起きたら仁義なき転生、それから。   作:函南

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仁義なき金策

河西が入院して、オヤジは頭に血がのぼっていた「山守狙っちゃる」なんて息巻くのを、水上と氏家が一生懸命になって宥めていたとの事を聞いた。

無理もない。コチラは基本的には圧力をかける事に注力して実際的な行動は限定的と言えた。

ちょっと女の子を引き抜いて、ちょっとシマを荒らしたくらいである。…ダメだったか?

槇原組にやられたと言うことでそこはそこだ。

 

「オヤジ、流石にオヤジに走られると困りますよ。」

 

「そがなこと言うてもの、ワシも思うところはあるんじゃ。」

 

「いいですけど、自分で行くのは辞めてくださいって話です。最近の警察の動き、見てると組長格は徹底して睨まれてます。」

 

「言うて、こんなは自分で動いとるじゃないの。」

 

「あの時はまだ代行でしたからね。それに、警察としても重視してるのは二代目松永組と言う肩書よりも、広能組の若い衆として睨まれてます。」

 

「こんなもこの後は控える言うんか?」

 

「控えません。が、オヤジは明石組の観光案内してて貰いたいんですよ。じゃないと表向きの言い訳が立たなくて。」

 

「ふん…腹には落ちんが、飲んだるわい。」

 

オヤジはやや不貞腐れたまま事務所を後にした。おそらく、今晩はプレオープンするオーシャン観光のクラブへ行くだろう。いやらしい話だが、ここで槙原組の誰かに問題というか、騒ぎを起こして貰いたい。何せ呉でオープンする店は槙原組のシマ内かどうかの場所だ。しかも、武田や江田の店から抜いた女の子がメインだ。槙原組の面々も知る子はいるだろう。

 

「小沢のアニキ、ご無沙汰しちょります。」

 

「おう。氏家。久しぶりじゃん。」

 

「先日からお世話になっとりますけん。」

 

「ああ。水上んとこ座ってんだろ?これは倉元な。俺の舎弟で、俺の仕事を教えてる。」

 

「よろしゅう頼んます。氏家さん。」

 

「こちらこそよろしゅう。」

 

「で、どうした。」

 

「小沢のアニキは、ここからどうしよう言うんですか?」

 

「どうしようね。俺も困ってる。倉元、お前、どこ狙う?」

 

「そろそろ神和会の兵隊が応援で来ると思うちょります。ですけん、このまま武田組を削げる何かを出来ればええんじゃないか思うてました。」

 

倉元もいい見立てをするようになって来た。いい見立てはするがどうも服装がいただけない。俺と盃したんだからスーツくらい着て欲しいもんだ。そろそろ事務所にジーパンで来るのはなしだな。

 

「そうだな。いい狙いだ。じゃあ何を狙う?」

 

「武田のシノギはキャバレーやら飲食店のみかじめ料、賭場、金貸し、いくらか債券も持っとるのを知っとります。この内、キャバレーは女を引き抜いたモンで稼ぎは目減りしとるんでこのままでええです。賭場を荒らすのはアニキに叱られるんでなし、金貸しはガードが厳しゅうて、最後は債券になると思うとります。このままだと武田は持っとる債券の幾らかを手放すと見とります。それを攫ったろう思うとります。多分ですがの、換金の早いものから手放す思うてます。」

 

正直、驚いた。午前中は来なくていいし日が暮れる前に帰っていい、としていたがここまで勉強してたとは思わなかった。

 

「じゃあ俺が欲しいものが何かわかるか?」

 

「武田が持っとる無記名割引債券、じゃないか思うてました。」

 

「よろしい。やりたまえ。」

 

「人は菅原に頼んで、使わせてもらえ。道具も借りていい。ただ条件は…」

 

「殺しはなし、逮捕回避、でええですかの?」

 

「よし。行って来い。」

 

「へい。」

 

倉元が出て行くと氏家がしかめっ面で聞いてくる。

 

「何の話してたんで?」

 

「強盗の話だな。武田の資産を分捕るわけだ。」

 

「倉元の兄さんは学士様で?」

 

「いや…ただの努力家だ。」

 

「小沢のアニキが教えたんですかの?」

 

「いや、金と時間を預けただけだ。」

 

倉元は拾い物だったかもしれない。原作では早々にお亡くなりになったが、実際の能力は高かったのかもしれない。育てたら本当に期待できるかもしれない。毎日、新聞と経済誌を持って歩くところを見るに、勤勉ではあったようだ。

次の日、俺は武田組でボヤ騒ぎ…もとい、ちょっとした火事があった事を聞いた。半焼までは行かずとも、そこそこに燃えたようだ。もちろん、帰って来た倉元と500万円分の債券証は煤けていた。

 

「アニキ、この債権証、どうしたらええんですかいの。」

 

「そうだな…とりあえず、手はつけない。顔洗って勝利に預かって貰って来い。明日、夜に俺が来ると言ってな。」

 

「大丈夫ですかの?」

 

「景気良く燃えたからこの債券があるなしが分かるまで時間はある。大丈夫だ。」

 

「承知です。」

 

(勝利経由で売り戻すか…)

 

神和会が二代目襲名披露を終え、その帰り足で山守は応援の兵隊を引き連れて帰って来た。武田組はこれで当分身動きが取れなくなる。この応援は俺たちの応援と言ってもいいくらいだ。

実際、聞いたところでは武田は最近、カッカしているらしい。実際、なんの自信があったのか、オヤジに引退勧告して来たらしい。

 

「武田もケツに火がついたのかのう。引退勧告してきたわい。」

 

「戦争する金がないんじゃんすですか?」

 

「それもあるみたいじゃのう。こんななんかしたんか?」

 

「倉元が武田組少し焼いたみたいです。債券がいくらか燃えたようです。」

 

「うまいこと頭まわすわい。こんなの入れ知恵かの?」

 

「いえ。倉元が勉強してるおかげです。それでですね、燃えたはずの債券がいくらか手元にありまして。」

 

オヤジは景気良く咽せてお茶を吹き出す。

 

「警察…と言うより火付盗賊改方が来そうじゃのう…」

 

「オヤジ、テレビ買ったからって時代劇の見過ぎです。」

 

「でぇ?いくら攫ったんなら。」

 

「無記名割引債が500万分です。上手く金に変えます。」

 

「…太田胃散、あるかのう。」

 

「おう。誰か白湯と太田胃散持って来い‼︎オヤジの胃が不調だ‼︎」

 

「誰のせいなんか…」

 

 

そうこうしてる内に。陽が暮れたので勝利のところに顔を出した。

 

「でぇ?夏樹よォ。若いモンにけったいなモン届けさせようて。こがなもんどうすんなら。」

 

「額面で500万の無記名債券だ。」

 

「んなもん見れば分かるわい。どうせぇ言うんなら。」

 

「これ、出所は武田組だ。火災騒ぎに乗じて拝借した…」

 

「おどれらは火付に強盗かいな…火付盗賊改が来るど。」

 

「テレビの影響は偉大だな…これを武田組に売り戻して欲しい。」

 

「おどれの言う事はわかるが正面から買うかのう…」

 

「俺に考えがある。」

 

大友組のシマでポン勝手に売ってたでも、賭場開いてたでもいいから大友組が締め上げて、瀬戸内海の養分になるところだった男が命と引き換えに出したのが500万分の無記名債券。これの出所を聞いたらあら不思議、火事場泥棒で手に入れたと。日取りを聞いたら武田組の物じゃないかと思って連絡してみた。という筋書きを勝利に聞かせてやった。

 

「ほんに敵にはしたくないのう。武田が哀れじゃ。…どういて武田に恩売る真似させるんなら。」

 

「武田は広島のヤクザをまとめる組織を作りたがっている。勝利は無視できない。その組織ができた時、勝利にはいい席にいて貰いたい。」

 

「そう言うことかいな…でぇ?いくらで売りつけんなら。」

 

「250〜300で売って欲しい。半分は勝利にやる。」

 

「ほうなら300万はつけたいの。」

 

「がめついなぁ〜」

 

「どの口で言うてるんなら。」

 

「若い奴らに血流させるくらいなら、金の取った取られたでやってた方が幾分マシであると考える次第であります。」

 

「口もへらんの。おどれは。」

 

後日、大友は額面500万の債券を300万で売り払って来た。俺の筋書きに乗っかって。随分と感謝されたそうだ。300万とふっかけたのに二つ返事で買ったらしい。その足で、銀行に走ったそうだ。

 

「と言う経緯で金に換えて来たので。50万はオヤジに納めます。100貰いますんで、もうしばらく明石組の皆様には、広島観光を堪能していただきましょう。」

 

「こんなも悪魔みたいな奴よのう…」

 

「親兄弟の為なら、広能組と松永の兄ぃに託された奴らの為なら仁義も俠気も便所に流してやりますよ。」

 

「こんなが上田とって来た時、わしは申し訳のうての…よくよくさせたらあかん事させた思うてたんじゃ。」

 

「お題目が大事なんですよ。若い頃は陛下のため、今は組、オヤジのため…ですよ。」

 

オヤジは黙ったまま俯いてしまった。

 

 

それからと言うもの事務所への銃撃や、襲撃の応酬が続き、世論はもう暴力団を社会の敵として糾弾していた。戦後守って貰った恩も忘れて…いいぞもっとやれ。

ここで俺は、菅原に一枚のメモを持たせた。それは打本が愛人との逢引きに使ってる別宅の住所だった。原作に頼るとするなら打本は山守に誘拐される。そこでこちらの手の内をバラす。今のところバレたからって困る情報は打本には教えてない。

 

「アニキ、ここらの土地なんですがの、もう少し買い足して、オーシャン観光に貸したらええと思うんですがのう…」

 

「いいね。瀬戸内がいい感じに見える。」

 

「せやす。ホテル用地に向いちゅう思います。」

 

「おお。その発想はどこから?」

 

「岩見のアニキが言うてました。日光石油のタンク立っちゅうところにホテル呼び込もうとしよったって。」

 

「いいぞ。その調子だ。そこら買ってしまえ。」

 

「アニキはわしに何させよう言うんですかの。こんなんヤクザに必要なんですかの。」

 

「今は不要だ。だが将来、必要だ。今、山守の連中を俺が金で締め上げているように、国が俺たちを締め上げる。だから合法的に金を大きく稼ぐ。俺が居る内は代紋も暴力も使っていい。その為に倉元には極力、合法的な事で稼がせてる。」

 

「わからんです。アニキは’極道は力、最後は暴力’って言っとったですけんの。」

 

「今ならそうだ。お前たちは違う。盃外交と稼ぐ金額、そして合法性だ。当世風に言うならビジネスマンだな。経済ヤクザ、とでも言い直すか。」

 

「アニキはアメ公のヤクザみたいな事言うてますの。」

 

「そうだ。日本のヤクザもいずれそうなる。」

 

「アニキはどこまで見えとるんですかの。」

 

「今のうち、お前に遺書でも用意してやるよ。未来を予言するお前のアニキの遺書だ。」

 

「縁起でもあらんこと言わんでつかあさい。」

 

この日、俺は三通の遺書を書いた。一通は倉元への予言、もう一通は広能/松永両組へ、あとの一通は…私的な物だ。

 

後日、倉元猛は正式に広能昌三の若い衆として盃を受けた。しかも媒酌人は大友勝利、見届け人は引退して実業家に転身した松永の兄ぃが来てくれた。言うまでもないが、俺は号泣した。俺のオヤジが俺の舎弟を一人の男として認めた。ヤクザである事自体が業腹ではあるが、この際仕方ない。

 

広能組事務所でお茶をしていると予定通りの事件が起きる。

 

「小沢、打本の兄貴が帰って来んらしい。攫ったのは山守の連中じゃろう。」

 

「ですね。ところでオヤジ。何か逮捕されるような事、してます?」

 

「いくらもあるわい。そがなこと聞いてどがいするんじゃ。」

 

「多分、オヤジ、そろそろ逮捕されます。」

 

「友達の警察の情報かの。」

 

「似たような物です。そろそろ警察は斬首作戦に出ると思います。山守、打本、武田にオヤジ。この辺は逮捕確実です。」

 

「ほう…ほんに斬首じゃのう。」

 

ここで事務所の鳴った電話を西条が取り次いだ。

 

「オヤジ、アニキ失礼します。岩井のオジキからお電話です。オヤジ、お願いします。」

 

「ほうか、小沢ちくと待っちょれ。」

 

「うい。」

 

襖の向こうからオヤジの怒鳴り声が聞こえる。このタイミングの明石でのイベントなんだっけ…なにかあるのかな?

 

「小沢、明石の親分の家にダイナマイト投げた奴がおる…」

 

「は?」

 

順番が違う‼︎

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