誤字ですが落書きは「無料」で行こうと思います。
氏家に呼ばれて、広能組に入ると久しぶりに西条に迎えられた。キャバレーのオーナーが似合ってきている。
「代行がお待ちですけん。こちらへ。」
応接間に入ると、氏家の前に佐伯たちが正座していた。そして、奥には市岡がいた。やっぱりな。
「氏家、この状況、どういうこと?」
「それがですの…」
どうやら市岡はフラッと立ち寄った程度で、拗れたのはその後だ。まだ盃を貰っていない、オヤジが収監されてから入った佐伯たちが、町場の不良たちを引き摺ってきて組に入れようとした…という顛末だ。
「あー…まず関谷、その…佐伯とガキンチョは返せ。そして、俺から言えるのはオヤジが出てくるまでは派手には動かない。ええな。ほれ、お前ら出てけ。」
「おう小沢よう。天政会に好き放題させちょって動かん言うんは、兄貴も網走で泣いとるわい。」
「いいですか?このまま…」
思いついた。ここで上手く動いて貰おう。出来れば倉元や野崎の足を引っ張りたくない。
「市岡さん。俺と大友組行きませんか?」
「アニキ、それはっ…」
「大友ォ…?天政会のかの?」
「そうです。今、広能組を動かすのはオヤジがいない手前、出来ません。ですが、出来ることはあります。」
「こんなの見解も聞いてみようかの。」
「松永組は…もう経済ヤクザに舵を切っているので、抗争にはきません。そこで、自分と市岡さんで動きましょう。天政会ですが、派閥争いが起きます。そこに便乗しましょう。」
「こんな、なにかアテはあるんか?」
「市岡さん、ちょっと天政会にちょっかいかけてください。そうですね。杉田あたり締めたら財布軽くなるでしょうね。天政会の若い連中、揉んでやりましょう。俺も手伝うので。」
「任せちょき。少し騒ぎ起こしたるけん。」
「お願いします。」
颯爽と出ていく市岡を見送ると、氏家はため息をついた。
「オジキにも困りますけ…若い連中のケツかきよるんですわ。」
「氏家も苦労するな。」
「アニキ、何するんで?」
「勝利と早川に乗って天政会を割ってやるのよ。」
「乗ってきますかの。」
「勝利じゃなくても、一足飛びで松村が跡目じゃ面白くないさ。それに、松村は武田の系列だ。初代山守、二代目武田、三代目が松村じゃ山守組の譜代しか上に立てなくなる。外様は不満だろう。体制としても健全じゃない。」
「言われてみればそうですの。オジキ、上手くやりますかのう…」
「市岡組の衝撃力に期待しよう。」
後日、広島に激震が走る。
天政会参与、杉田佐吉が射殺された。しかも犯人不明。締めるだけでよかった‼︎
誰が殺せって言ったよ‼︎
どういう頭してんだよ‼︎
市岡もポン喰ってんじゃねぇだろうな‼︎
杉田暗殺の翌日、やっぱり奴が来た。海田昭一だ。
「騒ぎは困るとあれほど…」
「犯人不明と言ったら俺か?」
「今回はどういう意図だ。」
「残念だが、今回は本当に俺は関係ないんだ。」
「今回は?」
「今更そこで揚げ足取るな。」
「杉田は天政会の金庫番だ。そう言う所を狙うのは君らしいと思うんだが?」
ちょいと冷や汗をかいた。俺の入れ知恵だ。が、殺してくれとは言ってない‼︎
「本当に違う。」
「で、あれば。問題だ困る。」
「俺も困るさ。予定外だ。」
「予定があるなら聞かせて貰おう。」
「杉田の葬式に行く。」
「いや揉めるだろ。常識的に考えて。」
「予定を聞いたじゃないか。」
「どこまで揉めて、どこまで乱す腹積りだ?」
「今回、俺は言うほど関係ないぞ。そうだな。譜代と外様ってところがミソだろう。」
「幕府か?」
「まぁいつかわかる。」
「それと槙原と江田の出所も決まった。江田は来週だ。」
「すまんが、行動する。これが最後だ。」
「そう願う。」
海田を帰した後、冷静に考えてみた。よし決めた。
「でぇ?こんなは杉田やらせたんか?」
「こんな筈じゃなかったんだ。」
「どうする腹なんじゃ。」
「天政会、三代目は松村だってな。」
「ほう…どう言うことなら。」
「武田は若い松村を跡目にして息の長い頭をおくんだろう。ここで勝利に頼みたいのは内紛だ。」
「こんなは壊れたんかのう…わしゃ天政会の副会長ぞ?」
「そこはこの狂気のマッドサイエンt…」
「こんなの目指すところはどこじゃ。要点が掴めんのじゃ。」
「武田、槙原、江田には引退して欲しい。そして、オヤジの安寧な余生。」
「後半は分からんがの。前半ならまだスジはあるわい。早川も乗るじゃろうな。」
「よし。乗ってくれ。三人を引退させられれば、安寧は訪れる…はずだ。」
勝利に根回ししたことで、葬儀では市岡と揉めずに済んだ。が、山守がいたことには驚いた。えらく睨み付けられた。あのタヌキめ。もう生理的に受け付けない。個人的な感情でマトにかけてやりたい。葬式を後にして外に出ると、武田に呼び止められた。
「のう。小沢。こんなのところの若いのがうちのと揉めたらしいの。」
「ああ…飲み屋でアヤつけられたらしい。」
「水にして保に説法してくれたらしいの。すまんけな。」
「いいよ。先達の役目だ。」
「こんなも天政会にこんかの。そうすれば、天政会入りを拒んどる奴らも考え変える思うんじゃ。」
「バカだなぁ…俺、そんな価値ないぞ?広能組の若衆だぜ?組は持ってるが、ほぼ会社だ。」
「そこじゃ。もう時代が変わっとる。」
「勝利と早川は従わんぞ。」
「あれら古い人間はもう付いていけんのじゃ。」
「どうだろうな。それも狭い視野だ。」
翌日、槙原の復帰発表の席で、武田は会長代行である松村保を次期会長に指名、壮絶に紛糾したようだ。反主流派、勝利と早川、他に数名が席を蹴ったそうだ。よしよし。
この不穏な空気を察して、槙原釈放に先んじて武田が逮捕された。勝利に呼ばれて大友組に顔を出すと意外な人物に出会った。
「槙原さんじゃない。ひさしぶりですね。」
「小沢の兄弟、槙原のは松村の風下に立つことを良しと思っとらんけ。こんなも手打ちにせんか?」
「小沢、わしと小沢には禍根があある。じゃがの、今では些事じゃけん。ここは手打ちにしようやないか…」
「槙原さん、松村は譜代の山守系列ですよ。逆らえるんですか?」
「わしは槙原政吉じゃ。呉じゃちったぁ知られた男ぞ?松村みとうな若造に肩超させんわいな。」
「そうですか…では手打ちにします。過去は水に。」
「小沢も随分、名前売っとるらしいの。大友さんに聞いたわい。」
「今でもただの若衆ですよ。」
「謙遜も時には美徳にならんど。」
「申し訳ありませんね。気にします。自分はここで中座します。すいません。」
「兄弟、気つけて帰り。」
「小沢またの。」
会ってみて思ったが、槙原は変質していない。絶対に味方にしたら仇成す。もう少し早く動いて、江田に声かけるべきだったろう。
と言うか、会ってみて思った。アイツ、嫌いだ。
翌日、槙原は見事に寝返った。これに激怒したのは早川だった。
「兄弟、昨日槙原は大友のと手組んだんやないんか‼︎おう?」
「槙原だ。五分前の常識は通じない。」
「松村が金積みようたんじゃ。間違いありゃせん。」
「どうでもいい。どの道、使い物にならん。手下も少ないしな。」
「腹に据えかねるのう…」
「いいんだ。これで。このまま天政会を割ってしまえ。」
「じゃがのう…警察に睨まれとるんじゃ。」
「ここで市岡に手伝ってもらう。大友を長兄にして兄弟盃しよう。」
「杉田をやったいう噂じゃけん。荒立つんじゃないかのう?」
「ヤクザが動くんだ。そりゃ荒れるよ。」
こうして早川を説得して、大友、市岡、早川の盃を実現した。
後日、市岡は後ろ盾を得て、天政会のシマを徹底的に荒らし始めた。そんな中、呼ばれて俺は市岡と夜の街に出た。今日も今日で随分な人数の若い衆を連れている。
「小沢の。今日は大友の兄貴と約束してての。こんなも来たらええ思うたんじゃ。」
「市岡さん、やりすぎてませんか?」
「これ位しとかんとの。天政会は気づかんわい。」
「杉田も殺さなくても…」
「そう言うない。あぁここじゃ。おうお前ら構わんけ、そこらの店ササラモサラしちゃれい。」
店に入ると着流し姿で膝を立てて酒を煽る勝利と大友組の若頭…間野と言ったか…がいた。
「おう大友の兄弟。今日は小沢も連れてるで。」
「市岡よォ。豪気な事しよるの。今日は何人連れてるんなら。」
「さぁ…五十か六十くらい居るんやないかのう。よう分からんわい。」
「道具持たしとるんか?」
「いんや。騒がしちょるだけじゃ。」
「ほうか。」
「広能のとこの連中を氏家と小沢が抑えちょるけん。小沢が直、出てきよったんですわ。」
「小沢よォ。こんな前線に立ってその身になにかあったら組はどうすんない?」
「勝利もよ、もうちっと間野とか、その辺アテにしろよ。うちは俺が今日いなくなったとて、明日も明後日も変わらず回るぞ?」
テーブルの空の徳利を間野に渡して、追加を頼む。
「ほうならなんの為の親分じゃ。こんな担ぐ意味も無かろうが。」
「頭下げる為の親だよ。」
「ふん。おもんないのう。倉元と野崎言うたかの。ウチのシマ内に店出す度に挨拶状寄越しよるけん、花代ばかりかかってかなわんわい。」
「おぉ…そうじゃそうじゃ。うちにも挨拶状きとったの。水上とか言う先代の広能のとこのカシラじゃ。弁当屋出す言うてのう。」
「当たり前だ。ヤクザの代紋背負って商売してんだ。仁義欠いたら戦争よ。」
「戦争で思い出したがの。二人とも耳立てとき。もし音がしよったら…頼むで。」
「わかっとるわい。ほうで、槙原じゃがの。しばらくは呉におるそうじゃ。」
「ほうかほうか…」
「手出さん言うなら小沢よ。もう一遍、広能のとこの若いの釘にした方がええど?」
「ほうじゃ。またワシは発破しちゃるけの。」
「市岡さん、氏家参ってるんだって。遠慮してくれよ。一遍、呉に言っておきますわ。」
夜の街は大騒ぎ馬鹿騒ぎ、俺たち三人は中庭の石灯籠に揺れる火を眺めながら、徳利の酒を干した。
翌る日、二日酔い気味の頭を抱えながら、近所のラーメン屋に出前を頼んで、もう一度布団に入る。喜多方ラーメンが食べたいです。それか優しい塩タンメン。二度寝の誘惑と格闘していると、戸を叩く音が聞こえる。今日は早いな…。
「アニキ、アニ…」
麗しのラーメンではなく、野崎だった。二日酔いでみたい顔…顔立ちはいいけど…ではない。
「なんだよ…野崎か…」
「うっ…アニキ酒臭い…」
「昨日、俺と勝利、市岡で飲んだんだ。」
「すんません。出前です。」
「あ、ちょっと待って。野崎上がれ。あんちゃん、中華そばもう、一つチョッパヤでお願い。多めに払うからさ。親方に小沢の頼みだって言えばやってくれるから。頼むよ。」
「へぇいっ毎度です‼︎」
麺を啜りながら野崎に要件を問いただす。中太ちぢれ麺はいい。これぞ中華そば。
「で、二日酔いの俺に聞かせる急ぎの話って何よ。ヘグる様な案件なかったと思うんだけど?」
「清元が…」
「またそこら辺の不良連れてきたってか?それくらい何とかしろって氏家に言っとけ。」
「槙原とってもうたがです。」
次の瞬間、俺の顔面は中華そばの芳醇かつアッサリとしたスープに塗れた。