『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』   作:トート

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第四話:バロン諸島の脱出と、動き出す人間界の頂点

バロン諸島を襲った未曾有の大地震がようやく収まったとき。

 

俺たちの周囲に広がっていた更地は、もはや生物の住処ではなく、爆撃の直撃を受けたクレーターのようになっていた。

 

粉々になった火山岩の微細な砂埃が、霧のように視界を白く染めている。

トリコは、自身の右手をぶるぶると小刻みに震わせながら、まるで神話の怪物でも見るかのような目で、ただ地面に頭を抱えてしゃがみ込んでいる俺を凝視していた。

 

彼の丸太のように太い右腕は、あまりの圧力の激突に耐えかねて皮膚が裂け、滲み出た血が土壌に小さな点を作っている。

「ハ、ハハ……。腕相撲で……島全体を揺らすなんてな」

「人間界の頂点に立つ、あのIGOの一龍のおやじでも、ここまでの芸当はやらねぇぞ……」

「お前、本当に何者なんだよ、カナタ……」

トリコが顎を伝う冷や汗を乱暴に拭いながら、力なく乾いた笑い声を漏らす。

その青い瞳の奥に宿っていたのは、美食屋としての戦意ではなく、理解を絶した大自然の災害を前にしたときのような、圧倒的な呆然の色彩だった。

トリコの背後で、彼の「フォークとナイフ」を構えたグルメ細胞の悪魔が、未だに主の細胞の奥深くで恐怖のあまり小さく縮こまっているのが、俺のバグった五感にはっきりと伝ってくる。

「だから……言ったじゃないか……。俺と力比べなんてしちゃダメだって……」

俺は粉々になった岩の破片を泥だらけの手で見つめながら、本気で頭を抱えてあぐらをかいた。

神様、いくら何でも特典の出力を間違えすぎだ。

前世でただの料理好きの一般人だった俺に、こんな星を消し飛ばしかねない超質量の肉体を握らせて、一体どうしろというんだ。

ちょっと力を入れたら火山岩が消し飛び、ちょっと踏ん張ったら島が沈みかける。

転生した瞬間から、文字通り身一つ、手ぶらでこの魔境に放り出されたというのに、この肉体そのものが世界で最も危険な凶器であり、最大の荷物だった。

この先、俺はどうやってこの世界の人々を殺さずに、穏やかに生きていけばいいのか、その答えが全く見出せなかった。

「あ、あの……トリコさん、カナタさん……」

「大変です、バロン諸島の猛獣たちが、みんなお腹を出して白目を剥いて浮かんでます……っ!」

涙を拭いながら、よろよろと立ち上がった小松が、更地の向こうに広がる鬱蒼としたジャングルを指差した。

俺たちの腕相撲から放たれた『気の波動』が、地脈を伝って島中に伝播した結果、本来なら凶暴極まりないはずのバロン諸島の生態系が完全なパニックを起こしていた。

捕獲レベル10を超えるような巨獣たちが、戦うどころか、俺という存在が放った絶対的な絶滅の戦慄に耐えかねて、巣穴や泥の中から這い出てそのまま白目を剥いて気絶していた。

島中の鳥が一斉に飛び去り、コーラの川の炭酸の泡すら、恐怖でシュワシュワと鳴るのを止めたかのように静まり返っている。

「……クソ、これ以上ここにいたら、俺のせいでこの島が物理的に沈没しちまう」

「トリコ、料理人さん、俺はもう行くよ」

「人間のいない場所にひっそり隠れて、この身体の加減を覚えるまで爪に火を灯すように生きるわ……」

これ以上の滞在は、この世界の環境に対する環境破壊以外の何物でもない。

そう判断した俺が立ち上がろうと膝を伸ばした瞬間、トリコが鋭く声を張り上げた。

「待てよ、カナタ! お前、そんなめちゃくちゃな力のままで、どこに一人で行く気だ!?」

「コントロールができてねぇってことは、お前がくしゃみ一つしただけで、お前の言う通り国が一つ消え去るかもしれねぇんだぞ」

「そんな爆弾を、野放しにできるわけがねぇだろ!」

「うっ……! それは、そうだけど……!」

トリコの真っ当すぎる正論に、俺の言葉が詰まる。

確かにその通りだ。

もし夢の中でうなされて、寝返りを打った拍子にエネルギー弾でも暴発させたら、この地球そのものがリンゴみたいに粉々に砕け散って宇宙の塵になってしまう。

「それに、美味い飯を一緒に食った仲間を、こんな魔境に置いていけるかよ」

「小松、今回のバロン諸島の主の捕獲依頼は、もう十分に達成されたろ」

「ガララワニのテール肉も、カナタのおかげでこれ以上ない最高の状態で味わえた」

「……カナタ、お前、俺の家に来い。お菓子の家だ。美味い食材が山ほどある」

「そこで俺と一緒に、その力の抑え方を修行すりゃあいい」

トリコが青い髪を乱暴にかき回しながら、ニカッと笑って手を差し伸べてきた。

その無茶くちゃだけど圧倒的に温かい包容力に、俺の目頭が少しだけ熱くなる。

原作の主人公の器の大きさを、これでもかと肌で感じていた。

「トリコさん……。でも、俺、本当に歩くだけで地面を壊しちゃうんだぞ?」

「ハハハ! 気にするな! 俺の家は食えば食うほど元通りになるお菓子の家だ!」

「柱のキャンディを壊そうが、壁のクッキーを砕こうが、また生えてくるから問題ねぇ! なぁ、小松もそれでいいだろ?」

「はい! もちろんです! カナタさんのあの素晴らしい手際と、食材への愛があれば、どんな場所でも大歓迎ですよ!」

「それに……カナタさんの力の加減を覚えるお手伝いができるなら、料理人としてこれ以上の喜びはありません!」

小松が小さな拳を握りしめ、心からの笑顔を向けてくれた。

一般人のメンタルのまま異世界に放り込まれ、自分の怪力に怯え続けていた俺にとって、二人のその言葉は救いの光そのものだった。

「……ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて、一緒に行かせてくれ」

こうして、俺は身一つ、手ぶらのままトリコ、小松と共に、バロン諸島を脱出して人間界の文明圏へと向かうことになった。

しかし、それは「最強のビビり」である俺にとって、新たなる地獄の移動時間の始まりに過ぎなかった。

更地を抜け出し、元の密林のルートへと戻る道中。

俺は全身の筋肉に一ミリの余計な力も入れないよう、それこそガラスの床の上を歩くかのような超絶的なスローモーションで一歩を踏み出していた。

だが、それでもサイヤ人の強靭すぎる質量が地面を踏むたびに、ズシィィィン……と、周囲の巨木が震え、泥水が小さく跳ね上がる。

「グルルルルル……ッ!」

突然、俺たちの行く手を阻むように、藪の中から巨大な猛獣が姿を現した。

それは、全身が鋭い針のような毛で覆われた、捕獲レベル4の『バロンバギー』だった。

鋭い牙を剥き出しにし、獲物を引き裂こうと身構えている。

「うわぁぁぁぁっ!? 化け物が出たぁぁぁ!! 来るな! こっちを見るなァ!!」

前世でトカゲすらまともに触れなかった俺は、そのグロテスクな猛獣の登場に、恐怖のあまり悲鳴を上げて思いっきり両手を横に振り回した。

戦うためではない、ただ「あっちへ行け」と追い払うための、純粋なビビり行動だ。

――ドッパァァァァァンッッッ!!!!

俺が横に振った右腕が空気を薙いだ瞬間、そこにあった空間の気圧が急激に圧縮され、音速を遥かに超える巨大な空域の断熱圧縮――すなわち『空気の津波』が発生した。

真空の刃となった突風は、バロンバギーに直撃することすらなく、その周囲のジャングルを半径数百メートルにわたって、まるで巨大な芝刈り機で刈り取ったかのように綺麗に更地へと変えてしまった。

バロンバギーは、突風の余波の風圧だけで遥か彼方の空へと吹き飛ばされ、星となって消えていく。

「ひ、ヒィィィィッ! カナタさん、手を振っただけで森が半分消えましたよぉぉぉ!!」

小松が頭を抱えて泥の中にスライディングし、トリコも「おいおいおい、今のフォークでもナイフでもねぇぞ……。ただの『うちわ』じゃねぇか……!」と、顎が外れそうなほど口を開けて冷汗を流している。

「ち、違うんだ! 今のはただ、怖くて手をバタバタさせただけで……っ! ああ、もう嫌だ、この身体!!」

俺が自分の両手を見つめて再び絶望している間も、生態系の破壊は止まらない。

次に現れた捕獲レベル6の『ネオガララワニ』の亜種は、俺が「うわっ!」と驚いて一歩後ろに引いた際の、足裏から漏れ出た微弱な『気の波動』のプレッシャーだけで、戦う前に精神が崩壊し、白目を剥いてその場に卒倒した。

さらに、上空から襲いかかろうとした捕獲レベル7の怪鳥『バロンイーグル』は、俺が恐怖のあまり「見ないでくれ!」と顔を覆った際、指の隙間からほんの一瞬だけ漏れ出たサイヤ人の凶暴な眼光(眼力)の威圧感だけで、羽毛がすべて恐怖で抜け落ち、そのまま地面にドサリと墜落して気絶した。

「歩くだけで猛獣が絶滅していく……。カナタ、お前がある意味で最強の美食屋だよ」

「戦ってねぇのに食材が向こうから降参してくるんだからな……」

トリコが半ば諦めたような、乾いた呆れ顔で呟く。

小松にいたっては、もう何が起きても驚かないような、達観した目でノートに「カナタさん、手を振る:森が消える」とメモを取り始めていた。

俺はただ、一歩歩くたびに猛獣が泣いて逃げ出し、あるいはショック死していくその理不尽な光景に、シクシクと心の中で涙を流しながら歩を進めるしかなかった。

その頃、バロン諸島から数千キロメートル離れた、人間界の中心。

IGO(国際グルメ機関)が誇る、世界最高の食材管理・研究施設である『第1ビオトープ』の最奥。

豪奢な庭園のテラス席で、黄金色に輝く最高級の酒を優雅に煽っていた一人の老人が、突如としてその動きをピタリと止めた。

特徴的な豪快な金髪を綺麗に蓄え、どこか浮世離れした圧倒的な威厳を纏ったその男――IGO会長、一龍(いちりゅう)の鋭い目が、遥か南方の空へと向けられる。

「……なんじゃ、今の不気味な鳴動は」

一龍の背後に宿る、計り知れないグルメ細胞の悪魔たちが、一瞬だけ明確な不快感を示すようにザワリと蠢いた。

一龍の持つ規格外の感知能力が、数千キロ先のバロン諸島で発生した「大地震」の正体を捉えていた。

それは、地殻変動による自然災害などでは断じてない。

生体エネルギー――すなわち、人間界の枠を遥かに超越した、未知の圧倒的な『個の力(気)』の激突によるものだった。

「トリコの小僧がバロン諸島へ向かったとは聞いておったが……」

「あの小僧の細胞が呼び覚ましたものにしては、あまりにも質が違いすぎる」

「まるで、宇宙の果てから降ってきた、純粋な暴力の塊のような気配じゃな……」

一龍の顔から、いつもの好々爺とした笑みが完全に消え失せる。

彼の脳裏に浮かんだのは、グルメ界の奥深くに君臨する、あの世界の王たち――『八王』の姿だった。

いや、今感じたこの気配は、八王の放つ重厚なプレッシャーともどこか異なる、剥き出しの狂暴性と、無限に膨れ上がる異質なエネルギーの胎動だった。

「人間界に、とんでもねぇ怪物が人知れず産声を上げたのかもしれんのぉ……」

金髪の髭をさすりながら、一龍はグラスを置くと、静かに立ち上がり、側近を呼び出すために呼び鈴を鳴らした。

同じ頃、占い都市の薄暗い一室で、数千もの毒蛇に囲まれながらタロットカードをめくっていた四天王の一人、ココが、突然激しい頭痛に襲われたように眉間を押さえた。

彼の持つ、生物の放つ「電磁波(オーラ)」を見る特殊な眼が、遥か遠方の空に、人間界のすべてを覆い尽くさんばかりの、禍々しいエメラルドグリーンの巨大な光の柱を捉えていたからだ。

「……何、あの色は。死相なんてレベルじゃない」

「あの男の周囲の空間そのものが、すべての生命の終わりを告げる『絶滅の緑』に変染まっている……」

「一体、誰がバロン諸島にいるというんだ……」

ココの手から、タロットカードがパラパラと床にこぼれ落ちる。

さらに、美を何よりも愛する四天王のもう一人、サニーもまた、ラグジュアリーなクルーザーの上で、自身の20万本の触覚(ヘア)が、南の方角から伝わってくる「不気味で、圧倒的に巨大な、それでいてひどく怯えている不調和な振動」を感知し、全身の鳥肌を立たせていた。

「最悪だ……。なんだよこの美しくねぇ、暴力そのものみたいな波長は」

「触覚が恐怖で全部縮こまっちまう。こんな化け物が人間界にいるなんて、冗談じゃねぇぞ……」

人間界の頂点に立つ強者たちが、同時にその「胎動」を察知し、動き出そうとしていた。

当の本人は、バロン諸島の海岸線で「うわっ、カニが大きい! 来るな、ハサミを向けるなァ!」と叫びながら、足をバタつかせた風圧だけで、捕獲レベル8のバロンクローを木っ端微塵に粉砕し、トリコたちに「頼むから落ち着けカナタ!」と宥められている真っ最中であるとも知らずに。

世界を滅ぼしかねない最強の破壊神ブロリーの肉体と、世界一ビビりな一般人の精神を持った男、カナタ。

彼の意図しないインフレは、すでに人間界の歴史を根底から変えようとしていた。

 

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