大量の輸血を受け、安静にしろと言う条件のもとで俺は翌日の夕方に退院した。
「アニキ、本当にええんですか?」
「いや醜態を晒した。野崎には迷惑かけたな。倉元にも謝らないとな。」
「アニキの言葉、痺れたですけん。」
「やめとけ。碌な生き方じゃない。」
「ヤクザ、嫌いなんですかの。」
「当たり前だ。嫌いだ。大っ嫌いだ。」
退院して初日、早川と連絡がつかない。もう分かってる。最後だ、知ってる知識を全て使ってやる。転生者の力だ。
持っている拳銃の残弾を確認する。コルトガバメントが一番多い。これにしよう。
腰に刺して事務所に寄る。
「菅原、誰か車運転して欲しいんだが…」
「あぁ…関村、車出せや。オヤジ、もう大丈夫で?」
「することが多すぎる。寝る暇もないとはこのことだな。」
「オヤジ、少し休んで貰えんですかのう。」
「来週にでも香川に風呂入りに行くよ。」
「ほうですか…あ、関村が表に車回しましたけ。」
「すまんね。ありがとう。」
「あの…オジキ、道具持っとりゃせんですか?」
「なんだよ。突然。」
「野崎に事の仔細、聞きましたけん。もしかしてと思うたんですけ。」
「大丈夫だ。帰ってくるよ。」
俺は会いたくない…心底会いたくない人物に会いに来た。
屋敷に入って若い奴らを押し除けて、家主のところまで迫る。
「おう。コラどけやぁっ‼︎」
「おっおっ…おざあっ…」
小太りの老人の襟首を掴んでコルトの銃口を顎の付け根に押し付ける。
「おう山守さんよ。アンタ最近、早川に会っただろう?」
「なっ…早川なぞ会っちゃおらんわい。」
「アンタよ、矢野の残党もケツかいただろう?またうろちょろしてんじゃねぇのか?」
「知らん。わしゃなんも知らんど!!」
「何か花火上がってみろ?お前もブチ上げてやるからな。忘れるな。弾はなんぼでもあるんだぞ?」
山守を睨みつけたまま天井に一発撃ち込む。絶対、早川かその手下のケツかいてる。山守は捨て置いて、帰ろう。もう松村は大阪だ。このオヤジ、最後に掃除するべきだな。
「かっ…カタギにこがなことして…タダで済むと思っちょるんか‼︎」
引き返してもう一度襟首を掴み上げてやる。
「ビービーうるせぇ奴だな。引退したらカタギ面か?カタギがヤクザに勝てるのか?暴対法とかねぇんだわ‼︎」
「こっ…こんな覚えちょれっ…」
「明日には忘れたらぁっ‼︎」
山守を床に叩きつけるとカエルが潰れた様な声を出して、転がる。本当に潰れればいいのに。俺は山守を転がした足で武田組に駆け込んだ。
「武田さんよ、松村に連絡つくか?」
「どうしたんなら。今、保は関西の親分衆に挨拶回りしとるけん。三日後には帰るはずじゃの。」
「連絡つかねぇのか…」
「話が読めん。なんじゃ。」
「多分、今日明日にでもマトにかけられるよ。」
「保がか!?」
「余計な絵描いてる奴がいる。」
「誰がそがなこと…」
「一人しか居ねぇだろ。」
「山守のオヤジさんか…よくよく引っ掻き回してくれるのう。届くかはわからんが方々、電報出してみるわい。」
「頼みます。」
次に会ったのは機動隊にが近所に待機している…大友組に足を運んだ。今、踏み込まれたら相当逮捕者が出て、大量の押収物が出るだろうに。
「小沢、もう時間はないんど。どうにかなったんか。」
「松村は折れた。今後も大友組は天政会だ。」
「でぇ?こんならはどうすんなら。」
「山守が余計な絵描いてな。その始末だ。」
「なにしたんなら。」
「早川の子分に嗾けたみたいでな。松村をマトにしようって腹らしい。早川組の連中が何人か見つからない。」
「そがなこと考えるんは山守じゃな。相変わらずのタヌキじゃのう。」
「とにかく、勝利の立場もメンツも守られる。だから逸るなよ?」
「こんなに借りが出来たのう。」
「その内、何かで返してくれ。期待してる。それと違法な物は隠せ。最悪、ガサが入る。」
これでもう一つの火種は消えた。もうこれでここで打てる手は全て…と言ったところだ。
「こんなは全部終わったらどうするんなら。」
「どうした突然。」
「そうだな…屋台のオッチャンにでもなるかな。」
「ワシは屋台のオッチャンと兄弟かいな。」
「そーゆー事だ。」
勝利のところに寄った足で、松永組事務所に戻った。これから起きることへの予防策だ。
「菅原、うちに違法な物、どれくらいある?」
「なんですけ突然。」
「近々、ガサを喰らうかもしれない。」
「ほうですか…チャカはここにはありゃせんです。刀槍の類はどうしますかの?」
「飾りにならん分は隠せ。」
「ちなみに事情を聞いてもええですか?」
「今日明日にでも松村が弾かれる。そうすれば怪しいと思われる先はガサに遭う。おう関村もういっぺん頼むわ。。」
「オヤジ、なんですやろ?」
「呉の広能組に行く。車、頼むよ。菅原、掃除頼むぞ。」
「承知です。」
なんだか体が重い。首の傷が熱を持っている。これが原因だろう。
広能組の事務所に着くともう夕方だった。色々と心配されたが、まぁ仕方ない。事務所でひっくり返った訳だからな。
「アニキ、出歩いて大丈夫なんで?」
「なあ倉元、俺がこういう時、寝てると思うか?」
「思わんですの。どういたんでしょうか?」
「ああオヤジはいるか?」
「今、出所の挨拶回り出てますけ。夜には帰る思います。」
「じゃあ氏家は?」
「奥の部屋に居ってです。」
「わかった。」
そういえばコルトを腰に差したままだった。これではどの口で物を言っているのか。
「氏家、少しいいか?」
「アニキ、どうされたんで?」
「近く、ガサがあるかもしれない。」
「海田さんですかの?」
「そういう事を教えてくる奴じゃないさ。松村に鉄砲玉飛ばした奴がいてね。」
「ほうなると怪しまれるのはうちと大友組あたり…っちゅう事ですの。事務所に道具は置いとらんですけ。」
「さすがだな。いい判断だ。」
「倉元の提案ですけん。清元が走った時に言われよったんです。ガサで出て困るもん隠しましょう言うて。」
アイツも考えることが近くなってきた。いい傾向だ。
「ならいい。もし、天政会が何して来ても仕返すなよ?絶対にだ。これはオヤジにも頼んでくれ。必ず。」
「わかりましたけ、戻られたら伝えますけん。」
コレで全部揃った。あとは武田の電報が松村に届くかどうか博打だ。こんな博打、面白くも何ともない。鏡をみると首の出血は無い。
もう本当にコレで打てる手は全部か?何か見落としがあるんじゃないか?
不安で仕方がない。案外、俺の神経も細い。
松永組に戻った時はもう夜だった。関村、よく一日付き合ってくれた。ありがたい。
「野崎。野崎まだ居るか?」
「アニキどうしたんで?」
「お前、投資とか興味あるか?」
「突然なんですかの…倉元の兄さんがやってましたけん、自分も勉強しゆうがです。」
「おし。じゃあ会社たてろ。そうだなぁ…とりあえず今のところは“野崎経済研究所”とでもしておけ。それとこの前、破産して抑えた運送会社あっただろ?」
「はぁ…タンク車とトラック何台か抑えてますけん。」
「人間がいる限り、経済は存在する。そして、これからは油の時代だ。いいか。投資も経済には必ず存在する。合法的賭博だ。野球賭博の胴元だったんだ。もっとデカい博打で胴元やってみろ。」
「なにから始めたらええでしょうかの…取っ掛かりが見えませんけん。」
「アテはある。倉元が出入りしてる先に近畿商事って大阪の会社がある。倉元に連れて行って貰え。あと東京に国岡商店とか言う油屋がある。そこから近畿、山陽方面のガソリンスタンドに卸すって事で買い付けて来い。売り先はいつもクリーニング屋で使ってるガソリンスタンドを中心に聞いて回って来い。」
少し早口過ぎたか、野崎のメモが追い付いていない。だが、時間がない。許して欲しい所だ。
「いつもうちが使っちゅう油屋に聞いてみますけ。タンク車なんですけどのう、油運べるか確認しよります。ドラム缶で買えられるんやったらトラックはありますけん、すぐに出来る思うんですが、国岡言う所はドラム缶でも売ってくれますやろか?」
「分からん。まず聞いてみろ。」
「タンク車って管轄どこですかのう… 諸々の申請もせんとあかんですの。」
「通産省だ。何故か通産省だ。」
「アニキはよう知ってますのう…」
「何でもいいから。とりあえず聞いて回って情報拾い集める事から始めればいいんだ。それといくつか株も買っとけ。倉元に聞いて重工系の株狙うんだ。旭日重工あたりだな。そこは多少の後ろめたい事に目を瞑る体質がある。」
「わかりましたけ…会社設立と、油を国岡、株は旭日重工ですの。」
「会社設立にあたっての最初の金は心配しなくていい。人はクリーニング屋から使えそうなのを抜いて揃えろ。そこそこ頭数はいるから何人か当たりはいるだろう?」
「心当たりありますけ、話してみます。クリーニング屋どういたらええですか?」
「子会社にしていいんじゃない?」
「わかりましたけ、そういますけん。」
これで野崎も先々気にしなくていいだろう。大体の心配事は形にしたから解決できるはずだ。
こうして俺の胃の軋むような三日間の初日は終わった