起きたら仁義なき転生、それから。   作:函南

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仁義なき外交

興行そのものは大成功。思ってたより儲けたし、岩井と打本、広能での横繋がりも強固になった。ここで問題は起きた。村岡組の若頭、杉原が殺された。賭場での揉め事が原因で射殺された。それは織り込み済みだ。分かってた展開だ。急ぎ、打本組事務所に向かいたい。が、今、俺の目の前には海田がいる。

 

「運転手は突然、飛び出したと言っているんだ。」

 

「あのね、俺は突き飛ばされたのよ。誰かにさ。」

 

「誰に突き飛ばさたんだ。それを見た人間はいないんだ。」

 

「かーっわかんねぇヤツだな。逃げたに決まってるだろ?通勤時間の人通り多い時間だぜ?お察しの通り多少の恨みは買ってるんだ。売り先が無くて困るくらいは。」

 

俺は打本組近くの横断歩道で突き飛ばされて、車道に飛び出し、轢かれる所だった。で、警察がワラワラと来て何故か海田に調書を取られている。

 

「とにかく。今回は被害者だ。被害届出して帰りな。もう恨みは買わないことだ。」

 

「おい。お茶の一杯くらい出してくれよ。コッチは死にかけたんだ。」

 

「おっと知らなかった。ここはいつから喫茶店になったんだ?」

 

「殺されかけたんだぜ?同じ坂東もんの誼でよう。」

 

「なにが坂東もんだ。一緒にするんじゃない。」

 

「つれないなぁ…今日のところは帰るよ。」

 

「被害届出しておけ。」

 

はいはい。と言いながら、オヤジと岩井の両名を迎えに行く。駅で岩井を下ろし、呉に向かう。

 

 

「のう、小沢。打本は杉原の仇取りに動くんか?あれがそないなタマに見えんのう。」

 

「順当にいくなら今、病床の村岡の親分の跡目は打本の手に届きます。が、厳しいでしょう。」

 

「ほう。こんなは何を気にしようなら?」

 

「アレ、舎弟分ですが、盃交わしてませんよ?」

 

「どがいして跡目もらえる思うとるんか。」

 

「ある程度の規模、資金、年功、その辺を考慮すれば妥当でしょう。」

 

「じゃが盃が先になるわのう。」

 

「そうなるとオヤジには面白くない未来がやってきます。山守が広島の動き探ってます。」

 

オヤジはどえらい渋面を作る。村岡は、自分のシマを山守に預ける腹であること、打本は明石組を担いで争うであろうことを見立てて聞かせる。神和会を担ぐ人間も出て来て代理戦争待ったナシの状況である。ここで一つ、俺に問題が発生している。

’誰が神和会を引き込んだのか思い出せない’

これは正直、薄々察していた。だから明石組に肩入れする行動をしていた。この手落ちで後々かなり苦しい思いをすることになる。

 

翌日、大久保親分が上田を通して、オヤジを連れてこいと連絡を寄越した。それに同伴することになった。そこで予想外の人物に出会った。

 

「おうおう…昌三、久しぶりじゃのう。」

 

「山守さんご無沙汰しちょります。」

 

「なんぞ他人行儀じゃのう広能。小沢、いつぞの酒は口に合うたわい。また頼むでな。」

 

「お口に合った様で恐悦です。今日の御用向きは?オヤジに御用とか?」

 

「小沢は今、山守の手代をしとるじゃろう?して、山守と広能はワシが世話した盃じゃけん。ここまで言えば分からんかのう?」

 

「大久保のオヤジさん、ワシらに山守と盃戻せ言う話ですかのう?」

 

「大久保親分、自分は広能組の若い衆です。二人親を持つのはスジが通らないのでは?」

 

この一言に山守はキツい視線を寄越す。かつて俺が言った見立てを覚えているのだろう。がめつい奴だ。

 

「のう広能、ここで盃戻すんは悪ない話じゃ。小沢が飛び回った結果、こんなは今、そこかしこで引っ張りダコじゃ。」

 

「分かりましたけん。ちいと時間つかあさい。」

 

「よう考え昌三。ワシも悪い様にはせんけのう。」

 

大久保邸を後にしたはいいものの、オヤジは渋い顔のままだ。状況をよくしようと動いてたつもりなのに結構、八方塞がりだ。

 

「のう小沢。ワシはこんなが作りようたこの状況、活かせるかよう分からん。松永、武田、江田を誘って打本担ごう思うんじゃ。」

 

「オヤジ、俺はオヤジに従います。あの…」

 

「なんじゃ?」

 

「オヤジの迷惑になってませんか?」

 

「こんなは水上よう立ててやっとる。水上も慕っとるわい。」

 

 

こうして、オヤジと松永、武田、江田を五分、打本を兄貴分とした兄弟盃が成立した。

 

「のう昌三、こんなは明石組の岩井と兄弟じゃろう?ワシも明石組と縁組したい思うんじゃ。」

 

「ワシは岩井と五分ですけん。そうなると相原のカシラしかおらんですがのう。」

 

「それなんじゃ。こんなに間取り持ってもらえんかのう。そうすりゃ村岡の跡目近うなる思うんじゃ。」

 

「ですがのう、村岡の親分との手前、兄弟盃すんのはうまかないんじゃないか思うんだがの。」

 

「形だけじゃけん。大丈夫じゃて。それに盃付き合いなら昌三のところの小沢もしとるじゃないの。」

 

「アレは…ちくと違いますがの。岩井の兄弟に聞いときますけん。ちくと待ってつかい。」

 

「期待しとるけんの。」

 

打本のタクシー会社の下でいつもの灰を量産する行為に勤しんでいるとオヤジが降りて来た。反比例して後ろの勘違い色男は笑顔だ。オヤジはここ最近、不本意ながら見慣れた渋面だ。

 

「小沢、こんないっぺん兵庫行ってこんか。」

 

「明石と縁組ですか。」

 

「ほうじゃ。村岡の機嫌は損なうじゃろうの。こんなはうまいこと盃付き合いしとるわい。松永は兄、大友は五分で上田が事実上弟分。打本はそれで自分も言う考えじゃ。」

 

「迂闊…としか言えませんね。明石組の出方にも寄るんですが…オヤジの兄弟で仕切り役は誰です?」

 

「入退院繰り返しちょるが、武田がよう仕切っとる。こんなの兄貴の松永は一歩退いとる印象じゃのう。」

 

やっぱりそうなるか。武田を若頭に山守組に合流ってのがもう既定路線となるだろう。出来ることなら、打本を省く形がいいんだけど。

 

そんなある日、珍客が組事務所にやって来た。戸を叩く音で来客に気付き、岩見が応対に出た。揉めてるようなやり取りだったので、玄関へ出てみると老人と50代になったかと言う女性、20歳過ぎたかどうかの若者がいた。老人と言うか好々爺といった感じだ。

 

「岩見、どうしたよ。」

 

「おう、これが広能君はおるか言いよるもんでつい…」

 

「客人は客人だ。素性も聞かず言い返すもんじゃないよ…で、お客人、どういった御用向きで?」

 

「わしゃあ広能君の担任をしとったモンでな。今日は折入って頼みとう事がおうて来たんじゃ。」

 

「そうですか。では、少々お待ちください。オヤジ呼んできます。岩見、応接間に通して、茶出せ。」

 

「へいっ。コチラどうぞ。」

 

オヤジを呼んで来ると、久し振りに柔らかい表情を見た。どうやら連れられてた若者、倉元猛はオヤジと同じ担任だったようで。素行がよろしくないらしく、就職しても長続きせず困ったおかーちゃんは先生を頼り、先生は呉に一家を構えるオヤジを頼ってきた…そんな話だった。

 

「ですがのう…ワシらはヤクザですけん。」

 

「そこじゃ。君らは仁義だ侠気だと言うじゃろう?今一度、倉元君を鍛え直して貰えんじゃろうかのう。」

 

「ほうですか…ほうなら、水上どういたらええと思うがよ。」

 

「ほうですのう…ワシはいっぺん、小沢のアニキの所に座って貰うんがええんやないかと思うちょります。」

 

「え、俺なの?」

 

「小沢よ、ワシもええと思うちょる。そろそろ舎弟持つのもええんじゃなかろうかのう。」

 

「オヤジまで言いますか…うーん…」

 

「小沢、ワシはこんなのヤクザも腹冷やす侠気と、今も屋台で揚げ芋売っちゅうカタギらしゅうとこはの、こん若いのは学びゆう事、あると思うんじゃがのう。」

 

「わかりました。面倒見ましょう。倉元君よう、小沢夏樹だ。よろしく。」

 

「うっす…」

 

「お願いしますじゃろうが!!」

 

「えっ、あっ、お願いします…」

 

オヤジ、それ、俺が訂正させるところじゃないの?

軽く雑談して今日から倉元猛は広能組の部屋住みから始める事になった。俺が教育担当という感じで。先生と母親はここでお引き取りと言う形だ。

 

「おい倉元よう、二人の履物揃えてやんなよ。」

 

「あっ、はいっ。」

 

「猛、頑張りんさいよ。」

 

「おうよ。」

 

玄関先で頷いて別れようとする倉元の背中を引っ叩く。

 

「見送りくらいしてやったらどうだって。」

 

「かーちゃん、頑張るけの!!」

 

「諦めちゃいけんよ!!」

 

こうして俺は初めて組内で弟分を持った。戦争が終わって価値観が変わろうとしている時代、仁義だ侠気だと言って命を粗末にする俺たちの中に来た若い青年を、俺は死なせたくないと心から思った。

 

「オヤジ、倉元連れて外回り行ってきますわ。」

 

「おう。小沢もここでちぃと成長せんとのう。」

 

「いいですよ。俺はずっと若い衆で。カシラには水上も居ますし。」

 

「こんなは遠慮が過ぎるけんの。」

 

外回りと言っても俺の外回りはヤクザらしい事はなんもない。だから水上も俺に預けたんだろう。

 

「そう言えば倉元、お前、時計は?」

 

「持っとらんです。」

 

「じゃオヤジに時間指定で仕事頼まれたらどうするのよ。」

 

「いやぁ…それは…」

 

村岡の親分が若い衆に時計をくれてやった話があった。この時代、時計は分かりやすくその人間の価値を知らせてくれる道具だ。いい時計をしてれば、それなりに見える。俺は自分の時計を外す。それなりにいい時計だ。

 

「コレ、お前にやるよ。」

 

「はっ…え?」

 

「猛、ええ男にならんとな。小沢はワシが組持つ前からの舎弟じゃけん。男磨けや。」

 

オヤジに肩を叩かれ倉元は唖然としつつ俺に頭を下げる。やめろ、くすぐったい。

 

「とりあえず行ってきますわ〜。倉元行くぞ〜。」

 

「へっ、あ、はいっ。」

 

 

どうするか考えて、久し振りにとある人の所へ顔を出す事にした。その道すがらもう一つ思い出した事があった。

 

「あと、コレ、納めとけ。」

 

そう言って上着からいくらかの札を倉元に渡す。

 

「あの、コレは…」

 

「なんぼか持ってねーと話になんねぇだろ?」

 

「何から何まですんまへん。」

 

「それが部屋住みの数少ない特権だな。あ、ここだ。失礼します。」

 

明らかに営業前のキャバレーに、口では遠慮するような物言いで入るが、その実、無遠慮に入る。

 

「おぉ参謀長殿じゃなぁの。久し振りじゃのう。」

 

そう言ってカウンターから出てきたのは若杉寛、引退したが我らがオジキだ。

 

「今日からウチの部屋住みに来ました倉元です。おう若杉のオジキだ。自己紹介しときな。」

 

「倉元猛です。よろしくお願いします。」

 

「若杉寛じゃ。渡世は引退しようたが、昌ちゃんとは兄弟分じゃ。気安う遊びきぃや。」

 

「じゃあオジキ、まだ回るとこあるんで、また飲み来ますよって。」

 

「おう。じゃあの。」

 

駅前でお馴染み、もみじ饅頭とほうじ茶を買う。途中何人か馴染みの人間に会ったので倉元を紹介して歩いた。あとは一つ寄ればいいだろう。

 

「お邪魔しまーす。」

 

「おうおう…小沢じゃなぁの。どがいしたんか。上田もおるけ。上がってきや。」

 

「ですか。あ、コレ、いつもの。」

 

「そうかそうか。誰ぞ、こん茶淹れてこんかい。」

 

いつもの客間に通されほうじ茶と饅頭が出される。あんことほうじ茶。至高の組み合わせだ。

 

「アニキ、お久しぶりです。そっちの若いのは?」

 

「おう。大久保親分に紹介しておこうと思って連れてきたんだ。大久保親分、ウチの部屋住みに来ました。倉元です。倉元、顔覚えておいて貰え。」

 

「倉元猛です。小沢のアニキに面倒見て貰うてます。よろしゅう願います。」

 

「大久保じゃ。小沢はようウチでサボっとる。こんなも来るだろうて。これはワシの甥で山守組で世話になっとる上田じゃ。」

 

「上田透じゃ。こんなのアニキはワシのアニキでもあるけん。同じ兄弟じゃけん、よろしゅうしてや。にしても…ええ時計しとるの。」

 

「あっ、小沢の兄さんにいただきました。」

 

「そうじゃろうの。分かってたわい。ええもん貰うたな。何十万するモンぞ。ワシも小沢のアニキに時計貰ったんじゃ。気張ってええ男になれや。なんかあったら頼ってきや。」

 

こうして広能組に新しい人間が増えて、俺に関わる人間がまた増えた。不本意ではあるが預かった以上、原作のように盃も貰っていないのに死なせたくはない。それにいい男にしてやりたい。前世、母子家庭だった俺は、倉元の母親に自分の母親を重ねていた。転生か憑依か、この世界に来てしまった俺には母親がいない…と言うか空襲で既に家族は皆いない。俺が前世の母親に出来ていない分、倉元には親孝行もさせたい。俺なりに決意を固めた日でもあった。

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