倉元回をベースにもう一つ分けたら?と友人に言われたのでもう一つ小話集的なの作ります。
「いってぇどう言う了見だコルァッ‼︎」
広能組の事務所に走り込んで、とりあえず怒鳴っていた。こうならない為に俺は市岡を嗾けて、勝利や早川と盃させたのに。余計な事しやがって。
「アニキ、申し訳ありません…自分の監督が足りんかったんです。」
「当たりめぇだダボハゼがっ‼︎…まぁいいや。さて、事後策といこう。まず、走った清元と現場にいた佐伯はどっかに体隠して貰いたい。そうだな。倉元、どっかに隠しとけ。」
「はぁ…じゃあ最近、支店出しt」
「行き先は倉元だけ知ってたらいい。あとは黙っておけ。」
武田は逮捕されたが早々に帰ってきている。多少は抑えててくれるだろうか?どうにもこうにもまとまらない状況だが。とりあえず行動しよう。
「氏家、来週だが、岩見連れてオヤジの迎えに行け。俺はその前に武田に会っておく。組は少し大人しくさせておくから。」
武田に面会の約束を取り付けて、武田組に向かう用意をする。もう騒ぎは大きくしたくない。
「その前に海田さんが会わせろと言うてましたがの…」
「あー…なんだな。うん。えーと…小沢夏樹は音信不通ですと言っておけ。あとは氏家に任せる。」
「いやもう玄関に…」
「いないと言え。」
「怒鳴り声は外まで…」
「倉元、悪いが、空き巣よろしく風呂場の窓から出ていけ。警察に見つかるなよ。犯人隠匿だ。普通に犯罪です。ありがとうございました。」
「海田さんは…」
「小沢は怒り狂っているので五分お待ちくださいと言え。応接間にいる。」
応接間でいろいろと考える。もうどうしてくれよう。困ったなぁ…久しぶりに本当に困ったなぁ…。
「小沢、君の指示ではないのは察しがついてる。若い奴らが走ったんだろう?」
「もうこう言うの、しんどいかもしれない。」
「君も歳を重ねたわけだ。」
「で、どうした。」
「君のオヤジの出所について先に聞いておきたい。」
「氏家と岩見が行く。」
「君は行かないのか?」
「心配事が尽きなくてね。」
「本題の槙原の件だが。」
「まぁそうだよな。今今で出頭させる気はない。これから戦争になるであろう状況で、若いのを出してられるほど余裕はない。」
「それも何となく知っていたが…なんだ。正面から言い切られると、どう返していいかわからんな。」
「もう取り繕わなくてもいいだろ。うちの連中だが、いい頃合いを見て出頭…で手打ってくれ。」
「はぁ…本当に出頭させるんだな?」
「ああ。必ず出頭させる。名指しで。」
「こう言うのを飲み込めるようになってきて…僕も染まって来ている様に思えるよ。」
そうだよな。海田がそう言うのを受け入れてくれるのは、俺と付き合って染まって来たからだろうと言うのは分かっている。つまり清濁併せる器量がついて来た訳だな。
「なぁ海田君よ。選挙出ない?」
「何だ突然。僕は警察しか知らないんだぞ。」
「いや。暴力団取り締まる法律か条例作れよ。」
「なんでそれを君が提案するんだ。」
「必要な物だからだ。暴力団排除法でも対策法でもいいけど。絶対必要になる。それに海田君はツラがいい。経歴もいいし、地盤と鞄は用意してやる。看板は…元警察キャリアでいいだろ。」
ポカーンとして帰った海田を見送り、時間を見ると武田との約束の時間が迫っていた。忙しすぎる。
武田組の前まで来て手ぶらであることに気づいた。もうもみじ饅頭を忘れるほどの余裕の無さ。我ながらもう随分追い詰められている気がする。
「こんな、少し疲れてる様に見えるがの。端から見てもそう見えるわい。」
「もうね、ちょっと揉める程度でいいんだけど、どうしてみんなすぐ殺したの殺されたのって。」
「何をボケたこと言うとるんなら。こんな今日はどうしたんなら。」
「察してるだろうが、槙原は広能組の若いのがとった。だが、どうにか戦争は回避したい。」
「昌三の広島入りは認められん。そこは変わらん。」
「じゃあ武田さんよ。オヤジと一緒に…いや先に引退してくれよ。江田は相談役あたりにでもしてさ。」
「昌三の説得はしてくれるんかのう。」
「しない。でも、多分、武田さん引退したら続くよ?」
「根拠でもあるんか?」
「もちろんない。俺の勘。」
「ワシの極道人生をこんなの勘に乗せろ言うんか。」
「いざとなったら説得するよ。」
「まぁええわい。最後の博打じゃ。乗ったるわい。」
「あと俺もシレッと引退する。」
「出来るんかのう…怪しい話じゃ。」
戦争を止める手立てにはならなかったが、武田の引退はいい傾向だ。多分オヤジも引退する。オヤジが戻ってくるまでのもう少し、何か必要なはずだ。誰に会うべきか。ここで誰に会うのが得策か悩ましい。
とりあえず勝利か。早川は勝利の影響を受けるから勝利に会えば何とかなりそうだ。事務所に戻って連絡してみたが繋がらず、間野に言伝を頼むに終わってしまった。ここに来て手詰まり。いろいろ残念な状況に陥っている。
もう、打つ手が無くなったので、帰って不貞寝を決めることにした。
突然響いた戸を叩く音で起こされた。何時だ。外は暗い。
「はいはい。どちらさ…市岡さん。」
「おう。こんな、ちっと飲みに出んか?」
「どうしてまた。」
「武田に会うたらしいの。その話じゃ。」
「支度します。ちょっと待ってください。」
武田に会った事がバレてるのはいい。その話ってなんだ?武田が内容漏らした?
ありえない。自分の進退は大きい手札だ。口外するはずがない。どうにも思考がまとまらない。
車に乗り込むと勢いよく走り出す。鞭打ちになるわ。
「待たせました。」
「おう。馴染みにしてる女の店があるけん。今日はそっちでええじゃろうの。」
「豚汁とか出てくる夜の店ありません?赤いタコさんウインナー出てくる様な。」
「何言うてるんなら。腹減っとるならこんなの店から出前取ればええじゃろうが。」
「やっぱないか…。」
「でぇ?武田とはなんぞ話したんなら。」
詳細は知らなかったか。少し安心する。知らなかったなら上手い事はぐらかしておこう。
「オヤジの出所についてですね。引退しないと広島には入れないって釘刺されて来たんです。」
「こんな兄貴に引退させるんか?」
「もうね、長くヤクザはしないと思うんですよ。なので、オヤジの安寧な老後を手に入れたい。」
「おう着いたわい。ここじゃ。続きは酒でもやりながらの。」
車を降りると街は騒がしい。今日も市岡組は夜勤に励んでいる様だ。
「今日も若いの出してるんですね。」
「五十人ばっかし出てるかの。」
「連日よく金が続きますね。」
「こんな程は金持っとらんわい。」
「あれはね、倉元が頑張りすぎてて。そこまで俺は…」
パァンパンッパンパン
「はぁ?え、市岡ぁぁぁぁっ」
後ろからの銃撃に気付けなかった。槙原の殺害、オヤジの出所、武田の引退、確かにそう言う時期だったはずだ。オヤジの今後と、みんなを生かす事を念頭に置きすぎて完全に失念していた。
「テンメェこの下郎がぁぁぁぁっ」
どこの奴か分からないけど咄嗟に掴み掛かろうとしてしまった。
パァンパン
頬と首を掠った。首は多少大きく抉られて少し跳ね飛ばされた。熱い、痛い、結構血が出てる。
「あっつ…いてぇ…っ」
かなり首が痛い。視界の隅で拳銃を持った男が走り去るのを見ながら意識が遠のいた。
見知らぬ天井ってか。
繊細な少年ゴッコに興じている場合ではない。
「アニキ?アニキ‼︎」
「野崎、ここ病院だな。静かにしてくれ。」
「アニキ、だって二日意識無かったんですけ。」
「二日?二日寝てたの?」
「はぁ…撃たれて二日経っちゅうがです。」
「車回せ。勝利のところに向かえ‼︎」
着流しのまま、急ぎ勝利のところに行くともう臨戦体制だった。焦った間野に出迎えられたが、構う暇はない。
「小沢のオジキ、なんとかオヤジさん止めてください。もう止められんです‼︎」
「勝利‼︎おい勝利‼︎」
「おう、小沢。生きちょったか。市岡は死によったわ。」
「落ち着け。考え直せ。今出たところで何も変わらねぇ。それくらい解るだろう?」
「兄弟をマトにされ、一人は忌んで、もう一人は生きるか死ぬか…それでも動くな言うんかおどりゃぁっ‼︎」
「動くな。」
「昨日、早川は組解散したけんの。もう松村の天下じゃ。」
「まだ副会長だろ?短気起こすな…え?待て。早川組解散した?」
「そうじゃ。松村の風下に立てん言うてな。」
「三日くれ。三日だけ待ってくれ。状況をひっくり返してみせる。」
「三日で何が出来るんじゃ。」
「俺ならどうにか出来る。悪いようにはしない。」
「三日後の夜九時じゃ。そこまで待って状況が変わらんのならワシにも考えがあるけんの。」
「ありがとう、勝利。助かるよ。」
大友組を飛び出ると、野崎に叫ぶ。
「広能組だ。今日、オヤジが帰ってるはずだ‼︎」
広能組に飛び込むと会いたくて仕方なかった人と出会う。こんな再会は望んでいなかった。そして、松村もいた。
「オヤジ、出迎えもせず申し訳ありません。」
「おう。こんな随分、ええ格好じゃのう。」
「申し訳ありません。立て込んでまして。」
「輝とおって弾かれたそうじゃのう。」
「一緒にいて、申し訳ありません。」
「のう松村。ワレはワシに引退せぇ言うがの。この状況でワシが引退できるんか?お?」
「ですから、引退していただいて、氏家さんには理事長に座ってもらおう思うとりますけん。」
「大友とは事を構えて、輝はとって、小沢も三途の淵まで行った言うじゃないの。この落とし前どうつけんなら‼︎」
ややの沈黙が場を支配した。血が足りないのか意識が朦朧とする。フワッとした思考の中、松村が口を開く。
「オヤジさんたちだって槙原さんやっとるじゃないですか‼︎腹に収まらんのならここでワシやってもらってええですけん。」
そう言って松村は拳銃をテーブルに乗せた。脇から拳銃を掻っ攫う。
「松村、お前の命と引き換えにもう一遍オヤジに務めに行かす訳にはいかん。オヤジが良くても俺は許さない。」
松村に拳銃を向けたはいいが、視界が霞んできた。首に心臓がある様な気がして来た。血が滲んでるのが分かる。
「アニキ、首から血出てますけ…」
「倉元、黙ってくれ。ここでオヤジに撃たせたら俺たち広能組の、俺の極道としての一分が立たねぇんだよっ‼︎」
「小沢、やめぇや。ここでこんなが松村弾いてもなんも変りゃせんのじゃ。退けなや。」
「オヤジ…」
「のう松村、おどれが広島まとめて、大友にスジ通せば氏家も、松永組も天政会に行ってええと思うちょる。まず身内固めんかい。小沢、道具下ろさんか。」
テーブルに叩きつける様に拳銃を下す。もう足まで血が滴っている。叩きつけた様に見えただろうか。血が足りずよろけたと取られてなければいいが。
「一週間後の襲名披露に合わせて、明後日から関西回って来ますけん。もう一遍来させて貰いますけ、考えてつかあさい。」
松村の背中が玄関から消えるのを見届けると、体から力が抜けた。
「アニキ‼︎」
「アニキしっかりしてつかあさい‼︎」
転がった体を引き摺ってオヤジに向き直る。話す事、報告事項がまだまだある。
「オヤジ、申し訳ありません。体が起きないので…」
「誰ぞ、病院連れて行ったれ。」
「務め行って市岡さんに会いました。水上が引退したいそうです。自分の会社で預かってます。話聞いてやってください。お願いします。」
「もうええ。もう一遍病院行ってこんか。」