起きたら仁義なき転生、それから。   作:函南

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仁義なき破門

広島に戻ってから事務所に戻ると予定通りというか、「やっぱりな」ということになった。

 

「小沢、この縁組、こんなはどう思うとんなら。」

 

「もう腹括りましょう。自分、先頭立ってもいいですし。この際ですからもう賛成派に回っていいでしょう。」

 

「ほうか…ほうならワシも腹括るかのう。」

 

「武田さんに恩売っておくのも悪くないですし。オヤジ、義西会と面識ってありますかね。」

 

「カシラの藤田とは務めからの仲じゃがのう。どうしよういうなら。」

 

少し先を見越して、策を立てる。もう戻れないなら勝つしかない。原作では劣勢からの敗北に等しい状況だったが、いいところに持ち込むか、もう勝ち筋まで持って行ってもいい。

 

「味方を増やします。それとオヤジ、ナマ言っていいですか?」

 

「小沢の言うことなら聞いてもええの。なんじゃ。」

 

「組には随分、金あると思います。1000万ください。」

 

「払えん額やないの。何買うんかは聞かせて貰おうかの。」

 

「盃の持参金に。」

 

「こんなも染まって来たのう…」

 

「倉元ともう一人貸してください。」

 

「河西、小沢についてきや。」

 

「アニキ、お願いします。」

 

 

金の勘定をし、支度をして出かける。行き先は早川組だ。山守が切り崩す前に買い取る。売れるものは売るし、買えるもんは買っていく事にした。

その腹を決めて早川組の門戸を叩く。

 

「すんませーん。誰かいますかー?」

 

「お客人、どちらさんです?」

 

「広能組から来ました。小沢夏樹です。」

 

「オジキさんとこの…すんまへん。こちらでお待ちつかあさい。」

 

座敷に通されて少々待たされる。あまり歓迎される客人ではないが、ここは利益で釣り上げてやる。山守についたり、打本に戻ったりする性分を考慮したら十分勝算を持てる博打だと思う。

 

「待たせてすんまへんの。オヤジが身隠してからゴタついておるんですわ。」

 

「お初にお目にかかります。小沢夏樹です。以後お見知り置きを。」

 

「ほうで…どがなご用向きですかのう。」

 

「ウチのオヤジと、早川さんのオヤジは兄弟分です。よろしければ俺と五分で兄弟盃しませんか?」

 

「ほん…」

 

打本組の奴らは感情的なのか、すぐ顔に出る。ヤクザとしてどうなんだ。そして自意識過剰と取られても仕方ないのは認めるが、俺の価値はまだ健在だったらしい。早川の顔に明らかな喜色を見てとった。そう言えば打本のところの誰かが、勝利のところと小競り合いしているって話だったな。もう一歩押してみるか。

 

「打本組、大友組と揉めてましたね。自分との兄弟となれば大友組との揉め事も仲裁しましょう。早川さんが納めたことにしたらいいでしょう。」

 

「ほうでワシになんの得がある言うんなら。本筋で言うんなら高石のカシラに持っていく話じゃろうが。」

 

「そうですね…得。遠くない内に引退してもらったらどうですか。打本さん。」

 

「ちくと待たんかい。そらどう言う腹なんか。」

 

「後見には先代組長の舎弟であるウチのオヤジ、兄弟にはその若い衆、縁戚で大友組、明石組の岩井さんあたりにも顔出していただいて、襲名式には明石組長にも招待状出しましょう。跡目は早川さんで文句垂れる奴はいないと思いますがねぇ…ついでに持参金も持って来たんですがね。1000万ほど。」

 

「いっ…」

 

「高石さんでもいいですが、今一つ押しが弱い。早川さんが跡目取った方が収まりいいと思うんですがねぇ…」

 

早川はもう落ちた。頭の中は跡目の事でもう一杯一杯だろう。だから顔に出てるんだよ。

こうして俺は早川組を買い取って、欲に塗れた早川英男と五分の兄弟になった。同時期に山守は神和会と五分の兄弟となって、山守組の若頭には武田が座った。

 

 

原作ではスジがバラつくからと言って一度、反抗した打本の盃を戻すことも後のことを考え、オヤジには我慢してもらった。申し訳ないとは思う。ただ、もうどうせ破門されるならいいところに持ち込む。それが俺の目標だ。

 

「ワシはええがよ。いくら昌三が言うてものう打本本人がどう言うんなら。」

 

「明よう、ここでワシらが争って何の利益があるんなら。」

 

「昌三の言う通りで。そもそも山守は重し代わりに据えたモンじゃろうが。ここで打本と喧嘩して山守にも腹に抱えとったら四面楚歌になるど。」

 

「江田どうなら。打本と直す事に文句は無いんか?」

 

「おう。ワシは悪ない。と言うかよ、神和会と縁組して、明石組との縁も戻せば均衡のなるんやないかの。」

 

「ワシらこのままじゃと山守に良いようにされるだけやないの。ちったあ安全保障つけとらんとの。」

 

話が紛糾してるのを廊下で聞いていた俺はそれぞれの思う所に

“そらそうだわ。”

と思いながら溜め息が止まらない。酸素欠乏か酸素過剰になった頃、主役三人が到着した。

 

「おうおう小沢、みんな揃っちゅうのかいの?」

 

「打本さん、コチラです。」

 

「おう。ほうか。」

 

「小沢、久しいの。最近は顔出さんのう。」

 

「申し訳ありません大久保親分。随分苦労してまして。」

 

「若い内だけよ。そがな時間は。」

 

「親分、小沢は働きすぎなんとちゃいますかの?」

 

「これも組の一つも持ったらええと思うんじゃがの。」

 

「恐縮です。どうぞ。お揃いです。」

 

明石組の意向と言う事で、岩井は想定出来てただろうが、大久保親分が現れた事で武田、松永、江田が動揺したのは見てとれた。戸を閉める寸前に武田に思いっ切り睨まれた…サングラス越しだからそう感じたと言うのが正しいか…のが何より状況を物語っている。

三人が入ってからと言うものの少し声のトーンが下がって、廊下にいる俺にはヒソヒソくらいにしか聞こえてこないが

「三人とはええんじゃがこいつだけは嫌じゃ‼︎」

とか

「なんでこがいな奴と‼︎」

とか打本が駄々を捏ねている声が漏れ聞こえている。その度に岩井がちょっと強めに諌めている声が聞こえるくらいだった。しばらく静かな時間が過ぎて

「ほうならそう言う事でこの件は手打ちじゃ。盃も元に戻って万事解決じゃのう。」

という大久保親分の声と笑い声が聞こえた。その直後に武田とオヤジを除いた面々が出て来た。入れ違いで部屋に招かれ、武田の斜向かいに座る。

 

「おう小沢の。こんなもおっとろしい奴じゃのう。明石組まで行くと思えば、大久保親分も引き摺り出しよって。」

 

「どういうことですか?」

 

「明石組の連中が大久保親分引っ張れる仲な訳なかろうが。こんなが入り浸ってたのは周知のことじゃ。江田は均衡言うとるがの、戦争になるど。」

 

「のう明、そっちを苦しめよう思ってる訳やないんど。ワシらだけ火の粉被る事ないやないの。神和会と明石組の戦争に山守引き摺り出して板挟みにしちゃればええのよ。にっちもさっちも行かんようなったところで引退させてこんなが跡目取りぃ。そしたらワシもとことんついて行っていっちゃる。」

 

黙って出ていく武田の背中を見ていて思ったことがある。本当はこの二人、仲良いはずだ。山守がいるから収まりが悪いとしか思えない。

 

「こんなは山守が嫌いなんじゃろう。ワシもよう好かん。だがのこのままじゃえらい戦争になるんど。」

 

「勝ちますよ。狙いは屈服じゃなく、大同団結です。もうすぐ暴力で競り合う時代は終わります。それまでに版図を広げます。」

 

「こんなは時代を間違えたのう…戦国武将にでもなればもっとええところまでいったんやないかの。」

 

「俺は兵隊ですよ。いいところ百姓です。」

 

 

案の定というかなんというか。神和会が首を突っ込んできた。

’打本と三人が盃を戻したのは神和会への反目だろう’

という論調だ。随分遠回しに言っているが畢竟

’神和会に着くのか明石組に着くのか’

と言う恫喝を優しく言ってるだけだ。この勧告を受けて、山守組は幹部を召集する事になった。これに先立って俺は松永組を訪ねた。

 

「こんなと昌三がどういう絵描いとるかは知らんがよ。どうしよう言うんなら。戦争になるど。」

 

「戦争、もう結構です。いいじゃないですか。山守のオヤジさんでは広島はまとまりません。そして、今日、オヤジは破門されるでしょう。」

 

「そがな話、あるかいな。」

 

「明石組の圧力はオヤジのせいですし。内憂外患です。」

 

「そこまで分かっとるんなら止めることもこんなには出来たんじゃなかろうがよ。」

 

「親を立てるのは子分の本分でしょう。そこでアニキ、今日の幹部会、オヤジの味方してもらえませんか?」

 

「言うてること分かっちゅうんか?」

 

「分かってるつもりですがね。」

 

「こんなはもう博徒だった頃の小沢じゃないんか…」

 

「変わらず博徒ですよ。だからここで博打を打ってます。」

 

「もうワシは付き合いきれんのう。こんな、ここで待っとかんか。ワシは呼ばれとるけん。戻ってからこんなに話すことがあるけ、ここから動くない。これ以上かき回すことしやんとき。悪いようにはせんけ。」

 

「お待ちします。」

 

 

呼ばれている…おそらく幹部会だろう。ここでオヤジが破門されて、松永の兄ぃは渡世を引退。本格的に抗争が始まる。深く考えていると、脇から声をかけられる。

 

「オジキ、こちらどうぞ。」

 

「あ、菅原さんありがとうございます。」

 

松永組の若頭、菅原健二がお茶を出してくれた。もうここに来ることはないのかなぁ…と思いながらお茶を啜る。できればほうじ茶が良かった。もみじ饅頭もあれば良かった。

何時間待ったか。外を見ていると陽が傾いていた。メロスの頃合いで言うとシラクスの塔楼が見える頃か。

 

「待たせたのう、小沢。」

 

「いえアニキ。お疲れ様です。」

 

「こんなの言うとおりじゃ。広能は破門、手代だったこんなは除名じゃ。」

 

「まぁ…お察しですね。」

 

「ワシはもうどっちこっち付き合いきれん。そこでのう…おう菅原。」

 

「オヤジ、お呼びで。」

 

「ワシはもう引退する。付き合いきれん。ほうで、松永組は菅原がカシラじゃ。組は小沢に預けるけんの。そこまでしかワシには出来んけ。あとは上手いことやれや。」

 

「いや、それは、ちょっと…」

 

「こんなも少し背負わんかい。」

 

「オジキ、よろしゅう頼んます。」

 

「こんなが逃げ続けた組を持つ責、向き合わんかの。菅原もこんななら担いでくれるけ、この組はこんなに残しちゃる。とことん昌三担いで征く道、走ったれ。」

 

「…松永組組長代行拝命します。」

 

「おう。今日まで感謝するわい。体大切にするんじゃの。」

 

 

アニキは引退してしまった。これを止めたかったんだが、組そのものを預けられるのは予想外だった。味方にはなってくれなかったが、戦力にはなるし、影響力もある。最悪、引退だけされる展開も想像していたが、そうはならなかっただけありがたいと思うしかない。

松永組を預かることはオヤジにも了承をもらえた。俺は親である広能昌三を媒酌人、立会人を岩井信一にお願いして倉元猛と盃を交わした。倉元は正式に俺の舎弟になった。同時に広能組の若い衆として、オヤジと親子の盃を固めた。ここで松永組組長代行として最初の仕事にかかる。どう言った文面が正しいか分からないが、無難に行こう。

 

’この度、先代松永弘の指名をいただき、松永組の組長代行を拝命しました。皆様のご指導ご鞭撻のほど賜りたく存じます。 広能組若衆 小沢夏樹’

 

この文章を書いた葉書を広島の各組事務所、明石組、神和会に送付した。

やっぱりと言うか狙い通り、各所沸騰した。一応、あれから松永組事務所にいるようにしていた。なぜか倉元と河西もついて来ている。

 

「アニキ…あがな葉書送りつけたらあかんのやないですかの…」

 

「倉元の言うとるとおりですけん。こりゃただですまんと思うんですがのう。」

 

「いいんだ。景気良く燃えるところが重要だ。」

 

「アニキは戦争したいんで?」

 

「お前らの時代には暴力はもう重要じゃなくなる。頭が切れるかが重要だ。これが最後の戦争になるようにするんだ。」

 

「倉元…言っとること分かっちゅうか?」

 

「はぁ…言わんとしちゅうことはわかっとりますけ。」

 

「オジキ、ちょっとええですかの?」

 

「なんだ?どうした?」

 

「玄関先にガキが二人、うろついとんですわ。」

 

「はぁ?」

 

俺は油断してた。完全に。

 

 

 

「おう。オメェらなんだ。ウチに用か?」

 

「へ?…ひっ…」

 

目の前に缶ピースが転がって来た。ガキ二人を見直すと走り去っていくのが見える。

 

「マジか。」

 

足元の缶ピースは軽快に炸裂した。

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