起きたら仁義なき転生、それから。   作:函南

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誤字訂正ありがとうございます。

仕事の都合により、投稿が遅くなったり、連日だったりとなると思います。
気長にお待ちいただけると幸いです。


仁義なき集散

待ち侘びた日が来た。

遂にオヤジが出所する。警察の要請…というか海田が組事務所に来たところからことが始まった。玄関先で呼ぶ声がしたので出てみると、あのスポーツマンっぽい刑事がいた訳だ。

 

「小沢、久しぶりだね。ここのところは噂を聞かないから引退したのかと思っていたよ。」

 

「あー昭一君、久しぶりだねぇ〜」

 

「アニキ、コイツ何者です?」

 

「岩見、こちら県警本部付の海田昭一警部補だ。近々、二課に配属されるそうだ。」

 

「ポリなんけ?」

 

「客人にそういう物言いは鼎の軽重を問われるぞ。応接間に通せ。猫も刑事も訪問してきたなら客だ。」

 

「へい。」

 

応接間で海田の向かいに座ると同時にもみじ饅頭を出す。

 

「同期の桜が…」

 

「知っている、駅前の饅頭屋だろう?だが、僕は暴力団に出されたものは手にしない主義でね。」

 

「主義主張も大切だが、礼節は優越するんじゃないかなぁ…と思うよ。」

 

「君たちが礼節を説くのかい?悪い冗談だ。」

 

「渡世の仁義ってもんがあるんだよ。俺らにも。」

 

「まぁいい。君と倫理観の議論をしにきたんじゃないんだ。君たちの組長が釈放されるだろう?大仰な出迎えを差し控えて欲しくてね。要請と言ったところかな?」

 

突然、本題を切り出した海田の言葉に、饅頭を持った手が止まった。出迎えは子分の仕事の一つだ。組長ともなれば総出で出迎えるのが当然のこと。これを差し控えろとは、コチラのメンツが立たない。

 

「不思議な事を言う。子分が親分を出迎えるに控えろとは座りのいい話じゃない。」

 

「出迎えそのものが暴力団的だと思うんだ。もちろん迎えにいくのを止めはしない。」

 

「ふーん…ここで従ったところで見返りはなさそうだね。」

 

「当たり前だ。なぜ君たちに見返りを出す必要があるんだ。」

 

「確かにな。一理ある。じゃあ一つだけ言わせていただこう。」

 

「なんだ?」

 

「もみじ饅頭、食えよ。話はそこからだ。」

 

「さっきも言ったじゃないか。君たちに出されたものは…」

 

「客人がお帰りになる。見送れ。」

 

少し大きな声を出して誰かを呼ぶ。西条が奥から出てきて、海田の靴を揃えて玄関に置いた。

 

「次は俺が県警本部でお茶いただくよ。」

 

「残念だな。もう少し話のわかる奴だと思ったんだが。」

 

「知らねぇのかい?俺ァ博徒だぞ?」

 

「…はははっ…これは僕の手落ちだ。失念しかけてたよ。」

 

「じゃまたな。」

 

「そうだな。また会おう。」

 

海田の背中を見送りながら、よくよく考えた。逮捕してやるって意味だろうか?

 

「アニキ、あいつ何モンで?」

 

「さぁ。ちょっと目付けられてる。あ、西条よ。」

 

「へぇ。」

 

「女に強請られたモン、買い与えてたら身持ち崩すぞ?」

 

「へっ…どこで聞きようたんです?」

 

「そういうこった。困ったら一言相談すんだぞ。」

 

そう言って俺はまた考え事を始める。出迎え、ダメかぁ…送迎の規模は組の威信と言ってもいい。数少ない見栄張りの瞬間を規制されるのは手痛い。

だがいい。今のところ、神戸に行ったことは触れられていないし、大久保親分のところに出入りしているのは言うほどのことでもないと言うことらしい。

 

 

出所を控えたある日、松永の兄ぃから呼ばれて俺は村岡組事務所に顔を出した。

 

「小沢の兄弟を呼んだのは他でもない。こんなのオヤジがそろそろ出所するじゃろう?そこで、こんなの組で一つ興行打たんかの?」

 

「興行ですか?」

 

「ほうじゃ。うちの打本に手伝わせるけん、プロレスの興行打つんや。まぁうちからの出所祝いみたぁなもんじゃ。こんなは明石組にも顔効くけんの。プロレスがええとこじゃろう。」

 

「打本さん…お名前は存じてますが、面識ないですね。ホテル誘致で一度、お名前は見ましたが。」

 

ここで打本との面識か…関わりたくはないので稼ぎまくってたが、このイベントは回避不能か。

 

「打本に話つけてあるけん、顔繋いで行きや。」

 

「お気遣い痛み入ります。今度、飲みに行きましょう。」

 

「打本以外の連中も紹介したいけんのう。行こうじゃなぁの。」

 

そう言われ渡された住所に向かう。タクシー会社ねぇ…確か、舎弟’分’ってだけで盃交わしてないんだよね?

種々不安は感じるが、松永の兄ぃに言われた手前、素通りはできない。一蹴する訳にもいかないので、渋い腹を抱えて打本組事務所もとい、市内のタクシー会社の戸を叩いた。

 

「失礼します。呉から来ました。打本さんいらっしゃいますか?」

 

遠慮気味に戸を叩く。本来の世代差があるので不安になるが

「広能組から来ました」

と言っていいのかが悩ましいところだ。そんな思案をしていると微妙に派手なちょっと勘違い気味な色男といった風体の男が出てきた。

 

「やぁやぁ待っとったわい。松永に広能の舎弟が来る言う話を聞いてからの、楽しみにしとったんじゃ。入り入り。」

 

「恐縮です。こう言う話とは知らず、手ぶらで来てしまいました。」

 

「気にすることなぁよ。これからいい付き合いしよう言うんじゃなあの。」

 

「ありがとうございます。オヤジに代わってお礼申し上げます。」

 

応接セットに通されて、一通り興行の段取りの説明を受けた。なるほど、人気レスラーを看板にしたイベントらしい。

 

「ほうでな、こんならにはこれくらい出して欲しいんじゃ。」

 

「なるほど。収益を考えたら妥当なところでしょう。うちとしても出せる金額ですね。」

 

「ほうか‼︎なら決まりじゃ。ちくとこの後、飲みに行かんか。折角来たんじゃ、楽しんどかんとの。」

 

調子いいこと言っているが、少々負担額は大きい。収益で相殺できはするが利益は薄い。ご祝儀あっての利益となるだろう。人様の庭先で商売させてもらうので文句はないが、もう少し色の欲しいところだった。

もちろん、夜は飲みに飲んだ。打本の金で。

 

 

広島で飲んだ足を以て、一つ博打を打ちに出た。広島に来て打つ博打といえば一箇所しかない。博徒大友組の賭場だ。

盛況な賭場をかき分けて札をかける。久しぶりの賭場に心が躍る。

少々稼いだところで、大友組の若い衆と思しき人物に肩を叩かれた。

 

「お客人、少々ええでしょうか?」

 

「おう、なんだい?」

 

「こちらへ来ていただけますか?オヤジがお会いしたいと言うちょります。」

 

「伺うよ。」

 

札を精算して、二階に上がる。奥の間に通されると、懐かしくも少し落ち着いた人物と再会した。

 

「久しぶりだな。大友さんよ。」

 

「その節は世話になったのう。ワシのお陰でおどれもえらい名前売ったじゃろうが、ええ?」

 

「ええ。ありがたいことに。またやりますか?」

 

「うるさいわい。喧嘩はいつでも出来るがの、今日はそがいな話じゃなか。もうちくと襟開いて近い付き合いせんか言う話じゃ。」

 

意外な話だった。俺は仕返しの一つもあるのかと身構えてたくらいだった。本当に一つ階段を登ったっらしい。これはいい傾向だ。大友が成長することはヤクザ社会としての利になるし、将来の天政会としても大きな利益だ。

 

「じゃあ五分の兄弟でどうだよ。」

 

「ああ五寸でええ。ワシの株も上がるけぇの。認めとうなぁがおどれと盃したい奴ぁ広島にごまんとおるけんの。」

 

「みんな俺のこと知らないんだ。俺は屋台のニーチャンだってのに。」

 

「そがいな事、そこらで言うてみ。マトにかけちゃるど。」

 

「遠慮しとくよ。まだ死にたかない。それに大友さんとの盃は嬉しい。大友さんは将来、大物になるよ。」

 

「気色悪いのう。今更ゴマすりかいな。」

 

こういう顛末を以て、俺は大友さんと対等な兄弟となった。特に、俺にとって五分の兄弟ってのは初めてだった。記念すべき盃だ。

帰りがけ、大友に声をかけられた。

 

「そう。小沢よ。その大友さんってのやめぇや。」

 

「ダメなんか?」

 

「五分の兄弟じゃ。もちくと近い呼び方でええじゃないの。」

 

「わかった。じゃあまたな、勝利。」

 

「おどれっ程度も加減も知らんのかッ」

 

手近にあったタバコの箱を投げつけられた。よかった。灰皿でも投げつけられるかと思った。

 

 

各所、お付き合いを済ませ、事務所の大掃除を済ませ、明日の焼肉のために七輪と炭、肉を注文しておいた。犬なんて捕まえて来られたんじゃ堪ったモンじゃない。あとはシマ内で暴れてる不良がいるって話を岩見が持ってきてたな。そっちもオヤジが出てくる前にカタ付けておきたい。

 

「アニキ、どがいして牛の舌なんぞ頼みようたんですか?」

 

「あのな水上、まず若頭なんだから俺をアニキ呼びするのやめない?」

 

「もうクセになっとるんですわ。」

 

「そして牛タンてのはな皮剥いで焼くと美味いし、食感もいい。そして安い。覚えておけ。」

 

「ほーん…やっぱりアニキは博学ですのう。」

 

「アメ公が捨ててたのを見て思いついたんだ。そういえば聞きたいんだがよ、シマ内で暴れてる不良ってどうなってるよ。」

 

「あー西条の仕切りの地域ですの。よう暴れよるらしいですわ。西条が弱っちょりました。聞いてやってつかあさい。」

 

「オヤジが出る前にカタ付けたい。今日にでも行ってこよう。」

 

水上も詳しくは知らんのか。どうしたもんか。西条のところにでも行くか。

 

 

西条の仕切ってる地域をフラフラと歩いていたらすぐに見つかった…女とベタついて歩く西条が。

 

「おう西条、楽しそうだな。」

 

「アッアッ…アニキ。きょ、今日はどがな用で?」

 

「深呼吸しろ。岩見から聞いた話だ。暴れん坊に困ってるってな。」

 

「あぁ…えらいガタイのええガキがおるんですわ。飲んでは暴れるっちゅうてコイツの店のママさんからも泣きつかれちゅうんですけ。」

 

「そうか…往来でベタつくのは。品がねぇぞ。じゃあ夜またくるわ。」

 

「すっすんまへん。頼んます。」

 

こんな相談があると「ヤクザやってんなぁ〜」と思うが、それほどこの職業に思い入れがある訳でもない。ぶっちゃけ、打本が作中で言っていた事業一本でいきたいんじゃ…ってのは結構、先見の明がある。俺も屋台だけでいいと思ってる。正直なところ。関わる人が増えて、退くに退けないところまで来てしまったのでもう諦めているが。

そうこうしている内に約束の時間になったので、西条の女の店に行ってみる。手ぶらはまずいと思い、縁あって手に入れた泡盛の一升瓶を持参する。最近はどうにも人の金で飲んでいたので、金銭感覚がズレている事だろう。気を付けねば破産一直線である。そんな事を考えてる内に現場へ辿り着く。重い気分のまま店のドアを開くと西条の女が駆け寄ってくる。

「いらっしゃぁ〜い」なんて猫撫で声で出迎えてきたと思ったら「奥のテーブルです。」と耳元で囁いてきた。女性の囁きはもう少し色気のある内容でお願いしたいところだ。さっさと帰ろう。

 

「おう。ガキンチョよう。」

 

「なんじゃ…おどれ。」

 

待った。ここで出会う予定はない。

 

「広能組若衆、小沢だ。どうも飲み方が悪いらしいな。」

 

「ただの若衆かいな。舐められとるのう。」

 

「名前くらい名乗れよガキ。」

 

「氏家厚司じゃ。われ表、出んか。」

 

「表に出ろと言われて出て良かった試しがない。同席させてもらう。あ、女の子もいていいよ。」

 

内心、かなりビク付きながら向かいに座る。仕方がない、仕掛けてやるか。

 

「酒で勝負しよう。ビールじゃ酔えないだろう?」

 

「ほう、ほんなら何飲む言うんじゃ。」

 

「そうだな。これでどうだ。泡盛なんだが、飲み慣れないか?」

 

「ほう…沖縄の酒なんぞどこぞから持ってきよったんなら。」

 

「持つべきは同期の桜さ。これでも知り合いが多くてね。」

 

「けっ…特攻崩れかいな。」

 

「好きに言ってくれていい。負けたのは事実だ。ママ、氷とグラスをくれ。」

 

グラスに注ぐと泡盛特有の芳醇な香りが、店の空気を塗り替える。期待はしていなかったが、乾杯する事なく、氏家はグラスに口をつけた。

 

「まぁやれるわい。さすがはエリート様じゃ。ええ酒知っとるのう。」

 

「だろう?だが飲む前に一言あるべきだな。この酒を作った職人に敬意を払うべきだ。」

 

「ほう、どうせぇ言うんなら。」

 

そう言いながら氏家のグラスに二杯目を注いでやる。なんフィンガーとかどうでもいい。ロックグラスにミリミリにしてやった。

 

「いただきますの一言はあってよかろう?」

 

「ほう…じゃあ…いただきます…これでええかの?」

 

「礼節は大事だからな。」

 

こうして何杯飲んだか分からず、どうやって帰ったかも分からないが、どうにか家に帰ったらしい。そして、西条には尋常じゃない勢いで感謝された。記憶の回収が必要だが、まぁよかろう。場は収まったのだろう。

 

 

 

 

そんな最近の刺激的な日々を思い返しながら、照りつける太陽をサングラス越しに感じていた。

どでかい、ちょっとした装甲車でも作れそうな、見上げるほどの高さの鉄扉が野獣の咆哮の如き音を立てて開く。心持ちとしては子供のような、初恋の相手にでも会うかのような、胸が高鳴るとはこう言うことだろう。何が近いだろうと瞳を閉じる。初めてゼロ戦のコクピットに座った時を思い出した。

’ここから何かが始まる’

そう感じることができた。まぁいい。この時のために今日まで必死だった。

 

「オヤジ、お待ちしてました。」

 

「おう。小沢、待たせたのう。」

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