『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』   作:トート

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第二十五話:極寒の鉄蜘蛛と、魔王が敷きし不可視の陣

「よおしお前ら! 根性入れてついてきやがれ! この地割れの先からよぉ、美味いモン特有の極上の匂いがビンビン漂ってきてんだろ!」

 

ゾンゲさんが大斧の柄で自身の胸をドンと叩き、興奮のあまり鼻息を荒くしながら、巨大な氷の谷――氷結地獄の亀裂を見下ろした。

 

その背後で、モヒカン頭の部下二人も「マジですか兄貴!」「スープの気配ってやつですね!」と完全に舞い上がっている。

 

(……いや、漂ってきてるのは極上の香りじゃなくて、原作知識通りのめちゃくちゃ物騒なフラグだからね!? アニメだと、あの地割れの下に降りたあたりから、いよいよ本格的に美食會の新型GTロボとか、ヤバい刺客たちがウジャウジャ出てくるはずなんだよぉぉぉ!!!)

 

俺の脳内は、ついに物語の本流である「スープ争奪戦」の核心部に近づいたことで、恐怖のサイレンが最大音量で鳴り響いていた。

 

(嫌だ、あそこから先はマジで命の保証がない! ゾンゲさん、お願いだからそれ以上進まないで! 頼むから回れ右して、IGOのヘリを呼んでコタツに強制送還してぇぇぇ!!!)

 

心の中では涙目でゾンゲさんの防寒着の裾を必死に引っ張っている気分だったが、このブロリーの無敵肉体は、一般人のチキンハートの命令など一切受け付けない。

 

恐怖で奥歯をガチガチと噛み締め、全身の筋肉をギチギチに強張らせているせいで、俺の褐色肌の顔面は、相変わらず【獲物の逃げ道を完全に塞ぎ、すべてを蹂躙せんと目論む絶対的な魔王】の般若面で完全に固定されていた。

 

白目を剥きそうになるのを堪えた冷酷な眼光が、図らずもその地割れの奥底を、冷徹に射抜く形になってしまう。

 

ズシン、ズシン……!!

 

俺が「行きたくない、怖い!」と本気で足を踏ん張ろうとするせいで、一歩進むごとに、タンクトップ一枚の巨躯から放たれる異常な質量がアイスヘルの永久凍土を数十センチ単位で粉砕し、渓谷全体にゴウゴウと不気味な高重力の地鳴りを轟かせていた。

 

「へっ……若頭、後ろのお師匠様、完全に『やる気』ですぜ……!」「あの眼光……地割れの底に蠢く美食會のネズミどもを、ハナから全滅させる気満々の魔王のツラだ……っ。歩くたびに大気が震えてやがる……っ!」

モヒカンたちが恐怖でガタガタと震えながら囁き合うのを、ゾンゲさんは豪快に笑い飛ばした。

 

「ヘッ、ビビってんじゃねぇよ! お師匠様がわざわざ後ろに控えてくださってんだ、これ以上の贅沢があるか! テメェらのケツは全部あの巨大な壁が弾き返してくれるんだよ、俺たちは前だけ見て突っ込みゃいいんだ!」

 

(違うのおおおお!!! 後ろを守ってるんじゃなくて、ただ単に怖いから、ゾンゲさんたちを盾にして後ろに隠れてるだけなの!!! 盾が小さすぎて全然隠れられてないけど、精神的防壁として必死にしがみついてるだけなのぉぉぉ!!!)

 

口が裂けてもそんな情けない真実を暴露できるはずもなく、俺はただ、大気圧を歪める不気味な足音を撒き散らしながら、地割れの底へと引き摺られるように降りていくしかなかった。

 

 

     *

 

 

その頃、氷の地割れの遥か奥底、複雑に入り組んだ氷窟の闇の中――。

 

高性能な光学カモフラージュを纏い、吹雪と同化していた美食會の鋼鉄の蜘蛛型メカ――『新型GTロボ』の集団が、凍りついた岩陰に息を潜めていた。

 

「ギ、ギギ……ターゲット、接近……」

 

アニメの原作通り、アイスヘルの最深部を制圧し、センチュリースープを独占するために投入された美食會の隠密部隊。

 

本来ならば、遭遇した美食屋たちをその圧倒的なレーザーや怪力で一瞬にして消し炭にするはずの鉄の蜘蛛どもだったが、その操縦席に座る幹部たちの顔は、かつてないほどの不気味な汗で濡れていた。

 

「……化け物が降りてくる。IGOの要注意個体、カナタだ」

 

モニターに表示されているサーモグラフィの数値は、相変わらず1ピコ秒の乱れもない完全な『ゼロ』を示している。

 

生物としての熱反応が途絶えているのではない。周囲の絶対零度の冷気を、ただその肉体の「質量」だけで完全に遮断し、環境ストレスの影響を一切受けずに歩いてくるのだ。

 

操縦席の幹部が、震える手でマイクを握りしめ、通信回線に向かって息を呑むような報告を伝えた。

 

「各機へ通達。ターゲットは配下の美食屋を先行させ、自らは後方から広範囲に『高重力の生体波動』を展開している。一歩進むごとに周囲の永久凍土が粉ースト粉砕されており、ただの歩行で周囲の空間を威圧している状況だ」

 

彼らの超科学的なレーダーが捉えたのは、カナタが一歩進むごとに周囲の氷壁をきしませ、空間の気圧を狂わせている恐るべき物理的な質量だった。

 

彼らの常識からすれば、それは【こちらの隠伏や奇襲をすべて見抜いた上で、近づくもの全てをただの気圧でねじ伏せるための、圧倒的な戦闘陣】に他ならなかった。

 

「……こちらのカモフラージュは完全に無意味だ。あの男の視線、完全にこちらの潜伏座標を捉えてロックしている」

 

ガチ、ガチ、ガチ、ガチ……!

 

鉄の蜘蛛型ロボットたちの関節駆動部が、操縦者の極限の緊張と同期して、不気味な高周波の音を立てて細かく震え出す。

 

彼らは気づいていなかった。カナタがただ、パニックで目をバキバキに見開き、地割れの底の暗闇が怖くて生気のない白目で周囲を凝視しているだけだということに。

 

「……本部からの指示だ。『カナタとの正面衝突は避け、スープの回収を最優先せよ』と。全機、光学カモフラージュを最大に維持。刺激しないよう、慎重に距離を取れ……!」

 

美食會の隠密部隊は、普段の傲慢さを完全に削ぎ落とされ、ただその場に近づいてくる「タンクトップ一枚の巨躯」の威圧感に耐えかねて、蜘蛛の子を散らすようにして暗闇の奥へと音もなく後退を開始したのだった。

 

(……ドックン、ドックン、ドックン……)

 

(『うわぁぁん、暗いよぉぉぉ!!! 氷の洞窟とか絶対にお化けかヤバい猛獣が出るよぉぉぉ!!! 一龍会長、本当にごめんなさい、俺もう帰りたいです!!! 小松くんのご飯が恋しいよぉぉぉ……』)

 

そんな、美食會の精鋭部隊を戦わずして後退させる「世界の壁」の内側では。

ゼブラが聴けばあまりのマヌケさに耳を塞いでズッコケるような、純白のチキン心音が、絶望のメロディを奏で続けているのだった――。

 

 

     *

 

 

ザザ、ザザザ……。

 

地割れの底に広がる氷窟は、地上よりもさらに冷気が淀み、視界を遮るほどの白い霧が足元を埋め尽くしていた。

 

「おっしゃあ! 氷窟突入完了だぜ! お前ら、お師匠様の視界を遮るような無様な真似はするんじゃねぇぞ!」

 

ゾンゲさんが大斧を肩にトントンと叩きつけながら、氷の斜面を我が物顔で滑り降りていく。

 

その豪快な掛け声とは裏腹に、俺の精神は、暗闇の奥から漂ってくる「何か決定的にヤバい気配」を敏感に察知して、完全に消滅寸前だった。

 

(ひ、ひえぇぇぇぇ……っ!!! 案の定だよ!!! 新型GTロボの気配は(怖すぎて)消えたけど、この先ってアニメだと、他の美食屋たちが全滅しかけてたり、トリコたちが他の刺客と死闘を繰リ広げたりする大混戦ゾーンじゃん!!!)

 

前世一般人の記憶が、この先のタイムラインを鮮明に呼び起こす。できればこのまま氷の壁に同化して、争いがすべて終わるまで冬眠していたい。

だが、恐怖で奥歯をギリリと噛み締め、パニックを抑え込もうと全身の筋肉をギチギチに『ロック』しているせいで、俺の歩みは止まらない。

 

一歩進むごとに、タンクトップ一枚の褐色肌の巨躯から、周囲の氷壁をミリ単位できしませる漆黒の超魔王オーラがゴウゴウと無自覚に垂れ流されていた。

 

「……あ、兄貴。お師匠様、さっきから一言も喋らねぇのに、背中から出る『殺気の波動』がどんどん濃くなってますぜ……っ」「地割れの底に潜む敵を、一匹残らず骨ごと粉砕してやるっていう、魔王の無言の進軍陣形だ……っ!」 

 

モヒカンたちが背後からの見えない圧力にガタガタと骨を鳴らすのを、ゾンゲさんは大斧を構え直して、これ以上ないほど誇らしげに鼻の穴を膨らませた。

 

「あったり前だろ! お師匠様がわざわざタンクトップ一枚で先陣を支えてくださってんだ。俺たちがビビって歩みを止めたら、その瞬間に『修行不足だ』ってことで、この氷窟ごと俺たちを埋める気なんだよ! 前だけ見て突っ走れ!」

 

(違うのおおおおおお!!! 埋めないし怒ってないの!!! ただ単に暗闇が怖すぎて、声を出そうとすると喉の筋肉が引き攣って『ゴ、ゥ……』しか出ないから黙ってるだけなのぉぉぉ!!! ゾンゲさん、そんな特攻隊長みたいな勘違いして俺を戦場に引き摺り回さないでぇぇぇ!!!)

 

口が裂けてもそんな本音を吐き出せるはずもなく、俺はただ、周囲の大気圧をグニャリと歪める不気味な足音を撒き散らしながら、大混戦の核心部へとトボトボ(周囲にはズシン、ズシン)と進むしかなかった。

 

 

     *

 

 

その頃、氷窟のさらに深い十字路――。

 

アニメの原作通り、数々の名だたる美食屋たちが、美食會の放った凶悪な猛獣や刺客によって血を流し、全滅の危機に瀕している地獄絵図が広がっていた。

 

「……くそっ……! なんだ、この圧倒的な数は……っ!」

 

別ルートから死線をくぐり抜け、ようやく合流地点へと辿り着いたトリコが、氷の床に片膝を突き、荒い息を吐きながら迫り来る影を睨みつけていた。

 

その防寒着はボロボロに裂け、グルメ細胞の限界を超えた肉体からは、激しい湯気と血煙が立ち上っている。

 

「美しくない……っ。多勢に無勢なんて、本当に美学の欠片もないじゃんよ……っ!」

 

サニーが、凍傷で感覚の無くなりかけた髪の毛を必死に操りながら、迫り来る美食會の兵士たちを払い飛ばす。だが、その表情には隠しきれない疲労の色が濃く滲んでいた。

 

「……トリコ、サニー。弱音を吐いている暇はないよ。僕の目の錯覚でなければ……この地獄のさらに奥から、世界の理を丸ごと塗り替えるような、異常な『因果の歪み』が近づいてきている」

 

ココが、全身から紫色の毒霧を噴出させながら、その知性的な瞳を驚愕に大きく見開いた。

 

四天王がそれぞれの武器を構え、全滅しかけた美食屋たちが絶望に目を伏せた、その瞬間。

 

ゴ、ン……ッ!!!!!

 

氷窟の通路の奥から、彼らの鼓膜を物理的に揺らすような、凄まじい重低音の地響きが轟いた。

 

通路を満たしていた猛烈な吹雪と白い霧が、まるで巨大な見えない壁に押し潰されるように、一瞬にして左右へと綺麗に割れていく。

 

「――っ!? この、空間を丸ごと圧殺するような質量は……まさか……ッ!」

トリコがハッと目を見開いた。

 

霧の向こうから現れたのは、重厚な防寒着に身を包み、大斧を担いでイキり散らしているゾンゲ一派――。そして、その遥か後方から、マイナス数十度の地獄をタンクトップ一枚で、汗一つかかず、呼吸すら乱さずに歩いてくる褐色肌の巨躯。

 

カナタだった。

力を内側に閉じ込めようと必死になりすぎた結果、その顔面は地獄の般若そのものの形相へと強張り、白目を堪えた冷酷な眼光が、混戦地帯のすべてを「ゴミを見るような冷徹さ」で射抜いていた。

 

全身から垂れ流される漆黒の超魔王オーラが、周囲の氷壁を物理的にベキベキと粉砕していく。

 

「カナタ……ッ! テメェ、本当にタンクトップ一枚でここまで……っ!」

トリコが、自身の身体が恐怖ではなく、圧倒的なリスペクトと闘志でガタガタと震え出すのを自覚した。

 

(別ルートの地獄を必死に超えてきた俺たちを、アイツはただの一歩も動じず、大自然の冷気すら『ただの肌の硬さ』でねじ伏せて、悠然と追いついてきやがった……!)

 

(これが、人間界の魔王……! 俺たちが並び立ち、いつか必ず超えなければならない、最大のリスペクトを捧げるべき壁……ッ!!)

四天王の瞳に、再びギラギラとした激烈な美食屋の誇りが灯る。

 

彼らにとって、カナタのその般若の面は【よくぞここまで生き残った。ここからは俺の陣だ、下がって見ていろ】という、絶対的な強者の無言の激励に他ならなかった。

 

(……ドックン, ドックン, ドックン……)

 

(『うわぁぁぁぁん!!! トリコたちもサニーたちも、みんなボロボロでヤンキー漫画の最終決戦みたいになってるじゃん!!! 怖い! 敵の数多すぎるよ!!! お願いだから誰か俺を盾にして、今すぐコタツまで強制送還してぇぇぇぇ!!!』)

 

そんな、四天王の魂を極限まで進化させる「世界の頂点」の内側では。

ゼブラが聴けばあまりの情けなさに自分の頭を殴りつけるような、マヌケ極まりない純白のチキン心音が、絶望の悲鳴を上げ続けているのだった――。

 

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