『神様、特典の出力を間違えてます! 〜ブロリーの肉体で始めるビクビク美食屋ライフ〜』   作:トート

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第八話:異質の生存本能と、死相を拒む肉体

四天王のココとサニーの美意識を恐怖で粉々にへし折り、お菓子の家に謎の緊張感をもたらした「白光の天変地異」から、数日後のこと。

 

リビングの真ん中で、俺は再び直立不動の姿勢のまま、IGOの最新データ端末から投影されたホログラムをビクビクと見つめていた。

 

そこに映し出されていたのは、金髪のリーゼントを豪快に揺らしたIGO会長、一龍のおやじの、どこか困り果てたような、しかし楽しそうな苦笑いだった。

「カナタくん、調子はどうじゃ。毎日トリコの家で美味いもんを食うとるか?」

「いやな、お前さんのあの『星をも呑み込むサイヤ人の大食い特性』のせいでな……」

「第1ビオトープの食材在庫を補填するためのIGOの緊急輸入手続きで、人間界の物流と株価がちょっとしたパニックになっとるんじゃわい」

一龍のおやじが、金色の髭をガシガシと掻きながらとんでもない国家機密を口にする。

それを聞いた俺は、心臓が跳ね上がり、今すぐにでも地面に土下座したくなった。

「ひ、ひぃぃぃっ! 本当にごめんなさい一龍会長!」

「俺、なるべく小食を意識します! お粥とか、お豆腐とか、そういうのだけで生きていきますから!!」

本気で涙目を浮かべて謝罪する俺を見て、ホログラムの中のおやじは「ハハハ!」と豪快に笑い飛ばした。

「気にするなと言うたろう。食欲は美食屋の勲章じゃ」

「じゃが、人間界の既存の食材を食い尽くされるのはワシらも困る」

「そこでカナタくん、お前さんのその膨大なエネルギーを効率よく満たせる、特殊な高カロリー食材を自分たちで獲ってきてもらいたいんじゃ」

一龍のおやじが画面を操作すると、ホログラムに一匹の、美しく輝く奇妙な生物の姿が浮かび上がった。

クジラの胴体に、フグのような愛嬌のある顔を持った、深海の最高級食材。

「捕獲レベルは計測不能、特殊調理食材『フグ鯨(ふぐくじら)』じゃ」

「十年に一度、産卵のために人間界の『洞窟のディープラビリンス』と呼ばれる地下迷宮の奥深くへ回遊してくる」

「こ奴の持つ特殊な脂と栄養価なら、お前さんのグルメ細胞とやらを一時的にでも、まろやかに満足させられるはずじゃ」

その説明を聞いた瞬間、前世の原作知識が俺の脳内でパチリと火花を散らした。

フグ鯨編だ。

原作でも小松が初めて特殊調理食材の捕獲と調理に挑み、トリコやココが死線を潜り抜けた、人間界屈指の超危険ルートである。

「捕獲にはトリコと小松くん、そしてお前さんの『気の制御』のサポート役として、ココも同行させる」

「カナタくん、これはお前さんの『大食い修行』の第一歩じゃ。頼んだぞ」

ホログラムが消え、お菓子の家に再び静寂が戻る。

俺は隣に立つ青髪のトリコと、コック帽を揺らす小松、そしてまだ少し顔色の悪いココを見つめた。

「よし、決まりだな! 十年に一度のフグ鯨、俺のフルコースの魚料理に入れてもいいレベルの逸品だぜ!」

「カナタ、お前のそのめちゃくちゃな胃袋を満たすためにも、最高のフグ鯨を山ほど捕まえに行こうじゃねぇか!」

トリコがニカッと笑って、俺の丸太のような太い腕を軽く小突いた。

ココも「僕の眼で、カナタくんの気の乱れを常に監視しながら進むよ。これ以上の天変地異は、僕の心臓が持たないからね」と、苦笑いしながらタロットカードをポケットに収めた。

小松も「僕、カナタさんのために、完璧にフグ鯨の毒袋を外してみせますから!」と、小さな拳を握りしめてくれた。

「……みんな、本当にありがとう。俺、絶対に誰も傷つけないように、手ぶらの身一つのまま、ガラス細工を運ぶみたいに静かに歩くよ……」

こうして、俺たちはフグ鯨が回遊してくるという、恐怖の地下迷宮『洞窟のディープラビリンス』へと出発したのだった。

だが、その道中は、風圧などとは全く異なる「サイヤ人の肉体の理不尽さ」に、俺自身が一番パニックに陥る地獄の始まりだった。

数日後、俺たちは洞窟の入り口へと続く、不気味な岩場を歩いていた。

地下深くから吹き上がってくる湿った冷気が、生ぬるい死臭混じりの風と共に、俺の褐色の肌を撫でる。

俺は地面を足裏の圧力で爆砕してしまわないよう、全神経を集中させ、地面を優しく撫でるようにゆっくりと歩いていた。

手が勝手に動かないよう、両手はきっちりと後ろでガッチリと組んでいる。

風圧なんて、絶対に、これっぽっちも起こしてなるものか。

「グルルルルル……ッ!」

突然、行く手の暗闇から、地這うような無数の不気味な影が這い出てきた。

それは、体長5メートルを超える、鋭い牙と多脚を持った洞窟の獰猛な猛獣――捕獲レベル7の『デビル大蛇(オロチ)』の群れだった。

原作ならトリコやココが毒やフォークを駆使して死闘を繰り広げるはずの、恐ろしい魔獣だ。

血走った三つの目で、俺たちを「美味そうな生肉」として完璧に認識している。

デビル大蛇の群れは、シューッと長い舌を鳴らしながら、一斉に猛毒の溶解液を口から噴射してきた。

バロン諸島のワニとは違い、遠距離から容赦なく降り注ぐ酸の雨。

「うわぁぁぁぁっ!? 毒だ! 溶かされるぅぅぅ!!」

前世がただの料理好きの一般人である俺は、四方八方から降り注ぐ紫色の猛毒の雨に、恐怖のあまり完全にその場で頭を抱えて縮こまった。

逃げることも、手を振って暴れることもできず、ただ直撃を覚悟してぎゅっと目を瞑ったのだ。

ジジジジジジジジジッッッ!!!!

凄まじい酸の音が周囲に響き渡る。

デビル大蛇が放った、頑丈な岩盤すら一瞬でドロドロに溶かす強力な消化毒が、俺の頭や背中、褐色の肌に容赦なく100%まともに降り注いだ。

「ひ、ヒィィィィッ!! カナタさんーーっ!!」

小松が絶望の悲鳴を上げ、トリコも息を呑む。

だが、数秒が経過しても、俺の身体には痛みも、熱さも、何も訪れなかった。

「……え?」

恐る恐る目を開けて自分の身体を見る。

驚いたことに、俺の肌に触れたデビル大蛇の猛毒は、俺の細胞が放つ「常時展開されている微弱な気のバリア(防御本能)」によって、皮膚に到達する前にすべて分子レベルで弾かれていた。

それどころか、ただ弾くだけでは終わらなかった。

サイヤ人の異常な新陳代謝と、この世界に適応したグルメ細胞が、その毒の成分すらも「超高カロリーのエネルギー」として強制的に吸収し始めていたのだ。

俺の背中に触れていた猛毒が、シュウゥゥと白い純粋な煙を上げて、俺の肉体を強化する純粋なエネルギーへと変換されていく。

前世の知識ではあり得ない、物理法則の完全な崩壊だった。

「う、美味い……? いや、味はしないけど、なんかめちゃくちゃ元気になっていく……?」

俺が自分の肩をペロリと舐めながら困惑していると、横で見ていたココが、自身の鋭い「電磁波を見る眼」を限界まで血走らせて絶句していた。

彼の持つ高い知性と常識が、目の前で行われた現象を理解できずに拒絶している。

「……嘘だろ。デビル大蛇の毒が、彼の皮膚に触れた瞬間に……毒としての『死の波長』を完全に失って、ただの純粋な栄養素に書き換えられた……」

「僕の占いで、彼の頭上には一瞬だけ強烈な『死相』が出たはずなんだ」

「なのに、その死相そのものが、彼の肉体の持つ絶対的な生存本能によって、力ずくで消滅させられたよ……」

天才毒人間であり、あらゆる死相を見極めてきたココが、自身の存在意義すら揺るがすような理不尽を前にして、冷や汗を流してガタガタと震えている。

攻撃を避ける必要すらない。

ブロリーの肉体は、ただ怯えてうずくまっているだけで、あらゆる天災や毒を「無効化」し、自分の糧にしてしまうのだ。

「グル……ッ!?」

自分たちの放った必殺の猛毒が、ただの水分補給のように吸収され、相手がむしろツヤツヤと元気になっていくのを見て、デビル大蛇の群れは完全に思考を停止させた。

野生の猛獣としてのプライドが音を立てて崩壊し、目の前にいる存在を「生物ですらない、捕食不可能な無機物」だと本能で察知したのだろう。

大蛇たちは恐怖のあまり長い巨体をガタガタと震わせ、巨大な目から涙をボロボロと流し始めた。

そして、戦う前に、自ら進んで泥の中に頭を深く埋めて完全に降参のポーズを取った。

「……戦ってねぇのに、猛獣が勝手に心が折れていく」

「カナタ、お前がそこに立ってるだけで、この迷宮の生態系のルールが根底からバグっちまうぜ……」

トリコが半ば諦めたような、乾いた呆れ顔で呟く。

小松にいたっては、もう何が起きても驚かないような達観した目で、ノートに「カナタさん、毒を飲む:なんか元気。猛獣、心が折れる」と淡々とメモを取り始めていた。

風圧で吹き飛ばすのではない。

ただそこに存在し、恐怖に怯えているだけで、周囲のあらゆる脅威を「無力化」してひざまずかせてしまう圧倒的な質の暴力。

俺はシクシクと心の中で涙を流しながら、ココたちの背中を追って、さらに洞窟の最奥へと歩みを進めるのだった。

だが、俺たちのその「異常な天変地異の連続」は、洞窟の最奥部、フグ鯨が回遊する海底地下湖の直前にて、ついにこの迷宮の真の支配者を呼び覚ますことになった。

暗闇の奥から、ズズズ……ズズズ……と、これまでの猛獣とは明らかに次元の異なる、重厚で、空間そのものをドス黒く汚染するような不気味な足音が響いてくる。

「――ッ!? トリコ、カナタくん、止まってくれ!」

「この先から漂ってくる電磁波……強烈な『死相の毒』に満ちている!」

ココが、自身の鋭い眼を血走らせながら、前に出て警告を発した。

トリコも即座にフォークとナイフの形に手を構え、その青い髪を警戒で逆立たせる。

暗闇の霧を割りながら姿を現したのは、全身が悍ましい毒のイボに覆われ、無数の巨大な触手を持った、この洞窟の悪魔――捕獲レベル30クラスの超巨大猛獣、『デビル大蛇の変異体(キングサイズ)』だった。

「グルルルルアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

空間を物理的にメキメキと震わせるほどの、絶対的な王の咆哮。

これまでの猛獣とは比較にならないその圧倒的な巨躯と、口から滴り落ちる猛毒の液体を見た瞬間、前世が一般人である俺の精神は、本日最大のパニックを起こした。

(ひっ……! デルビ大蛇の親玉だ……っ! 本物だ……!)

(頼むからこっちに来ないでくれ! 俺はただの一般人なんだ、戦う意思なんてこれっぽっちもないんだ……っ!)

俺は恐怖のあまり、無意識のうちに自分の身を守ろうと、体内の『気』を限界まで収縮させ、全力の防御の構えをとった。

その瞬間だった。

デビル大蛇のキングサイズが持つ、野生の最高峰の感知能力が、俺の身体の奥底に眠る『真の姿』を捉えた。

怪物の目には、俺の背後に、全宇宙の星々を容易く消し飛ばし、神をも屠るほどの圧倒的な暴虐の意志を持った、伝説の緑色の巨人の幻影――『伝説の超サイヤ人の悪魔』の姿が、明確な実体を持ってドロリと出現したのが見えていた。

その悪魔は、デビル大蛇を塵芥でも見るかのように冷酷な眼光で見下ろし、ニヤリと不気味な笑みを浮かべていた。

「……ッ!? ガ、ガ……ッ……」

次の瞬間、この地下迷宮の絶対的な王であったはずのデビル大蛇のキングサイズが、生まれて初めて、その巨体をガタガタと震わせ、恐怖のあまり涙をボロボロと流し始めた。

戦う前、触れる前に、俺の後ろに佇む悪魔の圧倒的な『絶滅の気配』を前にして、本能的な恐怖から精神が完全に崩壊してしまったのだ。

デビル大蛇は、大量の毒ヨダレの代わりに恐怖の冷や汗を全身から噴き出し、回れ右をして、文字通り尻尾を巻いて暗闇の奥へと全速力で逃げ出してしまた。

「あ、あのデビル大蛇のキングサイズが……戦わずに、泣いて逃げていくなんて……!?」

トリコはその光景を目撃し、自分の目が信じられないというように絶句した。

ココも「僕の電磁波の予測を遥かに超えている……。あの怪物の死相が、カナタくんを見た瞬間に『真っ黒な絶滅』に塗り替わったんだ……」と、額の冷や汗を拭いながら呆然と呟いていた。

「本当に……本当に戦いたくないんだ……」

「俺、ただ美味いフグ鯨を食べて、静かに生きたいだけなんだよ……」

俺が頭を抱えて、シクシクと涙を流しながらその場にしゃがみ込むと、周囲を威圧していたあの圧倒的な気のプレッシャーが、ゆっくりと消え去っていった。

世界を滅ぼしかねない最強の破壊神の肉体と、世界一ビビりな一般人の精神を持った男、カナタ。

物理的な破壊ではなく、存在そのものの理不尽さで迷宮を震撼させてしまった俺のビクビク美食屋ライフは、いよいよその最奥部、十年に一度の奇跡の食材『フグ鯨』が待つ海底地下湖へと、その足を進めていくのだった。

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