起きたら仁義なき転生、それから。   作:函南

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仁義なき旅行者

「はーるばる来ったぜひょ〜ごっけぇ〜ん…なーんて。」

 

 

オーシャン観光の担当者に会った事はあるし、重役御一行も会ったことがある。岩井と手紙のやり取りもしている。が、会ったことはない。では何故、岩井を狙うのか。前世の記憶で岩井の顔は知ってた。重役御一行にいたんだ。岩井が。一つ博打だが打ってみる価値はあるんじゃなかろうかと思って、とあるところに一通のお手紙を投函して来た。このお手紙が響かなければ、ただの温泉旅行で終わりだ。何しに来たかサッパリ分からん。玉ねぎ農家に寄って帰ろうかな…。

 

「いい湯だなハハハァン…ってな。」

 

六甲山を眺めながら、露天風呂で剣菱なんぞ舐めつつゴキゲンである。誰か後ろに居る。

 

「背中の彫物は桃太郎、左腕は白虎と菊に右腕は花札かいな。なんや面白い組み合わせやな。」

 

背後から俺の彫物を観察してた人物が声を掛けてきた。

 

「いいだろぉ〜。腹には龍と麒麟、足には玄武と朱雀。ご利益満載ってな。」

 

振り返ると恰幅のいい、眉無しのオーシャン観光重役の一人がいた。どことなく若杉のオジキに似ている。逆光でよく見えないが、コチラも立派な彫物を持ってらっしゃる。

 

「そりゃ欲のかきすぎやないか?」

 

「オーシャン観光さんの重役は紋々背負ってるんでぇ?」

 

「玉ねぎ買い漁ってるヤツが広島でも有名なヤクザやと?笑えるわい。」

 

「広能組の小沢夏樹です。申し訳ないが、ただの若い衆です。」

 

「明石組の岩井組、組長の岩井信一や。なにがただの若い衆や。謙遜も過ぎたら嫌味やで。」

 

「駆け付け一杯、いかがですよ。神戸の剣菱とか言う酒です。上方の酒もイケますねぇ〜」

 

「ほな酌して貰おか。」

 

こうして俺は岩井と出会い、長湯に深酒を楽しんだ。それはもう見事に美事に二日酔いで。広島からの電車で買って来たみかんを三つも食ってしまった。しじみ汁、無いよね?

 

「で?風呂入って酒飲む為に来た訳やないやろ?ここの旅館かて安かないで?」

 

「いやですね、もうちょいでオヤジ出てきますので。明石組のどなたか兄弟になりませんかと言う…あたたたっ…お誘いをしようと思いまして。はーっ痛い。」

 

「ほう…」

 

部屋に運ばれた朝食御膳を突付いてた岩井の箸が止まる。

 

「オヤジ言う事は山守やないな。昌ちゃんか。務め行った時に会うたわ。ウマが合うヤツが広島におると思ったもんや。」

 

「じゃあお願い出来ますかね。」

 

「ええで。昌ちゃんとは盃交わしたい思うてたんや。だがよ、もういっぺん風呂入って来いや。もちっと、飲み方考えや。」

 

「剣菱が美味いのが悪いんです。」

 

「風呂入って、酔い覚めたら出掛けるで。何日か泊まるんやろ?」

 

「後二日程、泊まります。」

 

「わーった。まず風呂行って来や。」

 

「一緒にどうです?」

 

「酒臭うてかなわんわ。」

 

爆笑する岩井を背に、今にもかち割れそうな頭を抱えて朝風呂に入る。豪勢な朝食御膳なんて味は分からなかった。

岩井とオヤジはどこかで顔は合わせてたと思ったが、懲役で会ってたのか…と納得しながら湯に浸る。酒が命の燃料なら、風呂は命の洗濯だ。なるほどな。

風呂から上がると岩井はバリッとしたスーツを着ていた。コレは怖い。なにせ眉毛ないんだもん。

 

「ほれ。小沢。はよ着替えんかい。シャンとした格好で頼むで。」

 

「ウコンとかしじみ汁とか売ってないんですか?」

 

「何やそれ?まだ酔ってんか?」

 

急かされながら、スーツを着る。上田が仕立ててくれた、三つボタンのスーツだ。アニキはダブルよりシングルですわ、と言って考えてくれた上田セレクト、いいセンスだ。どっか行くだろうから、もみじ饅頭とほうじ茶のセットは持っていく。

 

着替えて旅館を出ると迎えが来ていた。何で黒塗りの高級車なんだよ。悪趣味だなぁ。遠慮なく乗り込んで、聞きたい事をぶつける。

 

「で、どちらへ?」

 

「本家や。今日はオヤジさんと舎弟頭の相原のアニキも居られる。顔つなぎしてきや。」

 

「は?オヤジさんって?」

 

「明石組組長、明石辰男や。」

 

待て。岩井が言うオヤジさんはそうだろう。違う。そんな予定はない。そんなつもりでもない。何を言ってるのか。敷居が高過ぎると思うんだが。

 

「あのぉ〜…俺、ヒラの組員ですよ?」

 

「なんや尻込みかいな。」

 

「そら尻込みしますって。」

 

「大丈夫や。オヤジさんもカシラの相原のアニキも興味があるんや。気安う会える人やない。会うときや。損ないで?」

 

「あーあ…お宅の組長さん、もみじ饅頭って好き?」

 

「はん?なんや突然。直接聞いてみぃや。」

 

重苦しい気分を抱えて、噂の本家に降りる。もう凄い人数の若い衆が出迎える。流石は明石組、今まで伺った所で一番大きい所じゃなかろうか?

ここで待っててや、なんて通された部屋は、ウチの組の事務所よか広いんじゃなかろうかって部屋だ。

 

「待たせてすんまへんな。相原や。」

 

咄嗟に頭を下げる。将軍に御目見えする旗本の気分だ。旗本って将軍に会えるんだっけ?

 

「小沢の。頭上げてくれや。こちら、明石組、明石辰男組長や。」

 

「広能組、若い衆の小沢夏樹です。お時間いただきありがとうございます。」

 

頭を下げたまま言い切ってから、顔を上げる。もう圧凄い。これが日本の頂点に立つ男か…やっぱり凄い。

 

「明石辰男や。おもろい男が来てる言うから興味あったんや。」

 

「あ、こちら、同期の桜がやってます饅頭屋のもみじ饅頭と、一番合うほうじ茶です。お納め下さい。」

 

「同期の桜っちゅう事は小沢のは海軍か?」

 

「はい。そういえば組長のところの岩井さん陸軍でしたね。」

 

「そうなるとウチの岩井とはソリが合わんのとちゃうか?」

 

明石組長のチャチャに二人が笑う。釣られて軽く吹き出してしまった。案外、軽い人なんだろうか?

 

「それで、や。ウチの岩井と盃したい言う話やったの。ええ話だが、小沢のではちいと座る座布団足らんの。」

 

「あ、いや自分では無くてですね。もうすぐ出てくるオヤジの広能昌三とです。」

 

「岩井が言うとったウマの合う広島のか。こう言う若い衆持っとるんや。ええ親分なんやろう。」

 

「自分が担ぎたいと思うオヤジで、心から慕うアニキです。」

 

値踏みする様な目をされて、反射的に睨んでしまった。失敗したか。僅かに明石組長の目が鋭くなった。

 

「ほんならええやろ。その目、気に入った。ええ目しとる。」

 

「その時に呉の大久保親分をご紹介しておきたいと考えてます。広島と付き合うに、繋がり持って損は無いと思います。」

 

「ははっ…そないな先の事まで見通しとんか?小沢とやら、腹が座って頭も切れるたホンマやのう相原?」

 

「どうしてただの若い衆なんか不思議ですわ。」

 

明石組長、結構豪快に笑う。上手いこと出来たようだ。上々だな。

 

「今晩は空いとんか?ちょっと飲みに行こうや。」

 

「あっオヤジそれはッ…」

 

「喜んでぇっ!!」

 

岩井が制止しようとするのをぶっち切って乗っかる。酒なら喜んで参加したい。

頭を抱える岩井を横目に、一度旅館に戻って頭を整理する。次は相原と誰かの盃だが、急ぐ必要はない。オヤジの盃済んでからだ。間違っても打本とはやらせたくない。武田って手もあるが、ゴタついた時にどこまで味方で居てくれるか不安なのでナシ。松永の兄ぃが本命だが呆れたと言って辞められても困る。まぁいいや。その時の情勢によるだろう。

この晩、もちろん飲みまくった。いやはや。さすがにビビって酔っ払う事は無かった。グラスを空ける度に百面相していた岩井はもっと酒の味がしなかっただろう。勿体無い。高いワインだろうに。

 

 

翌日は岩井の親戚筋だと言う、紹介された玉ねぎ農家に行って収穫を手伝って来た。新鮮な玉ねぎの青い部分を焼き浸しにすると美味い。今度から青身も送ってもらおう。

 

「おうおう。広島のヤツらがよ、小沢が泥に塗れて玉ねぎ抜いてん見たらどう思うやろな?」

 

「あのねぇ俺、屋台のニーチャンなのよ?コッチのほうが性に合うってんだ。」

 

「するとなんや。ワシは屋台のニーチャンをオヤジ紹介してきた言うんか?」

 

「そーゆーこった。岩井さんもえらい博打に乗せられたモンですなぁ。」

 

「やめてくれや。ワシも顔で食ってんねん。」

 

「知らんかったか?俺、博徒だって。」

 

「昌ちゃんもどえらいヤツ抱えとるわい。」

 

「お褒めに預かり光栄の至り。」

 

「皮肉やっ!!」

 

そう言って土塊を投げ付けてくる。岩井さんよ、アンタも土いじりしろよ。心洗われるぜ?

こうして俺の明石旅行は平和に終わった。青身の旨さを知ったのは大きな収穫だった。

 

違う。

 

明石組との縁組を取り付けられたのは大きい。岩井だけじゃなくて相原、明石組長とも面識を持てた。大収穫である。そりゃホクホクで帰る。

広島に戻ったら大久保親分のところに立ち寄って報告、そう言えば広能組の若い衆、西条と話をしよう。テレビ欲しがる女がいたはずだ。スクラップ勝手に売る不始末は回避したい。じゃないと、後から来る若い子にとばっちり喰うからな。

 

 

広島に帰ると例のごとく上田が出迎えてくれた。荷物を積み込んで、車に乗るとタバコと火を出してくれる。

 

「アニキ、長旅お疲れ様です。」

 

「あんな、上田。お前は山守の大幹部よ?俺みたいなヒラにへーコラしていい身分じゃなかろうよ。」

 

「何言ってんです。小沢夏樹はワシのアニキですけん。」

 

「そうだ。上田に買ってもらったスーツで大物に会ってきたよ。」

 

「ほう。件の岩井とか言う明石組の幹部ですかいの?」

 

「あー岩井さんとは一緒に風呂入ったよ。明石辰男に会ったよ。いやぁスーツ、持ってなくてさ。助かった〜。」

 

「明石辰男って…明石組の組長じゃ!!」

 

「そーだよ。一緒に飲みに行った。」

 

「あっ…えっ…えぇ…」

 

「あ、着いたな。一本やるよ。兵庫の剣菱とか言う酒だ。じゃあな。あ、後の荷物は組に届けてくれ。頼んだぞ。」

 

 

そうして俺はまたも大久保親分宅に上がり込んだ。実家の様なノリで来ている。上田様々だ。

 

「で、兵庫の旅はどうだったんなら。」

 

「あ、コレ、兵庫土産の酒です。事はいい方向に。先方も大久保親分にお会いしたい様です。」

 

「ほうかほうか…広能もええ子分持っとるわい。」

 

「今一度お願いしますが、ハシゴ外さんでくださいよ?」

 

「大丈夫じゃ。ここまで据え膳用意されて蹴る程耄碌しとらんわい。」

 

それはどうかなぁ…と言えない不安はある。確か、結構コウモリみたいことしてたからな。

 

「大久保親分が噛んでる事、村岡組の方には伏せたいです。」

 

「ほう…なんぞあるんか?」

 

「村岡のオヤジさん、松永の二人はよく知った相手ですが、杉原、打本、武田をよく知りません。どう反応してくるか。」

 

「予言者でも分からん事があるんじゃの。」

 

「買い被りすぎです。名前は知ってるけど素性まで知らないもんで。」

 

「ええわい。余計な事は言わんどく。沈黙は金やの。」

 

「感謝します。あ、玉ねぎ要ります?ちょっとお裾分けしますよ。」

 

これで後はオヤジの出所を待つばかりだ。後、西条。釘刺しに行こう。御暇しようと立ち上がった所で大久保親分に呼び止められた。

 

「小沢、他意も深い腹も無いんだがの、その馬の尻尾みとうな後ろ髪、どうにかならんのか?」

 

「好きで伸ばしてるんで。これは譲れませんわ。」

 

「かーっはっは…面白いのう。小沢は。」

 

ポニーテールと言えこのジジイ。

 

 

家に帰って次の手を考えようと思いはするものの、どうしても考えがまとめられない。

十中八九、明石組と神和会の代理戦争は演じる事にはなる。ある程度の変化は求めることが出来るが、原作の修正力というか修整力が働いている気配は感じるからだ。いい例が山中正治だ。救うつもりも関わるつもりも無かったが、それとなく松永の兄ぃに聞いてみたところ、死んでいた。

「思い詰めることがあったんかのぅ」

なんて言っていた。自殺だそうだ。どこまでが原作による力学で、どこからが俺の影響か線引きができない以上、慎重になる。現状、救えたのは上田と若杉の二人。引退してしまった事を考えると若杉は微妙な線ではあるものの、生きているから及第点だろう。

代理戦争、俺はみんなに生きていて貰うことが出来るだろうか…そんな事を考えている内に布団の魔力に敗北を喫する。

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