『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』   作:トート

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第二十七話:魔王の微揺(びよう)と、歪む戦場

ゴ、ン……ッ!!!!!

 

落下による凄まじい衝撃波が、氷窟の最深部に溜まっていた極低温の白煙を爆発的に吹き飛ばす。

 

俺は四つん這いの姿勢のまま、両目をこれ以上ないほどバキバキに見開いて硬直していた。

 

(ひ、ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!! 落ちた! 落ちた落ちた! 奈落の底に真っ逆さまだよぉぉぉ!!! 骨、折れてない!? 内臓破裂してない!? 待って、痛いのは嫌だよぉぉぉ!!!)

 

脳内ではマッハの速度で全身をセルフチェックしながら大号泣していた。

 

だが、永久凍土の最深部、光すら届かない暗黒の空間の向こうから、生理的な嫌悪感を伴う「冷酷で残虐な気配」が、ゆっくりとこちらへ近づいてくるのを、俺の超感覚が捉えてしまう。

 

「あはっ♪ すごい音がしたと思ったら、大きな虫さんが降ってきたねぇ……」

暗闇の奥から響く、子供のようでありながら底知れない狂気を孕んだ高い声。

 

霧が晴れた先に立っていたのは、鮮烈なピンク色の髪を揺らし、黒地に赤の斑点模様が蠢く防寒着に身を包んだおかっぱ頭の男。

原作最凶の刺客、美食會副料理長『トミーロッド』だった。

 

(ひ、ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!! 出たぁぁぁ!!! 本物のトミーロッドだぁぁぁ!!! なにこの殺気……漫画の紙面で見てた時の何億倍も不気味で怖いよぉぉぉ!!!)

 

俺の脳内は、奴が放つ特濃の殺気――生物としての絶対的な格の違い――によって瞬時に飽和状態を迎え、パニックのメーターが完全に振り切れていた。

 

今すぐトリコたちの後ろに回り、その広い背中を盾にしてガタガタ震えていたい。

 

だが、極限の恐怖によって分子レベルで凝縮を深めてしまった筋肉は、一般人のチキンハートの命令をすべて不敵な肉体言語へと変換してしまう。

 

ただ必死に、パニックで崩れそうになる膝を支えようと足を踏みしめただけだった。

 

それなのに、ブロリーの肉体という無敵の監獄は、周囲の永久凍土を数十センチ単位でピキピキと蜘蛛の巣状に粉砕し、轟音と共に激しく陥没させていく。

 

ドスゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!

 

落下の衝撃波など最初から存在しなかったかのように、ゆっくりと、しかし確実にその巨躯を垂直に立ち上げていく。

 

タンクトップ一枚の褐色肌は、永久凍土最深部の狂気的な冷気を「ただの肌の硬さ」で完全に遮断し、汗一つかかず、呼吸すら乱れていない。

 

力を内側に抑え込もうと奥歯をギチギチと噛み締め、白目を剥きそうになるのを必死に耐えた冷酷な眼光が、図らずも前方のトミーロッドを冷徹に見下ろす般若面となって完全に固定された。

 

「……へっ。相変わらず、とんでもねぇ背中を見せてくれるじゃねぇか、カナタ……!」

 

背後で、トリコが血の混じった唾を吐き捨てながら、ニヒルで不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。

 

数千メートル上空からの過酷な落下。衣服すら千切れ飛ぶようなその全衝撃を、平然とタンクトップ一枚で無傷で受け流し、腕を組んで佇む褐色肌の怪物。

 

その理不尽な「質量」の差を目の当たりにし、トリコのグルメ細胞は恐怖を置き去りにして狂喜に脈打っていた。いつか必ずその首を並べ、超えてみせるという四天王としての絶対的なプライドが、彼のボロボロの肉体をつき動かす。

 

「ふん……。相変わらず自分ばっかり美しく決めちゃってさ。アイツだけに良い格好させてたまるかってんだよ……ッ!」

 

サニーが、凍傷でパキパキに硬直しかけていた髪の毛を、自らの内から湧き上がる猛烈な闘志の熱量だけで解凍し、狂気的に大気へと解き放つ。

 

カナタという超えるべき最大の壁が、傷一つなく仁王立ちしているのだ。その背中の前で、四天王の一角がこれ以上無様な姿を晒し続けることなど、彼の美学が絶対に許さなかった。

 

「ええ……。あの底知れない男が、こうして無言で構えているんだ。ここで引けば、美食屋として一生追いつけない……ッ!」

 

ココが知性的な瞳の奥に激烈な青い炎を宿らせ、全身の血管を不気味に黒く浮き上がらせながら、粘着性の濃緑色の毒霧を爆発的に噴出させる。

 

ココの超感覚(電磁波)が捉えるカナタの影は、相変わらず一分の乱れもない冷徹な完全静寂。その底知れない不気味な質量を前にしても、ひざまずく気など毛頭ない。対等に並び立つべき巨大な壁として、その不遜な背中を追い越すだけの執念が、彼らのグルメ細胞を臨界点へと押し上げていた。

 

限界を迎えていた3人のグルメ細胞が、カナタという「超えるべき絶対的な壁」へのギラギラとしたライバル心を燃料にして爆発的に進化し、最深の暗闇のなかで魂の底から咆哮した。

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」」」

 

四天王が放つ限界突破の残光が、絶対零度の暗闇をギラギラと白熱させるなか、トミーロッドの口の端からドロリとした緑色の粘液が滴り落ちた。

 

奴の鋭利な視線が、まずは真正面で牙を剥いた3人の四天王へと不気味に固定される。

 

しかし、その狂気に満ちた瞳の奥には、彼らのさらに背後――未だ腕を組んだまま、ピクリとも動かずにすべてを見下ろしている『褐色肌の巨躯』への、拭いきれない強い戦慄が張り付いていた。

 

(あはは、まずは目の前の鬱陶しい3匹を片付けないと、あの奥にいる本物のバケモノに遊んでもらうことすらできないよねぇ……ッ!)

 

トミーロッドは自らの黒い防寒着の袖を乱暴に引きちぎり、グルメ細胞の圧力で異常に膨れ上がった生身の両腕を剥き出しにした。

 

「ボクが自分で、まずはテメェらから順番に、バラバラの引き肉にしてあげるよぉぉぉッ!!!!!」

 

ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!

 

トミーロッドが氷の床を爆滅させながら、前衛のトリコたちへと向かって超音速で跳躍した。

 

生身の人間が放ったとは思えない音速の踏み込みが、最深部の絶対零度の空気を一瞬で熱膨張させ、凄まじい肉弾戦の火蓋が切って落とされる。

 

 

 

(……ッ!? ――な, にこれ、見え、すぎる……ッ)

 

だが、遥か後方で腕を組んでいた俺の網膜には、その激闘がまったく違う景色として投影されていた。

 

ブロリーの神域の動体視力は、俺の一般人としての脳の許容量を無視して、四天王とトミーロッドの音速の攻防を、異常なまでのスローモーションとして強制視覚化させてしまう。

 

トリコの釘パンチの拳が風圧で氷を削る様、トミーロッドの生身の拳がめくれ上がる速度、飛び散る鮮血の1滴1滴、サニーの髪の毛が空間を切り裂く軌道。

 

それらすべてが、映画の超高解像度スロー映像のように引き延ばされ、暴力のディテールが脳髄に直接流し込まれる。

 

見えすぎるがゆえに、網膜から直接突き刺さる生身の殺し合いの生々しさが、かえって俺の心臓の裏側を冷たく凍りつかせた。

 

前線から遅れて届く、大気を引き裂くような強烈な衝撃波の風圧が俺のタンクトップを激しく揺らし、その恐怖で生理的な嘔吐感がせり上がる。全身の細胞が「今すぐ逃げろ」と絶叫して脳のブレーカーが落ちかけた。

 

その極限のパニックの反動で、一瞬、膝の分子ロックがコンマ数秒だけ緩み、重力に従って身体が後ろに傾きかけた。

巨躯がほんのわずか数ミリだけ、不均一に横へとブレる。

 

だが、ブロリーの肉体という無敵の監獄は、主人が気絶して逃げることすら許さない。

 

倒れそうになった肉体を支えるため、無意識の防衛本能が背筋と大腿四頭筋に異常なレベルの再収縮を命令する。

 

ギギ、ギギギギギギギギギッ……!!!!!

 

力を極限まで内側に抑え込もうと奥歯をギチギチと噛み締め、立ち眩みを堪えるために強烈に白目を剥いた結果、俺の顔面は、さらに凶悪な般若面となってその場でガチガチに凍りついた。

 

その微細な傾きが生み出した漆黒の超魔王オーラの急変が、前線で暴れ狂っていたトミーロッドの背筋に、冷たい戦慄の槍となって突き刺さる。

 

ガガガガガガガッ!!!!!

 

トミーロッドの拳を受け止めていたトリコが、その場に急ブレーキをかけ、氷の床に深く爪を立てて硬直した。

 

「……ッ!ずいぶんと力を内側に溜め込んでやがるな、カナタ……!」

 

トリコは、カナタのわずかな揺らぎを、己の巨大な破壊力を完璧に制御するために肉体を限界まで張り詰めさせているのだと、野生の勘で不敵に深読みしていた。

 

一歩間違えればこの大陸ごと全てを吹き飛ばしかねない超質量を、ただ腕を組んだまま、静かに檻に閉じ込めている不遜な佇まい。

 

「ハッ、お前だけに良い格好をさせてたまるかよ。目の前の虫ケラは、俺たちが引きずり下ろすッ!!! ココ、サニー……ッ!!!」

 

「わかってる……! あの圧倒的な質量に、僕たちの誇りを踏みにじらせるわけにはいかない……ッ!!」

 

(いや違う、今、前線から飛んできた格闘の風圧が怖すぎて白目剥いてただけ……! 早く、お願いだから早くその黒と赤の斑点の生身のバケモノを3人がかりで止めてくれ……ッ!!)

 

(――ドッドッドッドッド、ドクン、ドクン、ドクン……ッ!!!)

 

(『もう駄目だ、心臓が変なパルス刻み始めて痛い……。誰か、誰か助けて……! 小松くん、お家に帰りたい……』)

 

 

「……アァァァァァァッ!!!!! クソがッ!!! 耳の奥で『助けて』だの『お家帰りたい』だの、マヌケな泣き言が史上最大ボリュームの爆音で鳴り響いてやがる……ッ!!! 脳ミソが弾け飛びそうだぜテメェらッ!!!」

 

遥か後方の氷壁に寄りかかっていたゼブラが、自身の前髪を乱暴にかきむしり、大気を引き裂く音波の咆哮を上げた。

 

「...がっはっは! 見ろよお前ら! お師匠様がちょっとピクッと動いただけで、あの列車の一発屋の兄ちゃんたち、ビビって固まっちまいやがったぜ!」

 

ゾンゲさんが大斧をぶんぶんと振り回しながら、鼻の穴を爆発せんばかりに膨らませて吠える。

 

「若頭! お師匠様のあのピクッて動き、マジでヤベェっす! あのピンク頭の化け物おかっぱも、ビビって動きが止まってるっすよ!」

 

「お師匠様! 俺たちも後ろから大斧ぶん回して応援しますから、あの兄ちゃんたちと一緒に、その虫ケラをペシャンコにしちまってくだせぇ!」

 

(おい、そこの髭ダルマ一味……いい加減にしろ。お前らのせいで前線の奴らまで変なスイッチが入っちまっただろ……ッ!!!)

 

ゼブラは遠くの氷壁からその的外れな大声を拾い上げ、激烈な音速ツッコミを心の中で入れながら、激しい目眩を覚えて己の額を強く押さえた。

 

「あはっ……。ボクをここまで翻弄して、楽しんでくれるなんて……本当に、本当にバラバラの引き肉にしがいがあるねぇ……ッ!!!」

 

トミーロッドの黒い防寒着が、その背中から溢れ出るグルメ細胞の膨大な熱量によって、斑点模様ごとバリバリと音を立てて焦げ付き始める――。

 

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