上田、好きでした。
頬を切って二日、流石に上田の爆殺は大きなニュースとなっていた。帰る気にもならず、何かするのも億劫なので勝利のところでのさばっていた。
’乗用車爆発、暴力団同士の抗争か?’
’銃撃事件、頻発。秩序の破壊者。’
’脅かされる市民生活’
’産廃処理場爆発火災、抗争絡み?’
もう新聞の記事は暴力団を糾弾するもので日々賑わっている。当然だ。暴力団は公共の敵だ。共産党と似た様なものだ。
打本組にも被害が出ており、また槙原組からも死人が出ていた。
「ほうでぇ?こんな次は槙原でもマトにするんでぇ?」
「わからん。もう嫌になる。」
「上田の本葬は明日じゃて。どうすんなら。」
「さすがに行くのは不味かろう。」
「ワシは呼ばれとるけんの。行くがよ、香典くらい預かってやるんど。」
「そっかぁ…山守の幹部だしなぁ…盛大だろ。」
「神戸の神和会からも若頭が来る言う話じゃの。」
「そっかぁ…上田も出世したなぁ。」
「義西会と共同戦線張ろう言うんはこんなの入れ知恵かの。」
「カシラの藤田とオヤジが仲良いらしいんだけど。岡島と武田は兄弟なんだわなぁ。」
「ワシのとこにも武田が来たわい。こんなと距離取れ言う話じゃ。」
「やっぱりなぁ…」
翌日、俺は倉元にだけ予定を伝えて、大友の車に同乗していた。
「ええか。こんなはここで待っとくんじゃ。こんなが来たら葬式の場で血が流れるけんの。黙って見とれ。」
そう釘を刺され、離れて…通りの向こうの寺を眺める。斎場となった寺は機動隊が監視していた。俺も行きたかったと言うのは、白々しいだろうか?
涙で視界が滲む。俺も焼香したかった。
「君が来るとは意外…でもないか。」
「海田、仁義ってなんだ。」
「知らんよ。そんなもの。君たちの価値観だ。」
「で、なんの用だ。」
「大友が来た。近くに君がいると踏んだのさ。」
「本当は俺のこと好きだろ。」
「ヤクザは嫌いだ。」
「奇遇だね。俺もだ。」
「自首する気になったか?」
「冗談じゃない。」
「ああ。今は困る。証拠がないんだ。自首されても、公判が維持できない。軽い刑ですぐに出られても、警察の評判はガタ落ちだ。」
「それは残念だな。」
「まだ続けるか?」
「そうだな…山守じゃダメだ。引退に追い込みたい。」
「犯行予告だな。自供ともとれる。」
「そう取って貰っていい。」
正直、ここで逮捕でも悪くないと思ってしまった。お役目十分。打本組の若い衆も頑張っているし、広能組も俺のせいで監視がキツいが、臨戦体制と聞く。
「逮捕しないぞ。どうせションベン刑だ。最低でも20年を望めるところまで証拠を揃える。」
「じゃあ希望は無期か。」
「理想だな。聞くに君はヤクザからのいカリスマ性がある様だ。危険だ。」
「酷いなぁ…」
「じゃあ引退するか?」
「もう意味ないよその勧告。」
「ここまでは認める。通りを渡る事は許さない。」
「わかった。香典、置いて来てくれないか。」
「いいだろう。」
「感謝する。」
「こう言うの、仁義って言うんじゃないのか?」
俺の香典を受け取ると海田は寺の中へ消えて行った。
帰りも大友の車で帰った。大友は黙ったままだった。
久しぶりに広能組の事務所に行くと、オヤジと岩井がいた。
「小沢、少しは整理ついたんか?」
「ええ。わがまま許して貰ってありがとうございます。」
「聞いたで。車ごと吹き飛ばしたらしいやないか。」
「十八番です。ダイナマイトでドン。大爆殺神とでも名乗りましょうか。」
「その調子なら大丈夫そうやな。」
「こんなが言うてた義西会じゃがのう。武田との縁組があって消極的でのう。」
「オヤジとも岡島さん兄弟ですよね?」
「ほうじゃ。ほうじゃけ、こっちに着く代わりに、打本は山守組と直接事を構えんことになっちょる。」
「まぁ敵に回らないだけいいでしょう。」
「せやけどそれやったら戦争にならんわい。」
打本といい、岡島といい、なんなんだ。本当にヤクザって奴らは…あ、思いついた。
「岩井さん、俺、襲名披露します。明石組から100人くらい参列お願いできませんか?」
「なんや突然。」
「熱い戦争は血が流れて騒ぎになります。襲名披露の後、しばらく広島観光していかれてはどうでしょう?」
「ほうか…ほうなら兵隊にならんから明石組も出せるっちゅう話かの。」
「せやけどそれでどうなるんや?」
「神和会はそれ以上の応援を出すでしょう。すると山守組には大きな出費になります。こっちは皆さんからのご祝儀で相殺します。足りない分を手出ししても痛くありません。冷たい戦争です。」
「なるほどな。小沢は銭で山守を締め上げたろう言うんか。」
「応援の兵隊を養うのは十中八九、武田です。山守組なら痛くはないが、武田組なら大きい負担になります。そうなれば戦争どころじゃない。」
「昌ちゃん、これはいけるで。」
「小沢もよう考えるの。じゃがのう、銭で張り合って先に息上るんはこっちじゃなあの?」
「張り合う相手は武田です。武田が一度戦線から脱落すれば、山守組の戦力は低下します。それと、岩井さんに恩も返そうかと思います。」
「どう返してくれるんや?」
「広島にオーシャン観光のクラブを出しましょう。」
「そうは言ってるがよ、どうやって女揃えるんや?女まで引っ張ってきたら赤字やで?」
「西条のシノギはクラブの経営です。手下にスカウトを専門にしてる奴らが居るので、武田、江田のやっているクラブから引き抜きます。それと同時に槙原のシマで何人か遊ばせます。庭荒らしですね。」
「せやったら店も早々に開けられるわ。槙原は圧力かける程度っちゅうことやな?」
「そうです。オヤジ、市内の物件は自分が手配します。呉の物件はオヤジにお願いしたいです。」
「そがなこと安い話じゃけん任せ。」
こうして俺はまた市内に戻って段取りする。まずは披露宴だ。それから物件、そして金だ。
「菅原さん、確認したいことがあります。」
「藪から棒に…どがいしました?」
「俺が二代目で松永組は異論ありませんか?」
「今更ですの。ありゃせんですよ。」
「では来週、襲名披露します。」
「やっと…待っとったがです。」
「会場から、招待状、段取りお願いできますか?」
「喜んで。」
「招待状は出して欲しいんですが、明石組からも来ます。100人くらい。」
「ひゃっ…」
「ホテルも予め抑えてください。金はある程度こちらで用意します。ご祝儀も経費に回していいです。」
「承知‼︎」
菅原さん…菅原に段取りをぶん投げて、次の指示を出す。
「河西、若いもん連れて槙原のシマ荒らしてこい。場合によってはシマ切り取っていい。」
「ええんですか?もっと燃えるんやないですか?」
「冷たい戦争だけじゃ進まない。適度に少し燃やせ。」
「適度に…ですか?」
「怪我人はいいが死人は認められん。」
「難しいですのう…まぁやってみますわい。」
「アニキ、ワシには仕事ないんですかのう?」
「倉元、お前は俺のする事、考え方、やり方を学べ。水上が氏家を育ててる。俺は倉元を育ててる。二代目広能組はヤクザであるより企業でありたい。仕事が欲しいなら俺の個人的な資産を預ける。資産を増やせ。投資の勉強をしろ。内、一割で土地を買え。狙うのは海沿いだ。」
「ワシに出来ますかのう…」
「予め伸びる会社、分野の株は抑えてる。値段の上がった株はもう売っていい。あとは時期と度胸だ。」
「はぁ…頑張ります。」
何日かあちこちに顔を出し、物件とある程度の資金が出来たのでもう一度本家に戻って報告を入れる。
「オヤジ、まとまった金と物件は揃えました。西条は二件開けられるくらいの女揃えたんで、岩井さんに連絡お願いします。」
「ほうか。早かったの。岩井から連絡があっての。明日、広島に来るそうじゃ。襲名披露だけだがの明石組長も来るそうじゃ。」
「俺程度の人間に…申し訳ないです。」
「こんなの言う冷たい戦争っちゅうんはこう言うことかの。」
「そうです。血を流さない戦争です。」
「河西には槙原のシマで遊ばせてるらしいがの。」
「槙原はセコい所があります。なので直接的圧力をかけときます。」
「よう見とるわい。」
翌々日、広島市内のホテルで盛大に俺は二代目松永組組長を襲名した。明石組からは明石辰男組長始め、相原、宮地、岩井以下100人超、勝利は子分のほとんどを連れて列席。打本組、義西会、もちろん広能組も参列してくれた。山守組にも招待状は出したが…お察しだ。各人に挨拶を済ませ、外に出る。
少々不満なのは、ホテルを包囲せんとばかりに集合している機動隊か。
「主役が会場にいなくていいのかい?」
「挨拶は済ませて来たさ。」
「これで本当に二代目だな。」
「そうだ。今日ご列席いただいた、神戸の皆さんだが、しばらく広島観光をするそうだ。まずは安芸の宮島にでも行こうと思っててね。」
「応援の兵隊か。」
「失礼な。観光客だ。松永組の客だぞ。兵隊呼ばわりは聞き捨てならんなぁ。」
「非武装の人間を無闇に逮捕はできない。実にいやらしい手だ。」
「世界ではこう言うのが流行りなんだろう?」
「冷戦とでも言うつもりか?」
「ああ。だが世界の冷戦構造はソビエトが根を上げるのが先だ。ここの冷戦は武田が根を上げる。」
「相手は山守じゃないと?」
「武田が脱落すれば山守組は戦力的に半減ってところだ。」
「怖いやつだな。」
「血を流さない戦争だよ。」
こうして俺は正式に二代目を継承した。まぁ…もう後戻りは出来なくなった訳だが。
こう言う時は大抵、どこかで綻びが生まれるのが今までの天丼な流れ。もちろん、今回もお決まりの展開である。
呉で河西が槙原組の人間に襲われて入院、命には関わらないがしばらくは戦線離脱。水上と氏家がオヤジを宥めているようだが、結構限界だと電話口で悲鳴をあげている。
最大の問題は打本組だ。タクシー会社なんて紛らわしいことしてるからだ。タクシーを頼もうと訪ねて来た一般人に発砲、挙げ句の果てに死亡。言い訳の余地なし。
打本は山守と争うなと言って組員を抑えてはいたが、そうはさせたくない俺がいる。
「早川の兄弟よ。これじゃ打本組解散の流れぞ?どうすんのよ。」
「兄弟、そがな言い方ありゃせんじゃろ。第一、弾いたのは本家におった旅の客やないの。」
「これを理由に打本引退でもいいんだけど、ちょっと足りない。ので、少し暴れたらいい。」
「暴れる言うてどうすんなら。」
「山守襲ったれ。」
「正気なんか?」
「至って正気。本家に銃撃してくるだけで十分じゃないかな。今日ももみじ饅頭が美味しい。」
「腹括るかの。」
翌日、一般人射殺のニュースは世論を大きく動かした。それはそれはもう大きく動かした。
暴力団排斥は社会の至上命題とも言える。その通りです。
そんな中でも早川は動いた。山守組に銃撃を仕掛け、一人を殺害、二名負傷させる。この報復に早川は車に乗っているところを襲撃され、負傷した。この事で早川、山守両組はガサ入れを受け、逮捕者が複数出た。