『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』   作:トート

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第五話:お菓子の家の不調和と、黄金の巨頭の来訪

バロン諸島からIGOの大型ヘリコプターに揺られて数時間。

 

俺たちは人間界の都市部から大きく離れた、手つかずの大自然の中にひっそりと佇む、トリコの拠点へと到着していた。

 

ヘリのローターが巻き起こす凄まじい風が止み、目の前に現れたその規格外の光景に、前世で原作を読み込んでいたはずの俺も、生で見るとやはり圧倒されるしかなかった。

 

そこにあったのは、絵本の世界からそのまま飛び出してきたかのような、巨大な『お菓子の家』だった。

 

壁は焼き立ての香ばしい匂いを周囲に漂わせるサクサクのクッキー。

屋根は色鮮やかなチョコレートタイル。

 

指定して家全体を支える大黒柱は極太のキャンディバーでできており、周囲には甘いバニラとバターの香りが、霧のように濃厚に立ち込めている。

「ハハハ! どうだカナタ、これが俺の家だ!」

「腹が減ったら壁を毟って食えばいいし、数日もすれば自然と元通りに生えてくる、美食屋にとっては最高の城だぜ!」

鮮やかな青髪の巨漢――トリコが、自慢げに鼻を高くして笑いながら、俺の背中をバシバシと豪快に叩いた。

普通の人間ならその一撃で内臓が破裂しかねない強さだったが、今の俺の肉体にとっては、まるでそよ風が吹いたかのような感覚しか残らない。

それどころか、トリコの手が俺の背中に触れた瞬間、パキパキッと小さく不気味な音が響き、トリコの表情が引き攣った。

俺の筋肉があまりにも高密度すぎるせいで、叩いたトリコの側の手の骨が、逆に悲鳴を上げていたのだ。

「あ、ごめん……! 大丈夫か、トリコ……っ?」

「あ、ああ……気にするな、ちょっと俺の手が滑っただけだ」

「……クソ、相変わらずレンガどころかメルクの砥石より硬ぇな、お前の身体……」

トリコが冷や汗を流しながら右手をぶるぶると振っているのを見て、俺は再び自分の制御不能な硬度と質量にビビり、手ぶらの身一つのまま縮こまるしかなかった。

バロン諸島から何も持たずに付いてきたため、守るべき荷物など何もないはずなのだが、俺にとっては自分のこの強すぎる「肉体そのもの」が、いつ周囲を壊してしまうか分からない最も危険な荷物だった。

小松は「さあ、中に入りましょう! カナタさんの張り詰めた心をほぐすためにも、中でおいしいお茶でも淹れますからね!」と、気前よく笑顔を向けてくれた。

俺は細心の注意を払いながら、ガラスの薄氷を踏むようなスローモーションで、お菓子の家の玄関へと一歩を踏み出した。

だが、その細心の注意すら、ブロリーの肉体にとっては「誤差」でしかなかった。

「あ……」

俺が親指と人差し指で、クッキーでできた玄関のドアノブをそっと、本当にそっとつまんで回そうとした、その瞬間だった。

パキィィィンッ!!!

という、ガラスが粉砕されたかのような甲高い音が鳴り響き、次の瞬間、ドアノブだけでなく、玄関の分厚いクッキーの扉全体が、俺の指先から漏れ出たわずかな気の衝撃波によって粉々に爆砕した。

サクサクのクッキーの破片が、まるで散弾銃の弾丸のように前方の庭へと激しく吹き飛んでいく。

「ドアがァァァァァッッ!! 鍵を開ける前に木っ端微塵になったぁぁぁ!!」

小松が頭を抱えて地面にスライディングし、トリコも「おいおい、ドアノブを回すってのは、壁ごと粉砕する格闘技の技じゃねぇぞカナタ……!」と、顎が外れそうなほど口を開けて絶句している。

「違うんだ! 今のは本当に、生卵とか豆腐を優しく掴む時くらいの力しか入れてないんだよ!」

「なんでドアごと消し飛ぶんだよぉぉぉ!!」

俺が半泣きになりながら自分の右手を見つめて絶望している間も、俺の「ビビり破壊」は止らない。

前世の人間だった頃の感覚でどれだけ「最弱」の出力を意識しても、この破壊神の肉体には全く通用しないのだ。

壊してしまった玄関を通り抜け、リビングのビスケットでできたソファに座ろうとした際、「また壊したらどうしよう」という恐怖のあまり、腰を下ろす瞬間に身体が強張ってしまった。

その結果、俺のケツがソファに触れた瞬間、ドンッ!!! という大砲のような重低音と共に、お菓子の家の床のウエハースが半径3メートルにわたって完全に陥没し、一階の床を突き破って地下室のチョコレートの貯蔵庫まで直通の縦穴が開いてしまった。

「ソファが沈んだぁぁぁ!! 地下室まで地盤沈下してますよぉぉぉ!!」

「カナタ……頼むから一度、その場に直立不動で固まっててくれ!」

「お前が動くたびに、俺の家が災害レベルの被害を受ける!」

トリコに必死な顔で懇願され、俺はリビングの真ん中で、気を付けの姿勢のまま微動だにできなくなった。

彫刻のように固まりながら、心の中で「神様、いくら何でも特典の出力を間違えすぎだろ……」とシクシクと涙を流す。

世界一の怪力を持った男の、世界一情けない直立不動だった。

だが、そんな俺の心を救ってくれたのは、やはり原作が誇る天才料理人、小松だった。

「トリコさん、カナタさん、そんなに落ち込まないでください!」

「幸い、ここは食えば食うほど再生する家ですから!」

「それより、カナタさんの張り詰めた心をほぐすために、さっき持ち帰ったガララワニの残りの肉を使って、とびきりのスープを作りますからね!」

小松がお菓子の家のキッチン(ここはトリコが特注で作らせた、頑丈な金属製の厨房だった)へと駆け込み、猛烈な勢いで調理を始めた。

バロン諸島で捕獲したガララワニの骨から、じっくりと時間をかけて極上の出汁をとり、家の壁から毟り取ったシナモンクッキーや、屋根のホワイトチョコレートを隠し味として鍋に投入していく。

トリコの世界の料理人は、お菓子の家のパーツすらも高級な調味料へと昇華させてしまうのだ。

数時間後、リビングに漂ってきたのは、言葉を失うほどに芳醇で、濃厚なスープの香りだった。

スープの表面には、ガララワニの黄金色の脂が美しいエメラルドグリーンの輝きを放ちながら浮かんでおり、漂う湯気を見るだけで、体内のグルメ細胞が狂ったように活性化していくのが分かる。

「お待たせしました! 『ガララワニのコンソメ・お菓子仕立て』です!」

小松が、頑丈な石造りの器に並々と注がれたスープを、直立不動の俺の前のテーブルへと置いてくれた。

トリコはすでに「いただきます!」と叫ぶや否や、スープを豪快に口へと流し込んでいる。

その瞬間、トリコの青い髪が逆立ち、彼の背後に巨大なフォークとナイフの悪魔が、歓喜の咆哮を上げるように実体化して揺らめいた。

「美味いっ……!! 美味すぎるぞ小松!!」

「ガララワニの野生のコクに、この家のクッキーの甘みと香ばしさが完全に調和して、スープの深みが底なしになってやがる!」

「そして何より、この肉の出汁……カナタのあの完璧な処理のおかげで、雑味が一切ねぇ究極の純度になってるんだ!」

「カナタさん、どうぞ食べてみてください!」と小松に笑顔で促され、俺はカタカタと震える手で、スプーンを握った。

スプーンを指の圧力で飴細工のように曲げてしまわないよう、全神経を集中させる。

なんとかスープを一杯、口へと運んだ。

――その瞬間、脳内で大爆発が起計したような衝撃が走った。

「な、なんだこれ……! 美味すぎる……ッッ!!」

口の中に広がったのは、濃厚極まりない肉の旨味の津波だった。

ワニの骨から出たとは思えないほど上品でクリーミーなコクが、家のスイーツの甘みと混ざり合い、喉を通るたびに全身の細胞がパチパチ、パチパチと歓喜の音を立てて弾け飛ぶ。

食べ進めるごとに、体内のサイヤ人細胞が「もっと、もっとだ!」と狂暴に脈打ち、暴走しかけていた黄緑色の気が、驚くほどまろやかに、優しく身体の奥底へと収まっていくのが分かった。

美味いものを食うことで、初めて自分の『気』が、完璧に内側へとコントロールされていく感覚。

「美味い……美味いよ料理人さん……。俺、こんなに美味しいもの、生まれて初めて食べた……」

前世の記憶も含めて、これほどの感動はなかった。

俺の目から、今度は恐怖ではなく、純粋な美味さへの感動の涙がポロポロと溢れ落ちる。

ガツガツ、ズズズと、三人で大鍋一杯のスープを一瞬で完食した頃には、俺を包んでいた黄緑色の禍々しいオーラは完全に消失せ、穏やかな、どこか神聖さすら感じさせる純粋な白い輝きへと変貌していた。

「ぷはぁ、生き返ったぜ! カナタ、お前、飯を食ってる時が一番いいオーラしてんな」

「それなら毎日、美味いものを死ぬほど食えば、そのめちゃくちゃな力もすぐに制御できるようになるさ!」

トリコが満足そうに腹を叩いて笑う。

小松も「はい、僕が毎日、最高の料理を作りますからね!」と胸を張ってくれた。

二人のその言葉に、俺がようやく心からの笑顔を浮かべ、この世界で生きていく希望を見出した――まさに、その瞬間だった。

バロン諸島の上空を通過したヘリの音とは、明らかに次元の異なる、重厚で、空間そのものを威圧するような巨大なエンジン音が、お菓子の家の遥か上空から響いてきた。

「……ッ!? なんだ、この気配は……!」

トリコがガタッと椅子を蹴り飛ばして立ち上がり、即座に戦闘態勢に入った。

彼の青い髪が、かつてないほどの危機感を察知して逆立っている。

窓の外を見ると、上空にはIGOの最上級の装飾が施された、見たこともない巨大な黒塗りのヘリコプターがホバリングしていた。

そして、そのヘリのドアが開き、地上数百メートルの高さから、パラシュートも何もつけずに、一人の老人が真っ逆さまに飛び降りてきたのだ。

――ドコォォォォォォンッッッ!!!!

お菓子の家の庭に、まるで隕石が落着したかのような凄まじい衝撃波と土煙が巻き起こる。

ゆっくりと土煙が晴れていく中から姿を現したのは、虎のような圧倒的な体躯に、まばゆいばかりの「豪快な金髪」のリーゼントと、同じく金色の立派な髭を蓄えた、圧倒的な威厳を放つ老人だった。

「おやじ……!?」

トリコの声が、驚愕で上ずった。

そこにいたのは、人間界の最高権力者にして、全ての美食屋の頂点に君臨するIGO会長――一龍その人だった。

一龍は金髪の髭を豪快にさすりながら、ニコニコと好々爺とした笑みを浮かべて、破壊された玄関から家の中へと入ってきた。

「やぁやぁトリコ, 元気にしておったか」

「小松くんも、相変わらず美味そうなスープを作るのぉ。遠くからでも凄まじい匂いが漂っておったぞ」

「おやじ、なんでこんな場所に直接……! 会長直々の捕獲依頼でもあるんですか!?」

トリコが冷や汗を流しながら尋ねるが、一龍はその問いには答えず、ただリビングの真ん中で再び恐怖で硬直している褐色肌の巨漢――俺の方へと、その鋭い視線を向けた。

一龍が俺を一歩、見つめた瞬間。

お菓子の家のリビングの空気が、物理的にメキメキと音を立てて歪むほどの、圧倒的な『王のプレッシャー』が室内に満ちた。

前世の原作知識で知ってはいたが、この老人の強さは文字通り規格外だ。

(ひっ……! 一龍会長だ……っ! 本物だ……!)

(頼むから睨まないでくれ、俺はただの一般人なんだ、戦う意思なんてこれっぽっちもないんだ……っ!)

俺は恐怖のあまり、無意識のうちに自分の身を守ろうと、体内の『気』を限界まで収縮させ、防御の構えをとった。

その瞬間だった。

一龍の持つ、世界最高のグルメ細胞の感知能力が、俺の身体の奥底に眠る『真の姿』を捉えた。

一龍の目には、俺の背後に、全宇宙の星々を容易く消し飛ばし、神をも屠るほどの圧倒的な暴虐の意志を持った、伝説の緑色の巨人の幻影――『伝説の超サイヤ人の悪魔』の姿が、明確な実体を持ってドロリと出現したのが見えていた。

その悪魔は、一龍の背後にいる悪魔たちを完全に格下に置くかのように、冷酷な眼光で一龍を見下ろしていたのだ。

「……っ!? なんじゃ、この、底の知れぬバケモノは……!」

次の瞬間、人間界の最強の守護神であるはずのあの一龍が、生まれて初めて、顔面を蒼白にして大粒の冷や汗を流した。

彼の強靭な身体が、俺の後ろに佇む悪魔の圧倒的な『絶滅の気配』を前にして、本能的な恐怖からピキピキと拒絶反応を起こし、一歩後ろへと後ずさりしてしまったのだ。

一龍の額から流れた冷や汗が、床のビスケットを濡らす。

「おやじが……あのおやじが、恐怖で冷や汗を流して後ずさりした……!?」

トリコはその光景を目撃し、自分の目が信じられないというように絶句した。

人間界で一龍を恐怖させる存在など、この世界のどこにもいないはずだったからだ。

小松にいたっては、二人の発する次元の違うプレッシャーの激突の余波だけで、息ができずにその場に倒れ込みそうになっていた。

「ま、待ってください、一龍会長! 俺は、俺は本当に戦うつもりは無いんです!」

「ただ、自分の力が怖くて、トリコたちに助けてもらっているだけで……!」

俺が必死に両手を前に出して弁明すると、一龍は数秒間、生唾を飲み込みながら俺の顔をじっと凝視していたが、やがて、その体に纏っていた驚愕のオーラを、信じられないほどの精神力で強引に抑え込んだ。

金髪のリーゼントを震わせながら、彼はフゥ、と長く重いため息をつく。

「……なるほどな。トリコの言う通り、自分の力に、魂の側が完全に怯えきっておる」

「宇宙の果てから降ってきたような絶滅の暴力じゃが……中身は、驚くほど純粋で、臆病な人間の子供のようじゃ」

一龍はそう言うと、ようやくいつもの笑みを無理やり顔に貼り付け、俺に向かって一歩、歩み寄った。

だが、その足取りには、先ほどまでの絶対的な王の余裕は完全に消え失せており、一瞬たりとも油断のできない『天災』に対峙する、最大限の敬意と警戒が込められていた。

「カナタ、と名乗ったな」

「お前さんのその力、人間界に置いておくにはいささか……いや、あまりにも危険すぎる爆弾じゃ」

「じゃが、お前さんが『美味いものを食いたい』と願い、その力を抑えようとする意志があるならば、ワシらIGOは全力でお前さんを歓迎し、支援しよう」

一龍会長のその言葉によって、俺のグルメ時代での立場は、ただの行き倒れから、人間界の最高機関が国家機密として管理する『最重要保護対象』へと跳ね上がることになった。

世界のカリスマ美食屋と、人間界の最高権力者、そして世界一ビビりな破壊神。

彼らが織りなすインフレの物語は、お菓子の家の壊れた玄関から、いよいよ世界全体へとその影響を広げていくのだった。

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