起きたら仁義なき転生、それから。   作:函南

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背徳の浄化

「教会ぃ?」

 

ルワンの報告に耳を疑う。

ヤクの卸元から折り返しがあったはいいものの、卸元が教会だと言うのだ。アウトローの吹き溜まりだからって、神の教えを説きながら薬物をばら撒いていると言うのだから手に追えない。

 

「そうなんだよね。リップオフ教会ってんだけど、そこのシスターから受け取っているそうだ。」

 

「で?来いと?それとも来るって?」

 

「来て欲しいそうだ。」

 

「だよなぁ…ルワン一緒に行こうか。」

 

「俺も行っていい?」

 

こいつ、話聞いてないのか?薬物売るような宗教法人に行くって言ってるのに、なにを言ってるんだ。

 

「どう考えても荒立ちそうな所に子供を連れて行く話がこの三千世界のどこにある。」

 

「もっと父さんのことを知りたい。」

 

「…却下だ。全力で却下する。」

 

「トーゴー、そんな怖い顔するな。こう言ってはなんだが、興味本位でもないだろう。総司はお前を知ろうと頑張ってるんだ。」

 

「わかった。連れて行く。ルワンに免じて。」

 

ルワンと、甚だ遺憾だが連れて行く事になった総司と廊下に出るとダイスラーに出会した。

 

「ああ。トーゴー、ホルスターが届いた。」

 

「おお本当か‼︎」

 

「使いやすい様にトップカバーは外して、ベルトにした物です。」

 

早速ワルサーを収めて腰につる。いい感じだ。

 

「ありがとう。いい仕事だ。」

 

「光栄です。」

 

気を取り直して、俺は二人が待つ車に乗り込んだ。

 

丘の上の教会の礼拝堂で待たされることしばらく。若い神父の案内で応接室に通された。マジでここなんだろうか。しばらく待たされると、中年の神父と若い隻眼のシスターが入ってきた。二人とも白人か…。

 

「お待たせした様で失礼しました。」

 

「いえこちらこそ、押し掛けて申し訳ありません。アクシズの代表を務めますトーゴー、仲間のルアンです。」

 

「代表神父のジャクソンと申します。」

 

「率直に伺うが、月にどの程度のヤクを売られているのか?」

 

「随分とストレートに聞いてきますね。お答え出来かねます。」

 

「なるほど。で、あればどの程度売れれば許容なのか、でどうでしょう?」

 

「我々も色々と入り用です。上の指示に従うまでの事です。」

 

「なるほど。では、その上とやらと交渉させていただこう。」

 

ジャクソン神父の目付きが微かに動く。こいつ、元軍人か?

 

「それは無理な相談です。お分かりでしょう?」

 

「わからないな。手に追えない案件は上官に報告の上で対処するべきだ。」

 

「わかりやすい例えですが、デリケートすぎるのでね。ここで収めたい。」

 

「では、こちらの対応を伝える。我々はこの問題をこの教会が神を語って住民を薬物汚染しようと企んでいると断定し、徹底した対応をとらせていただく。」

 

「徹底した対応ですか。面白い表現ですね。どうしようと言うのです?」

 

「お前らバテレン追放令っての忘れたか?」

 

「我々を追放すると?」

 

「この世から追放した上で戒名もつけてやるよ。」

 

神父は黙ってこちらを見るだけになった。気持ち悪いな。こっち見んな。

 

「いくら欲しいのです?」

 

「これは驚いた。俺がいつ金を要求した?」

 

「金が欲しいのでは?」

 

「目的は違う。秩序だ。無差別に、無制限に売られては困ると言う話だ。」

 

「では、どうしろと?」

 

「売る人間と卸している量、そして最低限、上とやらに文句つけられない金額を教えろ。条件付きで‘見逃してやる’よ。」

 

「断った場合は?」

 

「来週からここは更地になって、将来的に仏陀の教えを説く場所に変わるだけだ。」

 

「一度上と相談させていただきたい。」

 

「ここで収めるんじゃないのかい?」

 

「デリケートな問題であると。」

 

「そうかい…ルワン、帰るぞ。」

 

出されていた紅茶はいい香りだったがこの様な対応されてると、飲まなくてよかったと思う。本当にここは教会なのか?

帰りの車中、対応を腹に決めて憂鬱な気分になる。

 

「トーゴーどうするんだ?」

 

「いやぁ…ここにきても戦争かよ…やだなぁ…」

 

「戦争するのか?」

 

「する。決めた。徹底的に締め上げる。」

 

「そうか…帰ってから話そう。事務所の前に家に寄るかい?」

 

「なぜだ?」

 

「総司がいるのを忘れてないか?」

 

「俺を知りたいと言ったのは総司だ。知ってもらうついでだ。」

 

「そうか…」

 

 

事務所に戻った俺たちはダイスラーを混ぜて事の経緯を説明し、対応策を発表した。

 

「軍人崩れかマフィアかぶれか知らんが、教会と喧嘩することになった。」

 

「いやはや…本当に突拍子もないことを言いますね。」

 

「売られた喧嘩だ。高価買取しよう。それでまず、ルワン。」

 

「おうよ‼︎」

 

「明日から教会宛の荷物を全て差し押さえろ。そして、腕っぷしの立つ連中に売人狩りをさせてヤクを全て回収するんだ。あと、タヌキジジイに教会関係者に何も売るなと言え。水一滴、砂糖の一粒までだ。」

 

「うわぁ…トーゴーえげつねぇ…」

 

「当たり前だ。そして、ダイスラー。港以外に入る船を片端から臨検しろ。抵抗する奴は…ノシてしまえ。そして、逃げる船は沈めていい。」

 

「承知しました、コマンデール。意図を汲み取るに、極力殺すなと言うことでよろしいか?」

 

「そのとおり。回収したヤクは…海の上で爆破しよう。」

 

「父さん、それだと教会の人たちは死んじゃうんじゃないの?」

 

「これは教育だ。薬は良くない。命と金のいどちらが重要なのかってな。」

 

「総司、君の父上は非常に慈悲深い。一度は彼らを許そうとした。だが断った。ユダヤ人は愚かしい。」

 

「ダイスラー、そう言う発言は慎んでくれ。忠誠は名誉かもしれんが、ここは事務的にお願いしたい。」

 

「失礼。つい懐かしい気持ちに。一つ提案が。」

 

「なんだ?」

 

「動員できる部隊が少々あります。ここは実地訓練と行きましょう。」

 

「なにする?」

 

「教会を包囲し、入る物を全て検問します。人の手で丘の上まで運ぶのは手間ですし、あの教会は周囲に遮るものがほぼない。包囲するにはちょうどいい。」

 

「包囲殲滅ね。レニングラードにしてやるわけだ。」

 

「いかにも。」

 

「よし。ついでに水と電気も止めてしまえ。」

 

「ガスはどうします?」

 

「ちょっとした間違いで大事故につながる。密室では窒息、火気では爆発と。触れないことだ。」

 

「なるほど…なるほどいやらしい手です。」

 

「とりあえず、明日から始める。今日は帰って英気を養うとしよう。」

 

「では、その前に一杯どうです?」

 

「いいね。行こうか。俺の奢りだ。総司はノンアルコールだ。」

 

「やったぜ‼︎」

「えー…」

 

こうして、この日は飲みに出掛けて帰った。

 

 

「父さん戦争に行ったことあるの?」

 

「あるよ。どうして?」

 

「慣れてる気がしたから。」

 

「どちらかと言えば日本でヤクザをやってたからだな。組織的に動くことを学んだ。今日のことを見てもヤクザになるのか?」

 

「わからない。」

 

「悩んでくれ。そして、いい選択をして欲しい。」

 

「うん。」

 

どこまでこの子を面倒観れるだろうか。正しく育てられるだろうか。自信を持って育てたいんだがな…。

 

 

翌る日から捕まえられるわ捕まえられるわ、ワラワラと売人が捕まる。午後には増員をかけたくらいで、押収した薬物はもう酷いものだった。半日で1kg近い量が集まった。ダメだ。やっぱり禁止だ。カシラもポンはあかんと言っていた。

ダイスラーは完全武装の一個小隊を連れて早朝から上機嫌だった。魚雷艇を指揮するのはクローゼと言うダイスラーの昔からのお仲間らしい。朝会った時は「我らがコマンデール、トーゴーだ。」と紹介され、直立不動で踵を鳴らされて辟易としたもんだ。

 

「ピンさんから連絡がきたよ。‘街が綺麗になるならそれでいい。協力を惜しまない。’ってさ。」

 

「よかった。と言うかこの街に警察っていないの?」

 

「ああ。ロアナプラ署があるよ。うちも賄賂払ってるから大丈夫だよ。」

 

「うちも?」

 

「ああ。少しでも後ろめたいところはどこもそうしてるさ。」

 

日本にはない常識に呆然とするしかない。海田くらい真面目なやつがいてもいいだろうに。マトリとかDEAとかいないのか?

 

こうして波乱の幕は開けた。

 

 

売人狩りは住民に歓迎され、仏教の国で教会を締め上げていることは評価されてしまった。ピンの爺さんは大絶賛らしい。ありとあらゆる商売人がアクシズにみかじめ料を払うと言い出して、ついには寺の坊主まで来てしまった。もう嫌な予感しかしない。

 

「それで?ルワン。これはどう言うことだ?」

 

バテレン追放令を出して数日、ダイスラーは三交代のどこかに嬉々として参加し、クローゼは生真面目に怪しい船を片端から拿捕臨検、ルワンの売人狩りは怪我人こそ出たが、順調。街は浄化されつつある。そこで、問題だ。

 

「是非ともって言われて…」

 

「申し訳ないが、取材にはお答え出来ない。」

 

麻薬撲滅を掲げて行動を起こした警備会社、として取材が来てしまった。嫌な予感は的中するものだ。

 

「なぜでしょう?孤児も引き取り、海賊を更生させ、麻薬撲滅活動までしてらっしゃる。少々荒っぽさはある様ですが、正しい行いです。」

 

「では、条件を。麻薬の卸元については教えないし、触れないこと。私の経歴もなし、写真もです。今回の行動についてのみお答えします。それが条件です。」

 

「いいでしょう。では、まず初めに…」

 

これが全てにおいて誤った判断であると証明されたのは翌朝だった。

 

 

興奮気味のルワンが事務所に新聞を持って入ってきた。

 

「トーゴー‼︎見ろよこれ‼︎」

 

「なんだ。ベトナム戦争が終わったか?」

 

「昨日のインタビューが記事になってるぜ‼︎」

 

「どれ…‘背徳の街にヒーロー‼︎麻薬撲滅を宣言‼︎’…なんだあの記者‼︎人の話を聞いてなかったのか‼︎」

 

「いいではないですか。好意的に受け止められていますよ。ほらこの部分‘行政も街の自浄作用に期待’とありますね。」

 

「まあいい。状況報告を。」

 

「包囲は完璧です。昨日深夜、講和の申し入れがありました。会場では一日、二隻前後撃沈していますが双方に死傷者はありません。」

 

「売人狩りだが、もうほとんど売人はいないみたいだ。それか流通が止まってヤクが払底したかだな。もう押収できるヤクは一日10gもない。ちなみに貯まったヤクはもう20kgを超えてる。」

 

「いいな。順調だ。ダイスラー、降伏以外は蹴っていい。それ以外はよくやってくれている。ルワンはこのまま消え失せるまで続けてくれ。」

 

「了解‼︎」

「承知しました。」

 

思いの外、粘るな。もうそろそろ一週間になる。まぁいい。そう言えば近々、クルツコワが商人を連れてくるはずだ…うーん。

 

「総司、計算は得意か?」

 

「それなりに出来るよ?」

 

「じゃあ一つの案件でいくら手元に残して、いくらを原価、いくらを中間マージン、いくらを売り手に払えばいいと思う?」

 

「トーゴー、いくらなんでも初手にしてはハードルが高い。」

 

「それもそうか…少し商売の基本んを教えてやって欲しい。」

 

「わかった。でも、いいのか?」

 

「商売ができるに越したことはない。」

 

少し気持ちに変化が生まれた翌日、意外な来客を迎えた。

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