『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』   作:トート

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第二十六話:魔王の無言の号令と、奮起する四天王

ゴ、ン……。

 

静まり返った氷窟の十字路に、俺の一歩が落とす超質量の地鳴りだけが重く響き渡る。

 

通路を埋め尽くしていた美食會の鋼鉄の機械(GTロボ)の群れや、それらが使役する血に飢えた猛獣どもの視線が、一斉に俺のタンクトップ一枚の巨躯へと集中した。

 

(ひ、ひえぇぇぇぇ……っ!!! 何この注目度、生きた心地がしないよぉぉぉ!!! 敵の数が原作の3倍くらいに増えてる気がするんだけど!?)

 

俺の脳内は、目の前の凄惨な戦場(ヤンキー漫画の最終決戦状態)を目撃したことで、完全にパニックの飽和状態を迎えていた。

 

今すぐトリコたちの後ろに回り、その広い背中を盾にしてガタガタ震えていたい。

だが、恐怖のあまり分子レベルで凝縮させてしまった筋肉は、一般人のチキンハートの命令をすべて不敵な肉体言語へと変換してしまう。

 

力を内側に抑え込もうと奥歯をギチギチと噛み締め、パニックを必死に抑え込もうとしたせいで、俺の顔は【群がる有象無象を視線一つで消し炭にせんと目論む、冷徹な魔王】の般若面で完全に固定されていた。

 

白目を剥きそうになるのを必死に耐えた冷酷な眼光が、図らずも前方の敵軍を、一網打尽にするかのように一瞥する。

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオ……ッ!!!!!

 

(近寄るな、近寄るな、近寄るなァァァ!!!)という極限の拒絶反応が、全身の毛穴から「空間を物理的に圧殺する漆黒の超魔王オーラ」となって激しく噴出した。

 

大気圧が一瞬で跳ね上がり、周囲の氷壁にピキピキと蜘蛛の巣のような無数の亀裂が走る。

 

「……ギ、ギギ……データ、エラー……ッ!?」

 

「質量計測……不能……! 機械の関節駆動部が、ただの気圧でへし折れる……ッ!!」

 

さっきまでトリコたちを数で圧倒していた美食會の量産型GTロボたちが、俺がただそこに立って睨みつけている(実際はパニックで凝視している)だけで、恐怖の電気信号を暴走させ、一歩、また一歩と後退を始めた。

 

使役されていた猛獣どもにいたっては、グルメ細胞が本能で「これ以上近づけば分子レベルで圧殺される」と察知し、生まれたての小犬のようにキャンキャンと悲鳴を上げてその場に平伏している。

 

その圧倒的な「王の威光」を正面から受け止めたトリコは、ボロボロの身体の底から、震えるような歓喜の笑みを漏らした。

 

「……へっ。相変わらず、とんでもねぇ質量だな、カナタ……!」

トリコが拳を強く握りしめ、自身のグルメ細胞がカナタのオーラに呼応して、かつてないほど激しく脈打つのを感じていた。

 

彼らの目には、カナタのその不動の構えが【この程度の雑魚どもに手こずっているようでは、テメェの隣に並び立つ資格はねぇ。四天王の実力、ここで見ててやるぜ】という、最高に熱い無言の叱咤激励に他ならなかったのだ。

 

「美学のない数だけの鉄クズなんて、アイツのオーラ一つで一瞬でゴミクズじゃんよ……っ!」

サニーが、凍傷で感覚の無くなりかけていた髪の毛を再びギラギラと輝かせ、美しい因果の網を空間に広げる。

 

「ココ、サニー……! カナタの奴、俺たちの『修行の成果』を値踏みしに特等席で構えてやがるんだ。ここで無様な戦いを見せたら、四天王の名が廃るぜ……ッ!!!」

 

「望むところです……! 僕たちの誇りが、あの頂点の足を引っ張ることを許さない……ッ!!」

 

ココが知性的な瞳の奥に激烈な闘志の炎を宿らせ、全身から濃緑色の毒霧を爆発的に噴出させる。

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」」」

 

カナタという「超えるべき絶対的な壁」からの無言の号令(と彼らが勝手に思い込んでいるパニック)によって、限界を超えていた四天王のグルメ細胞が爆発的な進化を遂げた。

 

トリコたちの背後から、それぞれのグルメ細胞の幻影(赤鬼、髪の魔物、毒の人形)が、吹雪を丸ごと消し飛ばすほどの凄まじい気迫となって膨れ上がる。

 

彼らは傷だらけの身体を踏み締め、戦意を喪失してガタガタ震えている美食會の機械の軍勢へと、文字通り嵐のような勢いで突撃していった。

 

「がっはっは! 見ろよお前ら! お師匠様の無言の圧に背中を押されて、あの列車の一発屋の兄ちゃんたちも、ようやくやる気になりやがったぜ!」

 

ゾンゲさんが大斧をぶんぶんと振り回しながら、鼻の穴を爆発せんばかりに膨らませて吠える。

 

「若頭! あのボロボロの連中、お師匠様に見捨てられないように必死にアピールしてやがるっすよ!」

 

「お師匠様! 俺たちが先頭に立って、この先の道をさらに切り開いてみせますから、後ろで見届けてくだせぇ!」

 

(え、えええええええええええええッ!? 違うの! 激励してないし、下がって見てろなんて1ミリも言ってないの!!! むしろ俺の前に盾として立っててほしいの!!! 敵のロボットが吹っ飛んでいくのは嬉しいけど、ゾンゲさんたちまで特攻隊長みたいに突っ込んでいかないでぇぇぇ!!!)

 

  (…………ドックン、ドックン、ドックン……)

 

(『うわぁぁん、みんないつの間にか目がマジになって突撃しちゃったよぉぉぉ!!! 一人にしないで!!! 怖い! 敵のボスみたいな強そうな奴が奥から出てきたらどうするの!? 小松くん、お家帰りたいよぉぉぉ……』)

 

静まり返った氷の大陸の奥底に、ゼブラが聴けばあまりの情けなさに耳の鼓膜を自ら塞ぎたくなるような、マヌケ極まりない純白のチキン心音が、絶望の悲鳴を上げ続けている。

 

だが、俺の悲痛な叫びは一切届かない。

周囲から見れば、俺はただ吹雪のなかで不敵に腕を組み、すべてを見透かしたような冷酷な般若の面で、戦場を一瞥しながら黙って彼らの背中を「見送る」ことしかできなかった。

 

しかし、この大混戦のエネルギーが最高潮に達した、その瞬間。

氷窟のさらに奥、十字路の突き当たりにある巨大な氷の扉が、凄まじい轟音と共に内側から爆裂した。

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

「――ギギ、ギ……。これ以上の進軍は、我が組織の計画に対する明確な『宣戦布告』とみなす……」

 

爆煙を割って現れたのは、これまでの量産型とは次元の違う、重厚な人間のフォルムを模した鋼鉄の巨躯。

 

アニメの原作通り、マッチや滝丸たちの戦闘エリアを蹂躙し、センチュリースープを確実に手中に収めるために投入された、美食會の『新型エース

GTロボ』だった。

 

(ひ、ひえぇぇぇぇ……ッ!? 出たあぁぁ!!! あんなの絶対に量産型じゃないじゃん!!! 映画のボスキャラみたいなのが出てきたよぉぉぉ!!!)

 

爆煙を突き破って現れた新型エースGTロボの圧倒的な威圧感を前に、俺の心臓は今日一番の変則パルスを刻み始めていた。

 

(原作の知識が警報を鳴らしてる! あいつ、マッチさんたちの居合を強引に耐えきるレベルの化け物装甲なんだよ! そんな物騒な鉄クズが、なんで俺の目の前で赤いモノアイを不気味に明滅させてるんだよぉぉぉ!!!)

 

今すぐ踵を返し、野生のアイスジャガーの背中に乗ってでも地上へ逃げ出したい。

 

だが、パニックが限界を突破した俺の肉体は、完全に「防御反応」としての分子レベルの『静止(ロック)』をさらに一段階深く噛み合わせてしまった。

 

ピキィィィィィィィィン……ッ!!!

 

呼吸すらも極限まで細くなり、タンクトップ一枚の褐色肌は、冷気だけでなく周囲の爆風すら「ただの肌の硬さ」で無効化して仁王立ちを維持している。

 

力を内側へ凝縮しようと奥歯をギチギチと噛み締めた結果、俺の顔面は、目の前の強敵すら「想定内の羽虫」として冷酷に迎え撃つ魔王の般若面から、一ミリも動かなくなってしまった。

 

「――ギギ、ギ……。ターゲット・カナタの生体反応、依然として『ゼロ』を維持……。周囲の熱力学を無視した、極めて異質な完全静止を確認……。これより、排除行動へ移行する」

 

新型エースGTロボのスピーカーから、操縦している幹部の、冷徹な中にも隠しきれない緊張が混じった合成音声が響く。

 

ヒュン……ッ!

 

ロボの頭部にある赤い単眼(モノアイ)がギラリと光った瞬間、周囲の空間が一気に熱膨張を起こした。

極限まで圧縮された超高熱のレーザービームが、絶対零度の氷窟を切り裂き、まっすぐ俺の眉間へと向かって照射されたのだ。

 

(ひぎゃあああああああッ!? レーザー! レーザー打ってきたあぁぁ!!! 死ぬ! 眉間に風穴が開いて前世に逆戻りしちゃうよぉぉぉ!!!)

 

脳内では大号泣しながら頭を抱えてしゃがみ込みたい気分だった。

 

しかし、周囲から見れば、俺はただ不敵に腕を組んだまま、白目を堪えた冷酷な眼光でその光線を見据えていることしかできない。

 

ドゴオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

凄まじい爆発音と共に、俺の顔面を中心に猛烈な炎と白煙が巻き起こった。

 

「お、お師匠様ァァァァァッ!!!」

 

「カナタ……ッ!?」

ゾンゲさんたちの悲痛な叫びと、トリコの鋭い声が氷窟に響き渡る。

 

四天王すら一瞬息を呑むほどの直撃だった。新型エースロボの火力を生身の頭部で、しかも無防備に受け止めて無事でいられる生物など、人間界には存在するはずが――。

 

フッ……。

爆煙が吹雪に流され、ゆっくりと俺の顔面が露わになる。

 

そこには、タンクトップ一枚のまま、煤一つついていない綺麗な褐色肌で、相変わらず不敵に腕を組んで佇む魔王の姿があった。

 

(……あ、あれ? 全然痛くない……? どころか、ちょっと生ぬるいお湯を顔にかけられたくらいの感覚なんだけど……これがブロリーの肉体の硬さなの……? 化け物かよ……っ)

 

あまりの頑丈さに自分自身が一番ドン引きしていた。

 

しかし、周囲から見れば、その光景は【美食會の最新鋭の火力を『避ける価値すらない』と見下し、あえて正面から肉体だけで受け止めて無傷で微笑んでいる異次元の怪物】そのものだった。

 

ゴオオオオオオオオオオオオオ……ッ!!!!!

 

(怖かった! 本当に怖かったんだから、もう二度と撃たないでぇぇぇ!!!)という極限のパニックが、全身の毛穴から「空間を物理的に圧殺する漆黒の超魔王オーラ」となって、物理的な衝撃波を伴って周囲へ炸裂した。

 

周囲の氷の床が、カナタの放つ異常な存在質量に耐えかねて、バリバリと蜘蛛の巣状に割れて陥没していく。

だが――今回の美食會は、これまでの量産型とは「執念」が違った。

 

「……ギ、ギギ……やはり、通常の高熱レーザーでは外殻一枚すら破れんか……ッ!!」

新型エースGTロボのスピーカーから漏れる幹部の声は、恐怖に震えながらも、同時に狂気的なまでの「任務遂行の覚悟」を宿らせていた。

 

「だが、ここで貴様を通せばスープ捕獲計画は根底から破綻する……! 我が身を捨ててでも、その『完全静止』の因果をここで絶つッ!!!」

カチリ、とロボの胸部ハッチが重々しく展開する。

 

その中心部に現れたのは、量産型には搭載されていない、アイスヘルの永久凍土を広範囲にわたって融解・爆滅させるための『超高密度エネルギー自爆炉』だった。

 

モノアイが赤から禍々しい紫色へと変色し、ロボの巨躯から発せられる熱量が、一瞬で周囲の絶対零度の空間を沸騰させる。

 

(えっ、待って待って何それ!? 胸からビーム出るタイプのやつ!? いや、エネルギーの光が強すぎて、目が、目が潰れるぅゥゥ!!!)

 

「ハハハハ! 諸共消え去れ、IGOの魔王ォォォ!!!」

 

ドガァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!

 

新型エースGTロボが自爆覚悟で放った、最大出力の超広範囲熱線爆破。

その破壊の光は、俺の「肉体」にはやはりただの温風でしかなかったが、周囲の「環境」にとっては致命傷だった。

 

バリ、バリバリバリ、ドゴオオオオオンッ!!!

 

「うわあああッ!? 足場が、足場が丸ごと溶けて崩れていくぞォォォ!!!」

 

「兄貴ィィィ! 奈落の底にまっ逆さまだぁぁぁ!!!」

 

俺が放っていた重力オーラと、ロボの自爆熱線の凄まじい衝撃が干渉し合った結果、俺たちが立っていた巨大な氷床が、まるでガラス細工のように大爆発を起こして完全に崩壊したのだ。

 

(ひえぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!! 落ちる! 落ちる落ちる! 待って、俺まだ心の準備が――!!!)

 

肉体が無敵だろうと、足場が消えれば重力には逆らえない。

 

分子レベルの『静止(ロック)』が物理的な落下の衝撃で強制解除され、俺はトリコたちやゾンゲ一派、そして周囲 of 氷屑もろとも、真っ暗な氷窟の最深部へと真っ逆さまに突き落とされる羽目になった。

 

ヒュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……ッ!!!

 

(…………ドックン、ドックン、ドックン……)

 

(『うわぁぁん、助けてぇぇぇ!!! どこまで落ちるの!? 暗いよ! 痛いのは嫌だよぉぉぉ!!! 小松くん、これが俺の最後の晩餐(妄想)の代償なのぉぉぉ……』)

 

落ちていく闇のなかで、ゼブラが聴けばあまりの情けなさに自分の鼓膜を物理的に破壊したくなるような、マヌケ極まりない純白のチキン心音が、絶望の悲鳴を上げながら木霊する。

 

ドスゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!

 

数秒の浮遊感の後、凄まじい質量を伴って俺の巨躯が着地したのは、永久凍土のさらに底――アニメ原作において、マッチや滝丸たちが美食會の幹部や凶悪な猛獣『ヘルボロス』とまさに死闘を繰り広げている、大混戦の最深部エリアだった。

 

激しい落下の衝撃波で周囲の氷煙が爆発的に舞い上がるなか、俺は四つん這いの姿勢のまま、恐怖で目をバキバキに見開いていた。

 

しかし、その砂煙の向こうから、生理的な嫌悪感と、鳥肌が立つような「冷酷で残虐な気配」が、ゆっくりとこちらへ近づいてくるのを、俺の超感覚が捉えてしまった。

 

「あはっ♪ すごい音がしたと思ったら、大きな虫さんが降ってきたねぇ……」

 

暗闇の奥から響く、子供のようでありながら、底知れない狂気を孕んだ高い声。

 

霧が晴れた先に立っていたのは、ピンク色の防寒着に身を包み、不気味な笑みを浮かべたおかっぱ頭の男。

原作最凶の刺客、美食會副料理長『トミーロット』だった。

 

その背後では、無数の不気味な寄生昆虫の羽音がブゥゥゥンと五月蝿く鳴り響いている。

 

アニメ原作通り、死力を尽くすトリコたちを極限の絶望へと叩き落とすはずの「生身の副料理長」の参戦によって、アイスヘルの戦場全体の質量は、今度こそ予測不能なインフレの大混沌へと突入しようとしていた――。

 

 

 

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