『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』   作:トート

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第三話:レディー・ゴーの天変地異

「頼むから戦おうとしないでくれ! 触れたら本当にお前が消滅しちゃうんだよぉぉぉ!!」と俺が必死に叫んでいる間も、鮮やかな青髪の美食屋、トリコは気の暴風に顔を歪めながら、ニヤリと好戦的な笑みを崩さなかった。

 

だが、俺が本気で涙目を浮かべ、全身の毛を逆立てるようにして恐怖し、拒絶しているのを見て、さすがのバトルマニアもこれ以上の強行は無理だと判断したらしい。

 

フゥと大きなため息をつくと、トリコは構えていた両手を下ろし、肩の力を抜いた。

 

「分かった分かった、悪かったよカナタ。お前がそこまで本気で嫌がるんじゃ、無理強いはしねぇ」

 

「美食屋ってのは、食材にも対戦相手にも敬意を払うのがモットーだからな。お前みたいに、自分の力に怯えてる奴を無理やり殴る趣味はねぇよ」

 

トリコが完全に戦意を収めたのを見て、俺は文字通りへなへなと、その場に巨体を地面に崩した。

ドスォンという、大型ダンプが横転したかのような衝撃の地響きが更地に響き、また少しだけ俺のケツの形に地面が凹む。

 

それを見たトリコが苦笑いし、巨大な火山岩にしがみついていた小松も「た、助かったぁ……」と胸を撫で下ろしてその場にへたり込んでいた。

恐怖のあまり涙で濡れた鼻を小刻みに震わせている。

 

本当に、一般人のメンタルのままこんな魔境のパニックに巻き込んでしまって申し訳ない。

「だけどよ、どうしてもお前のその『規格外の力』がどれほどのもんなのか、試してみたいんだ」

 

「……そうだ、いいことを思いついたぜ」

トリコがポンと拳を手のひらに打ち付け、名案を思いついた子供のような悪戯っぽい目で俺を見た。

嫌な予感しかしない。

美食屋の言う「いいこと」なんて、一般人にとっては高確率で災害だ。

 

「拳を交えるのがダメならさ、『腕相撲』ならどうだ?」

 

「命のやり取りじゃねぇ、ただの力比べだ。これならお前だって、うっかり俺を消し飛ばす心配はねぇだろ?」

 

「いやいやいや! 腕相撲だって危なすぎるだろ!」

 

「俺がちょっと力入れたら、お前の腕が肩から丸ごと千切れて吹っ飛んでいく未来しか見えないんだけど!?」

 

「ハハハ! 言うねぇ! 俺の腕を千切るなんて、IGO(国際グルメ機関)のトップのじいさんたちでもそうそう言えねぇセリフだ」

 

「だが、これでも俺は人間界じゃそこそこ名の知れた美食屋なんだぜ? そう簡単に壊れやしねぇよ。ほら、そこにちょうどいい手頃な岩があるだろ」

 

トリコは俺の必死の拒絶を自信満々な笑みで受け流すと、さっきの爆発で滑らかに削り出された、直径3メートルほどの頑丈な火山岩の塊を指差した。

 

俺は「手頃な岩のスケールが狂ってるだろ」とツッコミを入れたかったが、トリコはすでにその岩の前にあぐらをかき、丸太のような太い右腕をどんと載せて待ち構えている。

 

彼の青い髪が、バロン諸島の湿った風に小さく揺れていた。

(どうする……。断り続けてまたトリコが痺れを切らして殴りかかってこられても困る)

 

(腕相撲なら、俺が極限まで力を抜いて、トリコが力を込めた瞬間にわざと負ければ、それで丸く収まるんじゃないか……?)

 

前世が一般人の俺は、浅はかにもそう考えてしまった。

俺の肉体に刻まれたサイヤ人の本能が、「負けを装う」なんて高度で器用な手抜きを許してくれるはずがないとも知らずに。

 

体内のグルメ細胞の悪魔が、その傲慢な欺瞞に対して、不気味に舌を鳴らしていることにも気づかなかった。

「……本当に、本当に一瞬だけだぞ。俺が力を入れたらすぐ降参してくれよ。いいな?」

 

俺は生きた心地がしないまま、そろりそろりと岩に近づき、トリコの前に腰を下ろした。

細心の注意を払いながら、褐色の右腕を岩の上に載せる。

 

トリコの手と俺の手が触れ合った。

 

その瞬間、トリコの顔から笑みが消え、目つきが鋭く据わった。

彼の細胞が、俺の皮膚に触れただけで、生身の人間のものではない絶対的な質量の壁を察知したのだ。

 

「おいおい……マジかよ。お前の手、人間界の技術じゃ傷一つつけられねぇ『超硬質合金の塊』を握ってるみたいだ。ビクともしねぇな。硬度の次元が違うぞ」

 

「だから言っただろ! 早く終わらせよう、はい、レディー……」

 

「ゴーッ!!」

トリコが叫ぶと同時に、彼の右腕の筋肉が爆発的に膨れ上がった。

腕に青筋を太く立て、全霊の力を込めて俺の腕をねじ伏せようとしてくる。

 

プロの美食屋の本気の怪力だ。

常人なら骨ごと粉砕されて鉄の塊に変えられているレベルの圧力が、俺の手のひらに伝ってくる。

 

(よし、今だ! 力を抜いて、トリコの方に手を倒して――)

 

そう思った瞬間だった。

俺の脳の命令よりも早く、肉体が『敵の攻撃』に過剰反応した。

ブロリーの肉体に宿る狂暴な防衛本能が、外部からの圧倒的な圧力に対して、無意識のうちに「反撃のスイッチ」を押してしまったのだ。

体内の黄緑色の気がドクンと跳ね上がる。

脳の制御を離れ、細胞が勝手に「負けるな」と叫んだ。

 

「あ、しま――」

 

――ズガガガガガガガガガッッッ!!!!

 

「うおらああああああッッ!?」

トリコが絶叫した。

俺が力を込めて押し返したわけではない。

 

ただ、肉体が無意識に『1ミリも動かないように固定した』だけだった。

それなのに、俺たちの手が接している直径3メートルの火山岩の台座が、二人のパワーの激突に耐えかねて、まるでガラス細工のように一瞬で粉々に爆砕した。

 

衝撃波が円形に広がり、周囲の土砂を猛烈な勢いで吹き飛ばす。

それだけにとどまらず、俺の手首から漏れ出たわずかな黄緑色の気の波動が地脈を伝わり、バロン諸島全体を襲う前代未聞の「大地震」へと発展した。

 

ズズズズズ……と、島全体が悲鳴を上げて揺れ動く。

 

遠くのジャングルでは、驚いた何千匹もの怪鳥が一斉に空へと飛び立ち、コーラの川からは津波のような波しぶきが上がっているのが、俺の異常に発達した視覚にはっきりと見えた。

地割れが走り、地面から間欠泉のように泥水が噴き出す。

 

「トリコさんーっ! カナタさんーっ! 島が、島が沈んじゃいますよぉぉぉーっ!!」

頭を抱えて地面に転がりながら、小松がこの世の終わりを確信したような声で悲鳴を上げている。

地面のあまりの揺れに、彼の小さな身体が何度もぽんぽんと宙に浮きそうになっていた。

 

「クソッ……! ああぁぁぁあッ!!」

トリコは歯をガチガチと鳴らし、全身の筋肉を限界まで肥大化させて俺の腕を押し込もうとしていたが、彼の顔はすでに驚愕と冷や汗で泥まみれになっていた。

 

彼がどれほど命がけの力を込めようとも、俺の右腕は、空間そのものに固定されているかのように一ミリたりとも傾かない。

それどころか、トリコの足元の地面が、彼の踏ん張る力に耐えきれずにズブズブと底なし沼のように沈み込んでいく。

トリコの背後で、彼の「フォークとナイフ」の悪魔が、恐怖を押し殺すように必死に牙を剥いているのが見えた。

 

「ストップ! ストップだトリコ! もう終わり!!」

これ以上続けたらバロン諸島が文字通り地図から消滅すると本気で焦った俺は、強引にトリコの手を掴んで上に引き上げた。

力比べは強制終了だ。

 

二人の手が離れた瞬間、島の不気味な地鳴りがようやく収まり、周囲にはただ、粉々になった火山岩の砂埃だけが虚しく舞っていた。

トリコは自分の右手をぶるぶると震わせながら、信じられないものを見る目で俺を凝視していた。

 

彼の右手の皮は剥け、あまりの圧力に筋肉が激しい痙攣を起こしている。

もし俺がほんの少しでも「押し返す」側に力を動かしていたら、彼の言う通り、腕が丸ごと消し飛んでいたのは間違いなかった。

 

「ハ、ハハ……。腕相撲で……島が揺れるなんて、一龍の親父でもやらねぇぞ……」

 

「お前、本当に何者なんだよ、カナタ……」

トリコが顎の冷や汗を拭いながら、乾いた笑い声を漏らす。

その目は、恐怖を超えて、もはや宇宙の未知の天災に遭遇したかのような、呆然としたものに変わっていた。

 

「だから……言ったじゃないか……。俺と力比べなんてしちゃダメだって……」

俺は粉ごなになった岩の破片を見つめながら、今度こそ本気で頭を抱えてしゃがみ込んだ。

神様、いくらなんでも特典の出力を間違えすぎだ。

この先、俺はどうやってこの狂った世界で、この狂った肉体と一緒に生きていけばいいんだ。

 

「あ、あの……トリコさん、カナタさん……」

 

「大変です、バロン諸島の猛獣たちが、みんなお腹を出して白目を剥いて浮かんでます……っ!」

涙を拭いながら立ち上がった小松が、更地の向こうのジャングルを指差した。

 

俺たちの腕相撲から放たれた『気の波動』が島中に伝播した結果、捕獲レベル10を超える猛獣たちまでもが、その絶対的な戦慄に耐えかねて、戦わずして全員気絶してしまったらしい。

 

世界一の破壊力を持った男の、ビクビクと震えるグルメライフは、まだ始まったばかりだった。

 

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