起きたら仁義なき転生、それから。   作:函南

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タイ篇、やってみます。


背徳のロアナプラ
背徳の港街


あれやこれや、日本を離れ数ヶ月。某国大使の便宜により中南米を経由し、タイのとある港町に流れ着いた。

流れ着いたとは言うものの、ここは旧日本軍の揚陸港として使われていた入り江に毛が生えた程度の港町なので正味、そこまでの規模ではない。が、どうやらベトナム戦争の影響か、港という港はひっきりなしに物が流れ、人も流れるので外国人の一人や二人…百人や二百人目立ちはしない。

新聞や雑誌で見た人種の坩堝、ニューヨーク…ほどではないがあらゆる人種がいるので、日本人は目立たない。と言うか日系二世なんかもいる上、江戸後期に移民して来た子孫もいる様だ。物価の差があるために、働かなくても食っていける程の金を持ってはいるのだが…むしろこの国においては、ちょっとした富豪くらいの資産を持っている。なのだが、働いていない事に罪悪感を覚えるのは民族性の問題だろうか?

ここいらで一番大きい市場…通称“盗品市場”とか“泥棒市場”を眺めるのを日課にしていた。数日眺めていて気付いた事がある。ある男が毎週来ているのだが、多分彼は資産価値のありそうな物品を求めている。しかし、残念ながら、彼の購入しているものは遠くない未来、ガラクタに成り果てるだろう。

 

「なぁあんた、それ、多分ガラクタだぜ?」

 

「なんだオッサン、喧嘩売ってるのか?」

 

「いや、毎週来ているみたいだからさ。そんなの買うよりそっちの仏像買っとけよ。」

 

「こんな汚ねぇモン誰が買うんだよ。」

 

「仕方ねぇなぁ…俺買ってやるから、週末にでも首都の骨董屋にでも持って行けって。」

 

 

こうして無駄な買い物に毎週勤しんでいた青年に、有益な助言をしてコーヒーを飲む。うん。薄い。

そんな様子で日々を過ごしていたら翌週、また件の青年がやって来た。

 

「なんだよ。次はなんだって。」

 

「いや。あの仏像はいい値段がついた。あんたのおかげだよ。」

 

「よかった。人と物を見る目はあるつもりなんだ。」

 

「なんかまた教えてくれよ。」

 

「じゃあ…あそこの露店商だな。あれは米軍の物資だ。横流し品だろう。米軍の物は丈夫だから売れるぞ?」

 

「詳しいな。あんた、日本人だろう?」

 

「おう。よくわかったな。」

 

「その刺青だよ。昔、見た事があるよ。」

 

こうして彼とまた会話した。最近は全然会話らしい会話をしていなかった。

 

「これは紋紋ってんだよ。」

 

「毎日ここに座っているみたいだけど仕事してないのか?」

 

「ああ。無職だ。」

 

「俺、ルワンってんだ。ここいらの港の労働者を仕切ってるんだ。よかったら一緒に働かないか?」

 

「そうかい?だがオッサンだぞ?」

 

「あんたカタギじゃなさそうだからな。これも縁じゃないかと思ってね。」

 

「酷いな。これでも日本ではスーツ着て仕事してたんだぞ?」

 

するとルワンを名乗る青年は悩み顔になってしまった。何かまずい事でも言っただろうか?

スーツを着て仕事していたのは嘘ではない。実際にスーツは着ていた。カタギであるかはまた別の問題ではあるが。

 

「じゃあ尚更、どうだ?俺たちは学がなくてね。」

 

「そうか…じゃあお世話になるよ‼︎」

 

「ところでアンタ…名前は?」

 

「そうだな…トーゴーとでも呼んでくれ。」

 

「じゃあトーゴーよろしくな‼︎」

 

 

こうして俺は港湾の労働者の中に職を得た。労働者を仕切ってると言っても、もはやここらへんの荷揚げ方からちょっとした運送までを管轄する会社…に近かった。これは旧軍がここに揚陸地点をタイ王国軍から借りた時に、人夫を日雇で探しては効率が悪いので組織化した事に由来していた。のだが戦後30年近くの時は指導する人間がいなくなって組織を大いに劣化させた。初出勤から俺は頭を抱える事になる。

 

「なんだこれは…会社にほとんど金ないじゃん‼︎福利厚生は?ってか…どうするんだよこれ…荷主によって金額は変わるが単価もバラバラで…未払い踏み倒しもあるじゃないか‼︎」

 

「前までは先代がやってたんだが…荷の倒壊で亡くなってからよく分からないんだ。」

 

「わかった…俺が金を貸そう。その内、何かで返してくれ。まず…社員名簿の作成、単価の策定、福利厚生の充実、この三点からだな。」

 

「ああ…名簿は作っておく。あとは…俺にはよく分からないんだ。」

 

「まず給料は今のままでいい。その代わりに額面は二割増しにする。その二割は会社がプールして怪我や病気で働けない奴の病院代や当座の生活費にするんだ。あと少しだけ給料から天引きして、安全靴とヘルメットを支給しよう。来週からサンダルでの労働は禁止する。」

 

「その二割はどうやって工面するんだ?」

 

「荷上げ手間賃を5%上げる。昨今重油が高いからな。ガントリーを動かすのだってクレーンだってタダでは動かないんだ。妥当だろう。重油価格高騰により…ってお触れを出そう。それと配送した時に困り事はないか聞いて回るんだ。なんでもいい、細かい事でも。これは御用聞って商売だ。」

 

「なるほど…仕事を増やすわけだな?」

 

「ところで…この街にマフィアやギャングはいるのか?」

 

「いや聞かない…というかいないんじゃないか?一番の荒くれはここで働く奴らだ。」

 

「よろしい。今日からマフィアも業務の内だ。まずは泥棒市場を仕切っている人物に会おう。」

 

「ピンさんか。商業組合の組合長だ。いつも市場にいるはずだ。」

 

「よし。早速交渉と行こうじゃないか。」

 

ルワンにアポを取ってもらい、週明けに会える手筈を整えて貰った。業務改善は順調で、安全靴とヘルメットは早いうちに揃った。福利厚生は…あまり理解していただけてないが、手取りが変わらないので文句なし、荷揚げ料金は結局、一割増しにしてみたが、みなさん、受け入れてくれた。と言うか、ウチに依頼しないとここでの荷上げは無理だ。日本軍の整備した流通ルートのおかげで山越するルートの中間、早い話が流通地点のハブになっていたのがこの街だった。

さて、会社の方でも上手くいくキッカケも出来たところで、面会に向かう。事務所に入ると、闇市を仕切っているんだから随分と怖い人が…と思ったら優しそうなお爺ちゃんが出て来て、ちょっと拍子抜けした。

 

「ピンさんお初にお目にかかります。ルワンのところで働いているトーゴーと申します。お見知り置きください。」

 

「トーゴー…日本人かね。」

 

「ご明察。日本からきました。」

 

「ピンさん、トーゴーはうちで色々と頭を使って貰ってるんだ。そこで相談に来たんだ。」

 

「相談…と?」

 

「ええ。この街にはマフィアがいない。ですが、ゆくゆく海外からマフィアが流入するでしょう。遠からず。なので先に作ろうと思います。ソ連のブーゲンビリア貿易は表向き貿易会社ですが、あれは本国ではマフィアだ。それに、ここら辺は麻薬の生産地が近く、軍隊が生産している。ここの治安が崩壊するのは目に見えている。」

 

「あなた方がマフィアになって我々を虐げる…と?」

 

「この街に秩序を構築します。もちろんと言うか当たり前にみかじめ料や守り代を頂戴する。」

 

「ちょっと待てトーゴー‼︎」

 

「まぁ聞けってルワン。しかしながら、一方的では意味がない。なので、みかじめ料を払う人たちには特典をつける。」

 

「特典ですか。それは気になるところです。」

 

「荷揚げする荷、運送する荷、手間賃を少し値引きする。」

 

「ほう…?」

 

ピンさんとやら。多分、やり手だ。ここの闇市を仕切る人間は、どこか戦後の闇市を仕切っていたヤクザ感がある。果たしてそれは正しかった。

 

「では、商業組合はあなた方に味方しよう。」

 

「ご理解いただけて幸いです。」

 

「ただ幾らかのお願いがあります。」

 

「なんでしょう?」

 

「我々商業組合に何かの特権が欲しいですね。」

 

なるほど。さすが商人交渉がお上手と見える。酒、武器、麻薬は特権として割譲は出来ない。秩序の崩壊を加速するだけだ。

 

「油、でどうですか?」

 

「油ですか?」

 

「油です。ここは港街です。油は生命線と言える。この売買をピンさんたちの専売にします。」

 

「随分気前がいいと思いまして。」

 

「みかじめ料をもらえるなら、ピンさんたちには儲けていただきませんと。」

 

「どうやら本当に一方的な付き合いするつもりはないのですね。では、ラチャダストリートから港までにの商店、風俗屋、クラブには上納金を払わせるよ。もしもの時は助けてくれるんだろうね?」

 

「カタギさんに嫌われたらメシの食い上げでね。もちろんお助けしよう。」

 

こうしてこの街の商業組合を味方につけられた。これが小さな一歩目といったところだろうか?

 

「ところであなた方の名前は?」

 

「ルワン、名前は?」

 

「え、港湾組合としか名乗ってないが。」

 

「じゃあ港湾組合でいい。」

 

 

ピンさんの事務所を後にした帰り道、ルワンが唐突に提案して来た。

 

「トーゴー、少し提案なんだが。」

 

「なんだ?」

 

「マフィアとかじゃないんだが、海賊がいるんだ。」

 

「海賊ね。それは問題だな。」

 

「ああ。荷主や取引先も困ってる。」

 

「海賊かぁ…少し話してみたいが…話は通じるタイプ?」

 

「どうだろうか。かなり組織立っていて、頭目は土地の人間じゃない。」

 

「俺と同じ外国人か…何人だ?」

 

「ドイツ人らしい。」

 

「行ってみよう。アポ取れるか?」

 

「わかった。」

 

海賊…いるんだなぁとよく分からない実感と丸腰である事に気付いて、ルワンに聞いてみた。

 

「銃が欲しいんだけどどこかで売ってない?」

 

「あぁ事務所にあるから見てくれ。」

 

事務所に戻ってからルワンが開けたロッカーには、それなりにびっちりと銃が並んでいた。

 

「持ち運びに向くのはこの辺だろう?」

 

「これってちゃんと動くよな?」

 

「この辺で手に入れるならドイツ製か日本製が多い。あぁ旧日本軍と旧ドイツ軍だな。」

 

「なるほど。敗戦国の流出品ね。」

 

ルワンが差し出した拳銃を手にとる。ワルサーP38というらしい。

背に拳銃を差すと懐かしい重さを感じた。

 

「いいね。コレ貰っていいか?」

 

「ああ。使ってくれ。」

 

俺はまた、異国の地でヤクザになった。

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