヤンキー漫画みたいに目がマジになってるの!?)

 

俺は、一龍会長の威厳と、四天王たちの急激なガチ勢オーラに挟まれ、完全に涙目になっていた。

(足手まといとか足引っ張るとか、そんなこと1ミリも思ってないよ!? むしろ俺の前に盾として立っててほしいよ!!!)

 

(一人でアイスヘルとか、マジで一歩目で凍りついて野生のペンギンのおもちゃになっちゃうよぉぉぉ!!!)

 

だが、俺が恐怖でガタガタと震えそうになる肉体を必死で「静止(ロック)」させようと奥歯を噛み締めたことで。

その表情はさらに冷酷な、すべてを悟ったような魔王の笑み(に周囲には見える歪み)へと固定されていく。

 

一龍会長は、その俺の「完全な無言の肯定」を見て、背中にゾクゾクとした歓喜と畏怖の震えを感じていた。

 

「それに……すでに『美食會』の不気味な鋼鉄の機械(GTロボ)どもが、アイスヘル周辺で不穏な動きを見せておる」

 

「カナタくんには、その裏で糸を引く連中への『抑止力』として、単独で正面から踏み込んでもらいたい」

 

美食會。

 

その名前を聞いた瞬間、俺の心臓は再びバグを起こした。

原作の知識が、脳内で警報を鳴らし始める。

 

スタージュンとか、あの辺のバケモノたちが蠢いている場所に、俺を一人で放り込むつもりか。

 

(いやいやいや!!! 無理無理無理!!! 抑止力って何!? 俺はただの一般人だよ!?)

 

(そんな物騒な連中と鉢合わせしたら、恐怖で白目剥いて泡吹いて倒れちゃうよぉぉぉ!!!)

恐怖が限界突破した結果、俺の脳細胞は完全にフリーズした。

 

そして、必死に「ビビっていることを悟られないように」と、奥歯を噛み締め、全身の筋肉を一兆分の一秒(1ピコ秒)の揺らぎすらゼロのまま、完全に固定した。

 

ゴ、オ、オ、オ、オ……ッ!!!!

 

執務室の空気が、一瞬にしてコンクリートのように凝固する。

 

俺の顔面は、完全に「すべてを見下し、敵を視界に入れる価値もない」という、冷徹極まりない魔王の表情(白目を剥きかけた強張り)へと変貌していた。

 

「フン、勝手にしろ。俺はテメェのマヌケな心音から離れられるなら、どこのルートでも構わねぇよ」

 

ゼブラが、俺の「ひえぇぇぇ、一人にしないでぇぇぇ!!」という羊のような悲鳴心音を聴きながら、呆れたように吐き捨てる。

 

だが、そのゼブラの言葉の裏にも、他の3人に負けない、強者としての不遜なプライドがギラギラと輝いていた。

 

こうして、俺の意思とは1ミリも関係のないところで。

地獄の氷大陸「アイスヘル」への単独全滅デスマッチ(本人の認識)への同行が、完全に決定してしまったのだった――。

 

一方、その頃。

 

人間界の遥か彼方、不気味な闇に包まれた美食會の総本部。

 

薄暗い作戦室の中で、数体のGTロボを遠隔操作するコントロールパネルの前に、副料理長スタージュンが静かに佇んでいた。

 

その鋭い眼光が、画面に映し出された「あるデータ」を凝視している。

それは、ベジタブルスカイで観測された、あの「純白の進化の光」と、その瞬間の電磁波の波形データだった。

 

「……信じられん。これは、本当に生物のデータなのか……?」

幹部の一人が、青ざめた顔でスキャンデータを指し示す。

 

画面上の波形は、本来なら生物の鼓動や呼吸によって微細に乱れるはずの電磁波が、一兆分の一秒(1ピコ秒)すらもブレることなく、完全な一直線を描いていた。

「技術などという生易しい文脈ではない」

 

「物理的な因果そのものを欺き、分子レベルで肉体を完全静止(ロック)させている……」

 

「この男の破壊衝動は、人間界を数秒で塵に還すレベルだぞ……!」

 

スタージュンの仮面の奥の瞳が、かつてないほどの深い冷や汗で濡れていた。

「……最重要手配犯、カナタ。この男を、絶対に怒らせるな」

 

「不用意に接触すれば、我が城ごと、この組織そのものが因果の彼方へ消滅させられかねん……」

 

美食會のボス、三虎(ミドラ)すらも、その純白の光を「組織壊滅のための宣戦布告」だと誤認していた。

アイスヘルへのGTロボ投入を「極秘の隠密行動」へと切り替えるほどの恐怖が、組織全体を支配していく。

 

そんな、世界を揺るがす勘違いの嵐が吹き荒れていることなど。

当のカナタは、一龍会長の執務室を出て、小松くんの後ろをトボトボと歩きながら。

 

(……うぅ、アイスヘルに行く前に、せめて小松くんの美味しいお肉料理をお腹いっぱい食べておこう……)

 

(それが俺の、今世の最後の晩餐になるかもしれないし……)

と、涙目で本気で遺言のメニューを考えているのだった。

 

 

 

 

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