誤字修正、話数間違い訂正ありがとうございます。
翌日、昼過ぎ。随分と寝てたな。鎮痛剤があるとよく寝れるが、寝過ぎるのが困る。まぁ寝れる内に寝とくのも重要だろう。ここ何日かが勝負だ。ここで上手く立ち回れば、世代交代がなされる。そうすれば引退…と言うか平和になるはず。
松村を頂点に広島が一つになって県内の抗争は落ち着く。
「オヤジ、武田から連絡がありました。松村が弾かれました。」
「やっぱりな。どこでだ。」
「広島にとんぼで戻ったみたいですけ。夜中に広島に入ったところで襲撃された言う話ですけん。」
「予定通りには行かず…帰ってきたのか。電報は届いたな。で、状況は。」
「江田と護衛は死亡、運転手が軽傷で、松村は重傷意識不明ですけ、附属病院に運ばれとります。…それとその連絡と一緒に継承式の中止も通達されとりますけん。」
「そうか。じゃあここからの予定だ。四日後の継承式の為に駅前のオーシャン観光のホテルの大宴会場、あそこを抑えろ。支配人にも事の次第は説明するんだ。多分、一度断ってくるはずだ。」
「断られたらどがいするんです?」
「仕方ない。あまり使いたくないんだが‘松永組だ’と言えばいい。」
「オヤジはどこに行かれるんで?」
「武田組に行く…あぁ。今日明日にガサが来る。広能組と勝利にも連絡せぇな。」
「承知です。連絡回しますけ。」
天政会本部を素通りして、武田組に行こうと思ったがここに寄る。武田の車があったからだ。厳戒態勢だったが丸腰だったので入れた。それもそうか。理事長が弾かれて、先代の…まだ当代か…の組に機動隊が張り付かないはずがない。もちろんうちにもにも張り付いていた。天政会は電話が鳴りっぱなしだった。
「おう。こんなの言う通りになったのう。電報は届いたが間に合わなんだ。」
「お忙しいようで。よろしいでしょうか?」
「なんじゃ。今はこんなに構ってる余裕はないんは分かるじゃろ?」
「知ってる。だから来たんだ。」
「どういうことなら。」
「本当に継承式はやらんのか?松村に聞いておかなくていいのか?」
「保は意識がないんじゃ。出来るわけがありゃせんじゃろう‼︎」
「病院に若いもん張り付かせろ。遠からず意識が戻るはずだ。」
「そがな事、なんでわかるんじゃ‼︎」
「大阪にいい医者がいてな。ちょっと詳しいんだ。継承式の日、俺は駅前のオーシャン観光のホテルの大宴会場を抑えてる。」
「なんでじゃ。なんでそこまで知っとるんじゃ。」
「先読みしてるに過ぎん。状況判断と性格、あとは確率。」
武田は手近な椅子に体を放り投げた。
「参ったわい。」
「俺は事務所に戻る。連絡くれ。」
事務所に戻るとパトカーが数台とトラックが2台、組事務所前に停車していた。先頭の車のボンネットに海田が腰掛けていた。まさか待っていた?
「これが執行令状。こっちが捜索差押許可状だ。」
「もしかして待っていたのか?」
「これは形だけのガサだ。何も出ないと思っている。だが、こちらのメンツもある。」
「いいよ。家探ししていけ。出来れば…片付けやすくお願いしたい。」
「善処しよう。」
「ありがとう。」
こうして俺が当代になって、初めてガサ入れという経験をした。
噂に聞いた程度だがひっくり返して帰るらしい。あまり事務所を散らかすと、野崎が不機嫌になる。この前はオレンジを食べっ放しにして小言をいただいた。
「海田君、オレンジ食べるか?」
「食堂で食べてるよ。」
「毎度あり。」
「そろそろ引退か?」
「オヤジが現役だ。先に引退しては色々とアレだ。」
「そうか。」
ガサが終わって撤収してゆく警察御一行様を見ている内、日が暮れていた。ガサ受けるというのも心中穏やかではない。
「あとどこのガサしてんのよ。」
「広能と大友、あとは大友の枝にかけてる。どうかしたか?」
「そっか…じゃあ本家の片付け手伝ってくるか…」
「ある程度、気は遣ってやった。」
「すまんな。」
広能組の事務所に顔を出すとガサの終わった後だった。まぁいつもの事だと言わんばかりの空気だが、みんな掃除に精を出している。
「アニキ、本当にガサ来ましての。」
「倉元が掃除しようって言ったらしいな。よくやった。」
「ありがとうございます。オヤジとカシラは奥に居ってです。」
「おう。」
奥の部屋に入るとオヤジと氏家がいた。
「アニキお疲れ様です。」
「おう小沢、こんなのとこもガサ喰ったそうじゃないの。」
「いや。慣れないです。ガサってのは。」
「ワシらにとってガサはいい気せんからのう。倉元が掃除させとったそうじゃ。こんなもようよう育てたわい。」
「恐縮です。ありがとうございます。」
「松村が弾かれて天政会も上へ下への騒ぎじゃろうの。」
「うちと勝利のところもガサ入ってます。まぁ疑わしいでしょうからね。」
「のう小沢、ちくと話さんかの。氏家外しや。」
「はい…」
氏家が出ていくと、ちょっと沈黙が場を支配する。
「こんなヤクザが嫌いらしいの。」
「嫌いですよ。とったのとられたの。アホらしくないですか。広島の取り合いして。外を見る気もない。」
「こんならしいの。組の口座見て腰抜かしたわい。なんじゃあん出鱈目な金額は。」
「まだ稼げますし、もっと稼ぎますよ。中南米に伝手が出来た付き合いでタイの企業も紹介受けましてね、ブーゲンビリア貿易とか言ってましたかね。」
「もう十分やないかの。どこまで行くんなら。」
「オヤジの安寧な老後と、みんなの未来。全て揃えます。」
「こんなの底にあるんはなんじゃ?時々よう分からんわい。」
「余所者ですからね。博打打って失うものはないんですよ。」
「こんなは稼いで、戦争もして…何が欲しいいうんじゃ。」
「誰もが楯突こうと思わない圧倒的な力ですね。」
「もう揃っとるんじゃないんかの。」
「もう少し欲かきたいですね。」
「組はいつの間にか不動産に投資、酒の卸元、こんなは貿易まで始めよった。もうヤクザじゃありゃせんの。」
「最後は暴力です。でも、次の世代には頭で稼がせたいです。」
「ワシの時代は終わりかの。」
「引退するんですか?」
「こんなと裁判所の廊下で会った時に思うたんじゃ。」
「でしたらもう少し…」
「もう飽いたんじゃ。」
「そうですか…では、手早く仕舞いの準備をします。」
オヤジの引退はもう既定路線だろう。引退後の世話は氏家も倉元も考えるだろう。心配はない。
倉元やら野崎の稼ぎ口をもっと用意しておいてやろう。
「アニキ、ちくとええですかの。」
「おう、倉元。どうしたよ。」
「野崎が相談来ましての。このブーゲンビリア貿易、露助のヤクザですけん。」
「そぉうだよぉう。そこに日本の原付を売るんだ。売れるぞ。」
「最近、アニキは根拠の説明なしに事進めとりますが、いつも通り当たっとります。もう少し教えては貰えませんかのう?」
「今度、種明かししてやるよ。もう少し付き合ってくれ。」
「自分も人抱える様になってますけん。勝てん博打には巻き込まん信じちょります。」
「あたりめーだ。」
倉元が俺の行動を無条件で飲まなくなってきた。感動的だ。もう倉元は自分で当たり外れや、リスクの高低を自分で見分ける事が出来る。
「別件なんですがの、最近、シマでポン流れてますけん。どういましょうかのう。」
「えぇ…またぁ…?」
「またですけ。」
「あっカシラ…」
「おう氏家。今の、ほんと?」
「へぇ。そこらの悪ガキどもが売っとるんですわ。市岡さん居らん様になってから見境のうなっとるんですけ。」
「あぁ…なんか心当たりある様な気がするよ。」
「これに関しては片端からガキども捕まえて海田に連絡しろ。シマ内に布告も出すんだ。」
「はぁ…布告ですかの?」
「そうだな。‘薬物を扱う者、使用する者、容赦せず。 広能組’でいいんじゃないかな。」
二日目が終わった翌日、俺はもう一度天政会に顔を出した。相変わらずごった返している。今日は鳴り止まない昨日に打って変わって、電話をかけ続けている。
「呉でポンだのなんだのの薬売ってる奴がいるんだよねぇ…」
「今それどころじゃないんじゃ。」
「知ってるよ。継承式の出席、軒並み断られてるだろ?」
「ほうじゃ。こんなが場所くれても来る人間が居らんのじゃ。」
「そうだな…どうしようか。広能組、松永組は出席するし、勝利にも出席をお願いする。」
「こんな、天政会入りする言うんか。そういたら靡いとらん連中も出席する。広島は一つになる言うこっちゃのう。」
「細かい条件は後々詰めるとして、一つだけ飲んで欲しい事があってね。」
「なんじゃ。」
「ポンの出所、見つけたらこっちで処理したい。一切合切の口出しなしで。」
「無条件にとは言わんと思うとったがの、仕方ないわい。出所はどこか知らんがの。そこはそっちに任せるわい。」
「オヤジ、失礼します。お電話です。」
若い衆が入って来て武田が電話応対に出ていく。任せるって言質が取れただけでも…まぁいいんじゃなかろうか。
ポンはダメ…ゼッタイ。である。
「保が目ぇ覚ましよった‼︎病院行くわい‼︎」
成り行きに任せて、病院に一緒に来てみたが、まぁ凄い。よくもまぁこれで生きていたもんである。蜂の巣と言う表現を最初にした人間の語彙力については、何某かの文学賞を授けるべきではなかろうか?
武田が状況を説明しているが、埒が明かない。松村の意地も凄まじいモノがある。正味、もうこんな意地も気力もないかも知れない。
「松村さんよ、武田さんには言ったけど、場所は用意してんのよ。で、うちのオヤジにも勝利にも出席お願いするし、松永も出る。」
「小沢さん、出ていただける言うんですかっ。」
「細かい折り合いだの条件だの色々話し合う必要はあるんだけど、初手の条件を飲んで貰ったからね。」
「条件って…」
「大丈夫。損はさせないし、無理も言わない。ただただ黙っててくれればいいって条件だから。」
「保、さっき車中で聞いてきたんじゃがの、飲んでもええ条件じゃった。損することは何もない。」
「ほうですか…」
「それでのう、明日の式に呼べたんは県内の親分衆と明石組、その枝くらいじゃ。予定より随分、寂しいもんだがのう。」
「ええんです。それでええんです。広島がまとまっとる言うんが見せられたら、それでええんです。」
「じゃあ俺はまた明日、って事で。」
「すんません。お願いします。」
「おう、小沢また明日の。」
オヤジは認めてくれた。もうわかりきっていたが、勝利がすんなり出席を認めた。こうもアッサリ飲むとは思っていなかった。
「でぇ?まだこんなは続けるんか?極道。」
「細かいことは後…って言った。二代目松永組はヤクザでいいんだが、三代目はカタギであって欲しいと思うんだがな。」
「天政会入りしてそれが叶うかのう…」
「もう一代ヤクザやる?」
「こんなの言い方聞いとると、軽く聞こえるの。」
「ぶっちゃけ当代限りのヤクザですとは言ってみたけど、跡継ぐ奴次第だな。」
「今の松永も広能もこんなが稼いどるんじゃありゃせんのか。」
「広能組は氏家がまとめて倉元、西条を中心に稼いでる。松永は野崎と木村が稼いでるのを菅原がまとめてる。別に俺、要らないよ?」
腑に落ちない顔されてもどうしようもない。俺じゃないんですよ。稼いでるの。
「こんなは一番極道らしい思うんだがの。ほうじゃのにそこに一片のこだわりも見せん。なんなんじゃ。」
「もういいんだよ。これで丸く収まるから。共存共栄。ヤクザもあるべき姿を変えていくんだ。」
「どうする言うんじゃ。」
「カタギに愛されるヤクザよ。」
こうして天政会の三代目襲名披露を迎えた。走り回った俺の三日間は終わりが見えた。