そして、大量の誤字訂正ありがとうございます!
申し訳ないです!
松永組の構成員を前に俺は説法を始めた。
「いいか?まずは俺の決まり事をいくつかみんなに徹底して貰う。」
・顔は隠す事
・基本的に黒い作業着で行く
・一般人には手を出さない
・証拠は残さない
・行動する班は交代
「そして…俺が一緒に行く。勝手に行動するな。指揮官先頭、率先垂範。子分、舎弟の後ろに隠れるな。俺はお前たちを鉄砲玉にはしない。」
それぞれが思う様に気勢を上げ叫ぶ。人生二度目の、鉄火場の始まりだった。
この晩、早速取り掛かった。事務所は張り込まれているので、郊外の工場で集まった。全員、墨で首から上を塗りつぶしている。
「今晩の主役は槙原の枝、尾本組の組長と若頭、子分たちだ。五人、全員揃って帰るぞ。」
そう言って夜の街に向った。一人だけ車に待たせて、一軒のクラブを見つけると遠慮なく入っていく。
奥の席に標的となる面々を見つけると、頭と口に黒い布を撒きながら近づいていく。
後四歩。背からコルトを抜いてスライドを引く。三歩。全員の顔を確かめる。二歩。頭と心臓を狙う。一歩。店の音楽がうるさい。
「尾本組長、ご機嫌よう。さようなら。」
頭に一発、心臓に二発。若頭や子分たちにもバラバラと銃弾が叩き込まれる。言った通り、マトにかけた相手だけを撃っている。いい組員に恵まれた。兄ぃに感謝だ。
「おう‼︎ずらかれ‼︎」
一瞬の出来事だったが、長い時間だった様に感じた。車に飛び乗ると勢いよく走り出す。
街を抜けて黒い布を外すと、皆がそれに倣う。
「みんなお疲れ様。飲みに行こうと言いたいが、少しお預けだ。家で酌してくれ。」
みんな笑い返してくれたが一人だけ…窓の外に吐いていた。
「申し訳ありゃせんです。」
「いいんだ。慣れるな。慣れていい事じゃない。」
「ありがとうございます。」
「誰にも初めてはある。」
尾本組長殺害を手始めに尾本組を徹底して叩いた。斬首作戦に成功した後、事務所には火炎瓶、シマ内のキャバレーや賭場、金貸しにはウチへみかじめ料を納めさせた。三日とせず尾本組は壊滅、シマは切り取った。
それからも槙原の枝を片端から叩き続けた。十数回の夜勤でいくつかの組は機能不全となり、シマは拡大。反して槙原組は鳴りを顰めた。時折、玄関の修繕は必要となったが、人的被害はなかった。
「オヤジはどういて今まで動かんかったんでしょうか?」
「出来る事としたい事は常に相反する。」
「ままならんですの…」
「次、どこか手頃な枝はないか?」
「高作会あたりですかの。スジは武田ですが、悪くない思いますけん。」
「いいな。行こうか。明日明後日は土日だな。おやすみにしよう。」
「そう伝えます。」
若い衆に自宅に送らせると家の前には見知った顔がいた。
「おう。どうした。明日は土曜日だ。休みじゃないのか。」
「白々しい。君のおかげで休みがないんだ。」
「まぁ上がりなよ。要件を聞こう。」
茶ともみじ饅頭を出して、タバコに火をつける。
「不思議なことが起きている。」
「ほう?大日本帝国が戦勝国になったか?」
「それは確かに不思議だ。だが同等に不思議だ。尾本組が消滅して、そのシマには松永組の事務所が出来た。他にも槇原組系の枝がシマにしていた地域が、何故か松永組に鞍替えしている。不思議と言わずなんと言う?」
「それは必然だ。群雄割拠の戦国時代だ。領主がいない領地は誰か所領になる。」
「それもそうだ。だが、槙原組じゃないのはいささか不自然と言える。」
「そうか?呉にも事務所が欲しくてね。広能組に居候では水上もやり難いだろう?」
タバコに火をつけて、茶を啜る。
「証拠がない。今回も。目撃証言も黒ずくめの集団としか言わない。」
「証拠がなければ俺が犯人ってか。」
「もうそう言うしかないのが現状だ。」
「スマートで目先が利いて几帳面、負けじ魂。ってな。」
海軍の標語と入れ違いに、もみじ饅頭が口に入る。うん。あんこは世界を救う。間髪入れずほうじ茶で流す。最高だ。
「止められないか?」
「策はくれてやったのになぁ…」
「もう少し時間をくれないか。」
「…一月待とう。だが、対岸の火の粉を消しても当地は燃えるぞ。」
「急ぐ。くれぐれも延焼は困る。」
「ところで茶、飲んだらどうだ?もみじ饅頭は…」
そこまで言ったところで俺はぶったまげる。海田はもみじ饅頭を口に突っ込んで、茶を一気に飲み干した。
「おま…」
「時間が欲しいんだ。」
「気に入った。燻りは許せよ。」
「感謝するよ。」
海田を見送って。茶を焼酎に変える。明日は…もうそろそろ土曜日だ。深酒もいいだろう。
明けて翌週、俺はまたみんなを集めた。
「先週までの夜勤はご苦労様だ。今後は拡大したシマの治安維持…畢竟、遊び歩いてるチンピラを片端からノシて行こうと思う。殺しはなし、ここからは喧嘩だ。」
「オヤジさん…よろしいですか?」
「おう。聞こう。確かゲロってた…関村…だったな。どうした?」
「逮捕もガサも受けとらんです。サツはまだ何も解っとらんのでは無いですか?」
「ああ。証拠はなし、掴んでる事もほぼ無い。そう言ってたよ。」
「はぁ…オヤジさんはサツとお話ししたように聞こえたのですが。」
「ん?家に来たよ。二課の刑事が。」
「「「はぁぁぁぁっ?」」」
「友人でね。片思いだろうが…みんな、今夜は飲みに行こう。」
財布に金をミッチリ突っ込んで、出かける支度をする。うん。前世でもこんなに金を財布に入れたことがない。まぁいいや。
新しく切り取ったシマをみんなで飲み歩いた。なんだ。意外と良いところじゃないか。すると菅原が耳打ちしてきた。
「オヤジ、向かいから来る三人組ですが、あれ高作会の連中です。アヤつけますか?」
「そうだな…吹っ掛けようか…テェメェら誰の庭先歩いてんだぁぁぁぁっ」
「え…えぇぇっ…」
教わった三人組の先頭にいた男に飛び蹴りをくれてやった。
「おどれ何しくさるんじゃゴルァ」
「われ、松永の…」
「小沢ですけどぉぉっ」
俺の顔を知っていたチンピラの鼻っ柱の拳、蹴り倒した男の顔面にもう一度蹴りを進呈する。夜も更けているので、寝たようだ。行儀の悪いヤツめ。突っ立ってるもう一人の襟首を掴む。
「で、誰の庭先歩いてらっしゃるのか?」
「ひっ…」
頭突き一閃。三機撃墜。
「よぉうし…みんなこう言った感じに素手ゴロで頼んだ。くれぐれも殺しはナシだ。」
「おぉやっちゃるけぇ‼︎」
「いくど‼︎」
「やっちゃらぁっ‼︎」
「みんな怪我なく頼むよ。」
「「「おおおっ‼︎」」」
それから連日連夜、弊社…当家の若い連中は実によく働いた。敵対する山守系…もとい天政会系の組員は松永のシマから悉く姿を消し、副次効果でなぜか治安が良くなった。あまりにみんなが執拗に不良狩りに勤しむもので、その辺に彷徨いていた不良たちも品行が良くなったと言う理屈だ。幾分愉快な日々を送っていると、待ち侘びた約束が果たされた連絡を倉元が運んできた。
「アニキ、神戸の明石組と神和会が手打ちしようたです。」
「いいじゃない。戦争はいかん。平和でいいんだ。」
「それがですのう、どこぞの親分の仲裁じゃありゃせんのです。兵庫県警が間に立ちようたがです。」
「尚更良いじゃないか。」
俺は上機嫌になっていた。海田は約束を果たした。俺も約束を果たした。明快な状況だ。
「アニキ、自分も一つ報告ありますけん。」
「なんだ?」
「クリーニング屋の工事、終わりよったですけん。今月のオープンに間に合います。」
「ああ。良いことだ。世界は今日も回ってるな。」
「アニキ、あと打本と山守が逮捕されよったです。」
倉元がサラッと報告を寄越す。良いことだ。
「天政会は武田が、打本組は早川が代行しよるそうです。」
「先に言っておくけど、俺、遠からず逮捕されるはずだ。」
「なんか下手打ちよったんで?」
「いや。海田との約束でね。使用者責任か暴行傷害あたりだ。」
「ほう言えばここ最近、松永組は不良狩りしとる言う話でしたの。」
「カタギの皆さんからも評判いいんだ。街の清掃だよ。まぁ警察には睨まれたがな。」
わざと目立つ様な行動をとっているんだ。俺の目的はそこにある。殺しは実行犯を特定させたくないが、喧嘩は別だ。死なない限りは派手に行くに限る。
翌日、夜廻りから帰ってきた組員を労って、一緒に朝食を食べた。卵焼きにはネギを入れるに限る。美味い。そして、朝寝を決め込んでいた昼過ぎ、野崎が松永の事務所に転がり込んできた。
「あ、あ、アニキ。武田と槇原が逮捕されようたです!!」
「世の中そんなに騒ぐことは少ない。落ち着け。誰か!!野崎にほうじ茶出してやってくれ!!」
「武田と槇原が逮捕なんだな?」
「はい。間違いありゃせんです。」
「そっかぁ…」
「どうかしようたんで?」
「次は俺だな。」
そう言うと野崎は盛大にお茶を吹き出した。
「そがな縁起でもない…」
「そう。縁起でもない事が起きるのがこの世の常だ。」
そう言って部屋に入ってきたのは海田だった。
「おう。そろそろ俺の手番なのか?」
「そうだ。人払いを頼みたい。」
「この部屋には俺と海田、そんで野崎がいるだけだ。野崎は気にしなくていい。」
「そうか…君は若いのを本当に可愛がるクセがある。」
「見どころ次第だ。で、用件は?」
「山守と打本は来月にも引退。武田と槇原逮捕。武田は微妙だが、槇原はそこそこ喰うはずだ。」
「江田は取れなかったかぁ〜」
「どうにも弱くてね。任意が関の山だ。それで君…小沢夏樹だが…」
「おう。遠慮せんと言いない。」
「過日、と言っても複数日に渡って…だが、路上で暴行を加えている所を目撃されててね。同行して欲しい…と言う事になる。」
「事になる?」
「ああ。後のことを指示するに何日か必要だろう?」
「じゃあ明日、迎えに来てくれ。」
「いいのか?」
「ああ。難しい指示は出さないさ。」
「分かった。明日来るよ。」
海田が出て行くと、俺は野崎を見て言った
「聞いての通りだ。お前たちはいつも通りに事を回せ。困った時だけ面会に来い。時間を無駄にするな。いいな?」
「アニキ…そんな…」
「そうだ…ちょっと待ってろ。」
そう言って俺は何本か電話をかける。
この日の晩、勝利に媒酌人を頼み、見届け人に菅原で野崎とは舎弟として盃を交わした。いつまでもプーじゃ困る。明確な身分はつけとかないとな。
明くる早朝。
「小沢、海田だ。起きてるか!!」
「おう。今降りるから待ってて。」
着替える時間は貰えるか?このまま連行なんだろうか?ってかまだ通勤ラッシュ前の真面目に朝方だ。
「待たせた。もう?」
「いや。13時に任意で引っ張りにくる。用意しといてくれ。」
「何から何まで悪いね。」
「今回、借りを作ってしまった。少しでも早く返済したい。」
「まぁそう言うなよ。」
「じゃあまた後で。」
この日の14時過ぎ、暴行傷害の容疑で逮捕された。
人生初の手錠は思ったより軽く、そして冷たかった。
主人公、遂にタイーホ!!