評価、お気に入り励みになります。
誤字訂正、ちゃんと読んでいただいてありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
オヤジが収監されてしばらく、山守を連れて村岡の親分の所へ行った。山守は村岡と兄弟の盃を交わした。この日夜、村岡のオヤジさんをはじめ、松永、杉原、打本の四人に山守、上田と俺で飲みに出る事になった。酒の席で村岡のオヤジさんは、いたく俺の事を褒めてくれた。
「山守の兄弟は羨ましいのう。こがないい舎弟を抱えちょる。うちの松永とも小沢が兄弟の盃、交わしよるけん。今後もよう付き合ってつかいや。」
「いやなんのなんの。こんなは頭も切れて、身体も張る、じゃけんど昌三とベッタリでのう。どこか一歩足りん。」
「今回の山守の兄弟との盃も昌三の名前で大久保の親分を動かした言う話じゃなぁの。ギラギラした野心も結構なもんだがの、親分に体張れる子分もええやないか。ワシらも今、いっぺん背骨入れ直さんとのう。」
「へぇ、いっぺん小沢の兄弟にうちに来て若い衆、揉んで貰いましょうかのう。」
「「あーっはっはっ」」
帰りの道すがら、案の定よいしょされまくって上機嫌な山守はテキトーな事をベラベラと申し述べてくれる。
「のう、小沢よぉ。この際、ウチに戻って来んかのう。組も持たせちゃるに。」
「申し訳ありません。オヤジの言いつけがあるんで。」
「おどれも堅いの。出世せんど。」
「でしたら山守組の手代か番頭くらいで出向って形でどうですか?舎弟とかカチッとされんのは合わんです。」
「おぉアニキが手伝うてくれんのやったら怖いもんありゃせんですな!!」
「上田、こんなは小沢贔屓が過ぎるわい。」
少し、山守とのわだかまりを解消しておいたら後日、なにかお得な事があればいいなぁ〜くらいの打算をもって付き合って損はなかろう。
組自体はオヤジが務めに行く前に俺を含め、7人となった。順当にいけば完結編までにあと何人か増える。水上を若頭として俺が山守やらとの外付き合い、岩見たちがスクラップ置場の管理やシマ内のアレコレに応対している。
屋台のアガリもある程度の取り分を手元に残して、ほとんどを組に納めている。結構、資金的には余裕がある。最近、屋台ではかき揚げを薄い焼きおにぎりで挟んだ
「天ぷらバーガー」
を売り始めた。すまんモス〇ーガー。パクらせて貰った。凄まじい売り上げです。ごめんなさい。
暇があると時々、水上と釣りに行くようになった。趣味じゃ無いが、瀬戸内は魚が美味い。
「アニキ、若頭はアニキがやってた方がええんじゃないですかのう…」
「ヤダよ。俺は自由人でいいんだよ。」
「なんか座りが悪い話ですのう…ところでアニキ、この天ぷらバーガー、たまらんですわ…特に玉ねぎがえろう甘いのがええですわい。」
「淡路島の玉ねぎだからな。明石組の岩井さんに紹介してもらって卸して貰ってんだ。美味いだろ。」
「アニキはどこでこがな事を学んだんで?」
「お前らが知らん、分からない事は海軍時代に知った事だ。同じ部隊に名古屋の奴が居てな。」
「はぁ…店も出前だけやのうて、飲み屋みたいにしたらええと思いますがの。」
「ヤダよ。面倒くさい。」
「アニキは欲がありませんわ。」
「欲ならあるさ。みんなの安寧な老後だ。」
これと言って大きな抗争もなく、平和な日常を送っている。そう言えば、矢野組の残党三人の殺人事件はオヤジが町のド真ん中で発砲事件を起こしたもんで大事にはならなかった。が、取調べは受けた。取調べと言うが、この時代の取調べはキツかった。平たくタコ殴りだった。ある日、いつものヤクザの様な警官二人からちょっと爽やかな青年に代わった。
「君は海軍だったらしいね。取調べキツかったろう。何も喋らないのは海軍精神の根性かな。なのに警察予備隊には行かずヤクザかい?」
「へぇ…久し振りに広島弁以外を聞いたよ。」
「僕は静岡の生まれでね。君は?」
「江戸の下町よ。」
「噂は聞いてるよ。ロシアンルーレットで抗争回避した小沢夏樹って、警察でも有名だ。県警本部付きの海田昭一だ。よろしく。」
スポーツマンっぽくて調子が狂うなぁ…コイツ。
「俺は屋台のニイチャンだよ。オヤジやカシラ、矢野みたいな生粋のヤクザじゃねーんだ。」
「その割に呉で何か起きると、不思議に丸く収める誰かが居るように思えるよ。僕は神原精一殺害事件なんか怪しいと睨んでるんだがね。」
「人間とのドンパチは嫌いでね。ゼロ戦の一機もあればいいんだけど。」
「では、この前の矢野組組員殺害事件どうかな?君は軍人時代、鹿児島出身の教官にシゴかれたみたいだ。君も刀の扱いは慣れたもんだろう?」
「猿叫はもう忘れたな。なんでぇ俺に詳しいな。」
「カードに書いてあってね。海軍の頃の履歴も見れる訳だ。興味深い事に、君は他のヤクザ達と毛並みが違う。ビジネスマンの様に飛び回って、村岡組、明石組と手を取り合うと思えば、ロシアンルーレットなんてやってのける。ロシアンルーレットは銃刀法違反だが証言しかない。今日の所は帰っていい。」
「話が分かるようで助かった。昨日までの桜田門組の皆さんは怖くていけねぇ。」
これがキッカケと言うわけでは無いだろうが、俺は事あるごとに海田に付きまとわれるし、救われる事になる。
そうそう。山守組の手代になってからと言うもの少しオヤジさんを稼がせてやった。道路、鉄道の通るはずの土地や公営住宅の予定地を買わせておいただけの簡単な提案だ。
「また土地が売れたわい。小沢はどこからネタ仕入れるんのう!!」
「バラせばつまんないですよ。公社の調査が入った土地の先を買っておくだけの簡単な理屈です。」
「小沢のアニキは魔法でも使えるんか思いますわ。」
オヤジさんと上田に褒められ、少し照れてみる。上田にも稼がせてやろう。
「上田も土地なんかやらんか?」
「土地です?自分にはサッパリですわい。」
「そうだなぁ…この辺の土地買っておけ。再開発やるぞ。」
「アニキ、ヤクザ辞めたらええんじゃ…商人向いちゅうんやないですかの。」
そんなこんなで原作より山守組も広能組も資金的に余裕がある。特に元が愚連隊だった上田組は地元土建業との繋がりで、槇原より勢力を伸ばしてる。山守組本体に継ぐ勢力だ。
槇原は面倒というか、漁夫の利を狙う…厄ネタばらまいて、逃げる節がある。少し突付いとくか。山守組から程近い槇原組に立ち寄った。
「槇原の兄さん、居てますか。小沢です。」
「小沢のオジキ、どうぞ。」
玄関の戸を叩くと若い衆が出て来て、応接間に通される。
「小沢の。ご無沙汰じゃったの。」
「最近、小耳に挟んだ事がありまして。」
「ほう。小沢は耳がいいからのう。どうしたんなら。」
「兄さんの舎弟、浜崎でしたっけ?岩国の。」
「あぁワシの舎弟じゃけん。」
「小森組と上手くいってないって噂ですね。」
お茶を啜ろうとした手が止まる。地雷か?そうでもあるまい。俺が明石組と仲良くし始めたあたりで、槇原も県外に付き合いを広げ始めた。
「いい耳じゃの。それがどうしたんなら。」
「深入りすると火傷します。」
「どういう見立ていうんじゃ。」
「小森は村岡の打本と兄弟です。抗争となれば山守組と村岡組の喧嘩まで発展しかねません。代理戦争の様相ですね。」
やっぱり小物だ。狼狽えているのが目に見える。いい傾向だ。
「そうなれば兄さんが先頭で打本にカチ込む事になるでしょう…自分は松永の兄ぃの手前、一緒には行けません。山守のオヤジさんも村岡組長と兄弟ですから力を貸してくれるかどうか。」
「だとして、小沢、喧嘩せんで収める手はあるんかのう。」
「どの程度の利があるのかは存じませんが…いざ抗争となったら誰かしら死ぬでしょう。浜崎も小森も山守組や村岡組が出てきてくれると考えますからね。」
「そうなるとワシが出なきゃなんのかのう…」
何言ってんだこのスットコドッコイは…舎弟の対外抗争で親が出てこない道理があるかいな。
「なのでその時は葬式に山守のオヤジさん除く、幹部の皆さんに御列席願いましょう。威嚇で終わらせるんです。間違ってもカチ込むのは良くない。」
「そがいな事言うてみんな来てくれるんか?」
「大丈夫です。そこはオヤジさんに言って貰いましょう。」
「小沢は頭が切れるのう…未来が見えるようじゃ。昌三が羨ましいわい。」
これで種まきは済んだ…あとは誰にちょっかいかけるかな。一度、明石組に顔出して大久保親分に繋ぎつけておくか…上田が良いように俺の事を話してくれてるからか、大久保親分は俺と気安く会ってくれる。使わない手はない。もみじ饅頭でもぶら下げて行くかな。
翌日、遅めの朝飯を食った所で、もみじ饅頭を買い求めた。ついでにほうじ茶買ったくらいにして。
「お邪魔しまーす。」
気の抜けた挨拶で人様の家の門を潜る。大体いつもそうだ。上田のお陰で気安く入れる。庭まで回って見たら、もう馴染みになった顔に迎えて貰った。
「はっは…その声は小沢だったのう。よう来た。」
「大久保親分、お久しぶりです。コレは土産のもみじ饅頭とほうじ茶です。この饅頭は…」
「こんなの同期なんじゃろうて。もう聞き飽いたわい。上田も買ってきよるけん。そして、ほうじ茶かの。」
「変わり映えせんと申し訳ありません。これくらいしか思い浮かばんで。」
上田め…アイツもこの饅頭、買ってくんのかよ。しかもほうじ茶セットで。そう言いながら縁側に腰を下ろした。
「誰ぞ。この茶、淹れてこんかい。チンチンに熱うお湯で淹れるんど。」
「そこまで聞いてんでぇ?」
「上田は小沢に大層、懐いとるみたいでの。あぁ懐中時計の話も聞いたわい。こんなに買うて貰うたとかで。」
「上田には随分、肩持って貰ってますからね。日頃の礼ですよ。」
「いい兄貴分持っとるようで安心しとるわい。こんなが顔出して茶しにきよった訳でもあるまぁ。今日はどう言う予言じゃ。」
「予言って。勘弁して貰いてぇっすね。」
「値上がりする土地が分かるちゅう話だがの。」
「残念ながら土地は理屈で値の上り下がりを見てるだけです。今日のネタは人です。明石組の岩井と言う人に会っていただきたいなと。」
「ほう。どんな奴なら。」
「明石組の三番手くらいでしょうかね。今後、いい付き合いをしてオヤジか、村岡組の誰かと…出来れば松永の兄ぃと、明石組の舎弟頭である相原を紹介して貰い、兄弟盃の縁を持って瀬戸内一帯の安定を目指したい所です。」
「そこまで絵図描いとんならやったらえかろうの。」
「自分がしゃしゃり出るのもいいですが、大久保親分に間持ってもらおうと思いまして。今も呉の大親分と言えば大久保親分でしょう?」
「へっ…担ぎよるのう…こんなはワシの顔を立てて何の利があるんなら。」
みんな利が利がってよ…利がないと動かないのは結構だが、もう少し仁義ってモンをだなぁ…あぁそうかだからか「仁義なき…」の世界だもんな。
「相原と松永の兄ぃの盃はもう一度、分を考えるとして、岩井とオヤジで五分の兄弟盃を目指したいですね。でもって、出来れば神和会にちょっかいかけられたくないって所ですかね。」
「そん種まきにオーシャン観光引っ張ろう言う腹だったんか。」
「他所もんの為に広島極道が身内で争う事もないと思いますので。」
「明石組に肩入れる理由はあるんかの。神和会じゃいけん理由あるんろ?」
「当代は相当長い事三代目をやるでしょう。その後、跡目は随分若くなると見てます。そして、相当の暴れモンでしょう。日本で一番デカくなります。そう言う見立てです。」
「乗ったろう。だが、コレは広能が出てからじゃ。そんで、広能が盃するのが先で広能の橋渡しにせぇ。ええな?」
抜け目ねぇ事で。いざとなって抜け足出来るようにしやがった。上手くいけば広島を守った守護神、しくじったら広能の責任。ちょっと…いや三枚も四枚も役者が違った。まだまだだな。こうして俺の安定化工作は明石組を残すところになった。